第126話 個別面談・テジナ
セレナとの個別面談が終わった翌日。
皇城。
次に呼ばれた候補者は――
テジナ・アジス。
アジス獣王国第一王女だった。
案内された場所を見た瞬間。
テジナは笑った。
「やっと面白そうな場所ね」
そこは皇城内ではない。
帝都郊外。
帝国近衛騎士団の訓練場だった。
広大な敷地。
訓練用の障害物。
模擬戦区域。
騎士たちの掛け声が響いている。
アルトはそんな訓練場を見ながら言った。
「テジナ殿下にはここが一番合うと思いました」
「当然ね」
テジナは即答した。
「会議室より百倍好きだわ」
◆
二人は訓練場を歩く。
騎士たちが模擬戦をしている。
剣と剣がぶつかる音。
盾を叩く音。
兵士たちの声。
テジナは楽しそうだった。
アルトが尋ねる。
「軍が好きですか」
「好きというより慣れてるのよ」
テジナは答える。
「獣王国は辺境が多いから」
「会議より前に戦場を見るの」
アルトは頷く。
「なるほど」
テジナは笑う。
「殿下は違う?」
「私は両方です」
即答だった。
テジナは少しだけ目を細めた。
やはりこの皇太子は普通ではない。
◆
やがて二人は訓練場中央へ辿り着く。
騎士たちの訓練を見ながら面談が始まった。
アルトは言う。
「帝都視察の時」
「真っ先に荷車の対応へ向かいましたね」
「怪我人はミレーユが見てたもの」
テジナは肩をすくめる。
「なら私は別を見た方が早いでしょ」
実に彼女らしい答えだった。
アルトは続ける。
「迷いませんでしたか」
「何を?」
「優先順位です」
テジナは少し考えた。
そして答える。
「迷わないわ」
アルトは静かに聞く。
テジナは続けた。
「怪我人を助ける人がいるなら、私は事故を広げない方を選ぶ」
「全員が同じことをしても意味がないもの」
その答えにアルトは頷く。
状況判断。
役割分担。
軍人らしい思考だった。
◆
その時だった。
訓練場で模擬戦をしていた騎士の一人が吹き飛ばされる。
地面を転がる。
周囲がざわついた。
だが。
テジナは一目見ただけで言った。
「左足」
アルトが視線を向ける。
「左足?」
「怪我してる」
テジナは即答した。
数秒後。
教官の声が響く。
「左足を痛めた者は下がれ!」
アルトは少しだけ驚いた。
かなり離れていた。
普通なら分からない。
テジナは平然としている。
「歩き方が変だったから」
「無理してたのね」
アルトは小さく笑った。
「よく見ていますね」
「戦場じゃ当たり前よ」
テジナは答える。
「怪我人を見逃したら死ぬもの」
◆
しばらくして。
アルトは別の質問をした。
「テジナ殿下」
「何?」
「王妃に必要なものは何だと思いますか」
テジナは考える。
数秒。
そして答えた。
「覚悟」
即答だった。
アルトは静かに聞く。
テジナは続ける。
「強さじゃない」
「頭の良さでもない」
「覚悟よ」
風が吹く。
テジナは真っ直ぐ前を見た。
「王妃になるなら」
「国のために嫌われる覚悟」
「大切な人を危険な場所へ送り出す覚悟」
「間違いを認める覚悟」
「全部必要」
アルトは黙って聞いていた。
その答えは意外だった。
だが。
非常に重かった。
◆
面談も終盤に入る。
アルトは資料を閉じた。
「テジナ殿下」
「何?」
「以前お話しした件です」
帝国大使の話だった。
テジナは頷く。
既に知っている。
選ばれなかった場合。
帝国は各候補者を大使として迎える。
さらに侯爵級魔力も授与する。
アルトは言った。
「もし選ばれなかった場合でも」
「帝国はテジナ殿下を高く評価しています」
テジナは黙って聞く。
「特に軍事面です」
「現場判断」
「指揮能力」
「危機対応」
「非常に優秀です」
アルトは続けた。
「帝国大使だけでなく」
「連合防衛会議の中核にもなれるでしょう」
テジナが少し驚く。
それは大きな評価だった。
「へぇ」
少し嬉しそうだった。
だが次の瞬間。
口元を上げる。
「でも」
アルトを見る。
「まだ負けるつもりないから」
アルトも少し笑った。
「そうでしょうね」
「当然よ」
テジナは胸を張る。
「私は勝つために来たんだから」
その言葉に迷いはなかった。
◆
面談終了後。
訓練場を去るテジナ。
空を見上げる。
帝国は強い。
想像以上に。
だが。
だからこそ面白い。
テジナは笑った。
「ますます勝ちたくなったわ」
その背中には戦意があった。
そして。
皇城の執務室では。
アルトが次の資料を開いていた。
そこに書かれていた名前。
エリ・エストル。
世界樹の巫女。
誰よりも長い時間を見つめる少女。
次の個別面談が始まろうとしていた。




