表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第13話 想いは波間に揺れて
105/213

3.思惑は交差して

 それは遠藤こと魔王グエンドヴェルクが居候していた聖沢家から姿を消し、彼の行方を海人達ヒーロー研究部の皆で追っていた時の事。

 アレイシヤは海人だけに魔王に関する情報を明かした。


「次元を操る力……? それは……――」

「その力は瞬時に移動する転移の術であり、別の世界へ渡る術でもあるんです」

「異世界に……、渡る……? ――――だ、だとしたら……っ!」


 魔王が持つ力を知った海人はある事を思いつき、目を見開いて声を上げた。

 彼の考えを察しているアレイシヤは彼の問いかけるような視線に対し、深く頷いて肯定した。


「はい。確実な手立てとは言えませんが、可能性はあるかと……」

「そうか……。どうにかして力を借りられれば……」

「で、でも、相手は魔王を名乗る者です。協力して貰えるのは難しいかも知れません」

「そこは誠心誠意、頼み込んでどうにかするさ」


 海人とアレイシヤの狙い。それは魔王の持つ次元を操る力であった。

 二人が何故その力を必要としているのかと言うと、今現在置かれている状況にある。

 シュトラルヴェルトからの侵攻は敵の主力部隊であるガイラルド達を倒した事で一旦止まり、それから間を置かずにかつて異世界を救った英雄である海人の父、譲司が再び異世界に渡る事で事態は収束に向かっていた。

 ガイラルド達を一人で下した譲司ならばさほど時間を要せず片が付くと誰もが思っていた。

 けれども譲司とマルリースが異世界に渡ってから一カ月半が過ぎており、その日数はこちら側の時間に換算すると一年を超えているのである。

 音沙汰がない状態で、更には装具によって操られて襲撃を仕掛けてくる者達も現れて。

 襲撃者と戦いつつ譲司達の帰還を待っていた海人だが、いつまでもこのままではいけないと焦り、何か打って出なければと常々考えており、そんな彼にとって異世界に渡る力は渡りに船であった。


「あの、この件はまだ皆さんには……」

「あ、ああ、そうだな。確実ではない事だから、話すのは遠藤さんを見つけてからが良いだろうな」


 探さなくてはならない理由が出来て、更に捜索に熱を入れた海人。

 それから程なくして遠藤は見つかり、紆余曲折あって桃子の元へと戻る事となった。

 これで前に進めると、皆へと話を切り出そうとしていた矢先。

 海人は玲緒奈に呼び出されて、彼女に先手を打たれてしまった。


「ええっと……、それは……、どういう事でしょうか……?」


 秘かに考えていた事を見事に言い当てられて動揺してしまった海人。

 取り繕う為に咄嗟に吐いて出た言葉は玲緒奈の意図を問うものである。

 全てを見透かしているだろうと思われる彼女は小さな溜息を吐いた後、回りくどい言い方ではなくストレートに述べた。


「もう一度言うわ。魔王グエンドヴェルクの力を使って異世界シュトラルヴェルトに渡ろうなんて事は考えないで欲しいの」

「あ……、いや……、そんな事は考えて……」

「考えていなかったというの? それなら問題は無いわね」

「は、はい……」


 有無を言わせぬ圧力に負けた海人は自分の考えを口にすることなく飲み込んでしまい、嘘を吐いて逃れようとした。

 思っている事が顔に出やすく、誤魔化しが下手という嘘を吐けない性格。

 それも玲緒奈は把握済みのようで、けれども踏み込みはせず、彼女は肩を落としてもう一度溜息を吐いてから話を進めた。

 玲緒奈との話は続いた……と言っても、その後は一方的な流れで。

 これまで通りの生活を続けたいと言う玲緒奈は素性も目的も公にしないで欲しいと願い、今回の話も海人の胸の内に留めておくようにと忠告した。

 考えを読まれて、有無を言わせぬ脅しを掛けられた海人はただただ頷くばかりで、玲緒奈の要求を全て受け入れてしまった。






 玲緒奈との話が一方的にだが終わり、海人は姫条家の車で待ち合わせ場所であった西水守神社の入り口まで送られた。

 彼女との話で知りたかった事を知ることが出来て、抱えていたものが少なくなるかと思われたが、そう簡単にはいかなくて。

 逆に更なる不安を抱えてしまった海人は、重くなった足をどうにか上げて前に進もうとした。


「――――……おい」

「……っ!?」


 一歩前に踏み出した途端、海人は背後から声を掛けられて驚き肩を震わせる。

 夜中に人気のない場所で、一体誰が声を掛けてきたのか。

 警戒しつつ振り返った海人は石段を下りてくる者の顔を見て再度驚いた。

 何時からか分からないが、彼は玲緒奈との話が終わるのを待っていたのだろう。

 鋭い目つきをした男、剣崎悠馬はたじろぎ後退りする海人に詰め寄って来た。


「話は終えたようだな」

「え、あ……、まぁ……」

「…………そうか」


 話を滞りなく進める為に話し合いの席から外されてしまった剣崎。

 玲緒奈に対する忠義心が高い彼はやはり二人きりの話し合いが許せなかったようで、いつにも増して険しい表情をしている。

 抱えるものが増えて頭を悩ませている海人はこれ以上勘弁だと言いたげに逃げる機会を窺っていたが、剣崎のひと睨みによってこの場に留まるしかなかった。


「どのような誓約を交わしたのかは知らないが、彼女を裏切るような真似をすれば――」


 玲緒奈に引き続き剣崎までも警告を促してきた。

 剣崎の海人に対する当たりの強さはいつも通りで辟易とするところだが、口喧しい姿はある人物と重なるようで、海人はハッとして声を上げてしまった。


「……って、ああ!」

「な、何だ。いきなり大きな声を出して……」

「あ、いや……。もしかしてレヂディーノの傍に居たグラヴィストってのは……」

「……まさか、今頃気が付いたのか?」


 何を今更と言いたげな剣崎の問いに対し、海人は申し訳なさそうに小さく頷く。

 玲緒奈との会話で剣崎の事については語られなかった。

 けれども昼休憩中に呼び出された際に彼が居た事から察するのは容易く、剣崎に呆れられるのも仕方がない。

 海人が思慮の浅さを曝け出した所で、剣崎は盛大な舌打ちをして睨みつけてきた。


「このような痴れ者に知られるとは……」

「ええっと、姫条先輩の事は勿論、剣崎先輩の事も口外はしませんので……」

「当たり前だ。他言するなら命は無いと思え」

「は、はい……っ!」


 脅しを掛けられた海人はピンと背筋を伸ばして直立不動に。

 剣崎が鋭い目線を外すまでそのままの体勢で、逸れた所で大きく息を吐き強張っていた肩の力を抜いた。

 これで剣崎との話は終わりだと、一刻も早くここから立ち去りたい海人は頭を低くして別れの挨拶をしようとするが、剣崎の呟きに動きを止めた。


「全く……。貴様といい、貴様の父親といい……。どうしてこうも厄介な輩ばかりが居るんだか……」


 剣崎の嘆きは尤もである。

 海人も譲司に対しては色々と思う所があり剣崎に同意したい所だが、剣崎は海人も厄介者であると判断しているので不用意に声は掛けられない。

 父親の事を海人が謝った所でどうにかなる訳でもなく、海人は視線を外して聞いていないフリをした。


「だいたいあのお方もどうかしている……。奴のような粗野で無礼な者を何故――」


 一人愚痴を言い続けていた剣崎はふと我に返り咳払いをして誤魔化す。

 微妙な空気を変えたのは剣崎自身で、彼は海人に再度忠告をして背を向けて去って行った。

 玲緒奈の譲司に対する想いもそうだが、剣崎の玲緒奈に対する想いは計り知れないものであって。

 これまでもその感情が見て取れる場面があったが、今日のは今まで以上に深い所まで晒してしまったようだ。


「何だか悪い気がするけど、俺にはどうしようもないんだよな……」


 一方通行の想いを目の当たりにしても、海人にはどうする事も出来ない。

 そもそも彼は他の者の事を気に掛けている場合ではなく、自身が抱える問題をどうにかしなくてはならなかった。






 日付が変わる寸前に帰宅した海人。

 シンと静まり返った家の中で、なるべく音を立てないよう気を遣い自室まで向かったが、襖を開いた所で呼び止められて驚き固まった。


「ア、アーシャ……。悪い、起こしてしまったか?」

「い、いいえ……! 私が勝手にカイトさんの帰りを待っていたんです」

「そうか……。遅くなって悪かったな」

「いえ、そんな事は……」


 海人の帰りを待っていたというアレイシヤ。

 けれども彼女は特に何を言うでもなく、ただ佇んでいる。

 彼女の性格からすると問い質すような真似は出来ないのだろう。

 間を置いてから就寝前の挨拶をして、私室としている客間へ戻ろうとしていた。


「ま、待ってくれ、アーシャ」

「……カイトさん?」

「あ……いや、その……」


 玲緒奈と約束を交わして、アレイシヤに現状打破の策を持ち出されて。

 板挟みになった海人は一人頭を悩ませ続ける事となったが、結局一人では抱えきれなくなってしまったようだ。

 彼は自室にアレイシヤを招き入れて、彼女だけに玲緒奈との話を明かした。


「――――……そう、ですか……」

「相手はこっちの動向を全部把握しているみたいだし、一体どうすれば良いのか……」


 お手上げだと嘆く海人とは違い、アレイシヤは簡単に諦める気はないようで腕を組んで考えを巡らせている。

 散々迷っていたが彼女に話したのは正しかったようだ。

 彼女は海人では思いつかない事を述べ始めた。


「まず、こちらの情報についてですが、流しているのは私達の傍に居る者達かもしれません」

「え……っ!? いや、そんなまさか……」


 アレイシヤに言われて海人の頭の中に過ったのは二人の人物、今現在も竜堂家に身を寄せ、同じ食卓を囲むガイラルドとアウグストである。

 元々敵として現れた彼らだが、譲司に敗れてからは敵対する事はなかった。

 海人の稽古に付き合うだけでなく、ヴァルトハインとの戦いでは窮地に陥った海人達を助けもした。

 世話になっている分、海人は彼らに恩義を感じており、彼らが情報を流しているなど信じ難いようだが、アレイシヤはそう考えに至った理由を述べた。


「彼らは騎士団の長であって、特に忠義が強い者達だと聞き及んでいます。けれどもそれは王に対して……ではなく、国そのものにであって……」

「忠義心が……? それがどういう関係で……」

「王は宰相であるベルントの傀儡となっています。以前彼らがベルントの事を快く思っていないようなやり取りをしていましたから、正統な血筋であるレオノワール様を担ぎ上げて王を討つ算段を立てているのかもしれません」

「な……っ?! でも姫条先輩はそんな事は望んでいないと言って……」

「そこは彼らを従える為に嘘を吐いたのか……。もしかすると譲司様がレオノワール様の負担を軽減するために一計を案じたのではないかと」

「……あの親父ならやりかねないな」


 ここに来ても忌々しい父親が出てくるのかと、海人はウンザリとしているようだが、話はここで終わらない。

 アレイシヤは畳みかけるようにして疑念を打ち明けた。


「それともう一つ。昨晩、西水守神社で対峙した際、レオノワール様と剣崎さんを除いて他に五名ほど居ましたよね」

「あ、ああ。そうだな」

「あの者達の一人が制約により私達とは戦えないと言っていました」

「そうか……! という事は――」


 竜堂家に居候しているガイラルドとアウグスト。

 そして海人の通う学校に教師として入り込んでいたルイーザとローランド。

 襲撃を仕掛けてきた彼らは海人の母、マルリースの作り出した首枷によってこちらの世界の人々には手出しができないようになっている。

 あと一人の正体は分からないが、ガイラルド達が玲緒奈の指示に従っているのはまず間違いないだろう。

 信じ難い事だが証拠は幾つか揃っている。

 となると海人達の目的を果たす為には日常生活においても気を払わなくてはならなくなってしまった。

 隠し事が苦手な海人は早くも顔色を青ざめさせており、これまで通りに振る舞えるか不安でたまらないようだ。


「き、きっと大丈夫です。私が傍に居るので、いざという時は任せて下さい」

「あ、ああ……。面倒を掛ける様だけど、頼むよ」

「はい……! それで、今後の事なのですが……」


 二人だけで計画を進めたい所だが、遠藤が絡むとなると二人だけでは厳しい。

 遠藤の説得には桃子の助力が不可欠だろうとアレイシヤは判断しているようで、海人は不本意であるようだが致し方ないと同意した。


「桃子もとなるなら、部の皆には話しておくべきか……」

「そう……、ですね。今後の事は部内で、ですが校内では控えた方が良さそうです」

「ああ、分かった。それから、姫条先輩の事は……」

「今後、装具に操られた方が現れた際にレヂディーノとして接触する機会があるでしょうから、その件は伏せておいた方が良いと思います」


 深く頷き合った海人とアレイシヤ。

 先行きに不安が残らない訳ではないが、海人は僅かにでも前に進んでいると感じていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ