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アフタヌーンティーはジャスミンで  作者: tosa


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18/20

勘という名の推測

 駒場清美こまばきよみは現在46歳。痩せ型の体型に短い艶の無い髪型。荒川遠香あらかわとおかの生みの母親であり、遠香が3歳の時夫である荒川健太あらかわけんたと離婚した。


 離婚の大きな原因は妻である清美の不貞行為だった。 健太と清美は子供の親権を争い、家庭裁判所で健太の親権が認められた。


 その後、旧姓に戻った駒場清美は離婚の原因となった浮気相手の男とは別れ、現在システムエンジニアをしながら都内で1人暮らしをしていた。


  警視庁経由で得た駒場清美の情報には、清美の親権に強い執着を見せていた事が記載されていた。それが恩納隆おんなたかしが持つある仮説に重大な正当性を与えていた。


「······つまり。貴方達、生活管理調査会社は警察のお仲間で3日前に荒川健太を殺した犯人を探している。と言う事ですか?」


  駒場清美は黒いコートを着たまま席に座り、隆から一通りの説明を受ける。目の下の濃い隈や顔色が優れない事を恩納に気遣われた清美は、最近仕事で満足に睡眠時間が取れていないと返答した。


「······被害者の強い恨みが相手を呪い殺す。そしてそれは合法であり罪に問われない。ですか。率直に言って信じられませんね」


  清美はため息混じりに口を開く。清美には元夫の死亡情報は伝わっていたが、大して動揺は見せなかった。そして終始疲れた様子で無気力な声色だった。


  だが娘である遠香の今後については食い入るように隆に問い質してきた。遠香はもう直ぐ18歳になり、民法では成人扱いになり親の庇護は不要と隆から聞くと、清美はひどく落胆した様子だった。


「駒場さん。このGPSは貴方が遠香さんに送った物で間違いありませんね?」


  隆はテーブルに小さな電子機器を置いた。それは、遠香の鞄に付けられていたGPSだった。


「······ええ。遠香の高校入学のお祝いに贈った物です。それが何か?」


「駒場さん。貴方はこのGPSを使って遠香さんの会話を把握していましたね?」


  隆の断言に、隣に座っていた御城静香みしろしずかは黙して先輩を見る。先程高きから聞いた仮説を証明する為の論拠の提示が開始された。


「······恩納さんと言いましたか。何を根拠にそんな事を言うんですか? 私がそのGPSに盗聴器をしかけた証拠でもあるんですか?」


「おや? 駒場さん。私は盗聴器などと一言も言っていませんが。何故このGPSに盗聴器がしかけられていると知っているんですか?」


 隆はおどけた顔を清美に見せた。誘導尋問にかけられた清美は唇を噛み締める。


「恩納さん。貴方は私に遠香の会話を把握していると仰りましたよね? なら盗聴器を想像するのが自然でしょう? そもそもが盗聴器をGPSに仕込むなら父親の方が怪しむべきでは?」


「駒場さん。遠香さんから確認しましたが、父親の健太さんは時計のボタン電池も交換出来ない程不器用だったそうです。対して貴方は理工学部出身。どちらが盗聴器を扱えるか誰の目にも明らかです」


「だとしても。何故私がそんな事をする必要があるのですか?」


「理由は1つです。駒場さん。貴方は娘である遠香さんの親権に固執していた。裁判の判決に未だに納得していないのでは無いですか?」


  隣で静観していた静香には、隆の言葉は清美の逃げ場を徐々に削っていくように見えた。静香と隆達は被害者と対面すると相手の心情や事件の背景が分かる能力があった。


 故に静香はもう分かっていた。隆の仮説には決定的に欠けていた物があった。


「······納得していないから何ですか? まさか私が遠香の父親を呪い殺したとでも言うのですか?」


「その通りです。駒場さん。健太さんが死亡した3日前、遠香さんは恋人と一緒にカラオケボックスに居ました。そしてそこで父親など消えてしまえばいいと叫んだそうです。貴方はその声を盗聴器を通して聞いていた。普段から自宅で仕事をしている貴方なら簡単に出来る事です。そしてこう思いませんでしたか? 娘に不要だと思われる父親など死んでしまえばいいと。貴方は健太さんに強い殺意を抱きませんでしたか? 健太さんが死ねば娘とまた暮らせると」


 ファミリーレストランの1席を囲う3人に、重苦しい沈黙が流れた。隆は慣れない冷徹な表情を無理やり継続し、清美は人間の憎悪を体現したような禍々しい怒りの顔を見せていた。


「······駒場さん。仮に私の言う事が真実でも、貴方は罪には問われません。ですが1つだけ教えて下さい。貴方が健太さんの死を願った時、健太さんの死を実感として感じましたか?」


「······感じませんよ。恩納さん、貴方の言う通り、私は遠香の叫びに乗じて荒川の死を願いました。でも何も感じたりしません。そんな事で人が死んだらどんなにこの世は生きやすいか。あの人は私から娘を奪った。その罪を贖うために死んだのなら、間違いなく原因は私でしょうね」


  清美は捨鉢になったように吐き捨てた。それは恩納が心の中で白旗を上げる瞬間だった。静香と同様に、恩納も駒場清美からは健太の死に対する情報は何も読み取れなかった。


 そして清美自身も健太の死の瞬間、何も感じなかった。駒場清美は荒川健太の死に対して完全に無関係だと証明されたと同時に、清美が健太を殺害したと言う恩納の仮説が破綻した瞬間だった。


  人生初の冴えだと思われた勘が脆くも崩れた形となった恩納は、背もたれにもたれかかりため息をついた。そしてテーブルの前に立つ女性に気付く。


「······遠香?」


  清美は驚愕の声を上げ目の前に立つ女の名前を呼んだ。そこには、娘である荒川遠香が立っていた。




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