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英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第14話 異世界シュトラルヴェルト
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6.夜更けの中庭にて

 海人達が魔王城に身を寄せて三日目。

 今日も今日とて海人達はアルドアーズに協力して貰い、戦闘訓練をこなす。

 そして失った魔力を回復させなければならない遠藤はと言うと、前日や前々日と同じように彼の元に魔族の女性達が詰め寄り、相手をせざるを得ない状況となっていた。


「も、桃子嬢、これは違うのだ」

「別に弁明する事なんてないわよ。アンタは元からそういう男なんだから」

「否ッ! 行為はただの手段であって、そこに愛など無い! 我が愛するのは桃子嬢ただ一人だけであって――――」

「私、誰彼構わず抱く男なんて無理だから。寧ろそんな男はこの世から消えてしまえと願っているから」


 桃子に容赦なくあしらわれた遠藤はこの世の終わりのような表情を浮かべ、力なく倒れた。

 思いを寄せる者に無下に扱われて哀れであるが、彼のやっている事が事だけに海人達にはフォローのしようがない。

 皆は女性達に連行される姿をただただ見ている事しか出来なかった。


「それでは本日の訓練を開始致しましょう。皆様、準備はよろしいでしょうか」

「は、はい……」


 主である者の惨状を目の当たりにしたにもかかわらず、アルドアーズは全く動揺しておらず、これまで通り助ける事も無かった。

 彼の様子に海人は驚いていたが、これで良かったのかと問い掛ける暇は与えられなかった。

 一瞬にして張り詰める空気。

 それはアルドアーズが殺気を放ったからであって、海人は戦う為に鎧を纏い、他の者は武器を手に取り構えた。






 三日目、四日目と訓練をこなす日々は続く。

 アルドアーズの行使する術は様々であって、海人達は色々な状況下で多種多様な攻撃方法を受け、それを乗り越える術を学んだ。

 連携はより密なものに、主力である海人に何かあっても皆が纏まるように。

 短期間であるがみっちりと訓練を行い、海人達は身体と頭に戦術を叩き込んだ。


「皆様、お疲れ様でした。本日はこの辺で終わりとしましょう」


 アルドアーズが攻撃の手を止めると、皆はホッと息を吐いてその場に腰を下ろす。

 今回はここで油断させて不意打ちを仕掛けてくるということは無い。

 けれども訓練が終わる予定時刻より早く、時間を確認した海人は首を傾げてどういう事かとアルドアーズに問いかけた。

 彼がいつもより早めに切り上げたのは訳あっての事で、説明するよりも先にその原因である人物が海人達の前に現れた。


「フハハ。待たせたな、皆の者よ!」

「別に待っていないし、どっかに消え失せてくれると嬉しいんだけどね」

「も、桃子嬢……っ。あ、安心するがいい。我はもうあの者共と戯れる気はない」

「別にアンタが誰と何をしようと私には関係ないし」


 颯爽と現れて決めポーズを取っている魔王グエンドヴェルクこと遠藤。

 彼は思いを寄せている桃子から冷ややかな目を向けられ冷淡な言葉をぶつけられてしまい、足元から崩れて落ち込んでいる。

 この光景も見慣れたものであって、皆は遠藤を哀れに思いつつもそっとしておく事しか出来なかったが、今日も同じという訳にはいかないようで。

 遠藤がここに現れた理由を察しているアルドアーズは、下らないやり取りを断ち切るように主へ声を掛けた。


「魔王様、どうやら魔力を完全に取り戻されたようですね」

「ウム。今の我ならば街一つを軽く消せるであろう」


 遠藤は何やら物騒な事を言っているが、失っていた魔力を完全に回復させたらしい。

 魔力の回復方法については色々と思う所であるが、十日はかかるとされていた所が四日目で済み、一刻を争う状況では良かったと言える。

 これでいよいよ敵地に乗り込むのだと、皆は一気に緊張した面持ちとなるが、今すぐに動き出す訳ではなかった。


「それでは皆様、出発は明日の朝となりますので、本日はごゆっくりとお休み下さい」


 この先まともな休息がとれるかは分からない。

 寧ろ敵地に入るならば気の緩まる時は無きに等しいだろう。

 その為皆は十分に休息を取って明日へと備える事となった。






 訓練を終えた皆は浴場で汗を流し、自室に戻り荷物の確認をする。

 皆が持参した鞄はこの世界では異質な物の為、これまたアルドアーズによって提供された皮や布の鞄に荷物を入れ替えた。

 鞄の中には衣服だけでなく、携帯食料や術での回復が間に合わない時に使用する傷薬に、精神力の回復薬などが詰められている。

 皆が荷物を整え終わった所でタイミング良く夕食に。

 これまでで一番豪勢な食事を堪能し、後は床に就くだけとなった。


「……ちょっと、こんな夜中に何をしているのよ」

「……それはこっちの台詞よ。貴女こそここで何をしているの」


 夕食を終えて、皆はそれぞれに宛がわれた客室で休んでいた筈だが、夜更け過ぎに二人の少女、桃子と真帆は部屋を抜け出して廊下で鉢合わせた。

 いよいよ明日は敵地に入るという事で眠れないのは当然だろう。

 装備も整い訓練もこなしたが、不安が消え去ることは無い。

 心細さを解消させる為にというのもあるが、彼女達が寝床から出たのには他にも理由があった。


「桃子、明日は早いんだからもう休んだら?」

「それを言うなら真帆ちゃんだって同じでしょ」

「私は別に、ただ喉が渇いたからお水でも貰いに行こうと思っただけよ」

「えー? 水なら部屋に水差しがあったでしょ? どうしてわざわざ部屋から出てきたの?」

「そ、それは……」


 二人が向かおうとしている場所は同じで、目的も同じである。

 想いを寄せている者の、海人の傍に居られれば不安も和らぐもので。

 自分達が安心したいという気持ちもあるが、両親の安否が危ぶまれる海人自身が抱えている不安も相当なもので。

 彼女達は何か彼の力になれないかと思っているようで、けれども真帆は素直になれず目的を口にしなかった。


「私は海人君に会いに行くから」

「……! そ、そう……」

「それじゃ、おやすみ、真帆ちゃん」

「あ、ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ!」

「何よ~。何かまだ言いたい事があるの?」

「……あるわ」

「何で? 真帆ちゃんはお水を飲みに行くだけなんでしょ」

「~~っ!!」


 ニヤニヤと笑う桃子に対し、真帆は何も言えない。

 何か言おうとしても上手く言葉にならず、彼女は拳を握りしめてぐぬぬと唸っていた。

 反論できない真帆をその場に残し、桃子は優雅に手を振り海人の部屋までスキップで向おうとしている。

 真帆はこのまま桃子の背中を見送るしかないかと思われたが、彼女はハッとして踏み出した。


「な……っ! 何で並んで歩くのよ!」

「夜も遅いから貴女が海人の部屋に長居しないように見張るのよ」

「何それこわっ! 言われなくても海人君の迷惑になるような事はしないし!」

「ハァ!? 普段迷惑かけまくっている貴女がその台詞を言うの!?」

「かけてないし! 私に誘われて迷惑がる男なんてこの世にいる訳ないし!」


 夜中という事もあってか、一応二人は大声を出さずに小声で言い争いを繰り広げている。

 肩をぶつけながら目的地まで一直線に進んでいるが、大きな足音も立てないよう気を遣いながら早歩きをしている。

 男子と女子の部屋は離れており、熱くもあって冷ややかな争いはしばらく続いた。


「桃子、貴女は遠藤さんの所に行ったらどう?」

「はぁ~!? 何でアイツの所になんて……っ」

「色々あるようだけど、なんだかんだで魔王なのよね、あの人」

「そ、それがどうだって言うのよ」

「こんなお城に住んでいて、アルドアーズさんの美味しい料理が食べられて、至れり尽くせりよね~」

「そ、それはそうだけど……。だから何よ?」

「あの人と結婚すれば王妃様じゃない。桃子にお似合いだと思うけど?」

「だから何で私がそっち目当てで相手を選ぶと思っているのよ!」


 静かに言い争いを続けている内、二人は目的の部屋の前へと辿り着く。

 どうにか相手を言いくるめてこの場から立ち去るよう仕向けるが、互いに譲る気はないようで、結局二人同時に扉をノックした。


「海人、夜遅くにごめんなさい。少し話が――」

「海人君。ちょっといいかな? あのね――」


 ノックをして声を掛けるが、中から返事は返ってこない。

 今は夜更けであって、深い眠りに就いていてもおかしくはない。

 それならば起こしてしまわぬよう立ち去るべきだと真帆は判断し、踵を返そうとした。

 一方桃子はというと諦めが悪いようで、彼女はゆっくりと扉を開き断りもなく侵入しようとしている。


「な、何をやっているのよ! 桃子!」

「しーっ! 静かに!」

「眠っている人の部屋に勝手に入るなんて……」

「海人君、お邪魔しまーす」

「声を掛ければセーフって訳でもないでしょ――……って、あれ?」


 先程のノックと呼びかけで目覚めなかった海人は、侵入者が傍で話していても起きる気配がない。

 そもそもこの室内に海人は居ないのだから、彼女達のノックに返事を返す訳もなく、話声で目覚める筈もなかった。


「居ない……っ!? 一体何処に……」

「もう! 海人君ったら私を置いて何処に行ったのよ~!」


 もぬけの殻となっているベッドを前にして、真帆はやれやれと項垂れ、桃子は不満げに頬を膨らませた。






 真帆と桃子が海人の部屋を訪れる数十分前。

 寝付けずにいた海人は部屋から出て、ひとり城内を歩いていた。

 いつもなら夜中に目が冴えた時は近所をランニングして鍛えつつ、パトロールをするのだが、今日も同じという訳にはいかない。

 ここは海人達が住む世界ではなく異世界であって、海人達が身を寄せているのは魔王城であるからだ。

 城内は広く、廊下は長く、ランニングが出来そうであったが、今は夜更けであって、そもそも城内で走り回る程海人は非常識でもない。

 体を動かす場所なら心得ているようで、彼は訓練を行っていた中庭に向かっていた。


「……? あれは――……」


 この世界にも太陽と月といった星が空に在り、陽の光や月の明かりを地上に落とす。

 けれどもこの魔族が住まう土地は常に分厚い雲に覆われており、夜空は月どころか星さえも見えない。

 明かりの無い暗い中庭には手持ちのランプと思しき小さな光が一つ在った。


「そこに居るのはアーシャか?」

「カイトさん……」


 海人よりも先に中庭を訪れていたのはアレイシヤであった。

 彼女もまた海人と同じようで、眠れずにいて城内を歩きここに辿り着いたようだ。

 二人はここで逢った事に驚きつつも、つい最近同じことがあったと思い出し、笑みを溢した。


「隣、いいか?」

「は、はい。どうぞどうぞ」


 中庭の隅の、花壇の傍に在るベンチに腰を掛けていたアレイシヤ。

 海人は先に座っていた彼女に了承を得てから腰を下ろす。

 隣にといっても、二人の距離は近くなく、かと言って遠くでもなく。

 二人はランプを挟んで座っていた。


「アーシャも眠れなかったのか?」

「カイトさんも、ですよね」

「ああ。いよいよ敵地に乗り込むとなると、やっぱりな……」

「そう、ですね……。私もカイトさんと同じです」


 アレイシヤも海人と同じように、家族の安否が定かでない。

 二人は同じような境遇であって、不安や焦りなどの抱えている感情も同じで。

 だがどちらもその思いを口にする事はなかった。

 後ろ向きな言葉の代わりに出るのは前向きな言葉で。

 きっとこの先も大丈夫だと、アレイシヤは前を見つめて言った。


「この先も色々あると思いますが、大陸に入れば協力者とも合流出来ます。皆の協力があれば、きっと――」

「そうだな。そう言えば協力者の中には騎士団の団長も居るんだっけか」

「はい……! ルーノ……ではなく、ルクレーノ・ファルステラは第七の騎士団長で、私を送り出してくれた一人です」


 ガイラルド達四名の騎士団長は海人達の世界に残っており、こちらの世界に居る騎士団長は三名となっている。

 第七のは味方だとして、残るは第二と第五で。

 第五の騎士団は魔術を得意とする一団で、騎士団長エウゼビアス・テネブロは装具開発に没頭しており前線に赴くことはまずあり得ないそうだ。

 脅威となるのは飛竜を従える第二の騎士団で、団長クラウディオ・ブロヴェーゴとは衝突を避けられないだろう。


「飛竜との戦いはアルドアーズさんとの訓練で経験したけど、どうなるか……」


 空を舞うというだけで厄介で、鋭い鉤爪に両翼が起こす風圧、獰猛な噛付きと火炎のブレスなど攻撃も多種で威力が強大であって。

 そこに武器を携えた騎士が加わるとなると鬼に金棒というもので。

 竜騎士を相手に海人達は苦戦を強いられ、何とか対処法を形にできたが、それは付け焼刃に過ぎない。

 訓練の事を思い出した海人は思わず苦々しい顔をしていたが、すぐさま拳を握って気合を入れ直し、どんな相手であろうと負けはしないと奮起した。


「そうです……! 訓練で対処法は見いだせましたし、一応こちらには魔王もついていますし」

「あ、ああ。そうだな」

「それに、大陸に入ればルーノと連絡が取れます。彼ならば第二の騎士団長とも渡り合える筈です」

「……ルーノって人は一人で竜騎士を相手にできるくらいに強いのか?」

「はい……っ! ルーノは天馬、空飛ぶ馬の騎乗技術も得意としているので」

「そうか……」


 ルクレーノの事を語る時のアレイシヤは不安など全く感じていないようで、希望に溢れているようで。

 彼女の信頼を得ている者ならばかなりの実力を持っているのだろう。

 頼りになる者が味方であるのは心強い。

 けれども海人の心中は複雑なものに。


「カイトさん? どうかされましたか」

「あ、いや、それ程強い人なら会うのが楽しみだなって」

「そうですか……! 私も、こんな時ですが会えるのが楽しみです」


 僅かにざわつきを覚えたが、海人は首を振ってその感情から目を背けた。




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