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英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第12話 囚われの魔王様
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7.魔王様、帰還する

 魔王グエンドヴェルクを巡って対立した海人達ヒーロー研究部とレヂディーノ達。

 二極がぶつかり合う直前に現れたのは第三極で。

 その場に居た者達は装具に操られた者から不意に攻撃を仕掛けられた。

 いち早く気が付いた海人の働きで誰も怪我を負うことは無かったが、それにより海人は思わぬ事実を目の当たりにしてしまった。


「――――と、……ねぇ海人。話を聞いているの?」

「……あ、ああ」


 信じられない光景を前に茫然としていた海人。

 彼は真帆に声を掛けられ顔を覗き込まれて正気を取り戻した。

 現実に引き戻された海人は辺りを見回すが、そこに居るのはヒーロー研究部の面々とグエンドヴェルクだけであって、レヂディーノ達の姿は見当たらず襲撃を仕掛けてきた者達の姿も無かった。

 いまいち状況が掴めずにいる海人に対し、猿渡は肩を竦めさせて言った。


「まぁ驚くのも無理はねぇよ。アイツらはあっという間に敵を倒して直ぐに敵を抱えて消えちまったんだからな」

「取り敢えずレヂディーノ達と戦わなくて済んだのだから、結果的に良かったわね」

「そこの娘、何を言っておる。あの程度の者達の相手など、我一人で充分であったぞ」

「遠藤。今はそういう話じゃないから。アンタは大人しく黙っていなさい」


 装具に操られていた者達はレヂディーノ達が倒し、その者達ごと姿を消した。

 衝突は回避できて皆はホッと胸を撫で下ろしていたが、海人は一人腑に落ちない表情をしている。

 皆の様子を見る限り、レヂディーノの素顔を見たのは海人だけなのだろう。

 目撃していたならば今の話題は彼女の事で持ちきりになっている筈だ。


「あの、カイトさん。大丈夫ですか? もしかして先程の攻撃で怪我を負われたのでは――」

「だ、大丈夫だ。俺は怪我なんてしていないよ、アーシャ」

「そう、ですか……」


 上の空であった海人の身を案じて声を掛けてきたアレイシヤ。

 ここで一体何があったのか話した方が良い。寧ろ仲間になら直ぐに話すべきなのだが、海人は出掛かった言葉を飲み込み平気だと言って歩き出した。


「――――それじゃ、ここで。海人君、今日はありがとう」

「……あ、ああ。それより本当にここで良かったのか?」


 当初の目的、グエンドヴェルクと再会して事情を聞き出す事は出来た。

 桃子との関係も一応は修復したようで、グエンドヴェルクは聖沢家に戻る事となった。

 不意の事態も収拾して皆は帰路に就いていたが、分かれ道で歩みを止める。

 一旦は身を引いたレヂディーノ達がまたいつ現れるか分からない状況で解散する事を海人は気に掛けていたようだが、桃子は首を横に振って困り顔で笑った。


「うーん……。私としては海人君に家まで送って貰えたらうれしいんだけど、海人君のお家が遠くなっちゃうでしょう」

「なに、案ずるな。桃子嬢の傍には我が居る。不逞の輩には髪の毛の一本たりとも触れさせはしないぞ!」

「あのねぇ……、そもそもアイツらに狙われているのはアンタなんだからね。……ん? 待って。だとしたら私は海人君の家にお泊りしていた方が安全って事じゃない」

「ム……! 桃子嬢、何を申す。我一人で戻れば店主に許しが貰えないかも知れぬのだぞ!」

「はぁ? 知らないわよ、そんな事。無断欠勤した方が悪いんだから、一人で怒られていなさいよ」


 桃子に容赦なく突き放されて落ち込むグエンドヴェルク。

 本当に仲直りしたのか疑わしい二人の様子に皆は苦笑いを浮かべているばかりだが、一人だけ呆れ果てていた者が声を上げた。


「桃子。今日は一緒に帰りなさいよ。彼一人戻っても御両親は心配するでしょう」

「ふーんだ。真帆ちゃんに言われなくてもそれくらい分かっているし。それじゃあ海人君、また明日ね」

「ああ、また明日。それから気を付けて、何かあったら呼んでくれ」

「心配してくれてありがとう、海人君。……さ、帰るわよ」

「ウム。それでは諸君、さらばだ……!」


 背を向けた桃子はグエンドヴェルクを引き連れて帰路に就き、猿渡達三人組も後に続いた。

 分かれ道を行く者達を見届けた海人もアレイシヤと真帆と共に家路を辿る。

 騒がしい者達が去ったせいか、帰り道は静寂に。

 夜の静けさはひと段落した事を実感させて、胸を撫で下ろし肩の力を抜くことが出来たが、それは小さな溜息で覆された。


「ねぇ、海人」

「……ん? どうかしたのか?」


 自宅前に差し掛かっていた海人は真帆に呼び止められて歩みを止める。

 昔から海人の傍に居る彼女は僅かな変化も見逃さないようだ。

 真帆はアレイシヤのように体調を気遣うのではなく、ストレートに問い掛けた。


「何か私達に隠し事をしていない?」

「な……っ、何を言って……」

「……その様子、やっぱりそうなのね」

「いや、違う! これはいきなり変な事を聞かれたから驚いただけで……」

「ふーん……、そう……」


 ジトッとした目線は疑いの眼差しであって、真帆は海人の弁明を受け入れてはいない。

 これ以上追及されれば海人は胸の内を明かしてしまったかもしれないが、真帆はアッサリと身を引いた。

 彼女は夜も遅いからと理由を付けて、今日の所はここまでで、話したくなったら話して欲しいと言って話を終わらせた。


「それじゃ、二人とも、おやすみ」

「あ、ああ……。おやすみ」

「お、おやすみなさいです……」


 結局海人は誰にも打ち明けられなかった。

 信じ難い話で皆に信じて貰えるか不安を抱いた訳ではない。

 正直に話せば皆は驚きこそすれど真摯に受け止めてくれる筈だ。

 見間違えであったと自分の目を疑った訳でもない。

 レヂディーノが素顔を晒したのは一瞬で、すぐさま顔を背け仮面を拾い上げて着け直したが、美しく整った容貌は見間違える筈もなく、瓜二つの者が居るとは考えにくい。

 海人が誰にも明かせなかったのは彼自身の中で上手く整理が出来ないからで、彼は戸惑いを抱えたまま夜明けを迎える事となった。






 装具に操られた襲撃者を倒し、その者達ごと転移したレヂディーノ達。

 多くの者を転移させるのに多くの力を消費してしまったようで、屋敷に降り立ったレヂディーノは立つこともままならず意識を手放した。

 次に彼女が目覚めたのは屋敷内の自室のベッドの上で、傍らにはグラヴィストが思いつめた表情で椅子に座っていた。


「……! レヂディーノ!」

「……また、私は――――」

「……ええ。貴女という人は……。一体どれ程無理をすれば気が済むのですか」

「ごめんなさい……。貴方には気苦労をかけさせてばかりね……」

「いえ、自分の事は良いのです。それよりも貴女の身の方が――――」


 己の身を顧みずにいるレヂディーノと彼女の為になら自分を犠牲にするグラヴィスト。

 その関係はいつまでも変わらず、これからも続くのだろう。

 レヂディーノに何を言っても聞き入れて貰えないとグラヴィストは分かっており、彼は小言をそこそこで切り上げて報告をした。


「装具に操られていた者達は持ち物から身元を把握し、然るべき場所へと送り届けました」

「そう、ですか……。遅くまでご苦労様。今日はもう下がっていいわ」


 時計の針は日付が変わった事を示している。

 レヂディーノは夜遅くまで付き合わせてしまった事を労い、グラヴィストを役目から解放しようとしたが、彼は首を横に振って場に留まった。

 彼にはまだ引けない理由があるようで、けれどもレヂディーノの身に差し支えないか気に掛けているようで。

 押し黙った彼に対してレヂディーノは柔らかい笑みを浮かべ、遠慮はいらないと言って胸の内を明かすように促した。


「……先程の、見られたというのは――――」


 魔王グエンドヴェルクを巡っての対立。

 それは装具に操られた襲撃者という第三者の介入によって終わったのではなく、レヂディーノの命令によるものであった。

 不意の攻撃によって正体を明かしてしまったレヂディーノは動揺し、そのまま戦い続ける訳にはいかないと判断して身を引いたのである。


「ええ……。でも、竜堂君だけにだから――」

「奴に……っ!? ……分かりました。奴は私が始末を――」

「グラヴィスト……!」

「…………言葉が過ぎました」

「彼は私を助けようとしただけ。責められるべきなのは油断していた私よ」

「あの程度の攻撃、障壁で防げた筈ですが」

「そうね。間に合わせる事は出来たけど……」


 レヂディーノは困り顔で笑っているが、グラヴィストは怒りに肩を震わせている。

 今すぐにでも海人の息の根を止めかねない様子であるグラヴィスト。

 彼は結局レヂディーノに逆らえず、ただ拳を握りしめるばかりである。

 グラヴィストが沸き上がる怒りを抑え込む傍ら、レヂディーノは自嘲気味に笑っていた。


「だけど、いつかはこうなると覚悟していたわ」

「そのような覚悟など……っ。そもそも貴女がここまでする必要は――」

「これは私が決めた事だから……、道半ばで投げ出す訳にはいかない」

「ですが……っ、己が身を犠牲にしてまでもする事ではない……! これまでの働きで十分、あの者共への借りは返せた筈です」

「いいえ。私が受けた恩はこの程度の事ではまだ足りないわ」

「それ程までに貴女はあの者の事を――」


 感情の赴くままに説得を続けていたグラヴィストはハッとして言葉を飲み込む。

 彼は踏み込んではならない所まで踏み込んでしまったと気が付きレヂディーノの顔色を窺ったが、彼女は動じる様子もなく真っ直ぐな瞳で前を見つめていた。

 揺るぎない意志の強さの根源はある者への想いによるもので。

 その者を知るグラヴィストは苦虫を噛み潰すような表情をしていたが、深く呼吸をする事でどうにか平常心を取り戻した。


「貴女の想いは分かりました。それで、奴の処遇はどうするつもりなのですか?」

「多分……だけれど、彼は触れて回るような事はしないと思うの」

「……それはどうでしょうか。思慮が足りない奴の事、既に仲間に吹聴しているかもしれません」

「そうかしら? 確かに彼は向こう見ずな所があるようだけれど、この件に関しては慎重になっている筈よ」

「……何にせよ、口封じするのが得策かと。ご命令とあらば今すぐにでも捕えてこの場に連れて来ます」

「待ちなさい。……それなら賭けをしましょう」

「賭け……、ですか?」


 らしくもない提案をされてグラヴィストは驚きつつ首を傾げる。

 賭けの内容は海人の動向についてで。

 仲間にレヂディーノの正体を明かしていれば強硬手段に、拘束して術で記憶を操作する。

 逆に黙っていたならば海人の処遇に関してはレヂディーノに任せ、グラヴィスト達は一切の口出しをしない。

 これまでとは違いグラヴィストの意見も考慮に入れている為、彼としては乗らない訳にはいかなかった。


「分かりました。では奴との接触は私にお任せください」

「ええ、任せるわ。……ただし、手荒な真似はしないように」

「……重々心得ています」


 戸が閉まり、シンと静まり返る室内。

 レヂディーノは肩の力を抜いて再びベッドに身を預ける。

 多くのものを抱える彼女は迷い、悩み、不安に押し潰されそうになっていたが、気丈に振る舞う事を止めなかった。

 たとえどれだけ自分が傷つこうとも、苦しむ事も死さえも厭わず、約束を守り続ける。

 その約束だけが想い人と繋がる事の出来る絆だと信じて……。






 グエンドヴェルクが無事に桃子の元へと戻って来た翌日。

 色々と抱えて上の空であった海人は皆に気遣われ勘ぐられていたが、どうにかこうにか誤魔化しながら過ごしていた。

 隠し事が苦手で嘘が吐けない海人。

 このまま放課後まで隠し通せるのか、彼が不安になり始めた所で昼休憩を迎える。

 昼食はいつも通りに食堂で。皆でテーブルに着き一緒に昼食をとっていた所、校内放送が流れたため皆は手を止めた。


「……おい海人、今の放送」

「ん? 猿渡、何かあったのか」

「竜堂氏、今の放送を聞き逃したのですか」

「あ、ああ……、すまない。それで内容は――」


 食事中も心ここに在らずといった様子の海人は放送を聞き逃してしまい、皆に呆れられてしまう。

 本当に大丈夫かと、もしかして病気なのかと心配される中、海人は犬飼から放送の内容を聞き出して驚いた。


「生徒会から呼び出し? 俺を名指しで……?」

「ああ、間違いないと思う。何かあったのか?」

「それは……――――」


 海人に思い当たる節はあったが、説明する訳にはいかなかった。

 それは今まで必死に隠していた事であって、この場で明かせる筈もない事である。

 取り敢えず部活関係の事だろうと言って適当に誤魔化し、海人は食べかけの昼食を急いで掻き込んで生徒会室へと向かった。




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