第132話 エルシアの未来
会議室が静まり返る。
全員の視線がエルシアへ集まっていた。
リベナも。
セレナも。
レティアも。
テジナも。
エリも。
ミレーユも。
ユリアも。
誰もが彼女の発表を待っている。
エルシアは静かに資料を閉じた。
そして顔を上げる。
「私の考える五十年後の帝国は――」
一拍。
「大陸全体を支える帝国です」
会議室が静まる。
エルシアは続けた。
「軍事だけではありません」
「経済だけでもありません」
「制度だけでもありません」
静かな声だった。
だが迷いはない。
「私は、この七日間で皆様の案を何度も考えました」
候補者たちが顔を上げる。
エルシアはリベナを見る。
「リベナ殿下の外交は必要です」
次にレティアを見る。
「レティア様の交易網も必要です」
セレナを見る。
「制度も必要です」
テジナを見る。
「軍も必要です」
エリを見る。
「自然も必要です」
ミレーユを見る。
「民も必要です」
ユリアを見る。
「維持管理も必要です」
そして静かに言った。
「どれか一つでは足りません」
会議室が静まり返る。
◆
エルシアは帝国地図を指した。
「五十年後」
「帝国は今よりさらに大きな責任を持ちます」
その言葉に誰も反論しない。
シクタルン帝国は既に大陸最大国家だ。
三分の二を支配している。
だが。
それでも発展は続いている。
エルシアは続けた。
「帝国は力を持っています」
「だからこそ支配するのではなく」
一拍。
「支えるべきです」
アルトの瞳が少し動いた。
エルシアは続ける。
「連合輸送路」
「連合交易」
「連合防衛」
「各国との協力」
「それらを帝国が支える」
「それが五十年後の帝国だと思います」
◆
リベナが静かに聞いている。
エルシアはさらに続けた。
「帝国が恐れられるだけでは長く続きません」
「ですが」
「帝国が必要とされれば続きます」
会議室の空気が変わる。
レティアが少し目を細める。
セレナも興味深そうに聞いていた。
エルシアは地図を見る。
「港は繋がる」
「街道も繋がる」
「制度も繋がる」
「人も繋がる」
「国も繋がる」
そして。
「私は」
静かな声で言った。
「五十年後、帝国が大陸の中心であり続ける未来を望みます」
◆
沈黙。
長い沈黙だった。
誰もすぐには口を開かなかった。
やがて。
アルトが静かに尋ねる。
「エルシア嬢」
「はい」
「その未来で」
「帝国は何を守るのですか」
エルシアは迷わなかった。
「人です」
即答だった。
「民」
「家族」
「未来」
「そして国です」
会議室が静まる。
エルシアは続ける。
「国は人のためにあります」
「だから最後に守るべきものは人です」
その言葉はミレーユの考えにも近かった。
だが。
エルシアはそこへ制度も外交も経済も軍事も加えている。
全てを繋げた答えだった。
◆
発表が終わる。
エルシアは一礼して席へ戻った。
誰もすぐには話さない。
その時。
ギルタルが静かに言った。
「以上で全員の発表が終了しました」
候補者たちが姿勢を正す。
アルトはしばらく沈黙していた。
全員の発表を思い返しているようだった。
やがて。
静かに立ち上がる。
会議室が引き締まる。
アルトは候補者たちを見渡した。
「皆様」
静かな声。
だが重みがあった。
「素晴らしい発表でした」
誰も口を開かない。
アルトは続ける。
「未来に正解はありません」
「だからこそ」
「皆様が何を見ているのかがよく分かりました」
リベナ。
セレナ。
レティア。
テジナ。
エリ。
ミレーユ。
ユリア。
エルシア。
一人ずつ視線を向ける。
「第四次選抜の結果は、明日発表します」
その瞬間。
会議室の空気が変わった。
結果発表。
つまり順位だ。
ここまでの選抜の集大成。
候補者たちの表情が少しだけ引き締まる。
アルトは最後に言った。
「本日は解散です」
候補者たちは静かに立ち上がった。
明日。
第四次選抜の結果が出る。
そして。
皇太子妃選抜は、いよいよ最終段階へ進もうとしていた。




