2時40分_two forty_
_12:00PM コンフォート王国王都北駅_
「やっと着いたぁ!これでアディと同じ空気が吸えるゾォ!」
「ヒェッ…シンプルにきもい」
蒸気機関車の車両ドアを開けて勢いよく駅に降り立ったフィリップをニコラが追う。それに続いたベルナールは、「二等席に男5人すし詰めはキツイ…」と愚痴をこぼしながら、足をプルプル震わせている。
「お義父さん。ここでお別れなんて…俺、とっても寂しい!」
「お前のお義父さんじゃねぇよ!バカ王子!」
「ベルナールさん!!生まれたての子鹿みたいに震えてますね!!おんぶか抱っこを御所望ですかぁ!?」
「そのネタ擦るのやめろ!お前らはもう散れ!寄ってくるんじゃねえ!!」
ベルナールは足元に絡み付いてくるフィリップを剥がしながら、ジャンにもツッコみを入れている。そんなある種の義理堅さを見せる彼は、家の様子を見てからヴォルテール公爵家に向かうという。
ひと時の別れを惜しむ彼らの大声がホームにこだましていた。
_12:10PM 駅前コンコース_
「えっ?すぐにアディちゃんのとこに行くんじゃないの?」
クリストハルトの手配していた馬車を前にニコラが驚きの声を上げる。
「詳しいことは馬車の中でご説明します。ニコラさんは私と一緒に来てください。ジャンさんは…大変申し訳ありませんが、ソレのお守りをお願いします」
二人が難色を示す前に「頼りにしておりますよ」とクリストハルトはバッサリと話を打ち切った。そして主人に向き合う。
「いいですか、貴方が馬車が嫌だと仰るから、わざわざジャンさんに残っていただいたのですよ。くれぐれも、くれぐれも、危険なマネをしたり、寄り道をしたりして、先方との約束に遅れるなどないように。わかりましたか?」
「当ったり前ジャン!アポ取りありがとね〜」
ヘラヘラとしている主人を訝しげにしばらく見つめたものの、クリストハルトは諦めたようにため息を吐くと、ニコラを促して共に馬車に乗り込んだ。手を振ってそれを見送った後、ジャンの方へくるりと振り返ったフィリップはニカっと笑った。
「ヨシッ!寄り道するヨォ〜!」
「早速過ぎますヨォ!予想はしてましたけどネェ!!お嬢様のことは宜しいんですかぁ?!」
ジャンのバカでかい声に通行人が振り返るが、二人とも気にする様子もない。
「俺のすることは全部アディのためだよ。だから付き合ってね!」
足早に歩き出すフィリップを、ジャンはやはり諦めたように追いかけるのだった。
_12:15PM 車中の人々_
「絶対するんじゃないすか?寄り道」
「まぁ、そうでしょうね」
走り出した馬車の中、ニコラの質問にクリストハルトは当たり前のように返した。
「大丈夫なんですか?」
「あの方はご自身の満足いくようにしかなさいませんから。仕方ありません」
どこか理解できないという顔のままのニコラに対し、クリストハルトは苦笑しながら言葉を続ける。
「ここでは思うようにしていただきますよ。ですが…この"貸し"の分は、せいぜい働いて返してもらいますよ」
だんだんと目が座りだしたクリストハルトに、「この人も別に納得してるわけじゃないんだな」と同情しながらニコラは頷いた。
_12:20PM とある路地裏_
「どうして僕らはこんなところを走ってるんですかぁ!?」
「それはね、近道だからだよ!」
「どうして殿下はそんな近道を知ってるんですかぁ?!」
「それはね、この道がアディの幸せにつながっているからだよ!」
_12:35PM コンフォート王国王都とあるアパートメントの前_
「殿下…あのぉ…」
「シッ!静かに!」
フィリップがドアの鍵穴に細いピンを捩じ込んでいる。彼の立てるカチャカチャという小さな音を聞きながら、ジャンは周辺に人の気配がないか確認する。
周りの建物によって日光は遮蔽されているのに、老朽化に関しては包み隠さず白日の下に晒されているアパートメントの前に彼らは居た。
「どうして殿下は他所様のお宅に不法侵入しようとしているんですかぁ⤵︎?」
「それはね、アディの心のドアを開けるためだよ」
迷いも工夫もなく答えたフィリップの手元で、ガチャンと鍵の開く音がした。
「どうして…王族の殿下がピッキングなんか出来るんですかぁ…?」
「それはね、アディの…」
「いや殿下、お嬢様のために犯罪行為は必要ないでしょお⤵︎」
納得のいかないジャンが、食い気味に返事を遮る。それに対して「何にでも犠牲はつきものさ」と言うフィリップの目は、キラキラと輝いている。
疾しさなど微塵も感じていないという反応に、二の句が告げないジャンを放置して、フィリップは手持ちの鞄をあさっていた。四つ折りの状態でカピカピになった紙を、「うわ、ばっちい」と言いながら広げている彼の手元をジャンが覗き込む。
「なんですかソレはぁ…」
「ケンプフェンでぶん奪っ…譲ってもらったヤツの取説。うちの部下たちが使い方を聞いてメモってきてくれたんだぁ」
「スゴイでしょ」とでも言いたげに、胸を張った王子様が手に持った紙には赤黒いシミがあった。それが何によるものなのかを想像してジャンはただ顔を歪めた。
_12:45PM ベルナールん家_
ベルナールは乗合馬車を降りて自宅への道を歩いていた。久しぶりに目にした我が家に、疲れていたはずの足が自然と走り出していた。だが急いでドアを開けても妻子の姿はなく、ベルナールは肩を落とした。
家の中にはバターの香りが漂い、ルイーズの使う小さなカップやスプーンが洗い桶の中を揺蕩っていた。少し前までここにいた彼女らの痕跡に、自然と喜びが湧き上がって来たが、彼はもう一人の娘のために足を止める訳にはいかない。
今日は日曜日だから、ちょうど買い物にでも出かけたのだろうと妻子に書き置きを残す。そして笑い始めた膝を叱咤しながら、彼はまた家を飛び出した。
_12:55PM コンフォート王国王都 とある老朽化著しいアパートメントの一室_
自室で机に向かっていたランベールは、コーヒーを飲もうとカップに手を伸ばした。だが中身が空であることに気が付いて立ち上がろうとしたその瞬間、彼はぐらりと脳が揺れるような感覚に襲われた。
再び椅子に座り込んでしまった彼は、突然我が身に起こった異変について考えようとするも、襲い来る頭痛に抗えず、机に突っ伏してしまった。
_1:00PM 休日の大学構内_
日曜日の大学は、チラホラと学生たちがいるものの静かだった。
窓からは春のぽかぽかとした陽光が差し込んでいるが、積み上がった紙の山は小柄なモーリスを覆い隠す壁のようにそれを遮っていた。
彼は自身の休日を後輩達の論文を読むための時間に充てていた。没頭する事で頭脳労働者の悲哀から目を逸らしていたが、無粋にもドアをノックする音がモーリスを現実に引き戻した。
_1:10PM ヴォルテール公爵家 玄関ポーチ_
「あっ、ベル君だぁ!帰って来てたんだね!元気そうで良かったぁ!」
ヴォルテール公爵家の玄関で、ベルナールは偶然に妻子と再会していた。
「ホラ、ルゥちゃん!パパだよぉ!久しぶりに会えて嬉しいねえ!」
思わぬ場所でペリーヌと彼女に抱っこされた娘のルイーズと鉢合わせたベルナールは、じわじわと歓喜が湧き上がってくる傍で不安も感じていた。
「パパ…?」そうぼんやりと呟いた愛娘は、小ぶりな眉間に皺を寄せてベルナールを眺めている。丸々3ヶ月を超える月日は、まだ若すぎる少女にとっては悠久の時間であり、彼女の中の“父”という存在を朧げなものにしていた。
「ル、ルイーズゥ…パパだよぉ…!忘れてないよな?」
感動の再会のはずが、不安と疲れから彼の膝はもはや大爆笑している。そのまま娘へとにじり寄るベルナールの姿は、まるで生まれたての不審者のようであった。
いまだに父という概念を読み込み中なのか、泣きはしないものの猜疑心に満ちた目をしたままの娘を抱えたベルナールは、そのままの姿でもう一人の娘と会うことになった。
_1:15PM ふわふわ車内時間_
「あのー…確かランベールの従兄弟の…」
「ニコラです。アディちゃんのお誕生会ぶりっすね!ご無沙汰してます」
「あ…ハイ。お久しぶりです…?」と歯切れ悪く答えたモーリスは、彼とクリストハルトと共に馬車の中にいた。
「あの、なぜ僕を連れて来たんですか?」
「さぁ?ただそう頼まれたんで」
「私も存じ上げません」
恐る恐る発したモーリスの言葉に、答えを持つものは誰もいなかった。糸口を掴もうと会話を重ねた数だけ疑問が増殖し、馬車の中は窒素や酸素と同じ濃度の疑念で満たされた。
_1:20PM ヴォルテール公爵家 アデライドの部屋_
「あの…は…はじめまして、お医者様で…いらっしゃいますの?」
ビクビクと上目遣いで見上げてくるアデライドに、彼らは咄嗟に言葉を返せなかった。
彼女の部屋へ通される前に、数年分の記憶を失っているという説明は受けていた。だがよく知っていたはずの少女から初対面の挨拶をされるに至って、ようやくそれを現実感を持って受け止めたのだった。
「初めまして。私はペリーヌです。このおじさんが私の旦那様でお医者さんのベル君で、この子は私たちの娘のルゥちゃんです。よろしくね」
「あっ、あの、よろしく、お願いしま…」
最後の「す」という声は息づかいのように空中へと消えていった。人見知りの、臆病な子供そのものの反応に、妻からの“おじさん”呼ばわりとの合わせ技もあってベルナールはショックを隠せなかった。そんな夫を置き去りにしてペリーヌは話を続ける。
「アデライドちゃんは何歳なのかな?」
「あっ、わっ、わたくしは、いま、6歳…です…」
「そうなんだぁ、ちゃんとごあいさつ出来てえらいねぇ」
ニコニコと話を続けるペリーヌは、「アデライドの話し相手をして欲しい」とプルストに頼まれて今日ここに来ていたらしい。あのオッサンの過保護に助けられたなと考えていたベルナールは、不意にアデライドから声を掛けられた。
「あ、あの、お医者さま…」
「あ?なんだ?」
いつもの調子で答えたベルナールに、アデライドがビクリと震えた。黒い瞳に涙が溜まっていく。その様に驚いたベルナールの足をペリーヌが踏んづけた。
「どうしたの?大丈夫だよぉ」
アデライドとの距離を詰めて、ペリーヌはベルナールから気を逸らさせた。
「わたくし…お注射は…怖くって…」と、堪えきれずに涙をこぼすアデライドに、父親らしき人物の腕から逃れたルイーズが寄っていく。
「アディ!これ!おみあげ!」
そう言って伸ばしたルイーズの手が空を切る。心は6歳という自認になっているアデライドは、体は12歳になったばかりの少女で、ルイーズとの身長差は彼女の自認よりも遥かに大きい。
懸命に手を振るルイーズにアデライドが屈んでみせると、小さな手から小さな包みを渡された。手汗でしっとりとした包装紙の中には、粉々になったクッキーが入っていた。
「あのね、ルゥったらアデライドちゃんに渡すんだって言って、お家からずっとそれを持って離さなかったの…ごめんね」
申し訳なさそうにするペリーヌの横で、ルイーズは至極満足げにしている。「お家から…わたくしのために…」と、両手でクッキーを包みこんだアデライドが「あの…ありがとう」と破顔した。
その光景にホッとして息を漏らしたペリーヌは、隣の夫が「アデライド!」と急に大きな声を出したことにギョッとして、すぐにでも夫を制圧できるように身構えた。
「いいか!俺のことは!パパと呼べ!」
「コラッ、ベル君!やめなさい!ステイ!」
感極まって叫んだベルナールの声に驚いたアデライドが、もそもそとベッドの下に隠れようとするのをパメラが必死で止めている。
ペリーヌのコマンドが入ってようやく落ち着いたベルナールは、その後ルイーズやパメラの力も借りて、なんとかアデライドを診察した。
彼は「体には特に異常はない」という所見と、父を名乗る不審者としての印象を残して帰っていったのだった。
_1:30PM 再びとあるボロアパートの前_
「…そろそろいいかな?」
そっとドアを開けたフィリップ に、渋い顔をしたジャンが尋ねる。
「どうして殿下は…こんな…なんかたぶん酷いナァってことをするんですかぁ⤵︎?」
「それはね」と、前と同じノリで答えようとして、フィリップは思い直すように口を噤んだ後、再び開いた。
「俺は!あいつが!大っ嫌いだからだよ!」
「アッ、ソレが本音ですかぁ」
_1:40PM 何も知らないランベールの書斎_
「ワァッ…辛そう。え〜、こんなんなるのコレ?」
「わかっててアレを使ったんじゃなかったんですかぁ⤵︎?」
しばらく動けないまま頭痛に苦しめられていたランベールの、その危機的状況には見合わない呑気な声が、一人暮らしのはずの部屋に響いた。
「死にはしないよ、たぶん。だからいいかなって」
「いやぁ…よくはないでしょお⤵︎」
二人分の足音と聞き覚えのある声に、ランベールがゆるゆると顔を上げる。体に力が入らず、そんな動作ひとつにもひどく労力が掛かった。
「こんにちは!お邪魔してまぁす、ランベール先生。あ、勝手にあがっちゃだけど、お構いなくぅ」
黒髪の少年の嘲りを含んだような物言いが、頭に響いてランベールの気分をさらに降下させる。
「アッ、すみません!何か踏んでしまいましたぁ⤵︎」
「つか部屋散らかり過ぎぃ?どうなってんのこれ…ま、いっか。その辺座ろか」
ランベールが王都で借りているアパートメントの、書斎として使われているこの一室は、本と紙が所狭しと置かれている状態であった。
お世辞にも綺麗とは言えない部屋で慎重に床に置かれた物を避けながら、言葉通りにフィリップは雑然とした本の山の中から椅子を探し出すと、そこにも積み上がっていた本をどかして勝手にランベールと向き合うように座った。
「もう大丈夫なはずだよ。ジャンには影響ないみたいだし…多分だけど。話せるよね、セ・ン・セ・イ?」
にやぁっと笑ったフィリップに、なかなか言うことを聞かない上体をようやく起こしたランベールは「…何しに来た」と剣呑な声と目つきで答えた。
「すっごい簡単に言うとぉ、"人体の魔力、全部奪ってみた!"みたいなことを出来そうなモノが手に入ったから、試してみたんだぁ、センセイで。…そんなに睨まないでよ。何事も実際経験してみるのが一番かなぁって思っただけ。俺なりの、お・も・い・や・りって奴ね」
フィリップが左手を横にスライドさせながら強調した言葉に、室内の誰も共感していなかった。斜め後ろに控えたジャンなどは「酷いことしますよねぇ…⤵︎」と心底引いたという顔をしている。
「…魔力を、奪う?そんな事が…出来るのか?」
「あっ興味ある?だよねぇ。そうだと思ったんだぁ」
パッと微笑んだフィリップは、まだ気怠げに椅子にもたれ掛かっているランベールへ近づくと、手元のマグカップの中に何かを入れた。
「コレ、調べてみなよ。俺らが命懸けで盗ってきた貴重なモノなんだから、ありがた〜く受け取ってね」
カランと鳴ってカップに落ちたのは、表面の白く濁った青い石であった。カップの底で転がるそれをランベールは目で追う。
「ところでさ、ランベール先生は、今のアディには会ってないんだよね?」
「今の…?どういうことだ…お嬢様に、何をした」
ランベールの敵意をも含んだ言葉に、「何かしたのは俺じゃない」と、フィリップの声も低く落ちた。怒りを含んだ声音に、狭い部屋がたちまち緊張感で満ちる。
そのとき睨み合う両者の間を阻むように、控えていたジャンが前へ出た。ハッとしてバツが悪そうにジャンを見上げたフィリップの、再びランベールへと向けた顔にはいつもの人を食ったような笑みが戻っていた。
「俺は親切だから、機会を作ってやるよ。今のあんたの力で、今の彼女のために何ができるのか…。保護者は引きつけといてやるから、せいぜい考えることだ」
その言葉の真意を問い質せないままのランベールに、フィリップはさっさと背を向けるが、ふと思い直したように振り返った。
「あ、俺ね、あんたのことも監視してるから。…逃げるのは無しだぜ、センセイ?」
そう言って部屋を出ていくフィリップに「待ってくださいヨォ⤵︎」と、焦りながら付いて行こうとしたジャンもまた振り返る。
「申し訳ありませんロワイエ卿!すぐに迎えの人たちが来ると思いますから!」
頭痛とカップの中の石だけを残して、侵入者達は嵐のように立ち去ってしまった。
_2:00PM またも王都の路地裏_
狭い路地裏で朽ちかけた木箱の横をフィリップがすり抜けると、すぐ後ろから来たジャンがそれを飛び越えた。
「あっ!お前だけカッコいい避け方してズルい!」
「この道で本当に合ってるんですかぁ!?」
茶々を入れるフィリップを無視してジャンが問う。その間も二人はずっと走り続けており、スピードを緩めることもなかった。
「たぶん合ってるから!ショートカットしないと間に合わないし!急ぐぞ!」
「勘弁してくださいヨォ⤵︎!?」
_2:10PM またしても何も知らないランベールさん_
「うわ!どうしたの?顔色悪いよ?」
「どうしたもこうしたも…」
訪ねてきたモーリスを玄関で出迎えたランベールは、彼の後ろにいる二人に気が付いて思わず顔を顰めた。
「おやまぁ!季節の変わり目ですから、どうしても体調を崩しやすい頃合いですよね。ゆっくりとお休みになってくださいと申し上げたいところなのですが……少々お時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」
白々しいほど滑らかに話し出したクリストハルトを、ニコラは黙って見守っている。
「ああっ、大変申し遅れました。私、フィリップ殿下付きの…おや、覚えておいでですか?ありがとうございます。ロワイエ卿をヴォルテール公爵家までご案内するようにと、主人の命を受けて参りました。ご同行をお願い致します」
フィリップの名前が出る度に、あからさますぎるくらいにランベールの表情が歪む。「アイツここに寄り道したな」という共通認識には一旦蓋をして、ニコラは取り敢えず従兄弟を部屋から引っ張り出した。
_2:20PM 内弁慶の自室_
「わたくし、お姉さんなのですから、いっぱい頑張りますの…。そして、もう泣きません…ワッ!」
ルイーズに会ったすぐ後、アデライドは自室の真ん中でそんな宣言をしていた。単純で感化されやすい性質と持ち前の内弁慶が融和して、プスッという鼻息とともに決意表明として放出された。
こういうところはずっと変わってなかったんだなと、そう思いながらもパメラは「頑張ってくださいね」と言うに止めた。
「じゃあお嬢様!これからお勉強を再開できますね!いっぱい宿題が溜まってるんじゃないですか?!」
ノンデリ護衛による容赦ない事実の提示に、決意も虚しくアデライドの顔が早速歪んだ。
「どうしたんですか!?大きくて古い建物の屋根についてる像みたいな顔になってますね!?」
「ポールさん!お嬢様がはガーゴイルの像じゃないんですよ!雨が降るとあの像の口から水が出て来ますけど、”雨どいの代わりになって便利だなぁ、お嬢様“なんて思うことはないですから!」
涙腺の決壊を防ぐためにプルプルと震えるアデライドのそばで始まった戦いは、ノンデリの波動となってアデライドの涙を危険水域まで増加させていた。
_2:40PM 王都のどこかの路地裏で_
「…迷っちゃったぁ⭐︎」
「ホラァァ!何やってるんですかぁ?!」
すっかり方向を見失ったらしいフィリップが、立ち止まって白状していた。
「でも大丈夫!まだ間に合うよ!裏口から入れてもらってさ、いかにも"ずっと待ってましたヨ"って顔すれば問題ナシ!」
「勘弁してくださいヨォ…」
土地勘の無い他国人と、いまだに“おのぼりさん”という個性を捨てていない田舎人の、行く先が見えない戦いは、厳しい時間制限付きで続いていた。




