第5話:反省ゼロの身勝手な決断
「くそっ! なんだって誰も修理を引き受けてくれないんだよ!」
王都の職人街。ダグラスは真っ二つに折れた愛剣をカウンターに叩きつけ、鍛冶屋の店主に向かって怒鳴り散らしていた。
しかし、頑固そうな店主は冷ややかな視線を送るだけだった。
「当たり前だろ。その剣、内部の魔導回路ごとぐちゃぐちゃに砕け散ってるぞ。こんなの買い直した方が早いが……そもそも、どうやったらこんなイカれた摩耗の仕方をさせられるんだ?」
「なっ……! 買い直すだと!? この剣にいくらかかったと思ってるんだ!」
「知るかよ。断っておくが、王都のどこの鍛冶屋に行っても無駄だぞ。そんな特殊な継ぎ目を修復できる奴なんて、この国にいるわけねえ」
「そんな……!」
店追い出されたダグラスは、頭を抱えて路上にへたり込んだ。
後ろでは、魔導杖を失ったミレーナと、防具が壊れてまともに魔法が使えないフィオナが、不安そうに顔を寄せ合っている。
「どうするのよダグラス! 次の指名依頼、キャンセルしたら違約金で破産しちゃうわよ!」
「フィオナの回復魔法も出ないんじゃ、Eランクの依頼すら受けられないわ! 私たちのパーティー、このままだと解散よ!?」
「うるさい! 黙ってろ!」
ダグラスはイライラと頭を掻きむしり、ふとある「可能性」に思い至った。
(待てよ……? あの泥飾術士を追い出した途端、一斉に装備が壊れた。……あいつ、俺たちに黙って何か『呪い』でも仕込んで出て行ったんじゃないのか!?)
ダグラスの中で、身勝手な推論が急速に事実へとすり替わっていく。
「そうか……! そういうことかよ!」
「え? 何がよダグラス?」
「あの女だ! シルフィの奴、俺たちに追放された腹いせに、装備に嫌がらせの細工をして逃げやがったんだ!」
ダグラスの言葉に、ミレーナとフィオナもポンと手を打った。
「やっぱり!? あんな地味な泥遊びで装備が持つわけないものね! 呪いで誤魔化してたくせに!」
「ひどいですシルフィさん……! 私たちの信頼を裏切って、そんな嫌がらせをするなんて……!」
自分たちの無知と不遜さを棚に上げ、三人は一瞬で被害者面を作り上げた。
「あいつ、いま頃王都のどこかで俺たちが泣きついてくるのを高くくって待ってるに違いないぜ。……チッ、面倒だが連れ戻してやるか」
「そうね! 呪いを解かせて、今まで通り無料で装備のメンテをさせなきゃ!」
「お詫びに、これからの報酬の取り分も半分に減らして反省させましょう!」
自分たちの『優しさ』で連れ戻してやるのだと本気で信じ込んだ三人は、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべた。
「おい、街の情報屋にシルフィの足取りを探らせろ。あんな役立たず、遠くへ行けるはずもない。すぐに見つけて、土下座させてやる!」
——彼らはまだ知らなかった。
シルフィがすでに王都を遠く離れ、隣国の皇太子に大切に抱え込まれていることも。
そして、彼女を連れ戻すどころか、自分たちが触れてはならない「国の至宝」に手を伸ばそうとしていることにも。




