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英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第6話 最大の敵、現る
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4.隠されていた少女の実力

 小さな子どものように泣きじゃくる桃子。

 彼女に対して必死に弁解する海人。

 そんな彼に対して何があったのかと興味津々にしている猿渡達三人組。

 何時まで経っても泣き止まない桃子を慰めようとするアレイシヤ。

 阿鼻叫喚なこの場で呆れ返って溜息を吐く真帆。

 本来は怪我を治療したり身体を休める場所である保健室だが、今では休憩時間の教室のように賑やかになっていて、とても落ち着いて身体を休められる状態ではなかった。


「聖沢さん。誤解をしているようだけど、竜堂君は倒れかかった私を支えてくれただけで、何もやましい事は……」


 玲緒奈は説明下手な海人よりもよっぽど上手く状況を説明したが、今の桃子の耳には入らないようだ。

 この場を収めるには自分しかいないと、真帆は皆の前に出て一喝しようとするが、それは新たに現れた人物によって止められる。


「貴様ら……っ。ここがどのような場なのか分かっているのか……っ!?」


 背筋を凍らすほどの冷気を纏いながら海人達の前に現れた者。

 それは生徒会副会長である剣崎であった。

 大きな声で怒鳴り散らした訳ではないのだが、剣崎の声はその場に居る者全てを黙らす程の威力がある。

 それは泣きじゃくって手の付けられない桃子がピタリと泣き止む位であった。


「全く。こんな所にまできて面倒を掛けさせるとは……。最早嫌がらせのレベルに達しているが、何か弁明はあるのか? 竜堂海人」

「あ、いや……、これは……」


 射抜くような鋭い眼差しを向けられて固まる海人。

 先程の、事故とはいえ玲緒奈を抱きしめていた場面で剣崎が現れなくて良かったと安堵するのも束の間で、現状を問われて戸惑う。

 すっかりと剣崎の気迫に押された海人は何も言い返せずにいたが、彼の代わりに答える者が居た。


「剣崎。彼らは何も悪くないわ。寧ろ竜堂君が休んでいた所を私が邪魔したくらいだし……」

「ですが会長。先程この室内に入る前には外に響くほどの声が聞こえていました。それほどまで喧しくしていたのは彼らのせいで間違いありませんよね」

「それは……」


 何時もなら言い過ぎた剣崎を玲緒奈が窘めて場が収まるのだが、今日は違うようだ。

 玲緒奈が体調不良で強く出られないからか、はたまた剣崎が現状を腹に据えかねているからか。

 なんにせよ、彼の怒りの矛先は海人に向けられており、それは簡単に収められないようであった。

 ピリピリとした空気の中、これ以上剣崎を怒らせまいと皆が口を固く閉ざすが、真帆は一歩進み出て頭を下げた。


「先輩方。特に姫条会長。お休みになっている所で騒がしくして申し訳ありませんでした」


 丁寧に非を詫びる真帆の姿に一同は呆気に取られていたが、すぐさま猿渡達三人組も謝罪の言葉を述べて頭を下げる。

 場の空気を読んだのか、海人も頭を下げ、彼に続いてアレイシヤが。更に、すっかりと泣き止んでいる桃子も頭を下げた。

 皆に頭を下げられてはこれ以上強く出られないのか。

 ギリッと歯を噛みしめていた剣崎は深く溜息を吐く事でどうにか平静を取り戻し、頭を上げるようにと言った。


「はぁ……。真帆のお蔭で助かったよ」


 保健室から脱して海人達は昇降口へ。

 睨みを効かす剣崎から遠く離れた所で海人は肩の力を抜き、隣に居る真帆へと礼を述べた。


「別に私は何も。それよりもいいの?」

「ん? 何がだ」

「後ろよ。うしろ」

「は? ……って。うおぁ?!」


 真帆に指摘され振り向いた海人。

 そこには可愛らしい顔をぐしゃぐしゃにした桃子が立っており、今にも飛びかからん勢いで構えていた。


「海人君の馬鹿バカばか~っ!!」


 ポカポカと両手の拳で殴り掛かってくる桃子。

 威力は大したことは無いのだが、泣きながら向かってこられるのは海人にとって非常に厄介であった。






 現実を突きつけられて茫然自失になったり、保健室では思いがけない出来事に見合ったり、その後責め続けられて過去を根掘り葉掘り問い質されたりと、慌ただしかった一日はあっという間に過ぎて次の日に。

 昨日は結局、桃子の尋問によって海人はヒーロー活動が出来なかったが、彼女に迫られなくとも部活動は出来なかっただろう。

 一晩経って今は部活動をしている余裕などないと、海人はようやく受け止めたようだ。

 そんな彼が今現在居る場所は部室であるが、部活動をする為にここに居る訳ではない。

 席に着いた彼の目の前には白い紙が数枚置かれており、今から彼はそれらと格闘する事になるようだ。

 同じく席に着くのは真帆と雉岡を除いた者達で、その中の一人、アレイシヤは手を挙げて質問をした。


「えっと、マホさん。これは……」

「見ての通り、テストよ。今回の範囲を半分くらいに収めたものなのだけれど、実力を知るにはいいかなと思って作ったの」

「凄いですね……! これを全部マホさんが作られたのですか?」

「ううん。半分は雉岡君に作って貰ったのよ」

「そうでしたか。キジオカさんもありがとうございます……!」

「い、いえいえ。これしきの事、造作もないですよ」


 アレイシヤに褒められ、感謝されて嬉しいのか、雉岡はニヤけるのを堪えつつ謙遜をしている。

 一方で海人と猿渡はテストが始まる前から項垂れており、早くも結果が見えているようだ。

 何はともあれ実力を推し量る為には必要だろうと、海人は覚悟を決めて筆記用具に手を伸ばすが、そこで待ったと声を上げる者が居た。


「質問しつも~ん!」

「どうしたの? 桃子」

「ねぇ、どうして私もこっち側なの? 私は赤点なんて取らないわよ」


 成績上位の真帆と雉岡が除外されるのは当然だが、自分まで実力を試されるのは気に食わないと桃子は不満を述べている。

 彼女は上位とまではいかないが、平均点よりは上の成績であって、今回のテストでも心配は要らないようである。

 ではなぜ彼女が海人達と並んで席に着いているのかというと、今後の事に関わるからであった。


「一応皆の実力もみてみないと、誰が誰に付き添って勉強を教えるのかが決まらないでしょう」

「……!!」


 この中で一番危機的状況にあるのは海人で、そんな彼をサポートするには相当の余裕がないといけない。

 ここでいい成績を出せると海人とマンツーマンで勉強が出来ると悟った桃子は、俄然やる気を出して早く始めようと催促をしだした。


「それじゃ、制限時間は二時間としましょうか」


 科目は現代文、古典、数学、物理、英語、世界史の6教科で、試験は2日間に渡って行われる。

 今回は中間考査であって6教科で済んだが、これが期末考査となると9教科になり、海人にとっては今以上に厳しい戦いになっただろう。

 今現在でも苦しみ悶えながら問題に取り掛かっている所を見ると、期末には戦う前から戦意喪失をしていたに違いない。


「はい。そこまでで」


 真帆がパンパンと手を叩き、テストの時間は終わりを告げる。

 出題数は実際のテストの半分以下で、時間は充分にあったはずだが、一問一問につまずく海人にとっては余裕など無く、いくら時間があっても足りないようだ。

 彼は採点される前から結果が見えているのか、答案用紙を回収された後、机に突っ伏していた。


「それじゃ、結果発表といきましょうか」


 真帆と雉岡が手分けして採点した解答用紙が返却される。

 追試を受けなくてはならないラインは40点未満で、海人に関しては当人や周りが予想した通り、全て赤点であったようで、絶望に打ちひしがれていた。


「一応空欄を埋めようと努力しているのは分かるんだけどね……。基本がなっていないから応用も駄目だし、暗記系は全然。かろうじて合っているのは選択問題くらいね」


 選択問題も運が良かっただけであって正解を知っていたのかは疑わしいと、真帆はしらけた目を海人へと向けている。

 覚悟はしていたものの、やはりこうやって形となって目の前に突きつけられ、更には真帆にダメ出しを喰らってしまうとダメージが大きいのだろう。

 海人は白目を剥き、ズゥンと黒い影を背負って沈み切っていた。


「さて。海人はともかく、猿渡君と犬飼君も気を緩めていられないわよ」

「お、おう……」「あ、ああ……」


 海人の事を憐れんでいた猿渡と犬飼だが、彼らは真帆に指摘されて小さくなっていた。

 彼らが彼女から注意を受けるのも致し方ない。

 猿渡も6教科中3教科が赤点で、他の3教科もギリギリセーフといった所で、犬飼は前に言っていた通り、物理と数学が赤点である。

 ここまでは皆の想像通りで特に驚く事も無いのだが、問題は残された二人にあった。


「フフーン。どうかしら、これで私が海人君のサポートについても問題ないでしょう!」


 胸を張り、皆へとテスト用紙を見せつけたのは桃子で、彼女は勝ち誇ったように笑っていた。

 堂々と見せるだけあって、彼女の点数はなかなかのもので、予測平均点以上どころか、全教科80点以上で、そのうち2教科は90点以上であった。

 これが愛の力によって成せる業なのかは定かでないが、とにかく桃子が勉強を教える側になれるのは間違いなかった。


「さすが桃子嬢! 美貌だけでなく知性も兼ね備えているなんて……!」

「やだ~。才色兼備だなんて、言い過ぎよ~。このくらい当然だし、私にかかれば余裕よ、よ・ゆ・う」


 猿渡に煽てられ、得意げにしている桃子。

 そのような姿を呆れつつ見ていた真帆だが、ふとある事に気が付き小首を傾げる。


「アーシャちゃん。どうかしたの?」

「あ、いえ……。何でもないですよ」


 答案用紙を見つめていたアレイシヤの様子がおかしく感じて真帆は声を掛けたようだが、当人は何でもないと首を横に振る。

 テストは作成した二人で分担して採点を行った為、真帆はアレイシヤがどの程度の実力か知らなかったのだろう。

 自分が採点していない3教科の点数が悪くて落ち込んでいると早合点した真帆は、気にする事はないとアレイシヤに声を掛けた。


「現文と古典と世界史は70点台。平均よりも上だし、悪くはないと思うのだけれど……」

「そ、そうですか……。それは良かった……です」

「もしかして、他の教科が難しかった? こっちと向こうとでは学習内容も違うだろうし、仕方がないわよね」

「い、いいえ。そのような事は……」

「そうなの?」


 ならば何故浮かない顔をしているのかと真帆は疑問を抱くが、その問いに答えたのは雉岡であった。


「そうですよ。アーシャさんはとても良い成績でした」

「キ、キジオカさん……っ。そんな事はないですよ」

「ちょっと待って、どういう事?」


 真帆が眉根をひそめてアレイシヤの席に近付くと、彼女はあたふたと答案用紙を隠そうとする。

 猛獣に追い詰められて怯え、プルプルと震える小動物のようなアレイシヤ。

 そんな彼女から答案用紙を取り上げるのは忍びないと思ったのか、真帆は一旦手を引いて困り顔で肩を竦めさせる。

 一度は身を引いたものの、気にはなるのだろう。

 良い成績にもかかわらず、何故そのような反応を見せているのかと真帆は考えていたが、それは程なくして知る事となる。


「……アーシャ。これは本当にアーシャの答案用紙なのか……!?」

「カ、カイトさん……っ!?」


 いつの間に正気を取り戻したのか。

 海人の視界に入ったのはアレイシヤの答案用紙で、そこに赤字で記されていた点数に海人は驚きを隠せなかったようだ。

 彼はブツブツと呟いてまた意識を手放しかけた。


「異世界から来たのに……。俺よりも年下なのに……」

「こ、これは……、まぐれですから! それに……っ、私は年下じゃ――――」

「ど、どういう事なの……!!?」


 海人は再び茫然自失となったようだが、彼の声に反応する者が。

 先程まで自身の点数を誇っていた桃子は、アレイシヤの答案用紙を覗き込んで驚き固まっている。

 こうなってしまえばもう隠してはいられないのだろう。

 アレイシヤは観念したかのように、答案用紙を真帆へと差し出した。


「これ……。物理も数学も、英語も……。90点以上じゃない」

「あ、えっと……。はい……」

「……成程。桃子がああだったから言い出し辛かったのね」

「それは……。その……」


 はしゃいでいる桃子の手前、アレイシヤは自分の点数を出しにくかったようだ。

 実際、アレイシヤの成績は中々のもので、人に教える余裕はあるだろう。

 これで皆の実力は測れたわけだが、この先が問題であった。


「私が絶対海人君の勉強を見るんだからね!」

「……桃子。今回は遊んでなんかいられないの。そこの所を分かっているの?」

「わかっているわ! 私が居るからには問題ないわよ。あ、そうだ! どうせなら夜までみっちり勉強した方が良いわね。という事で海人君、今晩から私の家に泊まりに来ない?」

「桃子……っ! 貴女ねぇ――――」


 真帆と桃子の言い争いがヒートアップしていくが、渦中の人物は放心状態で、誰一人止められるものは居ない。

 そうこうしている内にすっかりと陽は沈み、校内には下校時刻を告げるチャイムの音が響く。

 ささっと帰り支度を済ませた猿渡達は、呆けたままの海人の肩を叩いて後を託す。


「取り敢えず、今日はここまでという事で」

「それじゃあ海人。後はよろしくな」

「は!? いや待ってくれ、猿渡、雉岡。俺にどうしろって――――」

「男なら、責任はキチンと取らねばな」

「犬飼まで何を言って……」


 面倒事から逃げようとする猿渡達三人組。

 そして彼らをどうにか引き留めようとする海人。

 下校時刻を過ぎようとも関係なしに言い争う真帆と桃子。

 そんな二人の間に入って諍いを止めようとするアレイシヤ。

 海人はテストという強大な敵を前にして膝を折る所か、その前に至るまでに困難に見舞われるようであった。




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