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この世界にいるだけ

 私は目をつぶって来る痛みを待った。

 あれ?痛く……ない? 私はゆっくり目を開けた。

 目を開けても、暗闇が広がっていた。


「私、死んじゃったの?」


 幽霊になったんじゃないかと足元をみた。


「何これ......?」


 足元には私を囲うように前後左右に矢印のパネルが点滅していた。やがて、点滅は私の前のパネルだけになった。


「これで、前に進めって事?」

 私は恐る恐る前に進んだ。私の周りのパネルも私を囲ったまま同時に前に動いた。

 私はしばらく、矢印にしたがって前に向かって歩いていると


「次はこっち......?」


 今度は右のパネルが光った。


「私をどこに連れ行く気......?もしかしてアイの所......?」


 私は不安になりながらも矢印の通りに前に進んだ。

 すると、周りのパネルが同時に全部光り出した。


「え......?」


 床の感触が突如なくなった。


「え、え、えええええぇぇぇ!?」


 私はそのまま落下していった。


「きゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 私は悲鳴を上げながら落下し続けていった。


「いやああああぁぁぁぁ!!」


 どすんっと大きな尻餅をついた。


「あれ?痛くない......?」


 森だ。目の前に森が広がっている。周りを見ると、木々に囲まれていた。それにしても静かな森だ。

 動物の声が一つも聞こえない。

 さっきから、何が起こっているの?「アイの世界」って、楽園じゃなかったの?私の頭はもうぐっちゃぐちゃだ。こんな世界来なきゃよかった。


 私はひとまず、歩くことにした。さっきのパネルたちはもういなくなって、どこに行けばいいかさっぱりわかんない。でも、歩かなきゃ、なんにも始まんない。

 一刻も早く、この場を去りたかった。元の世界に戻れるヒントはどこかに落ちていないのだろうか?


 私が()()()()()()にあてもなく、歩いていると景色が歪んだ。

 協会だ。昔、催し物で1度だけ来た事ある元の世界にあった協会と似ている。


「そこのお嬢さん、待ちなさい」


 後ろから年配の男の声が聞こえた。恐らく、ここの牧師だろう。しかし、私は振り返ることもなく歩き続けた。

 すると、木製の茶色い扉にたどり着いた。私は何も考えず、その扉を開けた。


 扉の先は、教室だった。私がいつも通っている高校のいつもの教室だった。窓のそとは虹色のなんともいえない景色が広がっていた。

 時計は常にくるくる回っていて、何時かわからない。黒板は子供の落書きみたいなぐちゃぐちゃなものが色とりどりのチョークで描かれていた。


「君、まだ残っていたのか」


急に後ろから声をかけられた。声の主は風紀委員の萩原先輩だった。


「あの、えっと、すぐ帰りますっ!!」


 私は、萩原先輩を押しのけ、廊下に出て、ひたすら、前に走った。


 ―走っても走っても下の階に続く階段が一向に現れない。次第に私は息が切れてきて歩くことにした。

 もう、恐怖が全身を支配して、自然と涙がこぼれ落ちた。

 涙で、モザイクがかった廊下の真ん中に扉があるのに気が付いた。さっきまでなかったのに

 私は元の世界に繋がっていることを祈りながらドアノブをひねった。


 扉の先はサーカスだった。ピエロ達が踊り狂い、天井では、空中ブランコが華麗に旋回し、ゾウが曲芸をしている。


 ふと、目の前に人がいた。ピエロだ。

「おや、お嬢さん、どうして泣いているんだい?」

「分からないわ」

「どこか痛いのかい?」

「分からないわ」

「そうかい、なら、このハンカチを貸すから涙を拭きなさい」


 そんな会話の後、ピエロは私にハンカチを渡した後、どこかへ行ってしまった。

 

 私は、貰ったハンカチで涙を拭きながら、前に進んだ。ここで立ち止まってはいけないと、謎の衝動に駆られながら。


 気狂いピエロの笑い声のなか、玉乗りピエロ2人がジャグリングしている間を潜り、炎のアーチを潜り、前に前にハンカチで顔を拭きながら進む。私の後ろには涙の轍ができているだろう。

 ピエロ達が、私に向かって何か言っているけど、何も聞こえない。


 私の前に大きな影迫ってきた。


「嘘......!?」


 私に迫ってきたのは、首の鎖が切れたライオンだった。

 

 私は思わず、尻餅をついてしまった。 


 食べられる......!!私は目をつぶった。

 

 ―私が目を開けると今度は真っ白の世界だった。なんにもない真っ白い世界。


 私が立ち上がると周りは畑になった。なにかわからない謎の作物が実っていた。

 ノイズがかり、畑が一瞬にして、氷の世界になった。不思議と寒くなかった。また、ノイズがかり、今度は美術館の中にいた。見たことも聞いたこともない作品が私を囲うように展示されていた。

 またまたノイズがかり、景色が変わる。本屋の中にいた。この世界に来る前に立ち寄った。あの本屋だ。

 またノイズがかり景色が変わる。またノイズがかり景色が変わる。またノイズがかり景色が変わる。またノイズがかり景色が変わる。またノイズがかり景色が変わる。またノイズがかり景色が変わる。

またノイズがかり景色が変わる。またノイズがかり景色が変わる。またノイズがかり景色が変わる。


 ノイズは止むことを知らず、世界はグルグルする。


「うわあああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 もう駄目だ。アイ、いるならもう辞めてっ!!

 私は、その場に倒れてしまった。もう、立てない。


「ははっ、ははははははははははははははっ」


 私は笑った。もう、笑うしかなかった。前に進む気力ももうなくなっていた。


「ははっ、ははははははははははははははっ」


 パンッ


 目の前で、手を叩く音がして、私は正気に戻った。


「へ?」


 私がいた世界は喫茶店だった。昔からあるレトロな内装だった。店内は狭く木製のカウンターだけで私はそこに座って、カウンター越しに目の前に白髪の年配の男性がいた。

 

「あの?あなたが『アイ』?」

「違いますよ」

「じゃあ、誰なんですか?」


私は、白髪の老人に聞いた。老人は答えた。


「ただのしがない喫茶店店主ですよ」と。

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