第50話 帝国の知らせ
次話は明日19時に投稿予定です。
デスト公爵領。
旧魔王国王都ヴァルディア。
王城の最上階の執務室。
アルトは机の前に座り、書類に目を通していた。
窓の外には港が見える。
そこには帝国の旗が掲げられていた。
黒と金の紋章。
帝国の象徴。
数日前まで魔王国だったこの地は、すでに帝国の一部となっていた。
行政は帝国官僚が引き継ぎ、治安は帝国軍が維持している。
王都の混乱もほとんど収まっていた。
その時、扉がノックされた。
「失礼します」
入ってきたのはレグナだった。
今や帝国第四の公爵。
デスト公爵である。
「どうしました?」
アルトが顔を上げて聞く。
レグナは一通の書類を差し出した。
「帝都からの報告です」
アルトはそれを受け取り、目を通す。
そこには――
各国への通達について書かれていた。
帝国はすでに、大陸中の国へ知らせを送っていた。
内容は単純だった。
旧魔王国は帝国に編入された。
そしてもう一つ。
この地は帝国公爵領デストとして統治される。
アルトは書類を机に置いた。
「もう届いた頃でしょうね」
レグナが頷く。
「はい」
「各国の王城にはすでに届いているはずです」
アルトは執務室の椅子に座り、机の上の地図を眺めていた。
大陸全体の地図。
そこには帝国の領土が広がっている。
海洋国。
そして魔王国。
二つの国が帝国の色に変わっていた。
その時、レグナが静かに言った。
「各国からの反応が届き始めています」
アルトは顔を上げる。
「もうですか」
「はい」
レグナは書類を机の上に置いた。
「予想通りと言えば予想通りですが」
アルトは一枚目を開く。
「ブロドン共和国」
そこにはこう書かれていた。
帝国による魔王国編入を確認。
ブロドン共和国は現状を承認し、外交関係を維持する。
アルトは小さく笑う。
「現実的ですね」
レグナも頷いた。
「共和国らしい判断です」
アルトは次の書類を開く。
「タン王国」
内容は短かった。
帝国の新領土成立を祝う。
両国の関係強化を望む。
アルトは目を細める。
「ずいぶん友好的ですね」
レグナは答える。
「帝国との交易が増えることを期待しているのでしょう」
アルトは次の書類を見る。
「シドル大公国」
そこにはこう書かれていた。
帝国の行動を承認する。
ただし大陸の勢力均衡に注意を求める。
アルトは静かに言う。
「警戒していますね」
「はい」
レグナも同意する。
「当然でしょう」
アルトはさらに書類をめくる。
「アジス獣王国」
そこにはこう書かれていた。
帝国の軍事力に敬意を表する。
使節団を派遣する準備を進める。
アルトは少し考える。
「様子見ですね」
レグナは頷いた。
「はい」
「敵にも味方にもならない」
「当然でしょうね」
そして地図を見る。
帝国の領土は確実に広がっている。
だが――
アルトは静かに言った。
「大陸は今、帝国を見ている」
レグナも同じ地図を見る。
「はい」
アルトは続けた。
「敵になるか」
「味方になるか」
少し間を置く。
「それとも」
窓の外を見る。
港には帝国の船が並んでいる。
アルトは小さく笑った。
「何もしないふりをして、警戒を強めるか」
レグナも静かに言う。
「おそらく」
「そのすべてでしょう」
執務室の窓から海が見える。
その海は、今や帝国の海でもあった。
大陸の勢力図は――
確実に変わり始めていた。




