第136話 皇族級魔力授与
婚約発表から五日後。
皇城最深部。
皇族専用儀式場。
その場所へ入れる者は限られている。
皇帝。
皇太子。
王妃。
そして許可された者のみ。
巨大な白い石で作られた空間。
床には皇族紋章を中心とした巨大な魔法陣が刻まれていた。
神聖な空気が漂う。
その場にいるのは、
皇帝レオンハルト。
王妃レイラ。
皇太子アルト。
ギルタル。
ラインハルト公爵。
そして――
エルシア。
未来の皇妃だった。
◆
エルシアは静かに周囲を見渡していた。
「ここが……」
小さく呟く。
レイラが優しく微笑む。
「皇族の儀式場です」
エルシアは頷いた。
帝国で最も重要な場所の一つ。
普通の貴族なら一生入ることはない。
だが。
今日から自分は違う。
その事実が少しずつ実感になっていた。
◆
やがて。
レオンハルトが前へ出る。
「始める」
短い言葉。
だが重みがあった。
ギルタルが一歩前へ出る。
「これより魔力授与の儀を――」
そこで。
レオンハルトが口を開いた。
「違う」
空気が変わる。
ギルタルも言葉を止めた。
「陛下?」
レオンハルトはエルシアを見る。
黄金の瞳。
圧倒的な威圧感。
だが敵意はない。
「未来の皇妃だ」
静かな声。
「侯爵級ではない」
会場が静まる。
ラインハルト公爵も顔を上げた。
ギルタルの目が少しだけ見開かれる。
そして。
レオンハルトは続けた。
「公爵級でもない」
完全な静寂。
エルシアも理解できなかった。
だが。
次の言葉で全てが変わる。
「皇族級魔力を授与する」
◆
その瞬間。
空気が止まった。
ラインハルト公爵ですら驚きを隠せない。
ギルタルも沈黙する。
皇族級。
それは帝国最高位の魔力階級の一つ。
本来なら皇族のみが持つ力。
エルシアは僅かに目を見開く。
「……私に?」
レオンハルトは即答した。
「当然だ」
迷いはない。
「お前は未来の皇妃」
「ならば皇族として扱う」
その言葉に。
レイラが優しく微笑んだ。
◆
レオンハルトがアルトを見る。
「アルト」
「はい」
「授与を許可する」
アルトは静かに前へ出た。
エルシアも魔法陣の中央へ進む。
緊張している。
だが逃げない。
未来の皇妃として。
真っ直ぐ立つ。
アルトが目の前に立った。
「緊張していますか」
エルシアは少しだけ笑う。
「少しだけです」
「大丈夫です」
アルトは静かに答えた。
「痛くはありません」
その言葉に。
少しだけ肩の力が抜ける。
◆
アルトが手を差し出す。
エルシアも手を重ねた。
次の瞬間。
巨大な魔法陣が光り始めた。
紫の光。
皇太子の魔力。
儀式場全体が震える。
エルシアは息を呑んだ。
圧倒的だった。
巨大。
広大。
果てが見えない。
まるで帝国そのものが流れ込んでくるような感覚。
◆
皇帝と皇太子。
その体内には見えない魔力核が存在する。
帝国の根源。
代々受け継がれてきた力。
誰にも見えない。
誰にも触れられない。
だが。
今その一端がエルシアへ流れていた。
「……っ」
思わず息を呑む。
膨大な魔力。
だが不思議と苦しくない。
暖かい。
優しい。
そして強い。
◆
紫の光が徐々に収まる。
魔法陣の輝きも消えていく。
静寂。
数秒後。
ギルタルが確認を終えた。
そして静かに告げる。
「確認完了」
一拍。
「皇族級魔力授与成功」
◆
ラインハルト公爵が深く息を吐いた。
安堵だった。
レイラも優しく微笑む。
アルトは静かに手を離した。
エルシアは自分の体を見る。
何かが変わった。
はっきりと分かる。
巨大な魔力。
それが自分の中に存在している。
◆
その時。
レオンハルトがゆっくりと立ち上がった。
全員の視線が集まる。
皇帝はエルシアを見た。
そして告げる。
「今日からお前は」
静かな声。
だが絶対だった。
「ラインハルト公爵家の娘である前に」
一拍。
「未来のシクタルン皇妃だ」
エルシアの瞳が揺れる。
◆
レイラが近づく。
そして優しく言った。
「ようこそ」
微笑む。
「皇族へ」
エルシアは静かに頭を下げた。
「はい」
その声に迷いはなかった。
こうして。
エルシア・ラインハルトは正式に皇族級魔力を授与された。
未来の皇妃として。
未来の帝国を支える者として。
新たな一歩を踏み出したのであった。




