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英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第3話 魔法少女現る!?
15/213

1.ヒーローの休日

 かつては工員たちが汗を流し、規則的な機械音が鳴り響いていたのであろうと思われる町工場。

 不況の煽りを受けて廃業となったのか、今では人影は無く、うち捨てられていた。

 埃っぽく、吹き付ける風で建物が軋む音を立てている場に居るのは一人の青年で、彼は膝を着き、悔しさを滲ませながら叫んだ。


「何故だ……っ、何故裏切った……!!」

「裏切り……? 僕は唯、己の信念のままに動いているだけだ……」


 そう吐き捨ててこの場を立ち去る黒いコートの男。

 青年は手を伸ばすが届かず、力尽きて倒れ込み、場面は暗転した。


「――――幼馴染で、親友でもある黒須アキトに裏切られた白崎ユウキ。変身ベルトを奪われ、力を失ったユウキの元に現れた謎の少女の正体は――――。次回、鉄面ナイトΩ第28話『新たなる力』乞うご期待!!」






 日曜日の朝。竜堂家の居間にあるテレビの前には食い入るように見つめる少女の姿が在った。


「カ、カイトさん! ユウキさんはどうなっちゃうんですか……っ!?」

「予告から察するに、何とかなるんじゃないか?」

「そうなのですか? それなら良かったです……!」


 テレビという存在自体は知っていたらしいが、実物として見るのはこの世界に来てからであって、アレイシヤは随分と興味深そうに、それこそ海人がつまらなく感じる料理番組や恋愛モノのドラマですら見入っている。

 特撮物もドラマと同様に話にのめり込んでしまうようで、欠かさず見ていた海人よりも真剣に視聴し、主人公が敵にやられればハラハラと心配するなど、感情を豊かに表していた。


「さて、そろそろ支度をするか」

「次の番組は見ないのですか?」


 特撮モノの次に放送されるのは少女が変身して悪と戦うアニメである。

 前に放送されていた二本の特撮モノと毛色は違うが、根本的な悪と戦うヒーローという所は同じであった。


「ああ、俺は別に。どっちかっていうと女の子向けだしな」

「確かに。可愛らしい女の子がいっぱいですもんね」

「まぁ男でも見ている奴はいるんだが……」

「そうなのですか?」

「……俺のダチの中の一人で、雉岡って奴がな」


 人の趣味にケチをつける訳では無いが、雉岡の入れ込みようは度を越しているものであって、彼の姿を思い浮かべた海人は苦笑いをする。


「それはさておき、出掛けるなら真帆にも声を掛けとくか……。ちょっと連絡してくるから、アーシャはそのままテレビを見ていればいいよ」

「あ、はい。では、お言葉に甘えさせていただきます」


 アレイシヤがこの世界に降り立った理由を明かし、竜堂家に世話になる事となって数日。

 襲撃を受けた事が嘘であったかのように、ここの所は何もなく、平穏無事な時を過ごしていた。

 と、言っても海人にとっての平穏とは他の者と違う所があり、ひったくり犯を捕まえたり、恐喝を阻止したりと、ご町内のヒーロー活動は続けていたのである。

 そして今日は日曜日。いつもなら賑わう繁華街で一日中パトロールか、体力作りのトレーニングをするところであるが、今日は海人の祖父である重蔵から提案があり、出掛ける事に決まった。


「一人で出歩くことはそう無いかも知れんが、町の案内はしておいた方が良いじゃろう。それから、女子は色々と物入りじゃろうて、ついでに必要な物を買いそろえるといい」


 そう言って重蔵はタンスの中から取り出した封筒を海人に渡す。

 封筒の中にはそれなりの金額が入っており、使い切れなかったら美味しい物でも食べてくればよいとも重蔵は付け加える。

 重蔵の提案に海人は素直に了承したのだが、アレイシヤは重蔵の申し出を丁重に断ろうとした。


「町の案内の件は御足労をお掛けしますが、よろしくお願いします。……で、ですが、お買い物の件はそのぅ……。い、一応、生活に必要な物は一通り用意しているので……」

「……ま、確かにそうなんだけどなぁ」


 アレイシヤがこちらの世界に持ってきた荷物はとても大きなものであって、海人が背負うのもやっとのくらいであった。

 彼女の言う通り、リュックサックの中にはひと通りの物が揃っており、生活をするには困らないだろう。衣服や下着も替えがあり、問題は無いように思えるが、その衣服が少々難ありなのである。

 ただ単にアレイシヤがファッションに興味がないのか、はたまたこれがシュトラルヴェルトで一般的に着られている服なのか分からないが、今現在アレイシヤが着ている服は地味で質素なのである。

 白いブラウスに茶色いひざ丈のズボン。決して似合っていない訳でもないのだが、シンプル過ぎて目立っており、アレイシヤの年頃にしては大人し過ぎる格好であった。


「……なんと言うか、今の服でも悪くはないんだが、怪しまれないようにするにはこっちの衣服を着ておいた方が良いんじゃないかと思ってさ」

「そ、それは……そうかもですね。でも、私には持ち合わせが……」

「お金の事なら気にする必要は無いぞ」

「そうそう。爺さんもこう言っている事だし、遠慮はいらないぜ」


 二人掛かりで説得されれば断るのも心苦しく感じるようで、申し訳なさそうにしながらも、アレイシヤは了承した。

 そのやり取りが行われたのは朝食時で、食後にテレビを見ていて今に至るのだが、海人は出掛ける前に真帆へと声を掛けようと思いつき、席を立って電話を掛ける。


「――――……出ない。……寝ているのか?」


 日頃夕飯や朝食を支度してくれる真帆だが、日曜の朝はゆっくりしたいとの事で滅多に竜堂家を訪れない。

 時刻は八時半過ぎで、休日ならばまだ眠っていてもおかしくはないが、キッチリとした真帆の性格からはどうにも想像できずにいた。


「……ま、いいか」


 暫くコール音を聞いていたが、休んでいるのなら仕方がないと、海人は真帆を誘う事を諦めて自身の支度に取り掛かった。

 それから数十分後。午前九時過ぎに海人もアレイシヤも支度が整い、二人は家を出る。

 まずは町内の案内をしようと歩き出した海人だが、数歩も進まぬうちに歩みを止める事となる。


「――――ん……? 真帆からか」


 海人をその場に留まらせたのは真帆からの着信で、彼はアレイシヤに少しだけ待ってくれと言って通話ボタンを押した。


「……朝から何よ。なんか用なの?」


 第一声は何時もよりも低く、声色だけで不機嫌さが分かった。

 機嫌の悪さは寝起きであったからだろうと察しがつき、まずは朝早くから連絡を入れてしまった事を海人は詫びた。


「別に怒ってはいないから。……寝起きでもないし」

「そうなのか? 寝起きじゃないなら何で――――」

「そ、それはどうでも良いのよ。それで、用件は何かしら」

「あ、ああ。そのさ、朝早くから悪いけど、買い物に付き合って欲しかったんだが……」

「か、買い物……!?」


 真帆は何故だかひどく驚いた様子であって、決して怒っている訳ではなさそうである。

 これまでの事を振り返ると、海人が真帆を誘って出掛ける事など無きに等しく、どちらかというと真帆に付き合わされる事が多く、それならば驚いても仕方がないだろうと、海人は一人で納得した。


「……」

「……真帆?」


 返答をせず、押し黙る真帆。

 急に誘ってしまい、その上朝早くからでは迷惑であったと思い至り、断られる事も覚悟した海人だが、彼が誘いを撤回する前に小さな声が聞こえた。


「…………よ」

「ん……?」

「良いわよ……っ」 

「お、おう。……助かるよ」

「ちょ、ちょっと、支度するから待っていてくれる?」

「ああ。それじゃ、俺の家で待っているから。支度が終わったら来てくれ」

「ええ。わかったわ」


 真帆も買い物に付き合ってくれることとなったのだが、どうも様子がおかしいようである。

 海人には思い当たる節が無く、体調でも悪いのかと見当違いな想像をしており、そんな彼は数十分後に真帆から恨まれる事となるのだが、当人は知る由もなかった。


「ま、待たせたわね」

「いや、そんなに待ってはいないが……」


 数十分後。竜堂家を訪れた真帆は何時もと違った雰囲気であった。

 普段ならキッチリと制服を着る真帆。その姿からは彼女の性格である真面目さが滲み出ているのだが、普段着は学校での彼女とはかけ離れた印象を受ける。

 春らしく柔らかな色のニットに小花を散らした柄のスカート。レース付きのシュシュで髪を束ねるなど、実に女の子らしく可愛らしい恰好であった。


「……ど、どうせ似合わないとか思っているんでしょ」


 まじまじと見つめていた事を悪く取ってしまったようで、真帆は不貞腐れてしまい、勝手に決めつけてしまった。

 そんな事はないと、ただ普段とは違っていて驚いただけだと、可愛い恰好も似合うと言いたかった海人だが、女性を褒める事など慣れていないせいか直ぐに言葉が出てこない。

 彼がまごまごとしている間に感想を述べたのはアレイシヤであって、彼女は屈託のない笑みで褒めた。


「凄く可愛いですね……! とても似合っています」

「そ、そう……? ありがとう、アーシャちゃん」

「ああ、そうだな。そういう格好も似合っているな」

「…………う、うん。…………ありがと」


 アレイシヤに乗っかる形となったが、海人の言葉は偽りでなくて、その想いは伝わったのか、真帆は頬を染めさせて礼を言う。

 段々と気恥ずかしくなってきたのか。真帆は空気を変えるように話題を切り替えようと、本題について問いかけた。


「そ、それで、買い物って何を買いに行くの?」

「それなんだが、先に町の案内を済ませようかと思っていて――――」

「え……? 案内……?」


 海人の言葉に目を丸くしていた真帆だが、彼の隣に居るアレイシヤの姿を見て状況を理解したようで、がっくりと肩を落としてブツブツと呟き始めた。


「……そうよね。海人がデートに誘ってくる筈なんて無かったわよね。……ちょっと考えれば分かる事じゃない」

「ん? 何を言って――――」

「な、何でもないわよ……っ!」


 機嫌を損ねたかと思えば褒められて照れたり、何やら落ち込んだかと思えば不機嫌になったりと僅かな間に様々な感情を表す真帆。

 出掛ける前からひと悶着あったのだが、結局の所、真帆も加わった三人で出掛ける事となった。






 薄暗く、じめじめとした地下通路を進んだ先。そこには重たい扉があり、その奥には祭壇があった。

 祭壇はシュトラルヴェルトと異世界を繋ぐ場所であって、その場には数人の黒衣を纏った兵士達が待機している。

 様々な要因で先送りとなっていた異世界への侵攻は、転移装置が安定した事から再び開始されるのであった。


「……チッ。俺様の出番かと思ったのによ」


 祭壇から離れた場所で、壁に寄りかかり愚痴をこぼしていたのは第七騎士団の副団長、ヴァルトハインである。

 問題を起こした第六騎士団に代わり先陣を切るのは第七騎士団を中心とした部隊で、他の騎士団からも諜報に長けた者達が集められた。

 以前より異世界侵攻に対して乗り気であって、自分こそが誰よりも戦果を上げて見せると息巻いていたヴァルトハインだが、彼が第一陣となる諜報員に選ばれることは無く、ここに来ても不満を漏らしていた。


「……今は向こうの世界の情報を収集する事が先決だ。……君は大人しく諜報活動を続けられはしないだろう」


 ヴァルトハインを諌めたのは第七騎士団長のルクレーノであった。

 彼から正論を言われるのは今回が初めてではなく、ヴァルトハインはもう聞き飽きたと言わんばかりに肩を落として両手を上げたのち、忌々しげに舌打ちをする。

 つまらなそうな面構えであったヴァルトハインだが、重い扉が開かれた事により、視線を上げる。


「……お、姫様のご登場か」


 室内に足を踏み入れたのはレイゼリア姫殿下と宰相ベルント、そして二人を警護する騎士達数名であった。

 見送られる兵は五名。第一と第四騎士団からは一名ずつ、諜報任務に長けた者を、第五騎士団からは二名で、異世界にこちら側へと繋がる転移装置を設置する技術者を、第七騎士団からの一人は隊長として統率に当たる。

 レイゼリアとベルントからの言葉を賜り、出陣式は終わりを告げ、いよいよ第一陣を送り出す事となった。


「それでは、姫殿下」

「うむ。わらわに任せるのじゃ」


 小さな身体よりも長い杖を手にしたレイゼリアは、呪文を唱え、長杖を振るう。

 すると祭壇に刻まれた紋様から光が放たれ始め、地面が微かに揺れ始めた。


「姫殿下……っ!」

「わらわなら……大丈夫じゃ」


 祭壇へと力を注ぎこんだレイゼリアは足元から崩れるようにして倒れかけ、傍に居た女性騎士に支えられる。

 力を使い果たし、気を失いかけながらも、無事に起動した転移装置を見つめるレイゼリアは、祭壇の中心部に浮かぶ虹色の光の玉の向こうに想い人の姿を浮かべた。


「……あの向こうに、わらわの英雄が――――」


 レイゼリアが意識を手放して直ぐ、諜報部隊の姿は光の玉に飲み込まれてゆく。

 そしてそれらと同時に、辺りは煙に包まれた。


「な……っ?! 何だこれは――――」


 反逆者によるものなのか、転移装置が異常をきたしたのかと大声を上げるベルント。

 騎士達も不測の事態に慌てるばかりであったが、ルクレーノはすぐさま煙を払うよう、風の魔術を唱えて視界を晴らした。


「――――転移装置には異常はない。となれば――――」


 祭壇の光は収束しており、諜報部隊は無事に転移したようで、転移装置自体も破壊された痕跡はない。

 造反者が現れ、レイゼリアやベルントが危害を加えられた様子もなく、騎士達も皆、無事である。

 唯一異変が起きているのは、ある人物の姿が見えない事であった。


「……してやられたか……っ!」

「何だと……!!?」


 辺りが煙に包まれている間に姿を消した者。それはヴァルトハインで、恐らく彼は諜報部隊と共に異世界へと渡ったのだとルクレーノは気付き、ベルントは顔を青ざめさせた。




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