表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄と鍛冶師(仮)  作者: 葉月はつか
第12話 囚われの魔王様
101/213

6.魔王様、追跡者と戦う

 魔王を名乗るグエンドヴェルクを一度拘束し、尋問で目的を吐かせようとしていたレヂディーノ達。

 彼女達は牢から逃げ出したグエンドヴェルクを追わず、ある者達の動向を監視して標的が現れるのを待っていた。

 レヂディーノの目論見通りに、脱獄してから数日の内にグエンドヴェルクは姿を現した。

 紆余曲折を経てある者達、海人達と再会したグエンドヴェルク。

 身を潜めて動向を見張っていたレヂディーノ達は標的が一人になるのを待ち、タイミングを計って接触を果たした。


「フハハハ……ッ! どうした、貴様ら。その程度の力しか持ち合わせていないのか?」


 大人しく投降するようにという勧告は受け入れられなかった。

 ならば力尽くで言う事を聞かせなければならなくなったのだが、そう簡単にはいかなかった。

 相手は一人に対しレヂディーノ側は七人。

 数に勝っており戦いに長けた者達が居る為、苦戦はしないだろうと思われた。

 一度相手を下したという事もあり、とは言え底の知れぬ者を相手に油断した訳でもないが、想定外の展開にレヂディーノは驚いていた。


「クソ……ッ! この様な痴れ者に……っ!!」

「……小僧。脇が少々甘いようだな」

「……っ!? 何を――――」


 武器を手にせず己の拳と両足で戦うグラヴィスト。

 彼は単騎で突撃する訳でもなく他の者と呼吸を合わせて積極的に攻めているが、一撃もくらわせるに至っていない。

 全ての攻撃は見切られてかわされて、逆に僅かに見せた隙を突かれてしまった。

 相手が質実剛健な武人ならばこの結果も納得して受け入れ、逆に闘志が湧くものだろう。

 けれども相手は真逆に位置する者であって、相対する者を小馬鹿にするような言動や余裕を見せた立ち振る舞いをしており、グラヴィストを苛立たせていた。


「グラヴィスト。その者の奇行は相手を翻弄させる術に過ぎないわ」

「……こ、心得ています」

「このまま攻め続けていれば数に勝るこちらが有利。焦る必要もありません」

「はい……! 御心のままに!」


 グエンドヴェルクの術中にはまりかけ、仲間との連携に支障をきたし始めていたグラヴィストだが、レヂディーノの叱咤により持ち直す。

 牢を脱したとはいえ、強大な力で破壊した訳でもない魔王は全盛期の力を有していないと見られる。

 ならばこのまま攻め続けるべきだと、隙を突かれて逃げられる事さえ気に掛けておけば良いとレヂディーノは判断したようだ。


「……ソルチスト。人払いの結界は問題ないかしら」

「は、はい……! 今の所は……。人気のない場所だったのが幸いしています」

「そう……」


 今現在レヂディーノ達がグエンドヴェルクと刃を交えているのは、小高い丘の上にある西水守神社の境内であった。

 そこは寂れた神社であって、夜間という事で人気は無い。

 無関係の者を巻き込まぬための結界は人が干渉すればその分精神力を消耗する為、長期戦なら人気のないこの場所は術師にとって幸いとなる。

 ソルチストは運が良かったと述べているが、ここに至ったのはグエンドヴェルクを追っていての事で、彼がこの場に留まって迎え撃ったからである。

 掌で踊らされているだけのような感覚にレヂディーノは危機感を覚え始めていたが、グラヴィストが新たな動きを見せる前に事は起こった。


「……っ! レヂディーノ! 結界内に侵入する者達が……っ」

「ある程度距離を取ったつもりだけれど、気付かれてしまったようね……」


 魔王を捕えるべく戦っていたレヂディーノ達の前に現れた者。

 その者は蒼い鎧を全身に纏った男、竜堂海人であった。






 アレイシヤの持つ水晶に導かれて海人達が駆けつけた先。

 そこは西水守神社の境内で、グエンドヴェルクは白い仮面に黒衣を纏った者達に包囲されていた。


「まさか……っ、レヂディーノ!? 何でここに……、一体何をして――――」


 この状況に驚いた海人は立ち尽くして疑問を口にしていたが、問いに答える者は居ない。

 返答の代わりは別のもの、問答無用の武力で示される。

 グエンドヴェルクと対峙していた者達の一人が地面を蹴り出し距離を詰め、邪魔だと言って殴り掛かろうとしたが、それは女性の凛とした声で止められた。


「グラヴィスト! 彼らに手を出すのはこの私が許しません」

「ですがレヂディーノ……っ!! この者達は――」

「彼らの説得は私に任せて、貴方はその者を逃さぬように」

「……分かり……ました」


 白い仮面に黒衣を纏った女性、レヂディーノの言葉により引き下がるグラヴィスト。

 彼からは強い敵愾心を感じ取れたが、こちらから何か事を起こす訳にはいかない。

 争わずに済むなら良い事であって、いきなり攻撃を仕掛けてきた事も水に流せるのだが、これから先の話はそう簡単に進みそうにない。

 レヂディーノは海人達を説得すると言い、彼らの前に立ちはだかった。


「見ての通り、私達は魔王グエンドヴェルクと交戦中よ。無関係な者を巻き込まないように配慮しているから、貴方達は立ち去りなさい」


 この場から海人達を遠ざけようとしているようだが、素直に従う訳にはいかなかった。

 海人達の目的は今現在レヂディーノ達が戦っている者、グエンドヴェルクに会う事であって、ここから逃げる事もこの状況を見過ごせる事も出来なかった。


「俺達はあの人、グエンドヴェルクに用がある。アンタから仲間に剣を納めるように言ってくれないか?」

「……その願いは聞き入れられないわ。あの者が魔王という事は貴方達も知っているのでしょう」

「それはそう……、だが……。だからと言ってどうするつもりなんだ?」

「拘束して監視下に置く。それだけよ」

「そんな事を……っ!? あの人はそんな危険な人じゃない。それは話せば分かる筈だ」

「話ですって……? まともに話しができるのならこのような事になってはいないわ」


 海人とレヂディーノの会話は交わる点が無く、いつまでも平行線を辿るばかりである。

 互いに譲れないものがあるが、武力を以って意志を貫こうとはしない。

 それでもいつまでも押し問答は続けられないようで、レヂディーノは突き放すように言い放った。


「あの者はかつて異世界を支配していた魔王よ。魔王が行った暴虐の数々を知らない訳ではないでしょう」

「詳しい話は……、知らない。だけど、それがあの人の全てではない筈だ」

「魔族は奸計を巡らせて人心を惑わす者。事実貴方達の中にはあの者に騙されていた者も居るのでしょう」


 海人達の情報はどういう訳か筒抜けのようであった。

 全て把握しているであろうレヂディーノは、桃子へと視線を向けて是非を問う。

 先程までの桃子なら騙されていたんだと言ってレヂディーノに同調しかねないが、今は違う。

 彼女は真っ直ぐにレヂディーノを見つめ、想いを伝えた。


「確かに、アイツは私を騙していた……。だけど、そんな事はもうどうでも良いの!」

「ど、どうでも良いって……。貴女、本当に分かっているの? あの者は多くの民を虐げた暴虐の魔王であって――」

「アナタだって本当に分かっているの? アイツの事。アイツは魔王になんてなりたくなかったと言っていたのよ」

「あの者の言葉を鵜呑みにするべきではないわ。何を話したのかは分からないけれど、その言葉を全て受け止めるなど愚の骨頂よ」

「な……っ! それって私の事馬鹿にしているの!? そうでしょう!?」


 ため息混じりの言葉は呆れを意味するもので、レヂディーノの言動は桃子を苛立たせたようだ。

 女二人の問答は険悪な雰囲気に。

 落ち着くようにと言って海人は間に入ろうとするが、それより前に桃子が動いた。

 彼女は一歩踏み出してレヂディーノとの距離を詰め、武力解決に打って出るかと思われたが、どうやら違うようだ。

 大きく息を吸った彼女は大声で名を呼び、命令をした。


「遠藤!! そんな所で遊んでいないで早く戻ってきなさい!!」

「……!」


 桃子の声に反応したのは名を呼ばれた者だけでない。

 その場に居た誰もが驚き手を止めた訳だが、その隙を突いてグエンドヴェルクは包囲を突破して桃子の元へと舞い降りた。

 名を呼ばれて命令されて瞬時に戻る姿はまるで忠犬のようで。

 大人しく従うグエンドヴェルクにまたしても皆は驚かされており、茫然と佇んでいる。


「……も、桃子嬢。我は……――――」


 命に従い戻ったものの、グエンドヴェルクはどうしてよいのか分からず、何を話せばよいのかと戸惑っている様子であった。

 これまでの行いに後ろめたさがある彼は俯き視線を外していたが、桃子から掛けられた言葉に目を見開いて顔を上げた。


「さぁ、帰るわよ!」

「……!? か、帰るとは……何処へ」

「そんなのは決まっているでしょう。私の家、沢乃屋よ」

「わ、我も共にして良いのか……?」

「……当たり前でしょう」

「も、桃子嬢……!」


 先程までのしおらしい態度は何処へ行ったのやら。

 グエンドヴェルクは瞳をキラキラと輝かせて、満面の笑みを浮かべている。

 今の彼の姿は子犬のようで、飼い主に尻尾を振っているように見えた。

 まさかそこまで彼が喜ぶとは思わなかったのか。

 桃子は少しばかり引き気味に。気恥ずかしさも込み上げてきたようで、容赦ない言葉を浴びせた。


「勘違いしないでよね。アンタが帰ってこないと私がまた家の手伝いをしなくちゃいけなくなるからよ!」

「フフフ……。我は全て分かっておる。それは建前であって、真の心は我の事を想って――」

「違うから! 私が部活動で海人君と一緒に居たいだけだから!」

「まぁ今の所はそういう事にしておこう。言葉にせずとも桃子嬢の想いは我に伝わっているのだからな……!」

「……やっぱり新しいバイトを探す方が良いのかも」

「な……っ! 我の代わりなどこの世に存在しない筈だ! だから早まった考えは――」


 まだ素直になれていないようだが、落ち着くところに落ち着いて。

 結局グエンドヴェルクは桃子の元へと戻る事となり、これで一件落着かと思われたが、そう簡単にはいかない。

 海人達は白い仮面の者達に包囲され、行く手を阻まれてしまった。


「貴方達をこのまま行かせる訳にはいかないわ」

「……戦うしか、無いのか……?」


 長杖を手にするレヂディーノを始めとし、武器を構え直す白仮面の者達。

 彼女達が七人に対し、海人達はグエンドヴェルクを含めて八人。

 数で勝っており、グエンドヴェルクは力を封じられていても先程の戦いを見る限りかなりの戦力を持ち合わせている。

 戦えばこの場を乗り切れるかもしれない。

 けれども海人はどうにか戦わずに済む方法は無いかと模索しているようで、覚悟を決められずにいた。


「フン……。この程度の相手、我一人だけでも充分だ」

「アンタは黙って大人しくしていなさい!」

「ム……。桃子嬢の言葉ならば致し方あるまいか……。だが他の者はともかく、桃子嬢に危害を加えようものならば黙ってはおられんぞ」

「ハイハイ。分かったから取り敢えず落ち着きなさい」


 桃子に良い所を見せたいのだろうか。

 グエンドヴェルクは静かに闘志をみなぎらせているが、それは桃子に抑え込まれてしまった。

 二人のやり取りは張り詰めた場の空気を和ませることは無い。

 どちらが先に動くかと、互いに相手の出方を窺う場面で先に動いたのは白仮面の男、グラヴィストであった。

 つい先程グエンドヴェルクに弄ばれた彼は強い敵愾心を持っており、レヂディーノが抑えていなければ直ぐにでも襲い掛かってきそうな気迫を見せている。


「――――……おい、どういうつもりだ」


 進み出て海人達と距離を詰めるグラヴィスト。

 けれども彼の背後に居た四人は一歩たりとも動かない。

 味方である者達にもグラヴィストは怒りを露わにし始めるが、白仮面の一人が軽く手を挙げて言った。


「あー……、いや、俺様達はこれ以上戦えないって感じで」

「なに……? ここに来て一体何を言って――」

「わたくし達には制約があるのよ。坊や、それを忘れた訳ではないでしょうね」

「……チッ! ならば貴様らはあの痴れ者だけを狙え」

「ハイハイ。了解っと」


 妙なやり取りは終わり、白仮面達は臨戦態勢に。

 今度こそ争いの火蓋が切られそうになったが、それは第三者の介入によって防がれた。

 緊迫する二極の間に割り入った者。

 それはスーツを着崩したサラリーマン風の男達で、一見すると帰宅途中に飲んでいたような者達、酔っ払いのようであったが、その者達の手には弓や槍などが握られていた。


「操られた装者……っ!? 危な――――」


 装具に操られている者の中の一人。

 男が放った矢は一直線に狙いを定めた者へ。

 真っ先に気付いた海人はなりふり構わず動き出し、狙われた者を抱きかかえて倒れ込み攻撃を避けた。


「……怪我はないか――――……っ!?」


 敵の放った矢は何も射る事無く、狙われた者も怪我を負っていない。

 けれども倒れ込んだ瞬間に受けた衝撃からか、身に着けていた仮面が地面へと落ちてしまった。

 海人が咄嗟に庇った相手は白仮面達を従える者、レヂディーノである。

 初めて晒された彼女の素顔。

 月明かりを浴びて浮かび上がった容貌は美しく気高いものであって。

 けれども海人はその顔を見た瞬間、言葉を失ってしまった。


「…………き、……姫条……先輩……?」


 白い仮面の下の素顔。

 それは海人達が通う藍ヶ浜高校の生徒会長、姫条玲緒奈と同じ容貌であった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ