第134話 選ばれた者
翌日。
皇城大会議室。
候補者たちは再び集められていた。
誰もが静かだった。
第四次選抜の結果。
そして。
その先にあるものを理解しているからだ。
会議室には緊張が漂っていた。
やがて。
扉が開く。
アルト。
ギルタル。
そして皇帝レオンハルトと王妃レイラまで姿を現した。
候補者たちが一斉に立ち上がる。
「着席してください」
レオンハルトの声が響く。
全員が席に着いた。
誰も話さない。
◆
レオンハルトが口を開く。
「長期間に渡る皇太子妃選抜」
「まずは全員の努力を称える」
静かな声。
だが重みがある。
「諸君は十分に能力を示した」
「帝国は諸君を高く評価している」
候補者たちの表情が少し和らぐ。
レオンハルトは続けた。
「そして」
会議室の空気が変わる。
「最終結果を発表する」
誰も息をしない。
◆
ギルタルが一歩前へ出る。
「まず申し上げます」
「今回の候補者全員へ、帝国から正式な提案があります」
候補者たちが顔を上げる。
「以前説明した通り」
「皇妃に選ばれなかった場合でも」
「帝国大使として帝国へ迎える用意があります」
「加えて侯爵級魔力の授与も行われます」
静かなざわめき。
だが。
今気になるのはそこではない。
◆
レオンハルトが言う。
「では発表する」
会議室が静まり返る。
王妃レイラも静かに見守っていた。
アルトは無言。
ただ候補者たちを見ている。
そして。
レオンハルトが告げた。
「皇太子妃選抜」
「最終選定者は――」
長い沈黙。
誰も動かない。
そして。
「エルシア・ラインハルト」
時間が止まった。
◆
エルシアの瞳が僅かに見開かれる。
周囲も静まり返る。
信じられないわけではない。
だが。
実際に名前を呼ばれると話は別だった。
ラインハルト公爵ですら無言だった。
◆
レオンハルトは続ける。
「エルシア・ラインハルトを」
「アルト・フォン・シクタルンの婚約者候補ではなく」
一拍。
「正式な婚約者とする」
会議室が静まり返る。
婚約者候補ではない。
正式な婚約者。
つまり。
選抜は終わったのだ。
◆
レイラが優しく微笑む。
「おめでとうございます」
エルシアは立ち上がった。
だが。
すぐには言葉が出ない。
ようやく。
静かに頭を下げる。
「謹んでお受けいたします」
その声は少し震えていた。
◆
最初に拍手したのはミレーユだった。
「おめでとうございます!」
その声で空気が戻る。
レティアも笑う。
「負けましたね」
セレナも頷いた。
「納得です」
テジナは腕を組む。
「悔しいけどね」
だが笑っていた。
エリも優しく微笑む。
「良かったです」
ユリアも静かに祝福した。
そして。
リベナが立ち上がる。
全員が見る。
リベナはエルシアの前へ歩いた。
そして。
手を差し出す。
「おめでとうございます」
エルシアは驚く。
リベナは微笑んでいた。
「あなたなら納得できます」
エルシアも微笑む。
そしてその手を握った。
「ありがとうございます」
◆
しばらくして。
レオンハルトが再び口を開く。
「諸君」
全員が姿勢を正す。
「選ばれなかったからといって価値が下がるわけではない」
静かな声。
だが力強い。
「むしろ逆だ」
「帝国は諸君を必要としている」
候補者たちが聞く。
「今後」
「諸君には帝国大使としての道が用意される」
「あるいは連合機構の中核として働く道もある」
◆
アルトが初めて口を開く。
「皆様」
全員が顔を上げる。
アルトは静かに言った。
「ここまで来てくださり、ありがとうございました」
短い言葉。
だが本心だった。
「皆様のおかげで」
「私も多くを学びました」
誰も言葉を返せない。
◆
会議が終わる。
候補者たちが退室していく。
だが。
エルシアだけは残っていた。
広い会議室。
残ったのは。
アルトとエルシアだけ。
少し気まずい沈黙。
やがて。
エルシアが小さく笑う。
「選ばれてしまいましたね」
アルトも少しだけ笑った。
「そうですね」
短いやり取り。
だが。
これから二人は。
婚約者として歩くことになる。
未来の皇帝。
未来の皇妃。
帝国の未来を背負う二人の物語が。
ここから本当に始まるのだった。




