第133話 選ばれる者
第四次選抜発表会の翌日。
皇城最上階。
皇族会議室。
そこには帝国中枢の人間が集まっていた。
皇帝レオンハルト。
王妃レイラ。
皇太子アルト。
そして――
帝国を支える四公爵。
西方公爵アルノー。
東方公爵モンテリオ。
南方公爵ラインハルト。
北方公爵シュタインベルク。
巨大な円卓を囲み、静かな空気が流れている。
今日の議題は一つだった。
皇太子妃選抜。
◆
最初に口を開いたのはレオンハルトだった。
「報告を」
ギルタルが一礼する。
そして候補者たちの評価資料を机へ並べた。
「第四次選抜までの総合評価です」
資料が広げられる。
リベナ。
テジナ。
セレナ。
レティア。
エリ。
ミレーユ。
ユリア。
エルシア。
八人全員の名前が並ぶ。
◆
最初に発言したのはアルノーだった。
「軍事だけで見ればテジナ殿下だな」
即答だった。
「現場判断も早い」
「危機対応も優秀だ」
誰も反論しない。
事実だった。
◆
モンテリオが続く。
「制度だけならセレナ嬢です」
資料を見ながら言う。
「国家運営の理解が深い」
「帝国中枢でも通用する」
◆
ラインハルトが笑う。
「経済ならレティア嬢だろうな」
「商業感覚が優秀すぎる」
「五十年後の経済発展案も見事だった」
◆
王妃レイラが静かに言った。
「ミレーユ嬢も素敵な方でした」
微笑みながら続ける。
「民を真っ先に見る子です」
「優しい子ですね」
◆
レオンハルトは資料を眺める。
「リベナ殿下はどうだ」
ギルタルが答える。
「外交能力は最上位です」
「各国との調整能力も非常に高い」
レオンハルトは頷く。
「大使向きだな」
リベナの将来像は多くの者が想像できていた。
◆
しばらく議論が続く。
誰もが優秀。
だからこそ難しい。
そして。
自然と話題は二人へ絞られていった。
セレナ。
そして。
エルシア。
◆
ラインハルト公爵が静かに言う。
「親としてではなく申し上げます」
会議室が静まる。
「エルシアは全員の意見をまとめられる」
「それが最大の強みです」
アルノーも頷く。
「連合裁定でもそうだった」
モンテリオも同意する。
「未来発表でも同じだ」
「他者を否定せず、取り込む」
◆
王妃レイラが微笑む。
「私はエルシア嬢が好きです」
素直な言葉だった。
「優しいですし」
「周りもよく見ています」
レオンハルトも静かに聞いていた。
◆
やがて。
全員の視線が一人へ向く。
アルトだった。
会議室が静まる。
誰も話さない。
レオンハルトが口を開いた。
「アルト」
「はい」
「お前の意見を聞こう」
会議室が完全に静まる。
皇帝。
王妃。
四公爵。
全員がアルトを見ていた。
最終的に選ぶのは皇太子本人。
誰も異論はない。
◆
アルトはしばらく黙っていた。
候補者たちの顔が思い浮かぶ。
リベナ。
テジナ。
セレナ。
レティア。
エリ。
ミレーユ。
ユリア。
そして。
エルシア。
誰もが優秀だった。
誰もが帝国に必要な人材だった。
だからこそ。
答えは簡単ではない。
だが。
既に決まっていた。
アルトは静かに顔を上げる。
紫の瞳に迷いはなかった。
「私の考えは一つです」
会議室が静まる。
アルトは真っ直ぐ前を見た。
そして告げる。
「エルシア・ラインハルト嬢です」
誰も驚かなかった。
むしろ自然だった。
◆
レオンハルトが問う。
「理由は」
アルトは静かに答える。
「全員が優秀です」
「外交ならリベナ殿下」
「制度ならセレナ嬢」
「経済ならレティア嬢」
「軍事ならテジナ殿下」
「それぞれ優れています」
一拍。
「ですが」
アルトは続ける。
「皇妃に必要なのは、一つの才能ではありません」
静かな声。
だが重い。
「帝国は大きい」
「一つの視点だけでは支えられません」
「だからこそ」
アルトは言った。
「他者を理解し」
「意見をまとめ」
「全体を見られる者が必要です」
会議室が静まり返る。
◆
アルトは最後に言った。
「エルシア嬢なら」
「私が見落としたものを見つけてくれるでしょう」
その言葉に。
レイラが優しく微笑む。
レオンハルトも静かに頷いた。
アルノーも。
モンテリオも。
ラインハルトも。
誰一人反対しなかった。
◆
レオンハルトが立ち上がる。
「決まりだな」
短い言葉だった。
だが。
その意味は大きい。
皇太子妃選抜。
長く続いた選抜は。
ついに結論へ辿り着いた。
エルシア・ラインハルト。
未来の皇太子妃。
そして――
未来の皇妃。
その名が、正式に決定された。
だが。
本人たちはまだ知らない。
その知らせが届くのは明日。
皇城の夜は静かに更けていく。
そして。
新たな未来が動き始めようとしていた。




