第130話 未来への七日間
第四次選抜開始から一日後。
帝都。
候補者たちは、それぞれ別々の場所にいた。
課題は一つ。
「五十年後の帝国」
正解はない。
だからこそ難しい。
誰もが、自分なりの未来を探し始めていた。
◆
帝都中央港。
リベナは巨大な港を見下ろしていた。
無数の船。
積み上げられた貨物。
忙しく動く労働者たち。
その規模はタン王国最大の港ですら及ばない。
「やはり……」
小さく呟く。
帝国は強い。
軍だけではない。
経済だけでもない。
全てが繋がっている。
リベナは地図を見る。
五十年後。
帝国がさらに発展したなら。
各国との関係はどう変わるのか。
支配か。
共存か。
それとも。
彼女は静かに考え続けた。
◆
帝都商業区。
レティアは市場を歩いていた。
一日中。
何時間も。
商人たちの会話を聞いている。
「五十年後ですか」
笑う。
難しい。
だが面白い。
今の帝都ですら大陸最大の市場だ。
ならば五十年後は。
大陸全土の商品が集まる都市になるかもしれない。
新しい交易路。
新しい商品。
新しい産業。
レティアの頭の中では既に数字が踊っていた。
◆
帝国中央法務院。
セレナは山のような資料に囲まれていた。
法律。
行政制度。
地方統治。
税制度。
膨大な記録。
普通なら数年かかる量だ。
だが。
セレナは集中していた。
「変えるべき部分」
「残すべき部分」
静かに書き込んでいく。
帝国が強い理由。
それは制度の継続性。
ならば五十年後も続く制度とは何か。
彼女は未来の国家を組み立てていた。
◆
帝都郊外。
近衛騎士団訓練場。
テジナは兵士たちの訓練を見ていた。
「弱いわね」
近衛騎士が苦笑する。
だが。
彼女は本気だった。
五十年後。
魔物は消えない。
戦争も完全には無くならない。
ならば。
帝国はどうあるべきか。
テジナの答えは単純だった。
「守れる国」
そのために何が必要か。
彼女は軍を見ながら考えていた。
◆
帝都北東。
古森。
エリは神木の下に座っていた。
風が吹く。
葉が揺れる。
静かな時間。
彼女は未来を考えていた。
人は変わる。
国も変わる。
だが。
森はもっと長い時間を生きる。
五十年後。
帝国が豊かになっても。
自然が失われては意味がない。
エリは静かに空を見上げた。
◆
帝都南区。
復興地区。
ミレーユは子供たちと話していた。
笑う子供。
働く大人。
病院。
学校。
新しい住宅。
彼女が見ているのは国家ではない。
人だった。
五十年後。
民が今より幸せになっているか。
それだけが気になった。
「難しいなぁ……」
頭を抱える。
だが。
考えるのをやめなかった。
◆
帝国中央備蓄庫。
ユリアは帳簿を見ていた。
十年前。
二十年前。
三十年前。
維持記録。
修繕費。
備蓄量。
失敗例。
成功例。
国家は一日では作れない。
五十年後も続く国家。
そのためには何が必要か。
ユリアは静かに記録を読み続けた。
◆
そして。
皇城中央塔。
エルシアは一人で帝都を見下ろしていた。
リベナは外交。
レティアは経済。
セレナは制度。
テジナは軍事。
エリは自然。
ミレーユは民。
ユリアは維持。
全員が正しい。
全員が必要だ。
だからこそ。
エルシアは悩んでいた。
「どう繋げるべきなのでしょう……」
五十年後の帝国。
それは一つではない。
多くの要素が重なってできる未来だ。
連合。
交易。
軍。
民。
制度。
自然。
全てが必要。
彼女は窓の外を見つめ続けた。
◆
同じ頃。
皇城最上階。
アルトは執務室で書類を読んでいた。
ギルタルが静かに言う。
「皆様、動き始めました」
アルトは頷く。
「そうでしょうね」
ギルタルは少し笑う。
「殿下は既に答えをお持ちですか」
窓の外。
巨大な帝都。
その先に広がる帝国。
アルトは静かに答えた。
「あります」
即答だった。
ギルタルは驚かない。
当然だった。
アルトは続ける。
「ですが」
紫の瞳が遠くを見る。
「皆様の未来も見てみたい」
五十年後。
帝国はどうなっているのか。
候補者たちはどんな未来を描くのか。
そして。
未来の皇妃は誰になるのか。
七日後。
その答えが少しずつ明らかになる。
第四次選抜は、静かに進み始めていた。




