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第27話 雷光一閃結界を穿つ

キハ120形が放つ青い魔導障壁は、備後落合駅のホームを覆う魔霧を力強く押し返していた。

 車内灯の白い光がフロントガラスを通じてホームを照らし出し、狼狽する変電魔導士の姿を明瞭に浮かび上がらせる。

「ば、馬鹿な……!あり得ん!システム同期を完全に遮断したはずだ!なぜ手書きの紙ごときで、魔導エンジンが再起動するのだ!」

 変電魔導士は顔の鉄仮面を歪め、信じられないものを見るかのように叫んだ。

 鉄平は運転席の計器を見つめたまま、淡々とした口調で答える。

「お前たちが用意した停電結界は、確かに無線通信やデジタルの同期システムを完全にジャミングしていた。だが、それは逆に言えば、アナログな物理的エネルギーの伝達――つまり、レールの継ぎ目から流れる振動や、紙に書かれたグラファイトの導電性を利用した直接回路の接続には無力だということだ。俺がやったのは、列車のバッテリー残量を一時的にレールの魔力抵抗と手動で同期させ、セルモーターを強制点火しただけだ。鉄道の基本は、繋がっていることだからな」

「へ理屈を!エンジンが起動したとて、この高濃度の結界のなかで何ができる!貴様らごと、この駅の塵にしてくれるわ!」

 変電魔導士は狂乱したように魔導杖を天に掲げた。

 備後落合駅の地下を流れる三つの龍脈から、強引に暗黒の魔力が吸い上げられ、杖の先端へと収束していく。バリバリと空間が悲鳴を上げ、奴の頭上に直径三メートルを超える巨大な紫電の魔力球が形成された。その凄まじい熱量に、周囲のコンクリートの壁が溶け始め、ドロドロとした溶岩のように流れ落ちていく。

 玲奈が再び刀を構え、鉄平の前に立つ。

「鉄平、あの規模の攻撃はさすがに障壁だけでは防ぎきれん。私が相打ち覚悟で突っ込む!」

「待て、玲奈。慌てて突っ込む必要はない。奴が立っている場所を見てみろ」

 鉄平はスマホ型端末の画面に表示された、荒いながらも復旧した備後落合駅の構内配線図を指差した。

「奴が立っているのは、かつて木次線と芸備線が交差していた第2分岐器の直上だ。あそこは駅構内で最も大地の魔力が集中する場所だが、同時に最も「流れが不安定なポイント」でもある。玲奈、ノッチ3。列車の突進速度を、お前の剣の慣性に同期させるぞ」

「列車の速度を、私の剣に……?」

「ああ。お前が自力で走るんじゃない。キハが走るエネルギーを、お前の体に「振替輸送」するんだ」

 鉄平はレバーを握り、ゆっくりと進段させた。

 ゴトン、とキハ120形が一歩踏み出すようにして前進を開始する。

「死ねぇぇぇ!」

 変電魔導士が咆哮し、頭上の巨大な紫電球をキハに向けて放った。

 真っ直ぐに迫る死の光球。しかし、鉄平は極めて冷静に画面をタップした。

「ユニークスキル「始発の改札口オリジン・ゲート」――遅延制御ディレイ・コントロール、及びポイント切り替え」

 瞬間、迫り来る紫電球の速度が、鉄平の遅延スキルによって目に見えて減速した。それと同時に、鉄平は手動でキハの床下から魔力波動を放ち、変電魔導士が立っている第2分岐器の「霊的ポイント」を強制的に切り替えた。

 グオォォン!と大地の龍脈の流れる方向が急激にねじ曲がる。

 進路を失った紫電球は、ポイントを切り替えられた列車のように、キハの手前で大きく軌道を逸らし、誰もいない芸備線側の錆びついた待避線へと吸い込まれていった。

 ドガァァァン!と待避線の奥で大爆発が起き、激しい光と土煙が舞い上がる。

「な、何だと!?私の魔法の軌道が曲がった……!?」

 変電魔導士が驚愕に目を見開いた瞬間には、すでにキハ120形が加速していた。

「今だ、玲奈!お前のスキルと、キハの走行エネルギーを連結しろ!」

「了解!「新快速一閃ブルー・レイピッド」――最大出力・重連連結!」

 玲奈はキハの屋根へと跳び上がり、刀を逆手に構えた。

 時速四十キロまで加速したキハ120形が、変電魔導士に向けて一直線に突進する。玲奈は自身の体に流れる雷属性の魔力を、足元の列車の鉄製ボディを通じてエンジンの回転運動と同調させた。

 キハの持つ十数トンの重量と走行慣性が、玲奈の華奢な体に吸い込まれ、彼女の剣に圧倒的な質量と速度を上乗せしていく。

 玲奈の体が、青い彗星と化して屋根から弾け飛んだ。

 それはまさに、漆黒の闇を切り裂いて走る、一両の魔導突撃列車そのものだった。

 キィィィン!と鋭い金属音が山間に響き渡る。

 変電魔導士は魔法障壁を張る暇すらなく、その突進の軌道上にあった魔導杖ごと、胴体を真一文字に両断された。

「まさか、このようなローカル線の……屑鉄にぃぃぃ!」

 断末魔の叫びと共に、変電魔導士の体は光の粒子となって霧散した。

 奴が持っていた杖が砕け散った瞬間、備後落合駅を覆っていた禍々しい紫色の停電結界がガラスのように砕け散り、周囲を埋め尽くしていた魔霧が、嘘のように一気に晴れていった。

 雲の隙間から、美しい夕暮れの陽光が差し込み、荒れ果てた備後落合駅のホームを黄金色に染め上げていく。

 玲奈はゆっくりと着地し、天羽々斬・改を鞘へと収めた。その背後で、キハ120形が静かにアイドリングの音を響かせていた。


「うおおおおおおおおお!!!」

「一撃で両断したあああ!」

「列車の質量を剣に乗せるとか、物理法則をハックしてて草」

「解説しよう!今のは「振替輸送」の戦闘応用だ!列車の物理的な運動エネルギーを、霊的連結によって玲奈の剣に転送したんだ!一両のキハとはいえ、その突進エネルギーが乗った斬撃は、Sランクの威力をさらに倍加させる超大質量攻撃になるんだぞ!」

「解説鉄ニキ、今回も冴え渡ってて草。でもマジですげえ!」

「魔霧が晴れて夕陽が見えるの、めちゃくちゃ綺麗だな」

「結界が壊れた!備後落合が解放されたぞ!」

「よし、これで木次線は完全に安全化されたのか?」


 配信コメント欄はお祭り騒ぎのようになっていた。

 鉄平は運転席から降り、ホームに立つ玲奈に向けて歩み寄った。

「お疲れ、玲奈。完璧な一撃だった」

「ふふん、鉄平のダイヤが完璧だったからな!」

 玲奈は夕陽を浴びながら、少し誇らしげに胸を張って微笑んだ。その表情には、戦闘の緊張から解放された安堵と、鉄平と共に成し遂げたことへの深い喜びが満ち溢れていた。



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