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アフタヌーンティーはジャスミンで  作者: tosa


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11/22

恫喝

「······よ、4京3000兆円? 馬鹿な、一体何を根拠にそんな数字が出てくるのですか?」


 1泊30万円を超えるスイートルームの中で、アメリカ特命全権大使の上ずった声が響いた。白髪の少女の要求はハワードの想像を遥かに超えていた。


  アメリカ国家予算の43倍の補償。それも一方的な言い値など容認出来るはずが無かった。


 「これは心外極まりないな。至って正当な要求だかな? 先の大戦以降、お主等はこの国から2000兆円を超える国富を奪い去った。大戦と言えば人的補償もあるな。軍人のみならず多くの罪もない一般市民も虐殺された。都市や街も焼き払った。黒船来航以降から今日まで総計すると9000兆円は下らぬ」


「······きゅ、9000兆円でも法外な額です。ミス ルサンチマン。では4京3000兆円の根拠とは一体何処から来ているのですか?」


「利息だ」


「······は?」


「借金には利息が付くものだろう? 金儲けが3度の飯より好きなお主らの常識ではないか。黒船来航以降、173年分の利息を付けた合計が4京3000兆円だという事だ」


 ハワードは半ば口を開けたまま絶句した。自国の属国であり、財布代わりでしか無い極東の島国から過去から現在に至るまでの負債の清算を求められるなど誰が想像できたか。


「ほれ。そうこうしている内に負債は増える一方だぞ? 何しろ額が額だからな。1秒で1360億円が加算されていくぞ」


 白髪の少女の冷笑を受け、ハワードは無意識に壁に掛けられた時計を見た。時刻は23時半を過ぎていた。


「······ミス ルサンチマン。それは我が国に破産しろと言っているのも同義です。交渉の余地は見いだせないですかな? いえ、お互いがそうするべきです。そうしなければ、不幸な結果になりかねません 」


  ハワードは己を鼓舞するようにソファーから立ち上がる。彼は自国の軍人力を行使する事に活路を見出そうとした。


「成程な。応じなければこの国にまた核兵器を落とすか。しかしな。残念ながら我は代理人でな。我個人には裁量はないのだ」


 白髪の少女はため息混じりにティーカップをテーブルに置く。ハワードは交渉相手が世界一の軍人力に怯んだと感じ、攻勢に転じる好機と判断した。


「ではミス ルサンチマン。貴方が代理人と言うなら依頼人を連れて来ていただけますかな? このスイートルームなら何人でもまだ入れる余地があります」


  ハワードは大袈裟に両手を広げリビングルームを見回す。彼が拠り所にしていたのは、自分の大使としてのキャリアや能力では無く、自国の比類無い暴力装置である軍人力だけだった。


「自由の国からの使者よ。それは無理からぬ話だ」


「ほう? ミス ルサンチマン。依頼人を呼べない理由は?」


「数が多すぎるのだ」


「多すぎるとは? 一体何人いると言うのですか? 」


「300万人」


「······は?」


 ハワードは立ち上がったまま硬直してしまった。この白髪の少女に思考停止に陥らせられるのは今夜一体何度目なのかと反芻する。


「先の大戦で軍民合わせた犠牲者の数だ。我はその者達の無念を晴らす為の代理人としてここにいる。彼等は口を揃えて言っておるぞ。お主等に正当な代償を払わせろと」


「······先ほどから言い分が一方的ですな。ミス ルサンチマン。犠牲者なら我が国も何万人もいます」


「ではお主等もその犠牲者の代理人を立てるといい 。()()()の話だがな」


「······どう言う意味ですかな? ミス ルサンチマン」


「自由の国からの使者よ。お主の国で昨今起きている死亡事故は存じていないか?」


「······死亡事故?」


  ハワードの頭の片隅には、国を騒がしている猟奇的殺人事件が浮かんだ。すると白髪の少女は不気味な笑みを浮かべた。


「その猟奇的殺人事件だ。自由の国からの使者よ。 死亡したのは隠り世と現し世を繋ぐ事が出来る力の持ち主達だ。彼等は全て始末させてもらった。残念ながらお主等の先の大戦での犠牲者の代弁を出来る者はもう存在しない」


  白髪の少女の説明に、ハワードは背筋に冷たい汗が流れるのを感じていた。アメリカ全土で起こっている猟奇的殺人事件には共通点があった。


  犠牲者のいずれも胸部から心臓が体外に飛び出して死亡しているのだ。しかもその心臓は赤い血液が原因ではない理由で真紅の色に染まっていたのだった。


「信号」


「······は?」


 白髪の少女の囁くような小声に、ハワードはあろう事が声が裏返ってしまった。


「体外に飛び出した心の臓の色の例えだ。面白い例えをする者達がいてな。心の臓の色は恨みの強さで3つに分かれる。常人の恨みは青色。強く濃い殺意は黄色。そして人の領分を超えた狂気の怒りを発した時、心の臓は赤色になる。お主の国の異能者を皆殺しにしたのは、300万人の犠牲者のうちのたった1人の力だ。この意味が分かるか? 自由の国からの使者よ」


  ルサンチマンの説明は、ハワードにとって闇の中から聞こえる呪詛のようだった。




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