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英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第2話 鍛冶師見習いの少女
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4.少女が語る真実

 人々に害をなす魔獣が生息し、魔術という自然の力を操る術がある世界、シュトラルヴェルト。

その地ではかつて、魔獣を従え、魔族を統べる王、魔王によって蹂躙され、か弱き人々は明日をも知れぬ辛く苦しい日々を送っていた。

 歴戦の戦士や高名な魔術師を集めて魔王討伐に乗り出すも、人々が魔王の支配から解放されることは無く、このまま世界は闇に飲まれるかと思われた。

 誰もが生きる事を諦め、絶望しきっていた所、唯一魔王の支配から逃れ、抵抗し続けていた一国の王は最後の希望を託し、異世界より勇者を召還する。

 他の世界から来た勇者は仲間を増やし、長い旅路の果てで見事魔王を打ち破り、世界に平和をもたらした。

 後に歴史の授業で、子ども達に聞かせる物語として、吟遊詩人が唄う歌として、英雄となった勇者の物語は語られるのだが、最後に勇者は自身の居た元の世界に還る事となる。

 安寧の時を過ごすシュトラルヴェルトの民。魔王という脅威も消え去り、その平穏は永遠に続くものだと思われていた――――






 異世界からこの世界へ来たと言うアレイシヤ。

 海人達が住む世界には無い魔術や魔獣という存在に、そもそも他の世界という存在をそう簡単に信じて貰える筈がないと覚悟をしていたが、二人はアレイシヤの予想とは違う反応を見せた。


「その、シュト…………なんたらだっけか」

「えっと、シュトラルヴェルトです」

「そうだそうだ。その世界から来たって事は、再び魔王が復活して大変だから勇者を探しているって話だな」

「え……?」


 腕を組んでいた海人は何故だか目を輝かせながら予測を述べて話を進めようとするが、それは見当違いのものであってアレイシヤはどう返せばよいのか困っているようだ。

 海人が冒険ファンタジーに夢を見ていると気付けはしたが、そうなると期待を裏切るような返答はし辛い。

 逆に戸惑っていたアレイシヤを助けたのは呆れた顔をした真帆で、彼女は興奮冷めやらぬ海人を落ち着かせるために彼の後頭部を軽く叩いた。


「いって……! 何すんだよ」

「……もう、アーシャちゃんが困っているでしょう」

「は? ……そうなのか?」

「それは……、えっと……」

「だ~か~ら。そうやって食い気味に来られたら言い辛いのよ。海人は暫く黙ってて」

「…………はい」


 真帆に窘められて大人しくなる海人。その姿はやんちゃな子どもが母親に叱られているようである。

 二人の様子にアレイシヤはクスっと笑うが、今が大事な話の途中であると思い起こし、すぐさま真剣な表情へ戻して話を再開した。


「カイトさんの問いに答えますが、今現在シュトラルヴェルトには差し迫った危機は訪れていません」

「そうか……。まぁ、平和が一番だよな」

「そう……ですね。……シュトラルヴェルトは恒久の平和を手に入れる事が叶いました。……ですが――――」


 異世界の勇者が去った後のシュトラルヴェルト。

 人同士の小さないざこざはあったが、魔王に支配されていた時とは違い、明日をも生きられないという暮らしではなくなった。

 破壊された都市も復興が進み、荒れた田畑には作物が実り、土地だけでなく人々の心も豊かになる世界。 今も尚、その平和は続いており、新たな脅威や、まして魔王の復活などありはしなかった。

 シュトラルヴェルトに危機は迫ってはいないとなると、何故アレイシヤはこの世界に来たのか。

 思いつめた表情でいて、少しばかり言い難そうにしていたアレイシヤが告げた理由に、海人と真帆は驚き目を見開く事となる。






 数百年と長く続いた安寧の時。

 人に害をなす魔獣の数も減り、魔王の軍と相対していた時とは違い、人々は武器を手に取る事が無くなり、騎士の数も戦時中より激減し、傭兵は転職を余儀なくされていた。

 それ程までに平和な世であったが、ある時を境に情勢は一変する。

 かつて勇者を召還する事に成功したシュトラルヴェルトの中心たる国、グランツドラッヘン。

 かの国の王が病に罹り床に臥せるようになってから、代わりに玉座に着いたのは姫であるレイゼリア・グランツドラッヘン・レイゲンハールで、年若い彼女を支えるのは宰相であるベルント・べルスフォードであった。


「――――実質、政を取り仕切っていたのは宰相ベルントでした」

「姫は傀儡、と言う訳ね」

「かいら……?」


 真帆の言葉に首を傾げる海人。

 海人にとって難しい言葉を使ってしまったのは迂闊だったと、自身の失態に気付いた真帆は彼にも分かるように説明をする。


「……。傀儡っていうのは……操り人形って事よ」

「何だよ。そうならそうと最初っから言ってくれれば――――」

「……アーシャちゃん。このおバカは無視して続けてくれる?」

「え……!? あ、は、はい……」


 実権を握るのがベルントに代わる以前から、彼は周到に準備を推し進めていた。

 一度は力を失った騎士団の再編。まずは騎士の学校を作り、優秀な人材を育てると共に、騎士達に別の役割を、魔獣や悪人から人々を守るだけでなく御前試合を開催し、勝者には名誉を与える事で競い合いを盛り上げさせて、それにより個々の技量も磨きをかけた。

 そして彼らが持つ武器や身に纏う鎧も最高の物を仕上げる為に職人の学校を作り、もとより高品質のものを作り出していた鍛冶屋には国からの資金や希少な素材が提供され、整った環境で日々技術と質が向上していく。


「私も……、我が家も代々続く鍛冶屋で、私自身も鍛冶師の学校を出て、見習いとしてですが宮廷の鍛冶場で働いていました」

「という事は、アーシャちゃんは宮廷付き鍛冶師だったのね」

「おぉ、そいつは凄いな」

「い、いえ……! 本当にただの下働きで、こなしていたのは雑用ばかりでしたので、大したことではありません……っ」

「謙遜しなくてもいいさ。ん……? ……って事はもしかしてコレも……」


 そう言って海人が見せたのは右腕に填まった腕輪で、それは強大な力を放てる蒼い全身鎧を纏える力を秘めている。

 ますます感心したように、期待の眼差しを向けてくる海人だが、その予測は違っていると、申し訳なさそうにアレイシヤは首を横に振る。


「その魔導装具(ソルチ・キラーソ)は我が家に代々伝わるもので、かつて勇者が身に纏ってもいたとも言われている代物です。私にはとてもそのような物を作る事は出来ません……」

「は……? これを勇者が身に纏っていたって……」

「はい。それは間違いありません。正真正銘の本物です」

「いや、本物かどうかじゃなくって、そんな貴重なものを持っていたってのが驚きで……」

「それは……」


 かつて勇者が身に纏った物をそう簡単に持ち出せる筈はない。

 そんな事は海人でも簡単に思い至る所で、不思議に思い素直に考えを言葉にしたのだが、返答するアレイシヤは思いつめた表情であった。


「それは、祖母に託された物なのです」

「託された……」

「はい……」


 再び力を増していく騎士団。それと同時に騎士達だけでなく一般市民にも普通教育と並行して異世界の言葉や生活習慣などの教育がなされ、長い年月をかけてだが少しずつ着実に、準備が整えられていった。

 ベルントの奸計は皆の与り知らぬ所で張り巡らされ、そして王が病床に伏せて代わりに姫が政を行うようになる頃には強力な手駒が彼の元に全て揃っていた。


「――――つまり、そのベルントって奴が狙っているのは……」

「……そうです。危機が迫っているのは、シュトラルヴェルトでは無く、この世界なのです……っ!」

「「……!?」」


 これまででも荒唐無稽な話をしており、とても信じては貰えないだろうと、アレイシヤは覚悟をしていたが、海人と真帆は頭ごなしに否定する事も無く、冗談であるだろうと馬鹿にする事も無かった。

 二人はまず驚いて、そして息を呑んで、それから詳しく聞きたいと真剣な眼差しで訴えかけてきた。


「私は、お婆様と、侵略を止めたいと願う人達の協力の元、この世界に降り立ったのです」


 幸い、肝心の転移装置が不安定である為、大軍勢がいきなり押し寄せてくることは無い。

 それでも騎士達は一騎当千の力を持つ者も居て、たった一人がこの地に降りても多くの犠牲を生み出しかねない。それが何も知らずに平穏な生活を過ごす人々を相手になら尚更で、一刻も早く危機が迫っている事を伝えなくてはならなかった。


「……つまり、今後も昨日相手した剣士みたいなのがやってくるんだな」

「……恐らくは。シュトラルヴェルトに居る協力者も手を尽くしてくれている筈ですが、その方が何時まで阻止できるかは分かりません」

「ちょ、ちょっと待って!」


 声を上げたのは真帆で、彼女はジトッとした目を海人へと向けて問い質した。


「さっきの腕輪の話も気になったのだけれど、昨日一体何があったの?」

「ああ、これか? これはだな――――」


 昨日起きた事を簡単に説明した海人は、腕輪を見せ、そして何やら恰好つけたポーズをとった後に右手を天に掲げる。すると彼の姿は蒼い光に包まれ、一瞬にして何処からともなく現れた蒼い鎧をその身に纏った。


「どうだ~? カッコ良いだろう?」


 先程、アレイシヤの話を聞かされた時よりも驚いた真帆だが、目の前で決めポーズを次々と披露する海人の姿に驚きを通り越して馬鹿馬鹿しく思ったようだ。

 彼女は取り乱すことは無く海人の元へと近づき、コンコンと手で軽く叩いて鎧の材質を確認したりするなど興味深げに観察をしていた。

 不思議な鎧……魔導装具(ソルチ・キラーソ)と、それを得た切っ掛けを海人から聞き出した真帆は盛大な溜息を吐く。

 またもや無茶な行動で危険な目に遭っていたのだと知って説教をするところであったが、結果としてアレイシヤを助けられたのだと彼女から聞かされ、真帆の怒りは何とか収まった。


「……成程、ね。正直なところ、さっきまでは半信半疑だったけど、これを見て確信したわ。……アーシャちゃんの言う事も、この世界に危機が迫っている事も」

「……信じて頂いて、ありがとうございます」

「ううん、良いの。それよりも、一人で一杯抱えて、辛かったよね」

「そ、そんな事は……」

「無理はしなくて良いのよ」


 話している時もギュッと手を握りしめたままでいて、時折瞳が潤んでいて、辛そうな様子であったアレイシヤ。

 どうにかしなければいけないという想いはあるが、それはあまりにも大きすぎる事柄で、とても一人で抱えきれるものではない。

 予めある程度の情報を得ていたとしても、見知らぬ地にたった一人で降り立って、不安に押し潰されてしまうのも当然である。

 そんな気持ちを察してか、真帆はまずアレイシヤを気遣い、彼女に寄り添うようにして、するとアレイシヤも抑え込んでいた気持ちが溢れてしまったのだろう。声を出すことは無く静かに涙を流し、真帆の胸元に頭を埋めた。


「ごめん……なさい……。私……っ」

「いいのいいの。これからは気兼ねせず何でも言ってくれればいいから。……って言っても、私に出来る事はそんなにないのかも知れないけどね」

「いえ……! そんな事はありません……っ。マホさんのお料理、とても美味しかったです……!」


 よしよしとアレイシヤの頭を撫でている真帆。

 すっかり蚊帳の外に追いやられてしまった海人は元の姿に戻って様子を窺っているが、どうにも手持無沙汰のようでいる。

 一緒になって慰めようとするが、近づこうとすると真帆から目線で構うなと訴えられ、声を掛けようにも上手な慰めの言葉が思い浮かばない。

 どうするべきかその場であたふたとしていた海人だが、暫くしてアレイシヤは落ち着いたようで、二人に頭を下げた。


「お二人には巻き込んでしまって申し訳ないと思っています」

「いや、謝ることは無いさ。困っている人を助けるのは当然のことだしな」

「そうね。そもそも、そんな事を言っていられるような状況じゃないし」

「そう……ですね」


 事情は理解でき、協力も惜しまないと、海人と真帆の考えは同じであって、二人の気持ちにアレイシヤは再度礼を述べる。

 状況を把握した所で次に進むのはこれからどうするかであって、そこで海人は先程起きた事を思い出した。


「……! そう言えば、ここに来たのは……。あの光の柱は――――」

「それなら大丈夫です。ここに降り立つ予定だったのでしょうが、周辺に魔力は感知出来ませんでしたから……。転移に失敗したのだと思われます」


 一足先にこの場へと辿り着いていたアレイシヤ。彼女は手の平サイズの装飾が為された水晶の道具を用い、周辺に魔導装具(ソルチ・キラーソ)の反応が無いかを調べており、どうやら危険ではなさそうであって、海人と真帆はホッと安堵の溜息を漏らす。

 一先ず大丈夫だと安心するところであるが、これからこの世界に降り立つかもしれない敵を海人が全て倒さなくてはならないのかと、真帆は不安を抱き、アレイシヤに問い掛けた。


「……そう、ですね。でも、ずっとそうなる訳では無いと思います」

「俺なら構わないぞ。どんな奴が来たって全部追い返してやるぜ」

「ちょっと海人、そういう問題じゃないでしょう。私達には学校だってあるんだし」

「それは……。世界の危機を前にしてそんな事を言っていられるかっての」

「だから! 海人が全部抱え込む必要は……――――」

「だ、大丈夫です……!」


 二人の言い争いが始まりそうになり、アレイシヤは慌てつつ間に入って諍いを止める。

 彼女は何の考えも無しに止めに入った訳ではなさそうで、二人は取り敢えず口をつぐんでアレイシヤの言葉を待った。


「ひと月程すれば、援軍が駆け付けてくれるそうで……」

「そうで……って、それはどういう……」

「この地に降り立ったのは、危機が迫っているのを伝える事と、あと一つ、人を探していて……」

「そう言えばそんな事を言っていたな」

「はい……。それで、その方との連絡がついて、ひと月程すれば駆けつけてくれるそうです」


 これまでとは違って、少しばかり言い淀むような、ハッキリとしない物言い。

 そもそも大軍勢が攻め入ってくるかもしれない状況で、たった一人の人物がどうにかできるのかと、しかもその人物はこの世界に居るらしく、強大な力を持っているなど信じ難い。

 流石に海人でも訝しむようで、そんな彼を納得させるためにアレイシヤは探していた人物の素性を明かした。


「その方は、かつてシュトラルヴェルトを救って下さった勇者の血族なのです」




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