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英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第10話 彷徨える見習い鍛冶師
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10.探し求めていたものは意外な所に

 黒い鞘に納められた一振りの太刀。

 それを手にした海人は人が変わったかのような立ち回りを披露し、一人、また一人と襲い掛かってくる者達を倒していった。

 鮮やかな剣捌きに敵達は翻弄されていたが、行く末を見守っていたアレイシヤも海人の剣技に視線を奪われていた。


「……凄い。カイトさんがここまで剣の扱いに慣れているなんて……」

「え? アーシャちゃん、知らなかったの?」

「ええっと、はい……。いつもは素手で戦っていたので……」

「いつも……?」

「あ……っ! その、いつもというのは……」


 茫然としていたが為にうっかりと口を滑らせてしまったアレイシヤ。

 彼女はまたしても美琴からの追及を逃れられない状況に陥りかけたが、それは建雄によって阻止された。

 腕を組んでいる建雄は不機嫌そうな面のままフンと鼻を鳴らし、大したことは無いと言ってのけた。


「あの程度の立ち回りなど、ワシがもう十年くらい若ければ――――」

「はいはい、お爺ちゃんの凄さは十分に知っているから……。少し黙っていてね」

「何を言う! まぁそれよりもだ。美琴も小さい嬢ちゃんも手を貸せ」

「……? 何をしようっていうの? まさか、自分も負けていられないとか言って、戦う気じゃ――――」

「馬鹿を言うな。いくらあの小僧と言えども、このまま戦い続ける訳にはいかんじゃろうが!」


 そう言うや否や、建雄は五人いた敵の最後の一人が倒れるのを見計らい、海人の傍へと近づく。

 彼の目的は倒れた者達を再び起き上がらせないようにする為であって、既に立ち上がりかけていた男子学生二人の頭を掴み、地に伏せさせてから圧し掛かって身動きを封じた。


「美琴と小さい嬢ちゃんはそこの嬢ちゃん達を抑え込め! 小僧は今さっき倒した奴をだ!」

「は、はい! カイトさん……っ!」

「ああ、こっちは任せてくれ!」


 抵抗はあったものの、海人達は何とか抑え込み、順に装具を破壊して操られていた者達を解放した。

 装具の呪縛から解き放たれた漫研部員達は先程までの凶行が嘘であったかのように大人しくなった……というよりも気を失っているようである。

 彼らをこのまま放っておく訳にもいかないという事で、海人と建雄は協力して漫研部員達を母屋の客間へと運び込み、寝かせておいた。


「……大きな怪我は負っていないようですし、小さな打ち身も治療しておきましたので、傷は残らないと思います」

「お疲れ、アーシャ。術を使いっぱなしだったが、アーシャは大丈夫なのか?」

「はい、私は何とも。怪我の箇所も深さもそれ程ではなかったので、消耗した精神力も大きくありませんでしたし……。それよりもカイトさんは何処かに怪我を負っていませんか?」

「ああ、俺も平気だよ……って、アーシャ?!」


 上手く避けきっていたようだが、武器を手にする五人相手に全ての攻撃をかわす事は困難であったのだろう。

 制服である半袖のYシャツの脇腹部分には切り裂かれた跡があり、アレイシヤは近づいてその部分をまじまじと見て傷の有無を確認している。

 Yシャツの裂けた部分から覗いているのは青色のインナーであって、結局のところ傷口は見つからなかったのだが、アレイシヤはまだ不安が拭えないようで、Yシャツとインナーに手を掛けようとした。


「……見える所にはありませんが、もしかしたらこの下に……」

「いやいや、本当に大丈夫だって! 当人が言っているんだから――――」

「いいえ! カイトさんは何時も自分の身が傷つく事を厭わないのですから、その点ではカイトさんの言葉が信用できません……!」


 珍しく強く出るアレイシヤに気圧されてしまった海人。

 身を案じての事だと分かっているものの、ここは自宅でなくよその家であって、衣服を剥ぎ取り全てを曝け出すような真似は遠慮したい所である。

 どうにか抵抗をしていた海人だが、その足掻きは程なくして終わる。


「あの、二人とも。仲良くしている所で悪いんだけどさ」

「か、金屋……! これはそう言う訳じゃ――――」


 海人は慌てて釈明しようとするが、どうやらその必要は無いようで。

 美琴には海人とアレイシヤの仲よりも気に掛かる事があるようで、海人の弁明を遮って質問を投げかけた。


「もしかして竜堂君って悪の組織と戦っているの?」


 その予想もしなかった問いに海人はガクッと肩を落として脱力した。






 客間は気を失っている漫研部員達に占領されている為、海人達は居間へと通された。

 一枚木の長机の片側には難しい表情の美琴と腕を組んだ建雄が座っており、反対側には海人とアレイシヤが背筋を伸ばして正座をしている。

 ここまでくればもう隠す必要もないだろうという事で、更には妙な誤解を解きたくもあり、海人とアレイシヤは問い詰められる前に美琴達に全てを打ち明けた。


「……異世界、……魔道装具(ソルチキラーソ)。そんな事があるなんて……」


 美琴がそう呟くのも致し方ない。

 彼女にとっては異世界や魔法を使える武具よりも、悪の組織と戦う方に現実味があるようだ。

 この様子では説明にまだ時間を有するか、説明する者を変えなくてはならないかと海人は考えていたのだが、そこまで至ることは無かった。

 それは目の前で装具を扱う者達を目撃したというのもあるが、美琴と共に話を聞いていた者によって事態は思わぬ方向へと転がったからである。

 まだ確証は得られていない美琴はふと隣に居る建雄の様子が気に掛かり、怪訝そうな顔で問い掛けた。


「……お爺ちゃん、海人君の話を聞いていたの?」

「ああ、ちゃんと聞いておるわい」

「えぇ!? だったら何で驚かないの。魔法に異世界だよ!? まさかもう信じているとか、そんな事は――――」

「信じるも何も、ワシにとっては今更の事じゃしな」

「「は……?」」


 海人と美琴の間の抜けた聞き返す声は見事に被り、建雄は眉間の皺を深くする。

 どうやら海人とアレイシヤだけでなく、建雄には身内にも明かしていない秘密があるようで、それは海人達に深く関わる事であって。

 ここに来て話す時だと思ったようで、建雄は過去にあった話を海人達に明かした。


「もう二十年くらい前になるか……。突然あのスカシ野郎が連絡を寄越してきて、炉を一つこさえたいと言い出してな……」


 遡る事20年程前。

 海人の祖父である重蔵は鍛冶師である建雄に炉を作りたいと頼みに来たらしく、そこには海人の父と母である譲司とマルリースの姿もあったそうだ。

 終生のライバルだと思っていた相手がいきなり訪ねてきて、深く頭を下げてきて。

 それが炉を作る為というのは普通ならば考えられない話であって、事情を包み隠さず話すというのを条件に建雄は協力に応じたそうだ。

 妙な縁に海人は納得しつつ、まだ隠していることがあったと分かり元凶であろう譲司を恨みつつ、腑に落ちたとため息混じりに言った。


「それで異世界の事も魔道装具(ソルチキラーソ)の事も知っていたんですね……」

「ああ、そうじゃ。それにしても小僧、あのスカシ野郎にもその倅のクソ坊主からも話を聞いていなかったようじゃな」

「は、はぁ……。まぁ、そういう事です」


 肩を落とす海人に対し、建雄は憐れみの目を向けている。

 どうやら譲司の事をクソ坊主と言い放つ辺り、建雄も譲司には手を焼いたように窺えるが、これ以上自分の父親の残念な姿を知りたくないようで、海人はその問いをそっと胸に仕舞った。

 海人が父親の事で呆れている一方、隣に座るアレイシヤは何かに気が付いたようで、恐る恐る建雄に問い掛けた。


「あの……、その、ジュウゾウ様が頼まれたという炉は一体何処にあるのですか?」

「……!」


 父親の事に意識を囚われていた海人は、アレイシヤの問いによって重大な事実に気が付く。

 そもそも海人達は魔高炉を探していたのであって、その過程で金屋の実家が鍛冶屋であることを知り、アレイシヤが強く興味を持った為に訪ねてきたのだ。

 それがここにきてその探し求めていた物の手掛かりが掴めそうだと分かり、アレイシヤと海人は身を乗り出し気味になって建雄の話に食いついた。

 二人から期待の眼差しを向けられた建雄は目を丸くして驚くが、やがて深い溜息と共に肩を落とす。

 その様子は悪い知らせの前触れかと思い、海人とアレイシヤは落胆しかけるが、どうやらその必要もないようだ。


「……お前さん達は本当に何も聞かされていなかったようじゃな」

「それはどういう――――」

「炉ならあのスカシ野郎の家に設置した」

「「…………え?」」


 これが『灯台下暗し』と言うものなのだろうか。

 建雄曰く、炉は竜堂家に在るそうだ。

 場所も分かり、本来なら喜ぶところである筈だが、海人とアレイシヤの反応は芳しいものでない。

 アレイシヤは問うようにして海人に視線を投げかけるが、彼は心当たりが無いと言って首を横に振る。

二人がそういった反応を見せたのは当然と言えば当然で。

 生まれた時から今まで暮らしてきた海人ですらその存在を知らないのだが、そもそもそれらしいものは竜堂家に見当たらないのであった。


「……もしかすると取り壊したのか? いや、そんな筈は――――……まぁ、詳しくは家に帰ってあのスカシ野郎に訊ねてみると良いじゃろう」


 建雄は詳しく話を聞きたいといった海人達を遮るようにして話を切り上げた。

 その理由は彼の視線の先に。

 開かれた襖から顔を覗かせた者達に状況を説明しなくてはならないからであった。






 意識が回復した漫研部員達は皆、狐につままれたような表情をしていたが、何が起きたのかを説明した所、そんな事は信じられないと言って懐疑的な態度を示した。

 そう在るべき反応を前にして妙に落ち着く海人とアレイシヤは、本日二度目となる海人達の事情説明をする事に。

 そこでまたしてもあり得ないと言われるが、アレイシヤが魔道装具(ソルチ・キラーソ)を手にすると、信じざるを得ないようであった。


「じ、自分達がこれを……」

「どどど、どうすれば……っ」


 状況説明の為に移動した先は悲惨な有様の店舗で、その光景を前にして漫研部員達は呆然と立ち尽くすしかなかった。

 自分達の意思ではなく操られていたとは言え、押し掛けようとしていたのは事実である。

 漫研部員達は誰一人責任逃れはせずに頭を下げて謝罪をして、皆で弁償すると言った。


「で、でも、ガラスって結構値が張るのよ。大丈夫なの? 君達」

「懐事情的には痛い所ですが、全く無いと言う訳でもありませんので……」


 学生には厳しい金額になると思われたが、漫研部員達にはそれぞれ多少なりとも稼ぎがあるらしい。

 そして彼らは今現在高額賞金の出る漫画の賞を狙っているらしく、それが駄目でも時間が掛かっても返済したいと言って譲らなかった。


「お爺ちゃん……、どうするの?」


 全ての判断はこの店の店主でもある建雄に委ねられる。

 美琴は不安そうな視線を向け、海人とアレイシヤは緊迫した空気にゴクリと息を呑み、漫研部員達は下される判断を緊張した面持ちで待つ。

 暫しの沈黙の後、辺りに響いたのは大きな溜息であって。

 建雄は無言のまま背を向けて工房へと向かったと思えば、程なくしてある物を手にして戻って来て、それらを漫研部員達に手渡した。


「……一先ずここを片付ける。お前達も手伝え」


 建雄から箒や塵取りを受け取った漫研部員達は大きな声で返事を返し、建雄と美琴の指示に従って掃除に取り掛かる。

 海人とアレイシヤは竜堂家に在るという炉の事が気掛かりでもあるが、皆が掃除をする様子をただ見ているだけなど出来る筈もなく、結局二人も手伝う事に。

 皆で掃除をする事となり、終わる頃にはとっぷりと日が暮れていた。






 皆で協力して掃除を終わらせて、漫研部員達と建雄との話が一応纏まり。

 炉がある場所を詳しく教えて貰い、海人とアレイシヤは改めて今回の一件の謝罪と有益な情報の礼を述べて金屋家を後にした。

 逸る気持ちを抑えつつ、急ぎ足で帰宅した二人を待ち構えていたのは呆れた顔の真帆であった。


「連絡したのに、全然出ないんだから……。何のための携帯電話なのか――――って、海人……っ! その制服、どうしたのよ!?」 


 どうやら真帆は一足先に炉の在処を知ったらしく、海人の携帯電話に連絡を入れていたようだ。

 だがそれはちょうど海人が戦っている時であって、携帯電話は鞄の中に在って。

 鞄は美琴の私室に置かれていて、その後は着信を確認する機会も余裕もなく、ここに至ったのであった。

 真帆には説明しなくてはならない事があるのだが、それよりも先にと言って海人とアレイシヤは居間に向かう。

 そこに居るのは重蔵とアウグストとガイラルドで、座布団に腰を下ろして茶をすすっていたアウグストは海人達の姿を見るなり土産の饅頭を手にして土産話を披露しようとするが、それはガイラルドによって制されてしまった。


「爺ちゃん、聞きたい事があるんだ」

「ああ、皆まで言わずとも分かっておる」


 重蔵は海人の問いを聞き届けぬまま腰を上げる。

 そして彼は箪笥の小引き出しから一つの鍵を取り出すと、後を付いて来るようにと言って裏庭へと回った。




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