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帰るだけ

「ただのしがない喫茶店店主ですよ」と。


「じゃあ、アイはどこにいるのですか?」

「さぁ、私も知りません」


 私はてっきり、このマスターが『アイ』かと思ったが、違うみたい。


「ここに来るということは、貴方は少々特別のようですね」

「はぁ......?」


 私が特別?私はどこにでもいる普通のJKなんだけど。


「この世界に来た人は、それぞれ役割と世界を与えらるのです。私は見ての通り喫茶店の世界で喫茶店店主にさせていただきました」


 確かに、朱莉はRPG風の世界で王女になっていた。もしかして、私にハンカチをくれたあのピエロもこの世界に呼んでもらった人だったのかな......?


「この世界に招待される方は、どうも元の世界でうまくいってない方のようですね。実際、私もリストラされてしまいまして再就職もうまくいかず、現実が嫌になっておりました」

「それでこの世界に?」


 マスターは私にコーヒーを差し出しながら頷く。


「あの、砂糖とミルクは?」


 私はブラックは苦手だ。あの苦みがどうも好きになれない。


「ここには、そんなものありませんよ。一口飲んでみてください」


 と、マスターが微笑む。


「う……うん」


 私はコーヒーカップに口を付ける。


「おいしい!」


 私は思わず声を上げる。今までに飲んだコーヒーの中で一番おいしい。苦味はそんなになく、凄い優しい私好みの味だ。


「それは良かったです」


 マスターはまた微笑んだ。


「あの……、あなたの世界ってどんなところなんですか?私、まだよくわかってないんですけど……」


 これまで見て来た、地獄とは全然違う。なんていうかここは凄い優しい世界だ。


「ここは、喫茶店の世界です。そして私は喫茶店のマスター」

「いや……、それはさっき聞きましたけど……」

「つまりですね、この喫茶店は私の理想の世界、I()の世界なんです。」

「それが『アイ』の世界の正体......」

「えぇ、でも貴方は自分の世界はないようですね。現実世界でこことは違う場所に違う自分になりたいと思ったことはありますか?」

「いや、ないですね」


 私は無自覚だったけど、凄い幸せだったのかもしれない。私を思ってくれる両親がいて、友達がいて、充実した学校生活が送れて—。

 私はコーヒーを啜った。さっきよりちょっぴり苦かった。


「貴方はこの世界にいたいですか?」

「いいえ、元の...私の世界に帰りたいです!でも、どうすれば?」

「ドアを出る時にもう一度、『あの言葉』を言えば帰れますよ」

 

 あの言葉...!!


「あの、ありがとうございます。コーヒーご馳走さまです。」


 私は席を立ち、マスターにお辞儀をして扉に手をかけた。

 そして、ふと思いついてマスターに尋ねる。


「どうして、そのことを知っているのですか?」


 マスターは私のカップを片付けながら言った。


「私の理想は『迷っている人の道標になる』ですから」

 

 そして、後ろの棚に飾られていたランタンを私に差し出した。


「いいんですか?」

「持っていってください。貴方の道が明るく照らされますように」


 私はランタンを優しく持ちながら扉を開けた。


「『アイ』の世界に連れてって」


***********

「あれ?私....?」


 どうやら、本を読みながら寝落ちしていたようだ。


「帰らないと」


 スマホを見ると、門限の時間を過ぎて親からの通知が溢れていた。

 急いで片付けて外に出る準備をして、席を離れようとした。その時


「おい、君」


 急に後から声をかけられた。


「萩原先輩?どうしてここに」

「いかにも、私もここで勉強していたのだが、偶々君を見かけたのでね」

「見かけたのなら声を掛けてくださいよ」

「すまない、君が気持ちよさそうに寝ていたものでね」


 急に恥ずかしくなって、顔が熱くなった。私のバカ、読み慣れない本なんか読むからだ。


「夜も遅いし、家まで送ろう」

「でも、先輩の帰る時間が遅くなってしまいませんか?」

「構わない。昨今変な行方不明事件が多発している。生徒を守れないとあらば、風紀院長の名が廃る」

「はぁ......」


 萩原先輩も意外と心配性なんだな。私は申し訳ないと思いながらも、一緒に帰ることにした。


「おっと、忘れ物だ」

「あっ」

 

 いつ買ったのかわからないがアンティークのランタンが机の上に取り残されていた。私のじゃないような、でも大切なもののような─


「丁度いい光源になりそうだ。さて、行くとするか」


 萩原先輩はランタンを手に取り、私に手渡した。


「あ、ありがとうございます」


 帰ったら両親に謝らないと。

 あと、いっぱい今まで大切に育ててくれたことに『ありがとう』を言わないと。


「どうかしたか?」

「いえ、何でもないです」


 私と萩原先輩は店を後にした。

***********

「先輩、今日はありがとうございました」

「ん、明日遅刻しないように」

「はい!」


 玄関前で私は微笑み、お辞儀をした。萩原先輩は手を軽く振り、去っていった。

 萩原先輩ってああ見えて凄い優しい人なんだな、今度何かお礼をしないと。


 ここが私のお家、私が帰る場所。


「ただいま」


ーーENDーー

お付き合い頂きありがとうございました

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