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英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第6話 最大の敵、現る
42/213

5.最強の部隊の結成

 試験発表期間に入って三日目。

 最初はどうなる事かと思われたが、海人の試験勉強は軌道に乗っていた。

 本日もヒーロー研究部の面々は放課後に部室へ。

 机を並べて各々が試験勉強に励んでいる。


「なぁ、雉岡」

「何ですか、猿渡氏」

「どうして俺達はこうもツイていないんだろうな」

「……全くもって同意見ですね」


 男同士、向かい合っているのは猿渡と雉岡で、彼らの周りには暗くて重い空気が漂っている。

 彼らが恨みがましい視線を送るのは必死に勉強をしている海人にであって、海人の周りにはサポート役の二人が座っていた。


「……ここは、そうですね。この公式を使って――――」

「これで良いのか?」

「そうそう。さっすが海人君! 飲み込みが速~い! それならこっちも解けるようになるわよ」


 懇切丁寧に教えるアレイシヤと、褒めて讃えてモチベーションを保たせようとする桃子。

 この二人が海人に勉強を教える事となり、皆は上手くいくのかと心配もしていたが、相性は悪くなかったようだ。

 模擬テストを行った次の日。

 前日に引き続き誰が海人に勉強を教えるかで大揉めになるかと思いきや、一晩跨ぐと桃子も真帆も冷静になれたようだ。

 二人は雉岡が提案したくじ引きというルールを受け入れ、そして結果的に勝利を掴んだのは桃子となった。

 今現在海人は桃子とアレイシヤに、猿渡は雉岡に、犬飼は真帆に勉強を教わっている。


「……占部。これで良かったのか」

「何が? それよりも犬飼君。そこ、間違っているわよ」

「あ、ああ。すまない……」


 楽しげに勉強をしている海人達とは打って変わり、真帆と犬飼のペアは猿渡と雉岡とは違って別の意味で空気が重たかった。

 大きな体を小さくし、席に着いて問題を解いていた犬飼は、向かいに座る真帆がチラチラと視線を動かしているのに気が付き声を掛けるが、彼女からは否定の言葉が返された。


「さっきから海人達の方を気にしているようだが……」

「気のせいよ。ほら、そこも。途中で間違えているわ」

「う、うむ。しかしだな、占部は遠慮をし過ぎではないのかと思ってな」

「……遠慮、ね」


 桃子の熱烈なアピールに対して度々口を挟んできた真帆だが、今日はまだ間に入る事も注意をしてもいない。

 幼馴染であるからして、海人の自宅にも頻繁に出入りしている事から余裕があるのかと思われたが、彼女の様子からすると違うようだ。

 犬飼の目には真帆がぐっと堪えているように見えたようだが、当人は素直に認めようとしなかった。


「今は無駄口を叩いている余裕なんてないでしょう」

「それはそうだが……」

「…………私一人が目を瞑れば上手くいくのだから。これで良いのよ」


 ポツリと呟いた言葉は自分に言い聞かせるようなもので、犬飼は真帆が漏らした弱音を聞き返そうとするも、勉強に集中するよう彼女に窘められてしまった。


「――――気に掛けてくれるのは感謝するわ。それに、私だって何時までもこうしている訳ではないのよ。……物事には限度というものがあるからね」


 そう言った真帆はニッコリと笑顔を浮かべてスクッと立ち上がり、海人達の席へと近づく。

 そして彼女は、ご褒美と称して海人に対して派手を通り越した下品なスキンシップを仕掛けていた桃子を力尽くで引き離した。


「全く貴女は……っ。一体何をやっているのよ!?」

「え~! ご褒美があった方がやる気が出るってものでしょ? ねぇ、海人君」

「え、い、いや、俺は――――」

「あら海人。もしかして私はお邪魔だったのかしら?」

「い、いや、そんな事はな――――」

「邪魔に決まっているでしょう! 私達はちゃんと勉強をしているもんね~」


 全く反省する様子の無い桃子に対し、真帆は我慢が出来なかったのだろう。

 シャーペンがノートの上を走る音が聞き取れる位に静かであった部室は、今や喧騒に包まれている。

 こうして時折騒ぎは起きるが何とか勉強も進み、皆の協力を得た海人は戦う力を得て強大な敵と相対する事となった。






 威厳を漂わせ、積み重なった歴史を感じさせる荘厳な城内の長い廊下。

 三叉路の、交わる場で顔を突き合わせたのは第三騎士団長のローランドと第四騎士団長のルイーザであった。


「こんな所で、奇遇だな」

「あら、ご機嫌は如何かしら」


 両者共に笑みを讃えて挨拶を交わすが、それは形ばかりである。

 互いに行く先は同じだったのか、二人は肩を並べて歩くが、決して穏やか雰囲気ではない。


「磯の香りが鼻につくと思っていたら、貴方でしたのね」

「そっちこそ、強烈な花の臭いで鼻が曲がるかと思っていたら、アンタだったんだな」


 嫌味には嫌味で返す。

 こういった事には慣れているのか、まだ二人共作った笑顔は崩れていない。


「――――聞きましたわよ。貴方の部下は蛮族に随分と可愛がって貰ったそうね」


 やはり海の無い場所で海兵が役に立てるはずもなかったのだと、ルイーザは第三騎士団の不手際を嘲笑う。

 彼女の言葉に腹を立て、ローランドは直ぐに言い返すかと思われたが、彼はまだ余裕を持ち合わせているようだ。


「ああ、そうだな。確かに、海上がテリトリーの俺様達にとっちゃあ陸の上は落ち着かねぇな」

「あら。理解していましたの? てっきりわたくしは未だに理解していないのかと思いましたわ」

「よーく理解しているぜ。それにしても俺達のように慣れない場でもないのに、しかも五名も送り込んで返り討ちにあった騎士団があるらしいが、姐さんはどこの奴らか知っているか?」


 ローランドの返しにルイーザはピクリと眉を動かす。

 彼の言う失態を犯した騎士団とは言うまでもなくルイーザが団長を務める第四騎士団である。

 ルイーザは豊かな胸元に差し込んでいた扇子を取り出すと、それを広げて口元を隠して反論をした。


「確かに。敵の力量を見誤っていたのかも知れませんわね。……けれどもわたくしの部下達は新たな情報を持ち帰ったのです。どこかの誰かさんの部下達よりは成果を上げたと言えるでしょう」


 第四騎士団から派遣された部隊は、これまで情報を得られていなかった敵と接触を果たした。

 新たな敵との接触といえば、第三騎士団の部隊も拘束対象である者達と相対した時に刃を交えたが、それは拘束対象者の仲間であって、戦い慣れしていない民間人が偶然に力を、魔導装具(ソルチ・キラーソ)を得たに過ぎなかった。

 寧ろ第三の部隊は新たな装者を増やしてしまった事もあり、失態を犯したと言えるだろう。

 一方で第四の部隊が遭遇したのは、あちら側の住人とは考えられない者で、その者は闇の力を行使し、第四の部隊をこちらの世界へと送り返す術も持っていた。


「以前、転移装置が不具合を起こしたのは憶えていらっしゃる?」

「ん……? 転移装置が不具合を起こしたのは裏切り者の仕業と第六の副団長が勝手に起動させた時と、第七の副団長……ブタガエルのクソガキが命令に背いた時だっけか」

「それだけではなくってよ。……もう一つ、外部からの干渉を受けて不安定な状態に陥ったわ」

「まさか……! 姐さんの所は次元の術の使い手と遭遇したのか!?」


 ローランドが驚くのも無理はない。

 他の世界へ渡る為の術を行使できる者は限られており、王族でもごく一部と、可能性があるのはかつて敵対していた魔族の王の血族だけであった。


「魔王の一族に生き残りが……? 何故向こうの世界に……」

「まぁいずれにせよ、わたくしの隊はその者と接触を果たしているのです。その点についてはアナタ方とは違いましてよ」

「……っ」


 ルイーザから聞かされた情報に驚きを隠せないでいるローランドであったが、彼女がフンと鼻で笑うのを見て正気を取り戻す。

 確かに彼女の隊の方が有益な情報を得て帰還したようだが、ここで認めて引き下がる訳にはいかなかったのだろう。


「――――それで、その魔族を前にしてなす術もなく敗走した訳か」

「……なっ!? 兵士でもないお子様達に撃退された者達よりはマシと言えるのではなくて?」

「確かに。装者はガキ共だったようだが、手にしたのはアイントールの魔導装具(ソルチ・キラーソ)だ。そこらの兵士よりは厄介だぜ?」

「こちらは魔王の血筋をもつ者を相手に生還したのです。命があるだけでも奇跡といえるわ」

「未だに床から出られないようだがな」


 長い廊下を歩き続けながら口論を続ける二人。

 いつの間にか歩調は速まり、二人は互いに邪魔だと言わんばかりに肩をぶつけながら先へ先へと進む。


「はッ! 結局姐さんもブタガエルに呼び出しをくらっていた訳か」

「そう言うアナタこそ。人の事を笑ってなどいられないのではなくて?」


 二人が同時に掴んだドアノブは同じ部屋のもので、そこは宰相閣下の執務室である。

 互いにまだ言い足りない事はあるようだが、扉の奥で待つ者を待たせる訳にはいかない。

 ノブに手を掛けたまま睨みあっていた二人だが、同時に息を吸って同時に吐いて、呼吸を整えて表情を整えて扉を開いた。


「……これでようやく揃ったようだな」


 二人を待ち構えていたのは不機嫌そうな面構えをした宰相ベルントであったが、遅れた事を咎めたのは第一騎士団長のガイラルドであった。

 騎士団の頂点に立つ彼に睨まれればローランドとルイーザは強く出られないのだろう。

 先程までいがみ合っていた姿を完全に消し去って佇まいを直し、丁重に遅れた事を詫びて室内へと足を踏み入れた。


「まぁまぁ、急な招集だったのだし、仕方あるまいて」


 張りつめた空気を意識せずに発言したのは第六騎士団の団長、アウグストである。

 ガイラルドの圧倒的な存在感で気が付かなかったようだが、よくよく室内を見渡せば、そこには第二と第七の騎士団長、クラウディオとルクレーノの姿もあった。

 第五の騎士団長であるエウゼビアスの姿は見えないが、それは今更珍しい事でもなく、誰も所在を尋ねはしない。

 何にせよ、集まるべき者達はここに揃ったのだろう。

 ベルントは咳払いを一つして、騎士団長達へと問い掛けた。


「フン……。貴公らにはこの場に集められた理由が分かるか?」


 ベルントから向けられた視線は罪を問うもので、心当たりがあるローランドとルイーザはサッと目線を外す。

 一方で他の者達は全く動じる様子もなく、ベルントが続きの言葉を述べるのを待っていた。

 訪れたのは重い沈黙で、そういった空気には耐えられないのか、はたまた罪を認めているのか。

 ローランドは一歩進み出て先の失態を詫びた。


「……御託はよい。それよりも失策をどう穴埋めするかが重要だ」

「……! つまりは次の機会を第三騎士団に与えて下さると――――」

「そうではない。今のままではいくら兵を送ろうとも、無駄に消費するばかりだ」

「では一体……。宰相閣下はどうお考えで――――」


 見えない話にローランドは問い掛けるが、ベルントは口を開く代わりに肥えて脂肪に埋まった顎を動かす。

 するとこれまで沈黙を貫いていたガイラルドが皆の前に進み出た。


「七日後。我が国の最大戦力を以って彼の地へと赴く」

「つまりは第一騎士団が動くと言う訳か」

「……否。第一からの派兵は儂だけだ」

「な……っ!!?」


 ガイラルドの言葉にローランドとルイーザは驚きを隠せないようで、目を見開いて口を開いたままでいる。

 感情を表に出さないクラウディオはどういう事かと目線でガイラルドに問い掛けており、その一方でアウグストは状況を理解しているようで、立派に蓄えた顎髭を擦りながらニヤリと笑う。

 既に聞かされていたのか。ルクレーノは動じる様子を見せず、真剣な表情のままであった。

 彼はガイラルドに代わり、作戦の概要を告げた。


「最大の戦力とはここに集う私達の事です」

「いやそんなまさか……! 頭である俺様達が直々に出向くのか!? そんな話が――――」

「そ、そうよ! わたくし達には守らねばならぬ場があって、そう簡単には――――」

「その点なら問題ありません。魔族が滅びた今、この国に脅威といえるものは無きに等しい。城の守りは私が、国境及び海上はクラウディオ殿に指揮を任されます」


 転移装置は未だに多くの兵を送り込むことが出来ない。

 当然として飛竜などの大型獣も転移させる事は出来ない為、飛竜を操り、空戦を得意とする第二騎士団は待機という判断で正しいだろう。

 第七騎士団も結成されて間もない団であり、団長であるルクレーノも青二才と称され、待機命令を下されるのは致し方ない。

 クラウディオは自身が異世界へと赴く事はないと分かり、後の事は感心なさげに肩の力を抜いているが、ルクレーノは自身に課せられた責任を重く受け止めているようであった。


「つまりはわたくし達が直接手を下すという事なのですね」


 命が下った以上、誰一人として逆らいはしない。

 一時愕然としていたローランドとルイーザだが、覚悟は決まっているのだろう。

 彼らは団長であって、日頃は部下の指導に明け暮れており、有事の際には指揮を執るばかりで前線には出られない。

 最前線で己の力を思う存分振るえるのは彼らにとっては好機でもあるのだろう。

 その点で言えばアウグストも彼らと同じ気持ちでいるようで、その表情からは彼ら以上に喜び勇んでいるのが見て取れた。


「貴公らの身分に恥じぬ活躍を期待しているぞ」


 始まる前から勝利が約束された戦は、間もなく火蓋が切られようとしていた。




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