第135話 婚約発表
エルシアが正式な婚約者に決定してから三日後。
帝都。
皇城中央大広間。
今日は特別な日だった。
帝国中の貴族。
各国使節。
連合代表。
各機関長。
数百人が集まっている。
広間には帝国紋章の旗が並び、豪華な装飾が施されていた。
まさに国家行事だった。
◆
広間上段。
玉座の前。
皇帝レオンハルトが立つ。
隣には王妃レイラ。
そして一歩後ろにはアルト。
その隣にエルシアがいた。
白銀の礼装を纏うアルト。
純白のドレスを纏うエルシア。
会場の視線が自然と集まる。
◆
やがて。
レオンハルトが前へ出た。
広間が静まり返る。
「本日」
皇帝の声が響く。
「皇太子アルト・フォン・シクタルンの婚約を正式に発表する」
会場が静まる。
全員が聞いている。
「婚約者は」
一拍。
「ラインハルト公爵家長女」
「エルシア・ラインハルトである」
◆
次の瞬間。
大広間に拍手が響いた。
貴族たち。
使節たち。
全員が立ち上がる。
盛大な祝福だった。
当然である。
ラインハルト公爵家は帝国最大級の家門。
能力も実績も申し分ない。
反対する者はほとんどいなかった。
◆
南方公爵ラインハルトも立ち上がる。
そして皇帝へ頭を下げた。
「光栄に存じます」
短い言葉だった。
だが。
娘が未来の皇妃となる。
その意味は大きい。
◆
その頃。
来賓席では候補者たちも見守っていた。
リベナ。
セレナ。
レティア。
テジナ。
エリ。
ミレーユ。
ユリア。
全員が正式に招待されている。
ミレーユが小さく呟く。
「本当に決まったんですね」
エリが微笑む。
「はい」
テジナは腕を組む。
「負けたわね」
だが。
その顔に不満はない。
◆
リベナは静かに二人を見ていた。
タン王国第一王女。
本来なら競争相手だった。
だが今は違う。
彼女は小さく笑った。
「お似合いですね」
隣のセレナが頷く。
「ええ」
「少なくとも帝国にとって最善でしょう」
◆
広間中央。
アルトが前へ出る。
全員の視線が集まる。
十六歳。
だが。
既に誰も子供とは思わない。
皇太子として完成されつつある。
アルトは静かに言った。
「本日お集まりいただき感謝します」
広間が静まる。
「帝国は今後も発展を続けます」
「そして各国との協力も続けます」
一拍。
「私とエルシア嬢も、その未来のために努力することを約束します」
短い。
だが十分だった。
◆
続いて。
エルシアが前へ出る。
少し緊張している。
だが逃げない。
未来の皇妃として。
堂々と顔を上げる。
「未熟ではありますが」
静かな声。
広間に響く。
「帝国と民のために尽力いたします」
「どうかよろしくお願いいたします」
深く頭を下げる。
再び大きな拍手が起きた。
◆
その夜。
祝賀会が開かれた。
貴族たちは未来を語る。
使節たちは関係強化を喜ぶ。
帝都は祝賀ムードに包まれていた。
◆
そして。
皇城のバルコニー。
夜風が吹く。
アルトは帝都を見下ろしていた。
隣にはエルシア。
無言の時間。
やがて。
エルシアが言う。
「これで本当に始まりますね」
アルトは頷く。
「はい」
帝国の未来。
皇帝への道。
皇妃としての道。
全てがここから始まる。
エルシアは夜景を見つめる。
「大変そうですね」
アルトは少しだけ笑った。
「そうですね」
「ですが」
紫の瞳が帝都を見渡す。
「一人ではありません」
エルシアも微笑む。
「はい」
もう一人ではない。
未来の皇帝と皇妃。
二人で歩む道が始まった。
そして。
誰も知らない。
この数年後。
帝国は歴史上最大の発見を成し遂げることになる。




