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英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第14話 異世界シュトラルヴェルト
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5.力尽きるまで戦い続けて

 戦力を整える為、城の主である遠藤の勧めで城内の武器庫から武器や防具を借りた海人達。

 皆はそれぞれ自分の戦い方に合った武器を手に取り、身を守るだけでなく立ち回り易い防具を身に着けた。

 見た目は完璧であるが、初めて手に取る武器や身に纏う防具の性能を確かめず戦地に赴く訳にはいかないという事で、海人達はアルドアーズに案内されて修練場がある中庭へと向かった。


「それでは皆様、準備はよろしいでしょうか」

「はい。アルドアーズさん、よろしくお願いします」


 皆は一通り武器の使い方を確かめた所で実戦へと移る。

 的役となったのは先程調子に乗り過ぎて真帆や桃子の反感を買った猿渡ではなく、装備品選びで皆に適切なアドバイスをしたアルドアーズであった。

 戦闘訓練はアルドアーズ自身が戦うのではなく、傀儡を用いて戦う。

 彼の足元に置かれている鎧や剣、ローブに杖は彼が指を弾く事で動き出し、人の形となって立ちはだかった。

 共に戦うならば連携の確認も重要という事で、ここからは既に装備が整っていた海人とアレイシヤも加わり傀儡の兵士と対峙した。


「おっしゃ! まずは一体っと」

「猿渡氏! 危な――」

「……っ!! 怪我は無いか?」

「お、おう。サンキューな、犬飼」


 遠距離からの攻撃で早速一体の兵士を無力化させた猿渡だが、彼は魔術師に狙いを定められ魔術による攻撃をくらいそうになった。

 犬飼の働きにより一撃目は防がれ、雉岡の攻撃により魔術師の追撃は相殺されて事なきを得たが、敵も一筋縄ではいかないようで。

 彼らの元には剣を携えた兵士が迫り、弓兵は矢の雨を降らせようと狙いを定めている。


「ここは桃子ちゃんに任せなさい!」

「自分をちゃん付けして呼ぶなんて……。まぁ、どうでも良い事だけどね」


 剣士の斬撃は障壁によって弾かれ、弓兵の放った矢は放物線を描いた後に炎の壁に飲まれた。

 桃子が新たに手にした武器は障壁を展開させる杖で、皆の前に現れ剣士の攻撃を防いだ障壁は彼女が行使した術である。

 矢を消し炭にした猛き炎は真帆が放った魔術で、これまで炎の弾を放つのみの攻撃が腕輪を装備する事によって自在に変化した。

 彼女達の術により攻撃は防げたが、敵の勢いが削がれる事は無い。

 攻撃を弾かれよろけた剣士は即座に体勢を立て直し何度も斬りかかっており、弓兵は再び矢を放とうと弓を構えていた。


「カイトさん!」

「ああ、ここは任せろ!」


 防御を担っている者達が何時までもその状態を保てるわけではない。

 アレイシヤの呼びかけに応えた海人は単騎で敵陣に乗り込み攻撃を仕掛けた。

 一見すると無謀なようではあるが、海人が一人暴れる事で敵対心は彼に集中し、他の者は動き易く、援護に徹することが出来る。

 それはこれまでの連携の取り方と同じであって、皆の術の威力と守備力が高まった事により以前よりも上手く立ち回れていたが、水神龍の鎧を纏う海人の力に頼りきりな部分は変わらなかった。


「これで終わりだ!」

「さっすが海人君! 今日もカッコいい~!!」

「ちょっと桃子、何でいきなり抱き着いているのよ!」

「何って勝利のハグに決まっているでしょ」

「決まっているって、桃子、貴女ねぇ……!」

「……でもね、海人君。一つお願いがあるの」

「な、何だ? 取り敢えず離れてくれるとありがたいんだけど……」

「鎧がごつごつしてて抱き心地が良くないの!」

「だったらさっさと離れなさいよ!」


 最後の一体を海人が倒し、喜びに湧く一同。

 猿渡達三人組やアレイシヤは戦闘が終わりホッと胸を撫で下ろしているが、桃子と真帆は違うようで。

 二人は海人を挟んで新たなバトルを繰り広げており、周りを呆れさせていた。


「皆様、お疲れ様でした」

「アルドアーズさん。こちらこそ、訓練に付き合って下さってありがとうございます」

「いいえ、これしきの事、礼を述べられるまでの事ではございません」


 アルドアーズは拍手をして海人達の戦いを褒め称える。

 つい先日魔王城で待ち構えていた暴徒をたった一人で一掃してしまった彼に褒められるというのは気分の良い事であって。

 連携も上手くこなせて海人達は自信を付けていたが、慢心は出来なかった。


「魔王様からは騎士見習いなどでは無く勉学に励む学生であったと窺っておりましたが、中々の立ち回りでした」

「いや、それ程でも……」

「特に竜堂様、貴方様の戦いぶりはかつての勇者の姿を思わせるようで……」

「……そんな。俺なんか親父にはまだまだ及ばなくて――」

「――……仰る通りに。あの者は片時さえも隙を見せませんでした」


 訓練は終わり、和やかな空気の中で終えたばかりの訓練内容について語っていた筈だが、場は一転する。

 一瞬にして空気を変えたのはアルドアーズで、彼は後方に飛び退くと指を弾いた。

 パチンと乾いた音と共に発せられたのは先程の術、傀儡を操るもので、それは海人達の足元に倒れている鎧ではなく、別の場所で動き出した。


「アルドアーズさん!? 一体何を――」

「……っ!! み、皆さん、下がって――」

「アーシャ……っ!!」


 皆に警戒を促した直後に悲鳴を上げたのは一番後方に居たアレイシヤであった。

 海人達が振り向いた先に居る筈の彼女の姿は無く、彼女の小柄な身体は地面を離れ、宙に。

 それは土によって形作られた人型の傀儡によって掴まれ持ち上げられているからであった。

 中庭の花壇から盛り上がり人の形となっている傀儡は巨大で、一歩進む毎に地面は揺れ、大きな足は容易く人を踏み潰せそうなくらいである。

 かつてない巨大な敵を前にして皆が怯むのは無理もない。

 海人も皆と同じように目を見開き固まっていたが、捕えられているアレイシヤの声で正気を取り戻した。


「カイトさん! 後ろに――」

「……クッ!?」

「海人君……っ!!」


 海人の背後には先程まで倒れていた傀儡の兵士達が立っており、武器を構えていた。

 不意打ちを何とかかわした海人だが、彼以外の者は攻撃をくらい次々と倒れていく。

 鮮やかな勝利から場は一変して、海人達は膝を屈する事となった。

 不意打ちを食らわせ海人達を倒したアルドアーズだが、これもまた訓練の一部だったのだろう。

 急所は外されており、皆はただ気を失っているだけのようで、気つけの魔法によって皆意識を取り戻した。


「いきなり酷いじゃないっスか、アルドアーズさん!」

「いや、猿渡氏。今のは我々に落ち度があると思います」

「完全に油断していたからな……」

「そ、それはまぁ……、そうかもだけどよ……」


 敵地に入れば敵はいつ現れるか分からず、どのような攻撃を仕掛けてくるかも分からない。

 一時の勝利に気を緩ませず常に気を張るのは当然と言えば当然で、皆はこの結果に納得して反省している。

 最後まで残り戦っていた海人は猛省の後に立ち上がり、アルドアーズに頭を下げた。


「アルドアーズさん。もう一度お願いします」

「おや、まだ戦う気力が残されているのですか?」

「はい……! ……っと、皆は大丈夫か?」


 猿渡達三人組はやれやれといった風に肩を竦めさせているが、ここで諦める気はないのだろう。

 彼らは海人に付き合うと言って立ち上がり、再び武器を手にする。

 桃子達女性陣も音を上げることは無く、立ち上がると武器を構えて見せた。

 客人の要望とあらばアルドアーズは応えない訳にはいかない。

 彼は再び傀儡を使い、海人達の相手をした。






 傀儡はアルドアーズの魔力によって動き続ける為、いくら攻撃を加えようとも何度でも立ち上がる。

 海人達もまた戦って戦って戦って。

 新調した装備が泥にまみれて汚れようが、攻撃を受けて傷つこうが気に留めることなく戦って。

 何度も傀儡の兵士を倒し、倒され、力尽きるまで戦い続けた。


「やはり最後まで戦い続けられたのは貴方様でしたか」

「……ハァ、……ハァ、……ここが最後じゃない……っ。まだ俺は……――」


 先に底がついたのは海人の方であった。

 皆はとうに精神力を使い切って倒れ、今日はここまでで良いだろうと海人にも声を掛けるが彼は首を横に振って戦い続け、そしてまだまだやれると言いながら倒れてしまった。


「俺はまだ……、やれる……っ。このくらい……。何とも……、ない!」

「おい海人、そろそろ諦めたらどうだ?」

「そうですよ、竜堂氏。ここで無理をして体を壊せば元も子もありませんよ」

「……と言うか、もう動けないだろう」


 口ではまだまだと言うが、身体は悲鳴を上げているようで、思い通りに動かないようで。

 海人はどうにか再度戦いに挑もうとするが、立ち上がる事すらままならないようで。

 また明日も訓練に付き合うとアルドアーズに言われ、ようやく戦う事を諦めた。

 分厚い雲に覆われた空では分からないが、どうやら今は夕刻のようで、ジゼラが夕食の準備が大体整ったと伝えに来た。

 倒れた皆は自力で動くのが難しいようで、皆はアルドアーズの操る傀儡によって客室まで運ばれる事となった。


「も、桃子嬢、どうしたのだ、その姿は……っ!!」


 エントランスに差し掛かったところで、一行は女性達に解放されたであろう遠藤と遭遇する。

 彼は桃子の身を案じて駆け寄ったが、テンションの高さと漂わせる香水の香りで桃子の顔を顰めさせた。


「五月蠅い……。それに臭い……っ。どこかに消えて……」

「ムム! これは精神力の欠乏と見受けられるぞ。おい、アルドアーズよ、貴様が居ながら何をやっていたのだ!」

「申し訳ありません。ですが魔王様、私めは皆様の要望に応えたまでであります」

「そうよ、アルドアーズさんは悪くないわ」

「ムムム……。そうか……」


 魔力も精神力も似たようなものらしく、回復方法も同じであって。

 時間経過によって徐々に回復する手もあるが、睡眠をとる事や食事をする事でも回復する。

 回復薬という物も存在するが、これは海人達の世界の栄養ドリンクなどと同じで多量に摂取すると体に毒となる為、一度には服用できない。


「ならば我が桃子嬢を介抱しようではないか!」

「頼んでないから! って、あれ……、急に体がさっきよりも軽くなって……」


 傀儡の兵士から桃子の身を受け取る遠藤。

 彼に触れられた途端、重たかった身体は幾分か軽くなり、自分で立つ事は出来るようになった。

 当然として桃子は驚きどういう事かと尋ねるが、遠藤は愛の奇跡だと言ってふざけた回答しかしない。

 代わりに答えたのはアレイシヤで、彼女は精神力の回復方法が他にもあると言った。


「受け渡し? 私が尽きているのは精神力で、コイツが渡してきたのは魔力よね」

「性質は同じようなものなので問題は無いかと。ですがせっかく回復した魔力を渡すのはどうかと思うのですが……」

「我なら問題ない。魔力は順調に回復しており、予定よりも早く最大限まで達するであろう」


 転移魔法を行使した遠藤は魔力が尽きた筈であるが、終始ピンピンとしており喧しい事この上ない。

 彼曰く戦う分の力がないだけのようであって、完全に尽きてはいないようだが、それにしても彼の回復ぶりは驚くものであった。

 彼は他の者より長く眠っている訳でもなく、食事を多くとっている訳でもない。

 もとより回復のスピードが早いのもあるが、彼は別の方法で大量の魔力を得ていた。


「何でそんなに早く回復しているのよ」

「桃子嬢、知りたいのか? ならば我が手を取り足を取り詳しく教えてしんぜよう」

「だ、駄目です! モモコさん! その方法は――」


 何やら察しているアレイシヤは頬を赤らめて必死に呼び掛けている。

 彼女の様子から遠藤が何かしら怪しい事を企んでいると悟った桃子は彼からサッと離れ、アルドアーズにどういう事かと問い掛けた。


「魔王様は本日もお相手した女性の方々から魔力を受け取ったようです」

「ああ、成程……。でもそれがどうして? 何か問題があるの、アーシャちゃん」

「ええっと、それは……、つまり……」


 言い難そうにもごもごと口ごもるアレイシヤ。

 これまでの話の流れとアレイシヤの反応で雉岡は気が付いたようで、彼は男性陣に耳打ちをしていた。


「ちょっと何よ。分かっているなら教えてくれても良いじゃない」

「桃子嬢、房中術って知っているか?」

「さ、猿渡氏!」「おいやめろ!」

「ぼうちゅー……? 虫除けに何の関係があるのよ?」


 その後アレイシヤから真実を知らされた桃子はますます遠藤に対する当たりが強くなり、常にゴミを見るような目で接触を避けるようになった。




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