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英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第4話 新生! ヒーロー研究部
27/213

5.襲撃者達との戦い

 敵地である異世界へと降り立った諜報部隊の五名。

 彼らは最初こそヴァルトハインの身勝手な行動で躓いたようだが、その後は順調に、こちら側から本国へと通信を繋ぎ、帰還できるよう転移装置の設置も成し遂げた。

 裏切り者や一部の兵士の暴走により度々不安定になった転移装置も今では安定したが、動力となるエネルギーの安定供給が行えないせいか、行き来できる人はせいぜい五六人までとなっている。


「この時が来たか……」


 市街地の外れ、うち捨てられた工場の地下に据えられた祭壇の前に立つのは諜報部隊の隊長であるベルトルムであった。

 彼は転移装置が正常に動き出して初めての増援に、正式に言えば第一部隊である者達を出迎えた。


「ここが異世界か……?」

「随分と暗くてじめじめとした所なのねぇ」

「ここは地下に作った転移の為の施設だから仕方が無いっスよ、姐さん」


 降り立った三人は皆が浅黒い肌でいて、青色を基調とした織物を腰や頭に巻き、軽い鎧を身に着けている。

 異世界での情報収集がある程度まで進み、次なる一手として選ばれたのは第三騎士団の三名で、彼らはベルトルム達とは別任を受けてこの地に降り立った。


「へぇ……。これだけの施設をアンタ達が作ったのか。これは凄いなぁ~。騎士としての才よりもこちらの方が向いているのかも知れないな」


 皮肉を交えて労をねぎらったのは二十代半ばくらいの青年で、名はジェラスという。

 彼はこの部隊の隊長であるが、彫刻のような逞しい身体でいて、顔も整っているなど、武骨なベルトルムとは見目が違っていた。

 見た目だけでも嫌味ったらしいが、吐いて出る言葉にも嫌味が含まれており普通の人ならば腹を立てる所だが、ベルトルムは顔にすら不機嫌さを露わにしなかった。

 ジェラスよりも年上であって、精神的にも成熟しているベルトルムはこの程度の嫌味に腹を立てたりはしないが、彼にも苦手な相手がいるようであった。


「そうねぇ。でもせっかくこんなに逞しい身体をしているのだから、裏方だけではもったいないわ」


 そう言いながら近づいて来たのはグエンダという者で、彼女はベルトルムの身体にそっと触れてなぞりつつ舌なめずりをした。

 グエンダは自身の身体に余程自信があるのか、大胆に肌を露出させており、色香を漂わせている。

 いくら小馬鹿にされようとも動じなかったベルトルムだが、彼女だけは苦手のようで、しかめっ面をして距離を取り、このような場で冗談を止めろと言いたげに咳払いをしていた。


「兄さん、姐さん、立ち話はこの辺で。サクッと終わらせて凱旋と行きましょうよ」


 腰を低くして提案してきたのは小柄な青年で、彼の名はマシューという。

 他の二人よりは身体つきが貧弱のようであるが、その分素早さは勝っていて、彼は戦場を掻き乱すのを得意としていた。

 今回の任務を軽く見ている三者だが、その自信に裏付けされるほどの実力は持っており、第三騎士団の本来の持ち場である船上ではなくとも問題は無いようであった。


「それじゃあ、俺達はこれで」

「ああ、くれぐれも気を付けるように」


 彼らの任務はこちらの世界に降り立った裏切り者を処分する事。それからこちらの世界の者へと付与された魔導装具(ソルチ・キラーソ)を回収する事。そして何よりも最重要とされているのはグンターをシュトラルヴェルトへ送り返すなど、転移の術を操る者を捕える事であった。






 部活帰りの海人達の前に現れた三人組。

 彼らはこの世界において普通とされていない恰好を、鎧を身に纏い武器を手にしている。


「ベルトルムの情報よりも少しばかりズレてはいたが、こうして標的と会い見えたのだから良しとしよう」


 浅黒い肌の青年は湾曲した刃の剣、カットラスをアレイシヤへと向けて不敵な笑みを浮かべた。

 彼らが何者なのか。それは問うまでもない事で、海人は桃子達の手前であるが躊躇う様子を見せずに蒼い鎧を身に纏い、真帆も魔杖を手にした。


「アーシャ! 桃子達を頼む……!」

「は、はい……っ!!」


 海人に頼まれたアレイシヤは桃子や猿渡達を安全な場所へと避難させようとするが、彼女達は驚き目を見開いていて立ち尽くしている。

 突然目の前に刃物を手にした者達が現れ、更には海人や真帆が見た事も無い姿に変わり、彼女らが呆然とするのは当然と言えるだろう。

 アレイシヤは一刻も早くこの場を去るべきだと訴えるが、動揺している桃子達に呼びかけは届いていない。


「ちょっとぉ。お嬢ちゃんに逃げられちゃ困るんだけど」


 塀へと飛び乗り、くるりと身を翻してアレイシヤの行く先に降り立ったのは浅黒い肌を惜しげもなく晒した美女で、彼女は両手に持つ銃を向けてきた。

 どうやら今回の敵の狙いはアレイシヤであると分かったが、彼らの狙いはそれだけではないようだ。


「狙いは私、なんですね……。……分かりました」

「アーシャ……っ! 何を言って――――」

「大人しく投降するので皆さんには手を出さないで――――」

「いやいや、そう簡単にはいかないっスよ。あっしらにはそこの坊主と嬢ちゃんにも用があるんだからな」


 腰を低くして手元のナイフをクルクルと回していたのは小柄な青年で、彼はアレイシヤの要求をアッサリと跳ね除けた。

 どうあってもこの場に居る誰一人逃さないと、敵は容赦なく迫っており、囲い込まれてにじり寄られ、海人達は逃げ場がなくなる。


「俺達も無駄な血を流すつもりじゃない。そこの裏切り者の嬢ちゃんと魔導装具(ソルチ・キラーソ)が戻ってくれば良いんだよ」


 そう提案されたが海人が素直に頷く筈はない。

 敵が約束通りに身の安全を保障するとは言い切れないという事もあるが、何よりもアレイシヤを引き渡すなど、絶対に出来ないからであった。


「答えは聞くまでもないようだな」


 先に踏み出したのはどちらか。ほぼ同時に地面を蹴り出した海人とカットラス使いの男は拳と剣とでぶつかり合う。そして彼らが動くのと同時に他の二人も攻撃態勢に、真帆とアレイシヤは敵の攻撃から桃子達を守るように動き出した。

 大剣を振るうグンターやナイフを扱うヴァルトハインとは違うカットラス使いの剣捌き。

 彼は両利きであるのか、カットラスは右手と左手を絶え間なく行き交い、尚且つ足取りは踏み込んだかと思えば身を引いてみたりと、まるで剣舞を見ているかのようであった。

 海人は相手の動きを気にせず力押しにしている訳ではないが、カットラス使いの男に翻弄されるように、踊らされている。


「へぇ……、感じるな。お前の纏う力は水神龍レヴィアタンのものか」

「何を言って――――」

「やれやれ、せっかくの水神龍の力が無駄になっているな」


 憐れむような目で溜息を吐いたカットラス使いの男は後ろに飛び退いて距離を取り、剣を掲げて振り下ろす。すると青白く光った刀身から刃が放たれ、海人の横っ面を掠めた。


「刃が飛んだ!? 着脱式……、いや、これは――――」

「カイトさん、マホさん! 敵は皆、水属性の魔導装具(ソルチ・キラーソ)を用いています……っ!」

「どおりで……っ! 私の魔法が、効かないと思ったわ……っ!!」


 海人に向けられたのは水で出来た刃であって、コンクリートの塀へ傷を付ける程の威力があった。

 水神龍の力が宿る鎧であるから何とか受けとめられもするが、飛び道具を使われるのは厄介で、それに加えての接近戦で海人は攻めるタイミングを見失う。

 アレイシヤはグローブ型の魔導装具(ソルチ・キラーソ)を装着し、地面に手を付く事で土壁を発生させて防御に徹しているが、銃型の魔導装具(ソルチ・キラーソ)から放たれる水弾に防御壁は崩されつつあった。

 守りに入っていた海人とアレイシヤとは違い、真帆は魔杖で炎の矢を放つが、小柄な男の動きは俊敏で、中々命中しない。ようやく一撃を食らわせたかと思えば、それは手にしたナイフ型の魔導装具(ソルチ・キラーソ)が纏う青白い光によって無効化されてしまった。


「どうしたんだ? 最初の勢いが無くなってきたな」

「……クっ!」


 敵は余裕な笑みを浮かべて攻撃を続け、海人達はジリジリと後退する。

 袋小路に追い込んだ獲物をいたぶるように敵は攻め続けて海人達は追い込まれるが、背後には桃子達が居る為、彼らが背中合わせになることは無かった。

 このままでは桃子達を守り切れないと、どうにか敵の虚を衝けないかと窺っていた海人だが、程なくして彼の方が不意を突かれる結果となる。


「――――いい加減にして!!」


 金属同士がぶつかり合う音や水弾が土壁を抉る音を掻き消して響いたのは一人の少女の、桃子の叫び声であった。


「意味が分かんない!! どうしてこんな事になっているのよ!?」

「も、桃子……?」

「大体アンタ達一体何者なのよ! いきなり襲い掛かってくるなんて頭おかしいんじゃないの!? しかも刃物を振り回したり、銃なんて使って!! 銃刀法違反って知らないの? バッカじゃないの!!」


 桃子はただただ子どものように喚いているようなのだが、海人達だけでなく敵も手を止めてしまっていた。

 一見すると大人しそうであって、可愛らしくもある彼女から飛び出たあまりの暴言に敵味方関係なく茫然としているようである。

 皆が桃子のペースに巻き込まれていたが、小柄なナイフ使いの男はいち早く正気に戻り、棒立ちのままの真帆に斬りかかろうとした。


「それっ! それが駄目なのよ!!」

「へ……?」

「女の子に向かってなんてモノを向けているのよ! 顔に傷でもついたらどうするの? アンタが責任とれるってワケ?!」


 不意打ちを喰らわそうとした男に説教をしだす桃子。

 その勢いはすさまじく、彼女の背中には怒りのオーラと般若の面が浮かんでいるようで、小柄なナイフ使いの男はたじろいでしまった。

 何の力も持っていない筈の小娘にどうしてここまでしてやられるのかと、今度は銃を構えた女性が味方に呼びかけて流れを変えようとした。


「二人とも。小娘の戯言に構うことは無いわ。今すぐその喧しい口をきけなくしてあげ――――」

「アンタこそ黙っていなさいよ! 厚化粧の露出狂ババァが!!」

「――――……今なんて言ったのかしら?」


 桃子の挑発とも取れる発言に銃使いの女は見事に掛かったようだ。

 先程までの余裕の表情は無く、口元がピクピクと痙攣しており、どうにか怒りを抑え込んでいる様子で、今すぐにでも爆発しかねないでいる。

 これ以上は付き合いきれないと、皆殺しでも構わないだろうといきり立つ銃使いの女だが、カットラス使いの男はケラケラと笑い飛ばした。


「な、何が可笑しいのよ?」

「可笑しいに決まっているじゃないか。俺達は命のやり取りをしているってのに、小娘一人に掻き乱されてしまってな」


 ひとしきり笑っていたカットラス使いの男だが、暫くして彼は武器を下して提案をする。


「そこの嬢ちゃん。俺はアンタが気に入った。悪いようにはしないからそこの裏切り者と一緒にこっちに来ないか?」

「お断りよ」


 敵の誘いに対して桃子は間髪入れず願い下げた。

 それは予測通りで、カットラス使いの男は色好くない返答が返されると覚悟していたようだが、更なる追い打ちは予測していなかったようだ。


「そこの小僧と俺とを比べてどちらについた方が良いか分からないのか?」

「比べるまでもないわ」

「へぇ……。手も足も出ないガキのどこが良いんだか」

「はぁ? 何を言っているのよ。アンタだって海人君の鎧に傷一つ付けられていないじゃない!」

「……っ!!」


 桃子の指摘は間違ってなどいなかった。

 敵の扱う武器は水の属性であって、海人の纏う鎧も同属性である。その為、属性の攻撃は通らないどころか、水神龍の力は伊達ではなく、並の魔導装具(ソルチ・キラーソ)では歯が立たない。

 至らぬ点を見破られたカットラス使いの男からは笑みが消え、彼は再び武器を構える。

 彼に呼応するよう、銃使いの女もナイフ使いの男もそれぞれ武器を構えた。


「そこまで見くびられているなら、本気を見せてやらないとな」


 場は再び緊迫した空気に。それ以上に張りつめたものへと変わり、殺気が飛び交う。

 どうやら桃子の発言は火に油を注ぐ結果となったようであった。


「まずは嬢ちゃんから俺らの本気を思い知って貰おうか!」


 カットラスから放たれた水の刃は一直線に、狙い定めた者へと向かって行く。

 口では負けなしの桃子であったが、彼女は何の力も持たない。

 敵の攻撃になす術もない彼女だが、海人が黙って見過ごす筈もなく、彼は身を挺して守ろうと動く。


「そうはいかないわよ!」

「お前の相手はあっしらがしてやるぜ!」


 いつの間にか海人の目の前には小柄なナイフ使いの男が。そして銃使いの女も海人へと狙いを定める。

 二人に阻まれた海人は桃子へと向けられた攻撃を防ぎきる事が叶わなかった。


「――――……っ!! …………何も……、痛くない……?」


 海人の動きを二人に封じられ、カットラス使いの男の攻撃を防ぎきれなかったと覚悟したが、桃子は自分の身が一つも傷ついていない事を疑問に思った。

 確かに鋭い刃は迫っていたと顔を上げると、己の身に大きな影が落とされていると気が付く。


「……犬飼君?」

「……っ、怪我は……ないか……」


 大きな体は桃子を守るようにして覆い被さっている。

 犬飼のお蔭で桃子は怪我を負う事が無かったが、彼女を庇った彼の肩は浅くだが抉れており、傷口からは赤い血が滲み出ていた。




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