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第6話:国宝級職人の誕生





ルナリア帝国の象徴であり、国の魔力源でもある巨木『世界樹』。

その地下深くに存在する巨大な祭壇の間で、シルフィは息をのんでいた。


「これは……ひどい……」


目の前に鎮座するのは、世界樹の生命力を全身に巡らせるかなめ——『世界樹の心臓コア』だ。

本来ならば眩いばかりの緑と金の光を放っているはずの巨大な宝玉は、いまや全体に無数の亀裂が走り、黒ずんだ魔力が痛々しく漏れ出していた。


「世界の枯死を食い止めるため、歴代の宮廷魔導士たちが修復を試みたが……誰一人としてこの古代の魔導回路を繋ぎ直すことができなかった」


傍らに立つレオンハルト殿下が、悔しそうに拳を握りしめる。


「シルフィ。あの日、君が直してくれた私の魔導核は、この世界樹の心臓の破片だったんだ。……君の【泥飾術】だけが、この国を、ひいては世界を救う唯一の希望なんだ」


「殿下……」


シルフィは胸に手を当て、深く頷いた。


(追放されて路頭に迷っていた私を、殿下は信じて拾ってくれた。今度は、私が応える番だ……!)


シルフィは背の革袋から細工ヘラを取り出し、静かに瞳を閉じた。

手に取り出したのは、帝国の極上鉱石と最高級の魔導土を完璧な比率で捏ね上げた特製の粘土だ。


(見える……! 心臓の中でズタズタに引き裂かれた、魔力の奔流が……!)


シルフィが粘土に魔力を注ぎ込むと、泥は眩いばかりの銀ゴールドに輝き始めた。


「【神土錬成】——繋がりなさい!」


目にも留まらぬ速さで細工ヘラが走り、銀ゴールドの泥が『世界樹の心臓』の亀裂へと吸い込まれていく。

ただ傷口を塞ぐのではない。シルフィの指先は、失われた古代の魔導回路を完璧に描き直し、過剰な魔力を優しく包み込んで受け止めていく。


「な……なんという手業だ……!」

「宮廷魔導士団が束になっても叶わなかった大修復を、素手とヘラだけで……!?」


息をのんで見守っていた皇帝陛下や重臣たちが、震える声で叫んだ。


ゴオオオオオン……!


次の瞬間、地下祭壇全体が温かな光に包まれた。

黒ずんでいた『世界樹の心臓』が神々しい輝きを取り戻し、力強い鼓動を打ち始める。

それと同時に、枯れかけていた世界樹の葉が一斉に青々と繁り、帝国全土に満ち溢れる豊かな魔力が蘇った。


「す、すごい……! 世界樹が蘇ったぞ!!」

「奇跡だ……! 伝説の『神土錬成師』が現代に降臨されたのだ!」


割れんばかりの歓声と拍手が祭壇に響き渡る。

皇帝陛下はシルフィの前に歩み寄ると、深々と頭を下げた。


「シルフィ殿。我が国を……世界を救ってくれたこと、心より感謝する。本日より貴女を、我が帝国の至宝『国宝級特命職人』として処遇する!」


「こ、国宝……!?」

驚くシルフィの肩を、レオンハルト殿下が抱き寄せる。


「誇るといい、シルフィ。君の才能は、最初から世界を救うほど気高かったのだから」


熱い眼差しで見つめられ、シルフィの顔がカッと赤くなる。


こうしてシルフィは、追放された一人の少女から、一国どころか世界から崇められる最高峰の職人へと上り詰めたのだった。


——しかしその頃。

情報屋からシルフィの居場所(ルナリア帝国へ向かったこと)を突き止めた元パーティー『銀翼の風』が、身の程知らずにも帝国へと向かっていた。






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