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アフタヌーンティーはジャスミンで  作者: tosa


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罪と罪

 恩納隆の存在をマテオは完全に失念していた。否、忘れてしまうほど恩納からは敵意を感じなかった。


 このスイートルームに入って初めて恩納を見た時、マテオは直感的にこの男は敵ではないと判断した。 だが、ルサンチマンにとどめを差そうとした正にその瞬間に、恩納はマテオの前に壁となって現れた。


「どいてよおじさん! おじさんはルサンチマンの味方なの!?」


「······味方だとか敵とか、もうそんなことはどうでもいい。見たくないんだ。目の前で人が死ぬところを」


 恩納は肩を落とし表情も言葉も弱々しかった。だが、マテオの視線からは目を逸らさなかった。


「この悪魔のしたことを知らないの!? ナショナル・モールで十万人を虐殺し、今度はアメリカ全国民を殺そうとしているんだよ!?」


「······知っている、知っているよ。でも、君がこれからしようとしていることも人殺しだ。それは、彼女がしたことと同じだ」


「全然違うよ!! ルサンチマンは罪も無い人達を殺した。僕達がやろうとしていることは正当防衛だ! 許される殺人なんだよ! おじさんは大人だろう? なんでこんな簡単なことが分からないんだよ!?」


「······ないよ。許される殺人なんてない」


「何を言っているのおじさん? コイツを殺さないと、三億五千万人が殺されるんだよ!?」


「······それでも、それでも駄目だ。どんな理由を並べても、人を殺めることは許されない」


「それはおじさんの独りよがりの綺麗事だ! 世の中には死んだ方がいい連中が山程いるんだ!  僕は、僕達はそれを散々見てきた。こんな安全で平和な国で生きてきたおじさんには分からないよ!」


 マテオの叫び声は、世の真実の矢となって恩納の心に突き刺さった。恩納の心の中で、マテオの言葉を肯定する自分がいた。


 だが、それでも。それを否定する自分の存在に恩納はすがりつく。


「······君もいつか親になるだろう。その時、自分が人を殺したことを子供に自慢できるのか? アメリカ全国民の敵を殺したと、それを小さな子供に誇れるのか!?」


 涙を流しながら恩納はマテオに叫ぶ。その迫力にマテオは一瞬怯む。だが息を深く吸い込み、足を前に出す。


「······罪があるのなら背負うよ。それで地獄に落ちるのなら受け入れる。でもその女だけは生かしておけない。次の世代の子供達のためにも」


 恩納の言葉はマテオに届かなかった。恩納に譲れない思いがあるように、マテオにはマテオの正義と覚悟があった。


 項垂れる恩納の前に、白髪の少女が立った。


「······命乞いはせぬ。我はそれだけの業を重ねたからな。お主の能力を使うまでもない。これで幕引きとしよう」


 白髪の少女はナイフをマテオに差し出す。その威厳に満ちた表情に負けじと、マテオは自分を強く保ちナイフを受け取る。


「言い残すことは?」


「無いな。道半ばで死ぬ。ただそれだけだ」


 マテオがナイフの刃先をルサンチマンの胸に向けて構える。恩納がそれを阻止しようとした時、マテオ達の背後からけたたましい足音が聞こえた。


「お嬢!!」


 フランシスコと交戦していた式神が、蒼白な表情でマテオに体当たりをしようと飛びつく。マテオは恩納の胸を突き飛ばし、最後のギフトを発動させる。


 ドオンッ!!


 轟音と共に式神の下半身が粉々に砕け散った。至近距離が災いし、マテオも爆風を受けた。


 巻き起こった風が落ち着いた頃、薄目を開けるマテオの視線の先で、バレンタとフランシスコが心配そうに何かを叫んでいた。


 爆風で聴覚が一時的に機能を失っていたマテオは、背後に倒れているルサンチマンに気づく。


 全身に傷を負った白髪の少女は、既に虫の息だった。





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