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英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第12話 囚われの魔王様
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2.魔王様の評判は?

 授業を全て終えて放課後となり、ヒーロー研究部の面々はいつも通りに校外へ。

 普段通りなら町のパトロールを、困っている人を見かければ手助けをし、装具に操られた者と遭遇すれば戦うのだが、本日からはそれらに人探しが加わる。

 捜索対象は沢乃屋にて住み込みで下働きをしていた遠藤という男。

 本人はグエンドヴェルク・ディアブロイア7世と名乗りもしたが、遠藤という名で聞き込みをする。


「それにしても良く描けているわね。ちゃんと特徴をとらえているし」

「いえ、それほどでもありませんよ」


 真帆の手にあるのは遠藤の似顔絵で、それは雉岡が描いた物である。

 写真が一つも無いという事で雉岡が記憶だけを頼りに描いた物なのだが、その絵は桃子が見ていたくないからと突き返す程の出来栄えであった。


「それじゃ、何か分かったり、もしもの時は……」

「ええ、必ず連絡するわ。海人も一人で突っ走らないようにね」

「あ、ああ。……分かっているさ」

「……。アーシャちゃん、海人の事を頼んだわ」

「は、はい……! 任されました」

「お、俺はそんなに信用無いのか!?」


 言うまでもないことだと真帆に目線で訴えられ、海人はぐっと反論の言葉を飲み込む。

 これ以上何か言われたくないのか、それとも名誉を挽回するためにか。

 海人は気合を入れるようにして声を上げて、桃子とアレイシヤと共に去って行った。

 残された真帆はというと、小さくなる背中に盛大な溜息を吐いている。


「おい占部。これで良かったのか?」


 そう問い掛けてきたのは猿渡である。

 パトロール兼人探しは二つのグループに分けてで、海人は桃子とアレイシヤと一緒に、真帆は猿渡達三人組と組むことになった。

 桃子にとっては都合の良い分け方で、真帆にとっては不満の残るような分け方。

 それを提案したのは他でもない真帆であった。


「これで良いのよ。今の桃子は海人無しじゃ駄目だろうし、アーシャちゃんがしっかりしているから海人を任せられるし」

「それはまぁそうかもだけどな、まーたお前だけ損な役回りじゃないのか?」

「そうでもないわ。海人が居なければ何時ものお人好しのお節介に巻き込まれることは無いし、あの状態の桃子が居なければ捜索が捗るわ」

「あー……、成程な……」


 毎日と言って良い程に口喧嘩をしている真帆と桃子。

 真帆は海人にベタベタしていたりちょっかいをかけてくる桃子に苛立ちはするが、心底憎んではいない。

 ここの所は桃子があの調子であるせいで口喧嘩が無くなっており、真帆としては心穏やかに居られるのだが、どうにも調子が狂うようで元通りの桃子に戻って欲しいようだ。

 張り切る真帆の姿に色々と察しがついた猿渡達三人組。

 猿渡は珍しく余計なひと言を発さず、自分達も力になると言って捜索を開始した。






 真帆達と別れた海人達は桃子の実家である沢乃屋の周辺から商店街を中心に聞き込みを始めた。

 日頃足りない食材を買い出しに行っていたからか、商店街の会合に積極的に参加していたからか。

 商店街の者達は遠藤の事をよく知っているようで、特徴等の説明は省略できた。


「え? あの若いのが居なくなったのかい!?」

「そういえば最近見かけなかったが……」

「妙な事ばかり言っていてよく分からない子だったけど、居なくなると寂しい物ね」


 尋ねた先々での声。

 それらは好意的なものばかりで、悪い噂は一つも無かった。

 皆は居なくなった遠藤の事を心配しているようで、見かけたら連絡すると約束もしてくれた。


「……やっぱり、遠藤さんって悪い人じゃ無さそうだな」

「そう、ですね……。商店街の皆さんからは親しみが感じられました」

「……」


 遠藤の人となりを知り、改めて人の良さを実感した海人とアレイシヤ。

 二人の会話も商店街の人々の声も桃子に届いている筈なのだが、彼女はだんまりを貫いて不機嫌そうな面でいる。

 いくら遠藤が善人だと証明されても桃子の気持ちは晴れないようで、そんな彼女に対し海人とアレイシヤは困ったように顔を見合わせていた。






 端から順に商店街を回り、半ばを過ぎた頃。

 夏場とあって陽はまだ暮れていないが時刻は切り上げなくてはならない時間で。

 海人達は真帆達と合流し、互いに報告を済ませる。

 途中何の連絡も入ってこなかった事から予測はされていたが、真帆達も手掛かりは見つけられなかったようだ。

 ただ彼女達も海人達と同様に、七夕祭りの日以前の遠藤の様子をいくつか聞いたようで、やはりどこでも妙な言動をしていたが危害を加えるような真似はせず、女性に対しては紳士的な振る舞いをしていたそうだ。


「それにしても静かね。桃子はともかくあの二人が居ないなんて……」


 パトロール兼捜索を終えて帰宅した海人達。

 夕食に呟いたのは真帆で、彼女の言う通りここには喧しい者の、アウグストの姿が無い。

 食卓に着いているのは海人とアレイシヤと真帆と重蔵で、ガイラルドの姿も見えなかった。

 ここの所留守にしがちなアウグストとガイラルド。

 重蔵の話によると飲み歩くアウグストの面倒をガイラルドが見ているそうだが、外出は朝早くから夜遅くまでと不規則であった。


「まぁ、酔っ払いに絡まれないのは良い事だわ」

「マ、マホさん……?」

「アーシャちゃんだって、アウグストさんの酒癖の悪さにはウンザリとしているでしょう?」

「そ、それは……、ええっと……」


 アウグストは普段から思うがままに言葉を発する。

 そして酔った場合は特に遠慮が無くなり、人の身体的特徴についてずけずけと意見を述べるのであった。

 アレイシヤの場合は背丈が足りないという事で、当人はあまり気にしていないのだが、問題は真帆に対しての事である。

 彼女は一番気にしている事を、胸部について指摘され、更には桃子と比べられて。

 大きくするために栄養を取れと余計なお節介を焼かれて、真帆はその事を根に持っているようだ。

 当人は不在だが思い出して腹が立ったのか。

 真帆は眉間に皺を寄せて黙々と夕食をとっており、そんな彼女にどう声を掛けて良いか分からない者達もまた、黙々と箸を進めた。

 微妙な空気の夕食を終えて、真帆が後片付けを終えて帰宅して。

 風呂等も済ませて就寝の時間となった頃、海人はアレイシヤに呼び止められて縁側に腰を下ろしていた。


「えっと、お休みになる前にすみません……」

「いや、別に構わないけど。何かあったのか?」


 深刻な表情をしているアレイシヤは言うべきかまだ迷っている素振りを見せている。

 真帆が居なくなってから、二人きりになってから話を切り出すならば相当に込み入った事情なのだろう。

 海人は急かす事無くアレイシヤが口を開くのを待った。


「あの、……これからお話しする事はあくまで予測、ですので……」

「あ、ああ……。分かった。ここだけの話にしておいた方が良いんだよな」

「は、はい……。今はまだ、確証が得られていませんので、カイトさんだけに話しておきたいのです」


 迷いが滲んだ瞳を真っ直ぐと見据えて、海人は深く頷いた。

 彼の真摯な態度に覚悟ができたのか。

 アレイシヤは秘めていた事を少しずつ、順を追って打ち明ける。

 その内容は驚かざるを得ない内容であって、これから先の海人達の進む道に大きく関わる事であった。






 海人達が手分けして失踪した遠藤の足取りを追っている中。

 当人はというと、牢獄の中で悠々自適な生活を送っていた。


「……フム。今日は少しばかり味が薄い気が。……成程、これが精進料理というものなのか……!」


 優雅な所作で夕食を口にする遠藤ことグエンドヴェルク。

 整った顔立ちに引き締まった身体つき。それに加えて高身長。

 その姿だけならば高級ディナーを楽しむ美男子に、彼の周りは輝いて見えるのだが、ここは牢獄で彼が食すのは監獄食である。

 臭い飯、とまではいかないが、質素な食事を残さず受け入れる囚人。

 暴れることは無く模範囚のようであるが、尋問の時間になれば彼は本性を表す。

 今日も今日とて彼に振り回された者の嘆きの声が地下牢に響いた。


「今の叫び声は……、地下牢から!?」

「レヂディーノ。ここは私が様子を確認してきます」

「いいえ、私も一緒に――――」


 屋敷に居たレヂディーノとグラヴィストがそのようなやり取りをした後に地下牢へと向かい掛けた瞬間。

 扉が勢いよく開かれて、一人の人物が転がるように飛び込んで来た。


「ソルチスト……! 一体何があった!?」

「あ……、あの人が……っ」

「奴が何かしたのか!?」


 交代で行われている尋問。

 今はソルチストの番で、つい先程彼女は地下牢に向かったばかりであった。

 大慌てで戻ってきた彼女は肩で息をしており、何があったのかを上手く言葉に出来ない位に動揺している。

 これまで大人しかった囚人がついに牙を剥いたのかと考え、グラヴィストはすぐさま地下牢へと向かおうとしたが、彼はへたり込んでいるソルチストに袖を掴まれて引き留められてしまった。


「ち、違うんです……っ。その……、あの人の格好が……、何と言うのか……」


 少しは落ち着いたようで、彼女は焦るグラヴィストをこの場に留めたのだが、理由は話し辛いようだ。

 もごもごと口ごもるソルチスト。

 煮え切らない態度に腹を立てたグラヴィストは声のトーンを落とし、ハッキリと報告をしろと脅しにかかった。


「わ、私の口からでは……。だ、だったらその目で確かめに行って下さい。あ! レヂディーノはここに残って下さい! 絶対に行かないで下さい、お願いします……!」


 ソルチストに懇願されてレヂディーノはそのまま屋敷に。

 グラヴィストは一人で地下牢へと向かったが、囚われている者の姿を見てソルチストが逃げ出した理由を瞬時に察した。

 牢の中で囚人が倒れている訳ではない。

 暴れて手が付けられない訳でもなく、囚人は大人しく椅子に座っている。

 ただし彼は何も身に着けない姿で、全裸で椅子に座っていたのだ。


「……おや、先程の初心な娘はどうしたのだ?」

「…………どういうつもりだ!? その格好は……っ!!」

「どうもこうも、シャワーを浴びた後で身体を乾かしていたのだが? 何か文句でもあるのか?」

「タオルを使え! それ以前に前を隠せ!!」


 上半身だけならともかく、下半身までも露出して女性に見せつけるのはセクハラ以外の何物でもない。

 尋問に応じないだけならともかく、このような真似をされて怒りを覚えずにはいられないのだろう。

 あからさまな敵意を向けられても、強く誹られても全く動じる様子の無いグエンドヴェルク。

 彼の涼しい顔に対し、グラヴィストは仮面越しに睨みつけて忌々しいと舌打ちをする。

 けれども結局の所、苛立ちはすれど手を出す訳にはいかず、グラヴィストは拳を強く握りしめて地下牢を後にした。


「……やはりあの者を我々だけでどうにかするなど、無理な話ではないでしょうか」


 地下牢から屋敷へと戻って来たグラヴィストは何があったのか詳細を伏せつつ進言する。

 彼の言葉だけでなく、グエンドヴェルクに振り回された者は多く、その者達の報告というよりも苦情を受けてはいる。

 レヂディーノは皆の言葉を無視する訳ではないと前置きをして、結局の所尋問を続けるしかないと判断を下す。


「ソルチスト、グラヴィスト。今日はここまでで先に休みなさい。後は私が――――」

「いや、それだけはダメです……っ!!」

「そうです。ここは私が……! 貴女にあのような輩を相手にさせる訳には――――」


 レヂディーノ達がグエンドヴェルクに翻弄される日々は続く。

 彼の傍若無人な振る舞いは終わる事無く、日々酷くなる一方で。

 心労を重ねたレヂディーノ達に更なる災難が振りかかった。

 その晩、尋問係の順番だったグラヴィストとソルチストは、新たに設置した監視カメラでグエンドヴェルクが食事とシャワーを済ませたのを確認してから地下牢へと向かった。


「……ね、寝ているようですね」

「……」


 つい先程の監視カメラの映像では起きている姿が見られたが、今ではベッドに身を横たえている。

 眠っているのなら尋問は無しなると、ソルチストはホッと胸を撫で下ろすが、グラヴィストは諦めていないようだ。

 彼は苛立ちを隠さず舌打ちをして、鉄格子に手をかけて怒鳴った。


「おい、起きろ。尋問の時間だ!」

「グ、グラヴィスト……! 眠っているのなら今日の所は無しという事で……」

「いいや、これ以上こんな奴に振り回される訳にはいかない。今日こそ吐き出して貰うぞ」


 積もり積もった苛立ちと、レヂディーノへの忠誠心からか。

 グラヴィストはやる気になっているようだが、対する者は全く応じない。

 グエンドヴェルクは顔を背けたまま、身を起こす事も無く無視を決め込んでいた。


「……寝たふりは止めろ、起きているのだろう? 返事くらいしたらどうだ」


 鉄格子をガタガタと揺らして怒鳴り散らしたのだから目が覚めて当然である。

 けれどもグエンドヴェルクは横たわったままピクリとも動かず返事をしない。

 はぐらかしに全裸などあらゆる対応を受けてきたが、今回は完全に無視を決め込んできたようだ。

 諦めが早いソルチストはここまでにしようと言って声を掛けるが、グラヴィストは何かに気が付いたようでハッとして声を上げた。


「いや、様子がおかしい……」

「グ、グラヴィスト!? 何を――――」


 鍵を取り出したグラヴィストはソルチストの静止の呼びかけを無視して牢の中へ。

 ズカズカと歩いてベッドへと近づき、未だ目覚める気配のない者へと手を伸ばした。


「おい、貴様。いい加減に――――……っ!?」

「な……っ!? 何ですか!? これ……――――」


 目を閉じたままのグエンドヴェルクの肩に触れようとしたが、それは空を掴むようにして何も掴めなかった。

 正確に言えば触れた瞬間、それは弾けて水溜りへと変わってしまったのだ。

 こうして囚われの魔王は身代わりを残して行方をくらませた。




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