表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第10話 彷徨える見習い鍛冶師
80/213

5.魔高炉と金床

 竜堂家で立ち入りを禁じられていた蔵の中で見つけた設計図。

 かつて異世界を救った勇者が手にしていた武器や、身に着けていた鎧を作り出した伝説の鍛冶師。

 その者が残した設計図はアレイシヤにとってこれ以上無い程に希少な物なのだろう。

 見つけ出せた喜びから、手にする事が叶った嬉しさから、設計図を持つ彼女の手はいまだに震えており、記された内容に目が離せないようで、周りの声も届いていないようだ。


「――――……シャ、……アーシャ?」

「あ……っ! は、はい! すみません……、カイトさん。その……、すっかりと入り込んでしまっていて……」


 海人の呼びかけにハッとするアレイシヤ。

 我に返った彼女は設計図を見るのに没頭していた事を恥じ、返事をしなかった事を謝罪するが、海人は首を横に振って笑顔を見せた。


「これで鎧の修復に一歩近づいたな」

「は、はい……!」


 自分の腕でどうにかなるのか、まだ不安が残るアレイシヤ。

 それでも皆で力を合わせて探し出した設計図を手にし、もう泣き言は言えないと決心がついたのだろう。

 設計図を手にした彼女は真っ直ぐな瞳を向け、深く頷いて見せる。


「あとは魔高炉と金床ですね……。ガイラルド様が吉報を持ち帰って下さると良いのですが……」


 一先ず今の海人達に出来る事は終わった。

 設計図は見つかり、これで良かったと探索を切り上げる所なのだが、この展開に納得がいかない者達が居る様だ。


「そんなぁ~! 私が女王様になる予定だったのにぃ~!!」

「クソ……っ! せっかくのチャンスを……っ」


 探していた物が見つかって喜ぶよりも、見つけ出した者が得られる権利を惜しんでいる者が二人。

 桃子はガクッと肩を落として項垂れ、猿渡は涙を流しながら床を叩いている。

 二人の様子に呆れる所であるが、もう一人、桃子達と同じように勝負に命を懸けていた者が居て、その者は違った反応を見せていた。


「ア、アーシャ様! この私めに何なりとご命令を……っ! 不肖、この雉岡三邦、アーシャ様の願いとならば何でもこなす所存でございますっっ!」


 素早い動きでアレイシヤに近づき、跪いて命令をと申し出る雉岡。

 彼の言う通り設計図を見つけたのはアレイシヤで、彼女は王の座を手に入れ、何でも命令できる権利を得た。

 けれども当人にその気は全くなく、雉岡の異様な反応にも困惑している。

 どうやら雉岡にとってはアレイシヤから命令される事がご褒美になっているようだが、アレイシヤは彼や桃子や猿渡とは違って煩悩にまみれていない。

 困り果てた彼女が助けを求めたのは傍に居た海人だが、彼は彼で何でもいいからといってますますアレイシヤを悩ませるだけであった。


「え、えっと……。私には願いなど……――――」


 アレイシヤは勝者の権利を放棄しようとするが、雉岡の絶望した表情を見せつけられて口ごもる。

 彼女が次に助けを求めたのは真帆で、視線に気づいた真帆は助け舟を出した。


「願い事が決まらないなら、明日の晩御飯をアーシャちゃんの好物にするっていうのはどうかしら?」

「そ、それです! それでお願いします……!」


 真帆の提案にアレイシヤはすぐさま乗っかる。

 アレイシヤはこの願いなら皆を困らせる事では無いと、内心真帆に感謝していたが、特に面白みのない願い事に雉岡は落胆しているようだ。

 彼は異議ありと言い出しそうであったが、そこは真帆が睨みを利かせる事で抑えられた。






 どうにか日没までに設計図を見つけ出せた海人達。

 後は魔高炉と金床のある場所を確保すればよいのだが、それらに心当たりがあるというガイラルドは吉報を持ち帰れなかった。


「……力になれず、すまない」

「そ、そんな……っ! お顔を上げて下さい、ガイラルド様」


 両膝に手を付いて頭を下げるガイラルドに対し、アレイシヤは慌てふためく。

 海人や真帆と違い、アレイシヤはこうなる事が予測できていたようで、彼女は特に落胆もせず、ガイラルドに致し方ない事だと言った。


「この世界には魔導装具(ソルチ・キラーソ)が無いのですから、魔高炉も金床も、こちらの世界には無いのが当たり前ですし……」

「なぁ、アーシャ。その魔高炉と金床自体を作る事は出来ないのか?」

「そ、それは……、無理かと……。素材も無いので……」

「……海人。そもそも農業や建築が出来るアイドルじゃあるまいし、そんな物を私達で簡単に造れるわけ無いでしょう?」

「そ、それもそうだな……」


 結局その日はそこまでで。

 ガイラルドは後一つ当てがあるがそれを確かめるには少しばかり時間が掛かると言い、海人達は翌日ヒーロー研究部の者達にその旨を報告した。


「魔高炉と金床……。こっちの世界には無い……かぁ」


 現在はお昼休み。

 海人達は昼食後に部室で顔を突き合わせ、これからどうするかを話し合っている。

 状況は芳しくないせいか、空気は重く、普段難しい顔をしない桃子ですら腕を組んで唸っている。


「ねぇ。あの白仮面の人達は? あの人達も魔導装具(ソルチ・キラーソ)を使っているんでしょう? だったら壊れた時に直す手段もあるんじゃ――――」


 桃子は名案だと言わんばかりに提案するが、それは難しい話である。

 海人達の前に度々現れた白い仮面を身に着け黒衣を纏った者達。

 グラヴィストは装具を身に着けず素手で戦っていたが、レヂディーノは杖を手にし、転移の術を行使していた。

 桃子の言う通り、レヂディーノは装具を手にしているようだが、彼女達と接触するのは困難を極める。


「レヂディーノ達は何時現れるか分からない。これまでは俺達が敵と戦っている時に現れる事が多かったけど、ここの所は全然だ」


 体育祭で亮平が装具に意識を奪われて暴走した時。ヴァルトハインが真帆を攫い、勝負を持ち掛けてきた時。桃子に一方的な思いを寄せた男子学生が襲い掛かってきた時。

 ここ最近の襲撃にレジディーノ達は姿を現さなかったのである。

 そのように神出鬼没であって、目的も知れない者達を頼れるかと言うと頷き難く、そもそも聞き入れてすら貰えないだろうと、海人は肩を落として言った。


「レヂディーノ達にとって、俺達は邪魔者のようだしな……。特にあのグラヴィストって男は俺に対しての当たりが強いし……」


 桃子の提案は海人が自己嫌悪に陥るというあらぬ方向へ転がり、桃子は慌てて前言を撤回する。

 場の空気は更に沈み、皆の表情は深刻さが増すばかりで。

 このままでは予鈴が鳴り、強制的に午後の授業に切り替えざるを得ないだろうと思われていたが、雉岡が何かを思い出したようで、彼はアレイシヤに問い掛けてきた。


「こちらの世界の高炉と金床を代用は出来ないのでしょうか?」

「それは……、こちらの世界の実物を見ていないので判断しかねますが、代用できる確率は低いかと……」


 シュトラルヴェルトの鍛冶技術では、こちらの世界には無い魔術式が組み込まれている。

 普通の高炉と金床では魔導装具(ソルチ・キラーソ)を修復どころか作り出す事も出来ないように思われるが、普通の高炉と金床に術式を組み込めば何とかなる場合もあるらしい。

 皆はそれを聞いて希望を見出し強張った表情を和らげたが、アレイシヤは一人、難しい顔をしたままである。


「……残念ながら、魔高炉と金床を修復する技術を私は持っていません」


 それは駆け出しの鍛冶師がどうにかできるような技術では無いと、鍛冶師達の中でもその技術を身に着けるのは難しいらしく、一部の職人だけが習得しているそうだ。

 皆の役に立てないと、力不足を申し訳なく思っているアレイシヤは俯いてしまい、謝罪の言葉を口にする。

 無論、ここに居る者達は誰一人としてアレイシヤを責める事はない。

 落ち込んだ彼女を元気づけようとして、真帆は気に病む事はないと声を掛けた。


「そもそも高炉と金床を見つけるのですら難しいのよ。こちらの世界では鍛冶屋自体が珍しいのだから、そう簡単に――――」

「いいえ。鍛冶屋ならありますよ」

「えっ!?」


 雉岡の言葉に真帆は驚き声を上げたが、すぐさま冷静になって確認を取る。

 彼女は鍛冶屋があるのはここから遠くの場所であってこの近くには無いと考えていたのだが、雉岡の話によるとさほど遠くない場所にあるそうだ。


「本当に? 隣町……、葉薊町に鍛冶屋があるの?」

「ええ、まぁ……。観光客が訪れるような場所ではありませんが」


 そこは鍛冶屋が軒を連ねている名所ではなく、ポツンとだが一軒だけ鍛冶屋があるようで、今でも細々とだが営み続けているそうだ。

 雉岡の情報に真帆だけでなく、他の者も驚いているようで、特にアレイシヤは俯いていた顔を上げ、目を輝かせ、興味津々といった様子である。

 そのような彼女の姿を見た海人は何かを思いついたようで、一つ提案をしてみた。


「アーシャ。装具を修復する役には立たないかも知れないけど、その鍛冶屋に行ってみるか?」

「え……? そ、それは……」


 海人の提案に驚き肩を揺らすアレイシヤ。

 彼女は鍛冶師として興味があるようで、けれどもただ自分の探求心を満たすだけであってはいけないと自制しているようで。

 一瞬だけ顔を綻ばせたアレイシヤはすぐに真面目な表情を取り繕い、丁重に断った。


「い、今はそのような事をしている余裕はないので……」

「って言っても、今の所当ては無いんだし、良いんじゃないのか?」

「で、でも……」


 アレイシヤは助けを求めるようにして瞳を彷徨わせるが、海人以外の者達も海人の提案に反対する事はなく、寧ろ良い機会だと言って勧めてくる。

 それでもまだ遠慮するアレイシヤを後押しする為にか、鍛冶屋の情報をもたらした雉岡は更なる情報を明らかにした。


「そうと決まれば隣のクラスの金屋氏にコンタクトを取った方が良いでしょう。葉薊町にある鍛冶屋は金屋氏のご実家なので」

「カナヤ? 金屋っていうと、あの女子に人気がある女子か……」

「へぇー……。隣のクラスの女の子まで詳しいだなんて、流石ね、猿渡君」

「も、桃子嬢! これはただの情報であって、別に興味がある訳では……っ! 寧ろ俺が興味あるのは世界でただ一人、桃子嬢だけであって――――」


 これで話は纏まった。

 今の海人達が出来る事は無く、ガイラルドからの情報を待つしかない。

 それならば空いている時間をどう使うかという話で、もしかすると何かの役に立つかもしれないという事で、海人達は隣のクラスの金屋に話を聞きに行く事になった。






 昼休憩は後僅か。

 予鈴が鳴るまであと五分ほどだが、放課後ではすれ違って会えない可能性がある為、話をする約束だけでも取り付けようという事で、海人達は隣のクラスに向かう。

 その道中、ふと気になった事がある真帆は前を歩く雉岡に声を掛けた。


「そう言えば雉岡君。どうして鍛冶屋の場所なんて知っていたの?」

「占部氏、よくぞ聞いてくれました! まずはこれをご覧ください」

「これって……、ゲーム……?」


 雉岡が取り出したのはスマートフォンで、画面には着物姿の美少女や美男子が映し出されている。

 どうやらそれは流行りのゲームらしく、鎧や兜、刀や槍などを擬人化したキャラクター達が戦うものだそうだ。


「ゲームや漫画、アニメの舞台や題材になった場所や物には注目が集まるものでして、自分も鍛冶師に興味を持ったまでです」

「へぇ……。私はてっきりアーシャちゃんに近づく口実を得る為かと思っていたわ」

「し、失敬な! そ、そんな事がある訳――――」

「その動揺っぷりは……。図星なのね……」

「な、何かのお役に立てるならばという事も無い訳ではありません! 趣味と実益が偶々噛み合った訳でして、決して下心など――――」


 真帆はやれやれといった風に肩を竦めさせており、雉岡は誤解を解きたいがために言い訳を並べ立てていたが、真帆が立ち止まると同時に彼は弁明を止めた。


「なにかしら、あれ……」


 もう少しで隣のクラスという所まで来て、海人達は歩みを止める。

 それは隣のクラスの前で小さな人だかりが出来ているからであって、何やらいざこざが起きているようであった。

 人が困っているのを見ると助けずにはいられない。喧嘩とあらば仲裁を買って出る海人。

 今日も今日とて正義感に溢れお人好し全開の海人は当然として小さな人だかりに近づく。

 無関係な者がしゃしゃり出るのは当人達にとって迷惑な事が多いが、結果的に海人にとっては無関係ではいられない状況であった。


「何かあったのか?」

「君は……、隣のクラスの。確か、竜堂君だっけ?」


 小さな人だかりの中心には一人の女生徒が居て、彼女を数人の生徒が囲むようにしている。

 その女生徒はスラッとした体型で、髪は短く、顔立ちも中性的であって、スカートをはいていなければ美少年と間違われてもおかしく無いような少女であった。


「ああ、海人。そいつがさっき話に出ていた金屋だぞ」

「え……? そうなのか……?」


 間の抜けた顔で猿渡の言葉を聞き返す海人。

 それならば話が早いと言いたい所であるが、金屋は何やらトラブルに巻き込まれているようで、海人達が話を切り出すのは無理のようである。


「ちょっと、割り込みしてこないでよ」

「そ、そうだぞ! 自分達が先に話をしていたんだ。金屋さんに話があるなら自分達の後にしろ」

「え? あ、すまない……」


 金屋を囲んでいた者達は割入ってきた海人を睨み付け、邪魔をするなと言って追い払おうとする。

 傍から見ていれば数人で囲い、言いがかりをつけて責め立てているように思われたが、その者たち曰く、ただ話をしていただけらしい。

 取り敢えず問題はないと知り、順番なら致し方ないということで海人は身を引こうとするが、声を掛けられてその場に留まる。

 彼を呼び止めたのは困り顔の金屋であった。


「いや、この子達との話は終わったよ。それで、竜堂君は私に何の話があるの?」

「ん? いいのか? それじゃ――――」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 金屋さん!」

「自分達との話はまだ終わっていません!」

「……って、言っているみたいだけど」


 笑みを浮かべているが溜息を吐き、肩を落とす金屋。

 その金屋に迫る男女数人。

 そしてそれらに挟まれた海人。

 やはり話は簡単に進みそうもなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ