第138話 タン王国の決断
タン王国王都。
帝都から帰国して三日後。
王城最上階。
国王執務室。
リベナは父であるタン王国国王の前に立っていた。
部屋には護衛も侍女もいない。
父と娘。
二人だけだった。
◆
国王は書類から顔を上げた。
「改めて聞こう」
静かな声。
「帝国はどうだった」
リベナは迷わず答えた。
「想像以上でした」
国王が小さく笑う。
「そうか」
だが。
リベナの表情は真剣だった。
「父上」
「何だ」
「私たちは帝国を理解していませんでした」
国王の表情が少し変わる。
◆
リベナは続けた。
「軍事」
「経済」
「技術」
「行政」
「全てが桁違いです」
窓の外。
王都の街並みが見える。
タン王国も大国だ。
だが。
帝国と比べれば小さい。
「帝都だけで我が国を超えています」
「知っていた」
国王は答える。
だがリベナは首を振った。
「いいえ」
「知っているのと理解するのは違います」
◆
部屋が静かになる。
リベナはさらに続けた。
「帝国は強いです」
「ですが」
「私が恐れたのは強さではありません」
国王が興味深そうに見る。
「何だ」
リベナは即答した。
「安定です」
◆
国王の目が細くなる。
リベナは続けた。
「皇帝陛下」
「王妃殿下」
「アルト殿下」
「四公爵」
「官僚組織」
「軍」
「経済機関」
全てが機能している。
巨大な国家なのに。
巨大だからこそ。
動いている。
「帝国は一人の天才で成り立っていません」
「国そのものが完成されています」
国王は黙って聞いていた。
◆
やがて。
国王が椅子にもたれた。
「それで」
「帝国からの提案か」
リベナは頷く。
帝国大使。
侯爵級魔力。
帝国中枢への参加。
それが帝国の提案だった。
◆
国王はしばらく考えた。
そして。
「お前はどうしたい」
そう聞いた。
王ではなく。
父として。
娘へ。
◆
リベナは少しだけ考える。
そして答えた。
「帝国へ行きたいです」
即答だった。
国王は驚かない。
むしろ予想していた。
◆
リベナは続けた。
「帝国大使になります」
「理由は」
「タン王国のためです」
迷いはなかった。
「帝国と最も近い国になるべきです」
「敵対ではなく」
「協力です」
◆
国王は窓の外を見る。
タン王国。
自分が守ってきた国。
そして。
娘が見た未来。
しばらくして。
小さく笑った。
「本当に成長したな」
リベナが少し恥ずかしそうな顔をする。
◆
国王は立ち上がった。
そして。
娘の前に立つ。
「許可する」
短い言葉。
だが重い。
「タン王国第一王女リベナ」
「帝国大使就任を認める」
リベナの表情が明るくなる。
◆
国王は続けた。
「ただし」
「一つ条件がある」
リベナが首を傾げた。
「何でしょう」
国王は笑う。
珍しく。
父親らしく。
「たまには帰って来い」
一瞬。
リベナは呆然とした。
そして。
少しだけ笑った。
「はい」
◆
父娘の会談は終わった。
だが。
タン王国の未来は今変わった。
帝国大使。
それは単なる役職ではない。
帝国とタン王国を繋ぐ橋。
そして。
リベナ自身の新しい人生の始まりだった。
数日後。
彼女は再び帝都へ向かうことになる。
今度は候補者としてではない。




