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英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第3話 魔法少女現る!?
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3.思いがけない場所での出会い

 虹色の光に包まれて、身体が吸い寄せられるような感覚を覚えて、視界がぐにゃりと歪んだと思えば、見知らぬ土地へと立っていた。


「……ここが、異世界、か……?」


 自然は溢れておらず、建造物ばかりが立ち並ぶ場所であると書物には記されており、グンターからも同様の報告が上がっていたが、目の前には木々と藪しかなかった。

 周辺は木々に囲まれており、事前に収集していた情報とは差異があり、四角い建物などは見当たらない。


「……転移が失敗したのか……?」


 諜報部隊の隊長、ベルトルム・ブランズは共に転移してきた者達の無事を確認するが、特に異常は無いようであった。

 第一騎士団のバクストン・ビゼットは周辺を見渡して気配を窺い、第四騎士団のヴィレッタ・クレヴィルは上手く着地できなかったのか、立ち上がって埃を払い、第五騎士団のジェズ・ダビッツとザクルス・ジリアクスは転移装置を設置する為の魔道具が壊れていないかを確認し、第七騎士団の者は一人でこの場を去ろうとしていた。


「――――……六人目……!? お前は――――」


 部隊は五名構成であったが、一人多い事に気が付き隊長は驚き声を上げ、居る筈の無い六人目へ静止を呼びかけた。

 止まれと言われて素直に止まる者が居るのだろうかと思われたが、その者はすんなりと聞き入れてその場に留まり、振り返って笑みを浮かべる。


「ヴァルトハイン……副隊長……!?」

「やぁ! それにしても、ここが異世界だなんて信じられないねぇ~」

「確かにそうですね……――――。……では無くて……っ!! 何故副隊長が此処に……!?」

「ん~?」


 何かと面倒事を起こすと噂されているヴァルトハイン。

 実際に同じ騎士団に属するベルトルムは彼に苦労を掛けさせられている事が多々あり、けれどもそれらは全てヴァルトハインの父である宰相ベルントの手によって握りつぶされていたのである。

 そのようなトラブルメーカーが何をしでかすのかなど予想できる筈もなく、けれども悪い予感しかしないベルトルム達は各々が武器を手にしかけるが、ピタリとその手が止まった。

 薄っすらと口元に笑みを浮かべるヴァルトハインからは敵対の意志は感じられない。

 やりあう気は無いのだと分かるが、そもそもやりあう必要が無いのだろう。

 彼に刃を向けるという事は宰相に刃向うのと同様であって、そのような暴挙に出るわけにはいかず、皆はどうにか踏み止まった。


「――――何故、副隊長が此処に居るのでしょうか……?」


 努めて平静に、ベルトルムはヴァルトハインに問い掛ける。

 すると彼はへらへらと笑い、さも当然とばかりに現状を説明しだした。


「アンタ達は聞かされていなかったかもしれないけど、俺様も諜報部隊に加わる事となったんだよ」

「そのような話……、ルクレーノ団長からは何も聞かされていませんが……」

「ああ。団長からじゃなくて、宰相閣下直々の命だからね」

「な……っ!?」


 その名を出されてはそれ以上問う訳にはいかず、ベルトルムは押し黙り、思う所はあるが状況を受け入れた。


「で、話はこれで終わり? もういいかな?」

「……副団長、一体どこへ……?」


 話を切り上げたヴァルトハインは皆に背を向けて一人歩き出す。

 再び呼び止めるが振り返った彼は心底面倒臭そうであって、顔を歪めさせていた。


「俺様は別部隊で単独行動なの。お前達は命令通りにやっときゃいいからさ」

「そんな訳が……っ」

「あぁ……?! 何か文句でもあるの?」

「いえ……。くれぐれもお気をつけて……」

「ああ。アンタ達もせいぜいヘマをしないようにな」


 ヒラヒラと手を振って去って行くヴァルトハインを止められる者は居らず、皆はただ彼の背中が小さくなるのを見ている事しか出来なかった。






 細やかなレースに、可愛らしいリボン。光沢のある生地やチェック柄。

 華やかであったり、際どくもあったりする面積の狭い衣類の専門店、ランジェリーショップで真帆はあれこれ手に取り品定めをし、アレイシヤはオロオロと辺りを窺っていた。


「それにしてもさっきの海人の顔、面白かったわよね」

「そ、そうですか……? 何だか気の毒なような気が……」

「いいのよ、あれくらい。……紛らわしい事を言った罰だわ」


 呑気な海人は何も考えず真帆が向かう所へと着いてきた訳だが、危うく足を踏み入れてしまう段階で気が付き、その場で硬直してしまった。

 店内に居た女性客からの突き刺さる視線で正気を取り戻した海人は、顔を赤らめて慌てて踵を返し、外で待っていると言い残して逃げるように去って行ったのである。

 今現在、海人を外で待たせているのだが、真帆は全く悪いと感じていないどころかしてやったりという顔でいて、申し訳なく思っているのはアレイシヤだけであった。


「まぁまぁ、海人の事は放っておいて。どれが良い? アーシャちゃん。私はコレなんかお薦めなんだけど」


 真帆が手にしているのはフリルがあしらわれ、リボンとストーンチャームが付いた可愛らしいデザインのものである。

 アレイシヤが元居た世界、シュトラルヴェルトでもこういった可愛らしいものが売られてはいたが、こちらとは違って大量生産する事は出来ず、一つ一つが手作りであるため値が張り、となればそういった品を身に付けられるのは貴族や王族、裕福な商家の者で、アレイシヤには手が届かなかった。


「わ、私はそのような派手なものは似合わないので……っ。あっちの方が良いかと……」


 そう言ってアレイシヤが指を指したのは飾り気のない単色で、上下セットのものである。

 新米鍛冶師であるアレイシヤはこれまで仕事を覚えるのが精いっぱいで、御洒落に時間やお金を掛ける暇もなく、身に着ける衣服は動きやすく洗濯がし易いものばかりであった。

 可愛らしい衣服に全く興味が無かった訳でもないのだが、これまでの事と、今置かれている状況、居候という立場であるからして、申し訳ないという気持ちが勝っていて、選ぶのは地味目のものばかりであったのだ。


「それはちょっと……。いくら予算があると言っても、苦しいかなぁ……」

「え……!?」


 よくよく値札を見てみると値段はかなりのもので、先程真帆が薦めたものが三着も買えるくらいであった。

 真帆の説明によると、ブランドものであって、生地も良いもので、国内製であるからして値が張るそうだ。

 思いがけない高級品から目を逸らし、次にアレイシヤが手に取ったのは肌色のもので、しっかりとした生地であって先程のものよりは高くはなかった。


「これではどうでしょうか……!?」

「これは……、うん、どちらかというと大人向けというのか……」


 それは形を整える為のものであって、私達にはまだ早いと真帆は言い切り、そのコーナーから離れるよう、アレイシヤの両肩を掴んで移動させた。


「でも、やっぱり私には……。他の方と比べると、こんなナリですから……」


 小さな身体であって、他の客のスタイルと比べると場違いな気がするようで、やはり自分には似合わないと、普段は見えないものだから今のままでも構わないとアレイシヤは言ったが、真帆は首を横に振った。


「確かに背は低いけどね……。さっき見えちゃったのよ」

「え……? な、何をでしょうか……?」

「私の部屋で着替えたでしょう。その時にね……」

「着替えの時に……?」

「……アーシャちゃん、アーシャちゃんのサイズは何カップなの?」

「カップ? えっと……、それは……」

「ああ、そう言えば寸法とかサイズもこっちとあっちじゃ違うのかしらね」


 キチンとしたサイズを測らねばということで、店員に採寸をしてもらう事に。

 そこで判明したアレイシヤのサイズに対し、真帆はこの世の終わりであるかのように絶望した表情になり、これまでよりも強く購入を薦めて来るようになってしまった。

 持たざる者からしてみれば持っている者が自覚無しに駄目にしていくというのが許せないらしく、最後には鬼気迫る表情で訴え、結果としてアレイシヤは真帆の助言をすべて受け入れる形となった。






 真帆とアレイシヤが楽しく? 買い物をしている中、海人はというと真帆達が入った店から少し離れた場所にあるベンチに座り、行き交う人々をぼんやりと眺めていた。

 休日を思い思いに過ごす人々の姿からは、この世界に迫る危機など微塵にも感じられず、これまで起きた事が嘘であったかのように思われる。


「……それでも、気を緩める訳にはいかないな」


 ここ二三日、シュトラルヴェルトからの侵略者が送り込まれてくることは無く、平穏そのものなのだが、敵が諦めた訳でもなく、いつまた侵攻が再開されるかは分からない。

 目の前の雑踏の中に敵が潜んでいる可能性も考えられ、そうなればどうなるのか…。想像しかけたが、そうさせない為にも自分は力を得たのだと、右腕に填められた腕輪を見つめ、緩まっていた気持ちを引き締める。


「――――いい加減にしてくれないかしら」

「……この声は――――」


 喧騒の真っ只中でも耳に届いた凛とした声。それは聞き覚えのあるもので、海人は自然と声を上げた者へと視線を向ける。

 行き交う人々の中でも目立つ姿は見間違いようもない程の美貌であって、その者は学校に居る時と同様に周囲から羨望の眼差しを浴びていた。


「生徒会長……? 何で此処に……」


 立ち止まっていたと言うよりは、足止めされていたのは姫条玲緒奈で、彼女の行く手を阻んでいたのは見るからに軽そうな男達であった。

 普通の人なら声を掛けるのを憚られるほどの美貌である玲緒奈に対し、馴れ馴れしく声を掛ける男達。

 余程自分に自信があるのか、何人かで群れているから大きく出られるのか。

 なんにせよ、玲緒奈にとっては迷惑な事であるらしく、ピシャリと断りを入れてその場を去ろうとした。


「おいおい、ちょっと待ってよ~」

「……っ! ……手を離しなさい」

「良いじゃん良いじゃん。さっきからずっとこの辺をウロウロしてたでしょ? ツレと離れたなら一緒に探すし」

「……結構よ」

「つれないなぁ~。でも怒った顔も可愛いねぇ~」


 手首を掴み、無理やり自分達に付き合わせようとする男達。

 相手は三人で、体格も良く、ガラの悪さから普通の人は関わり合いにはなりたくないのだろう。間に入って玲緒奈を助けようとする者は海人くらいしかいなかった。


「姫条先輩……!」

「……竜堂君?」


 さも待ち合わせていたかのように、玲緒奈の元まで駆け寄る海人。

 目配せをしつつ遅れた詫びを述べると彼女は意図を汲んでくれたらしく、小さく頷いて話を合わせた。


「ハァ……? 何だよテメェは……?」

「見ての通り、私は彼と待ち合わせをしていたのよ」

「この坊主と……?」


 男達は海人の姿を見てニヤニヤと笑い、小馬鹿にしている。

 釣り合いがとれていない事は海人も自覚していた為、男達にどれだけ貶されようが腹は立たない。けれどもこれでは間に入った意味が無く、この場を穏便に収めるのは難しくなりそうであった。


「こんな奴より俺達の方が良くね? 一緒に歩くにしてもこんなガキじゃなぁ……」


 諦める気は全く無いようで、しつこく声を掛けてくる男達。

 ここは強く出た方が良いだろうと、この様な往来で手荒な真似はできないだろうから少々口汚くあしらっても、未だ離さない手を無理やり払っても構わないだろうと思い至り海人は前に出ようとしたが、その前に玲緒奈が口を開いた。


「何か勘違いをしているんじゃないかしら」

「何だと……?!」

「貴方達のような相手の気持ちを慮ることが出来ない者にこの私が付いて行くと思っているの?」

「テメェ……! ゴチャゴチャと……っ!!」

「だってそうでしょう? しつこく言い寄って、絡んできて、腕まで掴んで……。こんな酷い誘いに乗ると本気で思っているのならおめでたいわ」


 掴まれた腕は強く振り払い、蔑んだ目で見つめ、詰る玲緒奈の姿はさながら女王様のようで、男達だけでなく海人も委縮してしまう。

 玲緒奈の言う通り男達は浅はかなようで、キツイ言葉を浴びせられて怯んだのは一瞬であって、すぐさま額に青筋を浮かべていきり立つ。


「このクソアマが……っ!!」


 我慢の限界に達した男の一人が玲緒奈の胸ぐらを掴もうと手を伸ばすが、それは海人の手によって止められる。

 男の手は玲緒奈まで届くことは無かったどころではなく、海人によってあらぬ方向へと曲げられてしまった。

 いとも容易く捻り上げてしまった海人の手並に男達は驚いたようで、皆言葉を失う。

 軽く見ていた相手の想定外の力を見せつけられ、更には立ち止まって何事かと観てくる者達も増え、男達は旗色の悪さを感じ取ったようで、まだ続けるのかと海人が問う前に尻尾を巻いて逃げ出した。

 何やら恨み言を叫びながら人波に消えていく男達の姿を見送り、海人は玲緒奈の様子を窺う。


「腕、強く握られていたようですけど、大丈夫ですか……?」

「……ええ。大したことではないわ。それよりも、ありがとう。助かったわ」


 男から手を出された時も、全く焦る様子を見せなかった玲緒奈は一人でもうまく切り抜けられたかのように思われる。

 礼には及ばないと、寧ろ自分が間に入ったせいで余計ややこしくなったのではと海人は謙遜して詫びるが、玲緒奈は首を横に振った。


「……ううん。一人だとどうなっていたのか分からない。貴方が居てくれて良かったわ」


 ふっと柔らかく微笑む玲緒奈。

 先程の高圧的な姿とはまるで別人であって、学校でもあまり見かけない表情で、海人は思わず見とれてしまう。


「……どうかしたの? ぼうっとして……」

「あ、いや、な、何でもないっス!」

「そう……?」


 思いがけない場所で高嶺の花である玲緒奈と会い、いつもとは違う彼女の姿を見ることができ、気持ちが浮つく海人であったが、その後すぐに厄介な目に遭うとはまだ知らずにいた。




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