第8話:愚か者への断罪
「な……なんだお前らは!? 俺たちは『銀翼の風』だぞ! 邪魔するな!」
引きつった顔で叫ぶダグラスに対し、レオンハルト殿下は溜息を一つ吐くと、静かに立ち上がった。
その圧倒的な覇気と気品に、ダグラスたちは圧倒されて思わず一歩後退る。
「『銀翼の風』……聞いたこともない弱小パーティーだな。その無礼な口を慎め。私の前にいるお方は、ルナリア帝国皇太子・レオンハルト殿下であられるぞ!」
側に控えていた騎士団長が喝声を上げると、ダグラスたちの顔色が瞬時に真っ青へ変わった。
「こ、皇太子……!? 冗談だろ……なんでそんな偉い奴が、こんな役立たずの泥遊び女と一緒に——」
「黙れと言ったはずだ」
レオンハルト殿下の低く冷徹な声が、部屋の空気を凍りつかせる。
「呪いだと? どこまで愚かなのだ君たちは。シルフィが毎晩、己の魔力を削って君たちの粗悪な装備を維持していたことすら気づいていなかったのか?」
「え……? じ、維持……?」
「シルフィの【泥飾術】は、古代の神技【神土錬成】だ。彼女が魔力を供給し、精密な修復を施していたからこそ、君たちの安物の剣や杖は壊れずに済んでいたのだよ。彼女を追い出せば効果が切れるのは当然だ。それを『呪い』などと……無知にも程がある」
「神土……錬成……!?」
ミレーナとフィオナが絶句する。
「それだけではない」
レオンハルト殿下は羊皮紙の文書をテーブルに放り投げた。
「我が国の調査によれば、君たち『銀翼の風』は、シルフィに与えるべき個人報酬を不当に搾取し、挙げ句の果てに命の危険があるダンジョンに防具も与えず連れ回していたな? これは明確な労働搾取であり、冒険者ギルド規約に対する重大な違反行為だ」
「なっ……! それは……!」
ダグラスの額から滝のような汗が噴き出す。
「シルフィはすでに、我がルナリア帝国の至宝である『国宝級特命職人』として正式に任命されている。枯れかけた世界樹を救った、我が国の英雄だ。それを『役立たず』と侮辱し、あろうことか『連れ戻してタダで働かせる』だと?」
レオンハルト殿下の紫水晶の瞳に、激しい怒りの炎が宿る。
「国家の恩人を脅迫し、不当に連れ去ろうとした罪……我がルナリア帝国、そして冒険者ギルド本部が黙っていると思うか?」
「ひっ……! ひぃぃぃっ!?」
あまりの恐怖に、膝から崩れ落ちるダグラス。
ミレーナとフィオナも顔を覆い、「私たちは指示に従っただけです!」「ダグラスさんがやれって言ったんです!」と醜く責任を押し付け合い始めた。
私はそんな元パーティーの姿を、冷ややかな目で見つめた。
(……昔の私なら、怖くて何も言えなかったかもしれない。でも、今の私には……大切な場所と、守ってくれる人がいる)
私はレオンハルト殿下の隣に一歩踏み出し、まっすぐにダグラスたちを見据えて言った。
「ダグラスさん。私はもう『銀翼の風』の雑用係ではありません。今更戻ってきてくれと言われても……殿下に甘やかされているので、絶対に無理です!」
「シルフィ……っ!」
私の言葉に、レオンハルト殿下は愛おしさを噛み締めるように目を細めた。
「聞こえたな? 騎士たちよ、この愚か者どもを拘束しろ」
「嫌だぁぁぁっ! 助けてくれシルフィぃぃぃっ!!」
ダグラスたちの哀れな悲鳴が響き渡る中、彼らは騎士たちによって引きずられていくのだった。




