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英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第8話 波乱に満ちた体育祭
62/213

9.大接戦!? 部活対抗リレー

 各部の代表が集い、これまで培ってきたチームワークを遺憾なく発揮する部活対抗リレー。

 それは本日一番の盛り上がりを見せていた。

 陸上部を始めとする運動部にはスタート位置とタイムのハンデが与えられ、文化部との力の差がないのも接戦となり盛り上がる要素だが、この競技には他にも盛り上がる点があった。


「おおっと! 開幕早々、サッカー部がバトンを手放した!」

「サッカー部だけに、手でボールを持ち続けるのは苦手なのでしょうか」

「ああっ! サッカー部のボールによって何名か転倒しています」

「これは……、乱闘の予感がしますね」


 手にしていたバトンによるアクシデントから始まる別の戦い。

 運動部同士は運動場や体育館の使用範囲や時間で揉めていたり、好成績を残して天狗になっている者を妬んだり、彼氏や彼女を取っただ取られただのといういざこざが存在する。

 普段から溜め込んでいた怒りがここに来て噴出したようで、レースは混迷の一途を辿ってしまった。


「レースを無視している部が幾つか見受けられますが、中断は致しません」

「揉めている一団の間をすり抜けて飛び出したのは、ヒーロー研究部だぁぁ!!」


 アレイシヤは小柄な身体を活かし、人と人との間をすり抜けて進む。

 第一走者のトップは彼女が君臨し、そのまま一位をキープしていた。


「凄いじゃない! アーシャちゃんが一位だなんて……って、あれ?」


 クラスの席で応援していた真帆はアレイシヤの活躍を喜んでいたが、ふとある事に気が付いて眉をひそめた。

 アレイシヤが走る後には数名の男子生徒が走っており、まるで盾か何かのような壁を作り出している。

 異様な光景であると疑惑の目を向けていた真帆に対し、状況を説明したのは眼鏡を光らせる雉岡であった。


「ああ、あれは漫研やオカルト研などの文化部連中ですね」

「ど、どうしてあんな事に!? あれじゃアーシャちゃんを追いかける変た――」

「彼らは純粋に! アーシャたんを応援しているだけなのですっ!!」


 自分もあの一団に混じりたかったと嘆く雉岡を無視し、真帆は詳しくと犬飼に問い掛ける。

 彼の話によると、アレイシヤにはある一定のファンが存在し、ひそかに協定が結ばれるなど、水面下でファンクラブ活動が行われているそうだ。

 玲緒奈や桃子に対する男子達の反応と毛色の違った様子に真帆は引き気味になるも、今はとにかくレースをと気持ちを切り替えた。


「今! 第二走者にバトンが渡りました!」

「トップを走るのはヒーロー研究部の……、おお……っ、これは素晴らしい……!」


 実況者も思わず釘付けになる光景。

 それはヒーロー研究部の第二走者、桃子に因るものであった。


「すげぇ……っ」

「これは是非ともムービーに収めなくては……!」

「俺は記憶のフォルダに永久保存だ!」


 息が上がり、上気して赤くなる頬と荒くなる息遣い。

 走る度に上下するたわわな胸元。

 それらはギャラリーの、特に男子生徒達を大いに沸かせているが、同時に歓喜の声を上げる男子達には女子達の冷たい視線が突き刺さっていた。

 場は別の意味で盛り上がっているようだがこれは好都合だと、真帆は勝利への確信を得始めた。


「この調子なら優勝も――――……なっ!? ど、どうして?!」


 トップを走り続けていた桃子だが、ひとり、また一人と抜かれて徐々に順位が落ちていく。

 どうやらスタートで躓いた運動部の者達が諍いを止めて持ち直した事と、アレイシヤを囲っていた一団がバトンを渡した事が原因のようだ。


「今走っている人達は桃子に目もくれないのね……。と言うか、今走っているのは女子ばっかりじゃない」

「どうやら対策をされていたようですね」

「対策?」


 雉岡の指摘通り、第二走者は女子ばかりで、桃子の色香に惑わされるような者は居ない。

 むしろその逆であって、普段から男子を手玉に取るような態度ばかり取っている桃子をよく思っていないのか、女子部員達はここぞとばかりに力を発揮し、したり顔で追い抜いて行った。


「ここに来て一位が入れ代わりました! トップを走るのは陸上部。与えられたハンデを物とも言いません!」


 陸上部を始めとする運動部の代表者に抜かれもしたが、桃子の頑張りにより順位は中間をキープして第三走者へと渡る。


「さ、猿渡君……っ!」

「任せとけ! 桃子嬢! ここは俺様が――――」

「喋ってないで早く行きなさいよっ!!」

「は、はぃぃぃ……っ」


 決め台詞を怒声によって遮られてしまった猿渡。

 返した言葉は弱々しいものの、彼はやる気を削がれてしまった訳ではなく、寧ろこのまま終われないと、今こそ良い所を見せつけてやると奮闘する。


「負けてたまるかっての!!」


 海人には敵わないと猿渡は言っていたが、敏速性には自信があるらしく、任せろと豪語するだけあって順位を着実に上げていった。


「海人っ! 後は頼んだぜ!!」

「ああ!!」


 猿渡の粘りと意地の力により、アンカーへのバトンはトップとほぼ同時に、陸上部の亮平と海人は間を置かずスタートを切る事となった。


「ど、どうだ、見たか……っ。俺だって、やるときゃやるんだ……ぜ!」


 息をぜいぜいと切らしながら猿渡は海人の背中を見送る。

 己の力を出し切り、どうにか希望を繋いだ彼の功績は大きい。

 猿渡は皆からの称賛の言葉を待っていたが、ふと耳に届いた声に固まってしまう。


「桃子嬢……、いや、桃子……。見ていてくれたか、この俺の活躍を――――」

「海人く~~~~ん!!! 頑張って~~~~っ!!」

「え、お、俺の活躍は……」


 レースはまだ続いているどころか終盤に差し掛かり、ここが正念場である。

 繰り広げられている接戦に目が離せないのは理解できなくもないようだが、あまりの扱いの差に打ちひしがれ、猿渡は地に伏すようにして倒れた。

 ますます熱の入る応援の声が飛び交うコース。

 皆の想いが込められたバトンを手に、海人はゴールを目指してひたすら突き進む。


「これなら……。いける……っ!」


 颯太との勝負を目の当たりにしていた海人は不安を抱きもしたが、どうにか亮平と渡り合っている。

 ここまで多くの競技に出場してきたツケが回ってきたのか、亮平にあの時の走りは今のところ見られない。

 海人も亮平と同じく競技に出ずっぱりであったが、スタミナの差が出てきたようだ。


「ハッ! 中々やるじゃねぇか」

「……っ!?」

「アンタ、訳の分かんねェ部活に居るより、陸上部に入ったらどうだ?」

「お前……っ!!」

「ま、陸上部に入ってもオレには及ばねェから、引き立て役に終わるけどな」


 中盤に差しかかった所で亮平は笑いながら語りかけてきた。

 全速力で走りながら話す余裕などありはしないと、そもそも話しかけながら走るのは難しい筈だが、亮平は涼しい表情でいる。

 驚く海人を横目に、亮平は隠していた本当の力を出し始めた。


「それじゃ、お先に」

「ま、待て――――……これは……っ?!」


 徐々に距離を離されていくのではなく、たった一度の瞬きで。

 一瞬にして亮平の背中が遠ざかる。

 それは追い風がその者だけに味方をしているようでいて、違和感を覚える程の速さであった。

 結果、皆の健闘も虚しく、一位の座は陸上部の新しいエースによって掻っ攫われてしまった。






 大いに盛り上がった部活対抗リレー。

 優勝はハンデをものともせずに圧倒的な力を見せつけた陸上部で、次点はヒーロー研究部であった。

 運動部ではない部が二位という事で、普通ならば大いに健闘したと褒め称えられる所だが、真帆達の元へと戻ってきた海人は浮かない表情をしていた。


「お疲れさま、海人」

「……ああ。……その――――」


 自分の力不足で皆の頑張りを、応援してくれていた気持ちを無駄にしてしまったと海人は悔いている。

 けれども皆はこの結果に落ち込んではおらず、当然の結果であるとも言った。


「やはり本職には敵わないという事ですね。気に病む事は何一つありませんよ」

「雉岡……」

「海人は良くやったと思うぞ」

「犬飼……」

「二人の言う通り、頑張っていたのは皆が分かっているから」


 真帆の言葉に海人と共に走った桃子達も頷く。

 罪悪感に苛まれていた海人だが、皆の言葉で肩の荷が下りたようである。

 更にそこで真帆が告げた事によって、海人は完全に調子を取り戻すどころか、纏っていた暗い空気は何処かに吹き飛んでしまった。


「それに、二位でも一位程ではないけど報奨金が出るから」

「は……?」


 初耳だと言わんばかりに目を点にする海人。

 どうやら海人だけではなく、真帆以外は知らなかったようで、それならば祝杯を挙げようと、放課後は打ち上げだと皆は盛り上がるが、二位の賞金ではそんな余裕はない事と、そもそも部費で飲み食いは出来ないと真帆に窘められている。

 狙っていた一位は獲れなかったものの、結果は良い方だと、そう皆は納得して互いの健闘を称え始めていたが、海人は一人だけ違った様子であった。

 腕を組み、深く何かを考え込むようであった海人を心配に思ったようで、アレイシヤは気遣いながら声を掛けた。


「カイトさん……? あの、あまり気になさらなくても――――」

「あ、いや……、それも気にはしているんだが、他にも気になる事があるんだ」

「えっと、それは……」

「気のせい……、だと思いたいんだが。あの瞬間、赤星が俺を抜いて行った瞬間に妙な感じがしたんだ」

「妙……、とは……」

「何と言うのか、こう全身の毛穴が開いたって感じが……。そうだ……! 敵と、魔導装具(ソルチ・キラーソ)を手にした奴と対峙した時のような感覚に近い気が――――」

「……!」


 驚き目を見開いたアレイシヤは、離れた場所で女子達に囲まれている亮平の姿を見つめる。

 彼女の後を追うように海人も亮平の様子を確かめるが、現時点で特に不審に思う点はない。

 目線を落として考え込むアレイシヤに対し、海人は気のせいであったと前言を撤回し始めるが、彼女は深刻そうな顔で意見を述べた。


「今も魔導装具(ソルチ・キラーソ)の反応を捉える魔道具を手にしていますが、反応はありません」

「そうか……。まぁ、魔導装具(ソルチ・キラーソ)らしい装備も身に着けていないようだし、やっぱり気のせいか……」

「いえ、気のせいという事もない可能性が……」

「本当か!? それは――――


 どういう事かと聞き返した海人だが、彼は答えを聞きそびれてしまった。

 それは背後から悲鳴と共に何かが地面に叩きつけられる音を耳にしたからで、海人はすぐさま音のした方へと駆け寄る。


「一体何が……――――って、猿渡っ、雉岡っ!! どうしたんだ!?」


 倒れ込んでいたのは猿渡と雉岡で、二人は顔色を青ざめさせて呻き声を上げている。

 敵の襲撃を受けたのかと海人は周囲を見渡すが、敵らしき者の姿は見当たらない。

 焦りを募らせる海人に対し、彼に支えられていた猿渡は弱々しい声でその身に起きた事を語った。


「…………海人……っ」

「猿渡! どこを……、誰にやられたんだ!?」

「……が……っ」

「おい、しっかりしろ……!!」

「…………胃が」

「…………は?」

「胃が……、キリキリと……痛い……」

「……」


 雉岡も同じ症状なのだろう。

 二人は胃の辺りを手で押さえおり、額に脂汗を浮かばせて苦しんでいる。


「どうやら食あたりのようね」


 一人慌てていた海人は茫然としていたが、冷静なままの真帆に状況を告げられ、ガクッと肩を落として脱力した。






 消毒の香りが微かに漂う保健室。

 外の喧騒から離れたその場にはヒーロー研究部の面々がおり、ベッドには猿渡と雉岡が臥せっていた。

 二人の症状を確認し、薬を与えてベッドに押し込んだのは養護教諭のルイーザで、彼女はため息混じりに病状を告げた。


「後は安静にしていれば大丈夫よ。それにしても一体何を食べさせたらこんな事になるのかしらね」


 呆れた顔で溜息を吐きつつ言われた事に、皆はある一人の人物を注視してしまう。

 誰もが原因を分かっているようだが、皆から視線を集めた者、桃子は心外だと言い張る。


「私のサンドウィッチが原因じゃないわよ! だって、私は平気だし! だいたいちょっと辛いくらいでこんなになる筈は――――」

「桃子。大量の辛み成分は胃などの粘膜を傷付けるのよ。食べ慣れていなければこうなるのも頷けるわ」

「う……っ」


 真帆に指摘された桃子は言葉を詰まらせていたが、自分の落ち度を認め、ベッドに横たわっている猿渡と雉岡に謝る。

 これで一先ずこの件は終わりかと思われたが、この一件はここで済まされなかった。


「競技に出場? やめときなさい。そちらの眼鏡の子はともかく、もう一人の子の方が症状重いのよ」


 猿渡はプログラム最後のクラス対抗リレーに海人と共に出場する予定であった。

 食中毒ではないならと期待するも、ルイーザからは賛同を得られない。

 桃子に良い所を見せようと、猿渡は海人の分までもサンドウィッチを食した事が祟ったようで、止めておいた方が良いと言っていた真帆はこれ見よがしに盛大な溜息を吐いた。

 調子に乗った者を咎めたくもあるが、病人相手には強く出られない。

 それ以前に、猿渡がダウンした事による弊害を先にどうにかしなくてはならなかった。


「それならここは私に任せて。貴方達は早く代わりの者を見つけなさい」

「は、はい。二人の事、よろしくお願いします」


 海人達はルイーザに頭を下げ、保健室を後にする。

 残された猿渡はひとり遠い目をして嘆いていた。


「チクショウ……。俺の活躍の場が……」


 何もかもが裏目に出ると、自分は不運であると猿渡は悲観する。

 けれども彼には自業自得な面もあるので、雉岡は何も声を掛けずにいた。

 二人はベッドの上で皆の健闘を祈るしか出来ずにいるようだが、そんな彼らの元にルイーザが近づく。

 彼女は猿渡が横たわるベッドの縁に足を組んで腰かけると、猿渡の胸元をそっと撫でつけて囁いた。


「まったく……。女の気を引くために為にここまでするなんて、可愛い坊やね」

「え……、えっと……」

「安心なさい。わたくしがじっくりと看病して差し上げるわ」

「は、はい……っ!!」

「あら? 具合が悪そうだったのに、随分と元気なようね」

「~~っっ?!」


 地獄から天国というものなのか。

 先程までの意気消沈ぶりはどこに行ってしまったのかと思われる位に、ルイーザに迫られた猿渡は鼻の下を伸ばしている。

 彼は思わぬところで良い思いができたようだが、通路を挟んだ先のベッドで横たわる雉岡からは侮蔑の眼差しを向けられていた。




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