第113話 共同調査
翌朝。
迎賓館の広間には、候補者全員が集められていた。
机の上には、新たに配られた資料。
表紙には大きく書かれている。
『第五次選抜 共同調査』
候補者たちは、それぞれ違う表情でその文字を見ていた。
アルト・シクタルンは広間の前に立つ。
その隣にはギルタル・アルノー。
アルトは静かに口を開いた。
「本日の選抜について説明します」
広間が静まる。
「今回の試験に正解はありません」
候補者たちの視線が集まる。
「犯人を見つければ合格でもありません」
レティアが少し楽しそうに目を細めた。
テジナは腕を組む。
アルトは続けた。
「重要なのは、どう協力するかです」
一拍。
「誰が優秀かではありません」
「誰と協力できるか」
「誰を理解できるか」
「そして、誰を活かせるか」
エルシアは静かにその言葉を聞いていた。
皇太子妃。
帝国の中心。
そこに必要なのは、自分一人の能力だけではない。
周囲を動かす力。
それを見ようとしている。
アルトは視線を巡らせた。
「では、班分けを発表します」
ギルタルが一歩前へ出る。
「第一班」
候補者たちが顔を上げる。
「エルシア・ラインハルト嬢」
「レティア・ゲンデル殿下」
「ミレーユ・カーマイン嬢」
「エリ様」
四人が互いを見る。
ギルタルは続けた。
「担当は、迎賓館内部と資料保管室の調査です」
次の紙を開く。
「第二班」
「リベナ殿下」
「リリ殿」
「セレナ・シドル殿下」
「テジナ殿下」
テジナが笑った。
「面白い組み合わせね」
「担当はカルバート男爵家と帝都南区の調査です」
候補者たちはすぐに理解した。
意図的だ。
似た者同士ではない。
むしろ違う者同士を組ませている。
アルトは静かに言う。
「開始してください」
◆
第一班。
迎賓館。
資料保管室。
エルシアたちは現場へ向かっていた。
最初に口を開いたのはミレーユだった。
「何から調べる?」
レティアが答える。
「まず流れですね」
「流れ?」
「人の流れです」
レティアは微笑んだ。
「侵入者はどこから来たのか。誰が見たのか。誰も見ていないのか」
エルシアは頷く。
「私は記録を確認します」
「では私は周囲を見ます」
エリが静かに言った。
四人は自然に役割を分けていく。
資料保管室。
周辺廊下。
警備記録。
出入り記録。
それらを確認していく。
しばらくして。
ミレーユが小さく声を上げた。
「あれ?」
全員が振り向く。
ミレーユは扉を見ていた。
「ここ」
「どうしました?」
エルシアが問う。
「侵入者、迷ってないんだよね」
沈黙。
レティアの目が細くなる。
「確かに」
ミレーユは頷いた。
「迎賓館って結構広いのに」
エリも静かに言った。
「真っ直ぐ来ています」
侵入経路。
足取り。
すべてが無駄なく繋がっている。
エルシアは記録へ目を落とした。
そして。
一つの可能性へ辿り着く。
「事前に知っていた……」
レティアが頷く。
「資料保管室の場所を」
空気が変わった。
エルシアは静かに言った。
「内部協力者の可能性があります」
誰も否定しなかった。
◆
一方。
第二班。
カルバート男爵家。
屋敷前。
テジナが門を見る。
「壊す?」
即答だった。
セレナが頭を抱える。
「壊しません」
「まだ何もしてないじゃない」
「今からしようとしていました」
テジナは否定しなかった。
その時。
リベナが屋敷の裏側を見る。
「裏口がありますね」
セレナが頷く。
「使用人用でしょう」
「そこから入りましょう」
「賛成です」
二人が話していると。
後ろから声がした。
「終わっています」
全員が振り返る。
リリだった。
いつの間にか屋敷の中から出てきている。
テジナが吹き出した。
「早すぎるでしょ」
リリは首を傾げる。
「普通です」
「普通じゃないわよ」
リベナだけが平然としていた。
◆
屋敷内部。
リリの案内で進む。
書斎。
地下。
隠し部屋。
そこには燃え残った書類があった。
セレナがしゃがみ込む。
「焼却途中ですね」
リベナも確認する。
「急いでいたのでしょう」
リリは無言で紙片を拾う。
そして。
手を止めた。
「ありました」
全員が見る。
焼け残った紙。
そこに読める文字は一つだけだった。
『侯爵』
空気が凍る。
テジナの笑みが消えた。
セレナの目が細くなる。
リベナは静かに紙を見る。
男爵家ではない。
さらに上。
侯爵級。
それだけで話が変わる。
リベナが呟いた。
「面倒になりましたね」
セレナも頷く。
「ようやく入口です」
テジナは拳を握った。
少し楽しそうに。
「つまり」
一拍。
「殴る相手が強くなるのね」
リリは何も言わない。
だが、その目は紙片から離れなかった。
男爵家は捨て駒。
その背後には侯爵級の存在。
皇太子妃選抜の裏側で動く影は、彼らが思っていた以上に大きかった。




