第51話:広がる波紋
次話は明日19時投稿予定です。
デスト公爵領。
旧魔王国王都ヴァルディア。
王城最上階の執務室。
アルトとレグナの会話が終わった後、部屋には静かな時間が流れていた。
窓の外では港が動いている。
帝国の軍船。
そして商船。
新しく掲げられた帝国旗が風に揺れていた。
アルトは再び地図に目を落とす。
「各国は動きますか」
レグナは少し考えてから答えた。
「すぐには動かないでしょう」
「ですが――」
レグナは言葉を続ける。
「確実に軍は動きます」
アルトは頷いた。
「でしょうね」
帝国は海洋国を統合した。
そして今回。
魔王国まで編入した。
それも、ほとんど戦争をせずに。
これは大陸の国々にとって衝撃だった。
レグナが言う。
「今頃、大陸の王城では同じ話がされているはずです」
アルトは少し笑った。
「帝国がどこまで広がるか」
「ですね」
レグナも静かに頷いた。
アルトは机の上の書類を軽く叩く。
「ですが」
少し間を置いた。
「帝国はもう十分広がりました」
レグナが少し驚いたようにアルトを見る。
アルトは続ける。
「少なくとも今は」
「これ以上の戦争は必要ない」
窓の外を見る。
海。
広い海だった。
「帝国は」
「拡大より安定を優先するべきです」
レグナはゆっくり頷いた。
「確かに」
「デスト公爵領の整備だけでも数年は必要でしょう」
アルトは笑う。
「その通りです」
そして言った。
「あなたの仕事は山ほどありますよ」
レグナは苦笑した。
「覚悟しています」
デスト公爵領。
旧魔王国。
この巨大な土地を帝国の制度へ変える。
それは簡単な仕事ではない。
だが。
レグナは窓の外を見る。
王都ヴァルディア。
街はすでに落ち着きを取り戻し始めていた。
帝国軍は秩序を守り。
帝国官僚は行政を整え。
商人たちは市場を開き始めている。
レグナは静かに言った。
「ですが」
アルトを見る。
「この国は変わります」
アルトは頷く。
「ええ」
そして地図を見る。
帝国。
その領土は確実に広がっていた。
だが今。
本当に始まるのは――
支配ではなく統治だった。
アルトは静かに言った。
「帝国の新しい時代が始まります」
窓の外の海は静かだった。
だがその海は――
今や帝国の海でもあった。
アルトは窓の外を見たまま言った。
「まずはデスト公爵領の統治を安定させる」
レグナは静かに頷く。
「はい」




