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アフタヌーンティーはジャスミンで  作者: tosa


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兄と弟

 テーブルに置かれた紅茶はすっかり冷めきっていた。恩納隆は白髪の少女の横に立つ黒渕マグブルに今の状況を問いただした。 


「恩納さん。侵入者の手によって黒渕マグブルは死にました。そして我々は黒渕マグブルが造り出した式神です。現在、お嬢を狙ってこのホテルに侵入した者達と別の式神が交戦状態に入りました」


「······貴方が式神? 黒渕代表が死んだ?」


 恩納の頭の中に、黒渕の穏やかな顔が浮かんで消えた。エキゾチックな顔立ちの男は、出会った当初から最後まで恩納にとって理解不能な存在だった。


 最上階のスイートルームでは、鋭利な刃物が振り回される物騒な光景が展開されていた。式神は左右のナイフでマテオを襲う。


「くそっ! 危ないだろ!」


 式神は的確にマテオに致命傷を与えるべく、ナイフを巧みに操る。


 それを動物的勘で避けるマテオだったが、頭髪や胸のシャツが切り裂かれ、自身のギフトを使う隙もなかった。


 息切れするマテオの側面から動いたのはバレンタだった。


「マテオから離れなさい! このイケメンのおじさん!」


 バレンタはブランド物の花瓶を持ち上げ、式神に向かって投じた。式神が後方に下がり、花瓶は床に落ちて割れる。


 式神は横目でバレンタを見る。その冷たい目に、バレンタは今度は自分が標的になったことを自覚した。

 

「きゃあ!?」


  式神はテーブルを飛び越え、バレンタに向かって右腕を振り上げた。


「バレンタ!!」


 マテオは瞬時にギフトを発動させようとしたが、式神が余りにバレンタに近づいていた為にそれが出来なかった。


 その刹那、式神の動きが急に止まった。それは時間にして数秒だった。彫像のように固まった式神が身体の自由を取り戻した時、ブロンドの少女はマテオの背中に隠れていた。


「······私の身体の自由を奪ったのは、君達の能力ですか?」


 式神は三人の少年少女を警戒しながら睨みつける。すると、長身で褐色の肌をした少年が式神の前に立つ。


「マテオ、バレンタ。コイツは俺が相手をする。二人は下の階、五十二階に行け」


 それまで緩んでいたフランシスコの表情が急に凛々しくなり、その口調は明瞭で力強かった。フランシスコの中に眠る二つの人格の内、兄の人格が表に出現した


「そんなの駄目だフランシスコ! 皆でコイツを倒そう!」


「目的を間違えるなマテオ。俺達の標的はルサンチマンだ。それにギフトは無制限には使えない。お前のギフトはルサンチマンに使え」


「······フランシスコ、下の階に行けってことは、そこにルサンチマンがいるの?」


「そうだバレンタ、その可能性が高い。ジョセフおじいさんは能力者は全てホテルの上層階にいると言った。俺の調べたところではこのホテルにはスイートルームがもう一部屋ある。それが下の階だ」


 少年少女達には迷っている時間は無かった。目の前に立ちはだかる黒いスーツの男のような手練が、あと何人控えているかも知れなかったからだ。


「······貴方達の仲間、神父姿の男は死にました。私達式神を造った主《あるじ》の手によってね」


 式神の残酷な宣告に、少年少女達は途端に血の気を失う。


「······そんな、そんなのあんまりよ。ジョセフおじいさんが」


 両手で口元を覆い、大粒の涙を流すバレンタ。その肩を、マテオは震えながら支える。


「······マテオ、バレンタ。ジョセフおじいさんが敵を足止めしてくれたこの機会、それを無駄にするな!」


 フランシスコが歯を食いしばり、マテオとバレンタを叱咤する。


「······フランシスコ」


 普段は呆れるほど陽気なマテオが、弱々しく家族の名を呟く。


「······マテオ、バレンタ。二人には感謝している。二つの人格がある俺のような厄介者を、お前達は兄弟のように接してくれた。弟も同じ気持ちだ。必ず帰ってアメリカの永住権(グリーンカード)を手に入れろ」


 フランシスコは秀麗な顔に笑みを浮かべ、マテオとバレンタに親指を立てて見せる。


「何を言ってるんだフランシスコ! みんなで帰って、みんなで永住権を手に入れるんだろ!?」


「行くわよマテオ! フランシスコの邪魔をしちゃ駄目!」


 この場から立ち去り難いマテオの首根っこを、バレンタは泣きながら掴み引きずって行く。肌に刺さるような強い殺気を感じたフランシスコは、黒いスーツ姿の男に振り返る。


「······ギフトは無制限に使えない。つまり、貴方の先ほどの能力も使用回数に制限があるということですか?」


「その通りだ。だが意外だな、二人を見逃してくれるとは思わなかったよ」


「あの二人を追えば貴方の能力でやられていたでしょう。この上はまず貴方から仕留めます。二人はその後にしましょう」


「······アンタはさっき自分のことを造られた式神と言ったな。つまり、人間では無いと言うことか?」


「その通りです。式神である我々は、ただ主《あるじ》の命令を遂行するだけです。忠実にね」


 式神は己の言葉を実行するべく、フランシスコにゆっくりと近づいていった。





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