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英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第14話 異世界シュトラルヴェルト
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4.レッツ・ラ・お着替え!

 海人達が異世界シュトラルヴェルトに渡って二日目。

 次元を操る術を行使して大量の魔力を消費した遠藤が元の力を取り戻すまで時間を有する為、海人達は今も魔王グエンドヴェルクの城に身を寄せている。

 城での生活は魔王の配下、アルドアーズとジゼラによってもてなされて食事も睡眠も何不自由なく、と言うよりも至れり尽くせりであった。

 寝心地の良いベッドに豪華な夕食に朝食と、皆はここに何をしに来たのか忘れそうになるくらいに堪能し寛いでいたが、一人だけ、海人だけは違った。


「――――……トさん?」

「……」

「カイトさん!」

「……! アーシャか。どうかしたのか?」

「……それはこっちの台詞ですよ。私は先程から声を掛けていたのですが……」

「……悪い。少し考え事をしていたんだ」


 申し訳ないと言って海人は頭を下げるが、彼の表情はいつもの彼らしくなく固いものであった。

 彼がそうなるのも無理はない。

 アルドアーズの情報では海人の父親である譲司は敵に捕らえられており、母親であるマルリースは行方知れずという最悪な状況であった。

 居てもたってもいられず、今すぐにでも駆けつけたい。

 けれどもそうする為の手段も力もない。

 不安と歯がゆい思いから食事は喉を通らず、眠りに就くこともままならないかと思いきや、海人はどちらも問題ないようで。

 それは彼が必死に自分を抑え込んでいるからであって、時折思い詰めた表情で物思いに耽るのは致し方ない事であった。


「カイトさん、今は――」

「ねぇ見て見て海人君! これどうかな? 似合ってる?」

「も、桃子……っ! その格好は――」


 海人とアレイシヤの間に割り入って来た桃子。

 彼女は襟付きのチューブトップと際どいミニスカートという格好に着替えており、くるりと回って見せて視線のやり場を困らせていた。


「もしかして変かな?」

「い、いや、変ではない、けど、ヘソとか丸見えだし、丈も短すぎて……」

「えぇ? おヘソくらい良くない? 水着よりは露出少ないし。スカートだってほら、パニエを穿いているから大丈夫だよ」


 桃子の言う通りにヘソは出ているが露出度はつい最近見た水着姿程ではなく、スカートの下もフリルがふんだんにあしらわれているパニエによって隠すべき場所は見えないようになっている。

 水着と比べればと考えるが、やはりその格好は海人にとっては刺激が強いようで。

 彼は桃子の肩を掴むと選び直した方が良いと言って衣裳部屋に戻そうとした。

 昼食を終えた今現在、海人達は戦力を整える為に武器や防具が収められている部屋を訪れていた。

 皆はアレイシヤから託された魔導装具(ソルチ・キラーソ)をそれぞれ所持しているが、それだけでは心許なく、鎧を纏う海人以外は守備力が無きに等しい。

 アレイシヤが所持している装具はまだいくつか残されているが、どれも適合する物が無く、それならば装具でない武器や防具を手にするべきだという事で話が纏まり今に至る。

 防具も武器も必要ない海人は一人待っていた訳だが、桃子の選んだ衣服には頭を抱えざるを得なかった。


「そ、そんなに肌を出しているとすり傷だらけになるぞ!」

「フフフ。小僧よ。魔族の技術力を舐めて貰っては困るぞ」

「え……、遠藤さん? ええっと、それはどういう――」

「ここにある防具や衣服には魔力が込められているのでな。見た目に反して防御力はなかなかのものなのだ」

「そう、ですか……」

「であるからして、この様な衣装でも何も問題は無い!」

「……え!?」


 遠藤が手にしているのは黒い光沢のある衣服で、桃子が身に着けていた物よりも更に際どい物である。

 鞭を手にする女王様やサキュバスといった夢魔が身に着けていそうなその衣服を遠藤は桃子に着せたいようだが、あえなく却下されていた。


「なんか盛り上がっているが……って、うおお! 桃子嬢、その格好は――」

「おお、中々ですね。ここにこの姿を記録する媒体が無いのが惜しまれます」

「あ、ああ、そうだな……」

「フム。小僧達よ。貴公らは審美眼をもっているようだな。ならばこの衣装を着せるのに手を貸すがよい」

「そ、それは……っ!! 魔王様、俺は貴方様にどこまでも付いて行きますッ!」

「私としてはその衣装をアーシャたんに――」

「お、おい。猿渡、雉岡。少しは自重しろ」


 桃子が遠藤と攻防を繰り広げる一方、猿渡達三人組はそれぞれに適した防具と武器を身に着けて試着室として使用している小部屋から出てきた。

 風の力を込めた矢を放つクロスボウの装具を手にする猿渡は胸当てと膝当てを身に着けており、機動力を重視した軽装となっている。

 彼は主に遠距離からの攻撃を行うが、接近戦にも備えて武器はナイフを選択した。

 杖で闇の魔術を行使する雉岡はローブを身に纏っており、腕には銀の腕輪が填められている。

 ローブは込められている魔力によって防御力が高まるだけでなく、敵からの魔法攻撃も低減する力があり、腕輪は雉岡が行使する術を変質させて攻撃にも使えるようにする物であった。

 犬飼が持つ装具は大地の力を操る力が込められており、攻撃にも防御にも使える。

 敵の攻撃を引き付け皆の盾となる彼は鎧を纏い更なる防御力を、魔術にも物理攻撃にも耐える力を得ていた。

 鎧の重みで機敏さは落ちたかと思われたが、さほど重さは感じないそうで、これまでと変わらない動きが出来るようだ。

 桃子とは違って猿渡達は機能重視の装備を選んだようだが、見た目も様になっているようで。

 彼ら三名分を見繕ったのはアルドアーズで、彼はまたしても有能さを披露した。


「猿渡達も整ったようだな。これで後は桃子がまともな服に着替え直せば……って、あれ? もう一人……、真帆はどうしたんだ?」

「ここに居るわよ」

「わ!? 後ろに居たのか……。……ま、真帆。本当にその格好で良いのか?」

「何よ……。何か文句があるの?」


 いつの間にか海人の背後に立っていた真帆。

 彼女は大した装飾もされていない黒色の地味なローブを纏っていた。

 他に彼女が纏える物が無かった訳でもなく、アルドアーズも機能と見た目を併せ持った物を薦めたが、真帆はこの地味なローブを選んだそうだ。

 彼女は機能こそが重要だと言うが、他の者のように新しい装備に喜んでいる様子は無い。

 冷め切った表情に海人は首を傾げていたが、疑問は割入ってきた桃子によって解消された。


「あれ? 真帆ちゃん。やっぱりそのダサいのにしたんだ~」

「私達は戦いに行くのよ。見た目なんてどうでも良いわ」

「ふーん、そっかそっか。私が着ているのとか、別の可愛い系の服をチラチラ見ていたのは気のせいか~」

「……っ! そ、それはただ単に恥ずかしい恰好をよく平気な顔で出来るなと驚いただけよ」

「恥ずかしい? 可愛いの間違いでしょ? ま、私くらいの可愛さじゃないと似合わないから仕方がないよね」


 纏った衣服を見せびらかすようにしている桃子はニマニマと笑って真帆を煽る。

 どうやら真帆は可愛らしい衣装に興味があるようだが、気恥ずかしさから手に取る事が出来なかったようだ。

 異世界に来てまでもいつも通りに口喧嘩を始める真帆と桃子。

 アレイシヤは二人の間に入って仲裁をしているが、海人は自分ではどうにも出来ないと諦めているようで、距離を取って言い争いが終わるのを待っていた。


「おや、ずいぶんと賑やかなようで」

「アルドアーズさん。……すみません、騒がしくしてしまって」

「いえ、謝るような事では御座いません。賑やかな事は良い事なのですから」

「そう……ですか。賑やかと言うには度を越えているような気がするのですが……」

「もしお望みでしたら、この諍いを止める手立てをお教えいたしましょうか?」

「ほ、本当ですか? 是非、お願いします!」

「それではどうぞこちらへ」


 妙案があると言ったアルドアーズは海人を衣装が収納されている部屋へと案内した。

 暫くして皆の前に戻って来た海人は衣服を手にしており、尚も口喧嘩を繰り広げている者達に声を掛けた。


「真帆、ちょっといいか?」

「今は駄目。今日こそこの能天気娘に良識ってものを教えないと」

「そ、それは一先ず置いておいて、これを見て欲しいんだ」

「……なによ。……って、それは――」


 海人が手にしているのは一着のローブであった。

 色は黒色で真帆が纏う物と変わらないが、丈はひざ丈で真帆のより短く、縁にはえんじ色の糸で刺繍が施されているなど、違いが幾つか見られる。

 胸元の小さなリボンも派手過ぎず、可愛らしくなり過ぎず、それでいて地味ではなく。

 見栄えは真帆が選んだ物より遥かに良く、なにより彼女に似合う物であった。


「これ、海人が選んでくれたの?」

「あ、ああ。って言っても、俺一人じゃなくてアルドアーズさんからアドバイスをもらって選んだんだ」

「そう……」

「もしかして……、気に入らなかったとか……」

「ううん、そんな事ないわ。……せっかく選んでくれたんだから、これにするわ」


 小さくありがとうと呟く真帆。

 彼女は嬉しさから口元を緩めているが、気恥ずかしさからそっぽを向いてしまった。

 アルドアーズの助言通りに動いた海人は見事に言い争いを終わらせた。

 思わず彼は安堵の溜息を漏らすが、気を緩めたままではいられない。

 口喧嘩を繰り広げていたもう一人である桃子はこの展開に納得がいかないと声を上げた。


「な、な、な、何よそれ……っ! 真帆ちゃんだけズルいよ!」

「狡いって……。桃子は自分で選んだのがあるんでしょう」

「わ、私だって海人君が選んでくれる方が良いに決まってるし!」


 子どものように駄々をこねる桃子。

 ここに来て真帆は桃子よりも優位な立場となったが、それに驕る事はなく桃子を小馬鹿になどしない。

 真帆は喚き散らす桃子に対しどう対応してよいか分からないようで、海人に助けを求めるよう視線を送った。

 いつもの海人ならば桃子を宥めるのに苦労し、デートなどの約束で有耶無耶にするところだが、今日の彼は違うようだ。

 彼はこうなる事も想定して万全な準備をしていた。


「も、桃子、落ち着いてくれ」

「むー……、海人君も悪いんだよ。真帆ちゃんだけに選んで私には……――」

「その、気に入るかどうか分からないけど、桃子にも用意してあるんだ」

「ほ、本当に!? さっすが海人君!」


 海人が桃子に渡したのは上下一式の衣服ではなく、ケープやブーツなどの服飾小物であった。

 ベージュ色のフード付きのケープは腰の辺りまでの丈で、縁には金糸で刺繍が施されており、華やかな見た目であるだけではなく、露出している桃子の両肩とお腹を覆い隠す。

 茶色いブーツはロング丈で、これまた一緒に渡したタイツと共に桃子の生足を隠した。

 海人が選んだ小物により桃子の肌の露出は減ってしまったが、桃子の選んだ服との組み合わせは良かったようで。

 鏡の前で満足げにしていた桃子は、海人に抱き着いてから感謝の言葉を述べた。


「ありがとう! 海人君」

「き、気に入ってくれたなら良かったよ」

「うん! 私が選んだのとバッチリ。これは私と海人君の相性が良いって事だよね」

「え!? いや、相性って……」


 先程の不機嫌さから一変して上機嫌となった桃子。

 これで真帆と桃子の喧嘩も収まったかと思われたが、次は別の所で不満が上がる。

 納得がいかないと異議を唱えているのは意気投合した遠藤と猿渡で、どうやら二人は桃子の格好が気に食わないらしい。


「……おい海人。お前は何という事を……」

「な、何か俺がおかしな事をしたのか?」

「余計な事をしやがってって言っているんだよ!」

「小僧の言う通りだ。いかなる衣服を纏おうとも、桃子嬢の美しさは変わりない。しかし先程の衣装はさらに上をいく美しさであって、その美しさを包み隠してしまうなど、この上ない損失であるぞ!」

「そうだそうだ! 遠藤さんの言う通りだぜ! 海人、もしかしてお前は自分以外の奴に素肌を見せたくないっていう独占欲でやっているんじゃないだろうな」


 罵られて、批判されて、妙な言いがかりをつけられて。

 遠藤と猿渡に詰め寄られた海人は後退りながら悪気は無いと言い張るが、二人は聞く耳を持たない。

 厄介な二人を相手にするのは桃子と真帆で、彼女達は間に立ち二人を叱り付けるが効果は無い。

 彼らは反省するどころか自分達の方が良いセンスだと言い張り、先程手にしていた際どい衣装を絶賛して桃子に薦めていた。


「ばっかじゃないの! 誰がそんな痴女めいたものを着るもんですか」

「貴方達、そんな物を着させようだなんてセクハラだわ。…………最低ね」

「何故この衣装の素晴らしさが理解できぬのだ!? この衣装を纏った桃子嬢なら世の男は皆ひれ伏すというのに……!」

「そうだぜ、桃子嬢。こっちの衣装の方が海人も喜ぶはずだ!! 寧ろこの衣装を喜ばない奴は漢じゃねぇ!!」

「おい猿渡。何を勝手な事を。俺は――」

「……か、海人君もこの服を着た私を見たいの?」

「桃子! 貴女何を言いだして……。変態二人に乗せられちゃ駄目でしょう!」


 またしても場は騒がしくなるが、騒動はアルドアーズが動くまでもなく収束する。

 それはこの場に来訪者が現れたからであって、その者達の顔を見た遠藤は目を見開き固まった。


「お、お前達は……っ!? 何故またここに――」

「魔王様、昨日ぶり! また来ちゃった」

「会いたい時はいつでも来るが良いって言っていたわよね」

「さ、こんな所で油を売っていないで行きましょう」


 現れたのは昨日も城を訪れていた女性達で、今日も今日とて魔王の寵愛を受けようとしているようだ。

 多少は失った魔力を取り戻した遠藤だが、大人数を相手には敵わないようで。

 彼は女性達に拘束されてまたしても連れ去られてしまった。

 その出来事はほんの一瞬で、瞬く間に遠藤と女の姿は消え、調子に乗っていた者は猿渡一人だけとなる。

 猿渡は不利な立場と気づくや否や、真面目くさった顔で言った。


「よし、これで皆の装備が整ったし。どこかで性能を試しに――」

「そうね。それじゃ、猿渡君が的役になるって事で」

「も、桃子嬢!? いくらなんでもそれは――」


 にっこりと笑う桃子と青ざめる猿渡。

 彼は両膝を床に着けると全力で謝罪して許しを請うた。




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