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[完結保証]規格外の最強皇子、自由に生きて無双する〜どこへ行っても、後世まで語られる偉業を残していく、常識外れの皇子〜  作者: 西園寺
婚約者選抜

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第114話 侯爵の影

資料保管室での調査を終えた後。


候補者たちは迎賓館の会議室へ集められていた。


広い部屋の中央。


長机を囲むように、八人の候補者が座っている。


その前にはアルト・シクタルン。


隣にはギルタル・アルノー。


帝国側の護衛たちも控えていた。


重い空気が流れている。


だが、誰も慌ててはいなかった。


それは帝国側が落ち着いていたからだ。


迎賓館に侵入者が現れた。


資料保管室が狙われた。


普通の国なら大騒ぎになる。


だが帝国は違う。


誰も走り回らない。


誰も怒鳴らない。


必要な者が動き、必要な情報だけが集められていく。


その様子を見て、各国の候補者たちは改めて理解していた。


シクタルン帝国は巨大だ。


だが巨大なだけではない。


巨大な仕組みが、正しく動いている。


だから強い。


だから二百年以上、大陸の中心であり続けている。


ギルタルが静かに口を開いた。


「まず、共有事項があります」


机の上へ一枚の紙が置かれる。


焼け焦げた紙片だった。


リリが見つけたものだ。


候補者たちの視線が集まる。


そこには、かろうじて文字が残っていた。


――侯爵


短い文字。


だが、その意味は軽くない。


ミレーユが思わず言う。


「侯爵家が関わってるんですか?」


ギルタルは首を横に振った。


「現段階では不明です」


リベナが静かに紙を見る。


「不自然ですね」


「理由は?」


アルトが問う。


「本当に侯爵家なら、こんな分かりやすい証拠を残しません」


リベナは即答した。


セレナも頷く。


「同感です」


彼女は紙片を見ながら続ける。


「侯爵家の人間が残したなら稚拙すぎます。逆に侯爵家へ疑いを向けるための可能性もあります」


レティアが笑う。


「誰かが値札を貼った可能性ですね」


「値札?」


ミレーユが首を傾げた。


「ええ」


レティアは肩をすくめる。


「商売でもあります。犯人を売るために、別の商品名を貼ることは」


「怖い例えですね……」


ミレーユが小さく呟いた。


だが、誰も否定しなかった。


エリは静かに紙片を見つめていた。


しばらくして口を開く。


「森にもあります」


全員の視線が向く。


「木が枯れる時、最初に見える部分だけが原因ではありません」


エリは穏やかに言った。


「葉が枯れていても、原因は根にあることがあります」


一拍。


「帝国にも、見えている部分とは別の根があるのかもしれません」


その言葉に、会議室が静まる。


アルトは否定しなかった。


むしろ静かに頷く。


「可能性はあります」


帝国は大きい。


大きいからこそ、全てを完全に把握することはできない。


だが。


それを認められることもまた、帝国の強さだった。


テジナが腕を組む。


「で?」


彼女は遠慮なく言った。


「誰が怪しいの?」


ギルタルが答える。


「それを今から調べます」


「分かってないの?」


「分かっているなら、もう捕まっています」


テジナは少しだけ笑った。


「それもそうね」


レティアがふとアルトを見る。


「殿下は、どう思われますか?」


視線が集まる。


アルトは紙片を見下ろした。


そして静かに言った。


「これは侯爵家の名前ではありません」


一瞬。


空気が止まる。


ギルタルが目を細めた。


「どういう意味でしょう」


アルトは紙片を指でなぞる。


「侯爵、という文字だけが残っている」


一拍。


「ならば、それは侯爵家を指すとは限りません」


セレナの瞳がわずかに動いた。


レティアも反応する。


リベナはすでに考え始めている。


そして。


エルシアが静かに呟いた。


「侯爵級……」


アルトは頷いた。


「はい」


会議室の空気が変わる。


「帝国において侯爵とは家格だけではありません」


アルトの声は静かだった。


「魔力量の階級でもあります」


候補者たちは息を呑む。


侯爵級魔力。


それは帝国上層部に与えられる強大な力。


皇帝から繋がる魔力の道。


その上位に位置する者たち。


アルトは続けた。


「つまり、この紙片は侯爵家を示しているのではなく」


視線を上げる。


「侯爵級魔力保持者を示している可能性があります」


沈黙。


重い沈黙だった。


もしそうなら。


疑うべき相手は一気に広がる。


帝国貴族。


辺境統治者。


大臣級官僚。


軍上層部。


連合管理者。


全てが候補になる。


ミレーユが思わず言った。


「そんな……」


ユリアも表情を硬くする。


エルシアは静かに目を伏せた。


帝国の中枢に近い者ほど疑われる。


それは帝国貴族である自分も例外ではない。


だが。


アルトの表情は変わらなかった。


「だからこそ」


静かな声。


「慌てる必要はありません」


全員が顔を上げる。


アルトは続けた。


「帝国は、こうした事態を想定しています」


候補者たちは黙って聞く。


「記録があります」


「監査があります」


「管理があります」


「魔力の道があります」


アルトの瞳は揺れない。


「誰が何をしたか。いずれ辿れます」


その言葉には確信があった。


強がりではない。


事実として。


帝国にはそれを可能にする仕組みが存在する。


だからこそ大陸最大国家であり続けているのだ。


レティアは小さく笑った。


「やはり恐ろしい国ですね」


「褒め言葉として受け取ります」


アルトは平然と返した。


その時だった。


会議室の扉が開く。


護衛が駆け込んできた。


「殿下!」


全員の視線が向く。


護衛は一礼し、報告した。


「資料保管室の確認が完了しました!」


アルトが頷く。


「何が盗まれましたか」


護衛は答えた。


その瞬間。


会議室の空気が凍りついた。


「皇太子妃選抜候補者八名全員の極秘調査報告書です」


誰も言葉を発しない。


リベナ。


テジナ。


セレナ。


レティア。


エリ。


エルシア。


ミレーユ。


ユリア。


全員の過去。


家族。


政治的背景。


弱点。


評価。


すべてが記された極秘資料。


それだけが消えていた。


アルトは静かに目を閉じる。


そして開いた。


「なるほど」


怒りはない。


焦りもない。


ただ事実を整理している。


「最初から候補者自身が狙いだったのですね」


ギルタルの目が鋭くなる。


レティアの笑みが消える。


リベナは静かに息を吐いた。


エルシアは拳を握る。


皇太子妃選抜は。


ついに本当の意味で政治闘争へ足を踏み入れた。


そして誰も知らなかった。


この盗まれた報告書が。


帝国と連合全体を揺るがす火種になることを。

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