第一話 いじめられっ子
202X年 4月。
東京にある、とある高校。
今日は入学式だ。沢山の入学生達が白いシャツの上に青いブレザーを着ており、手には青いカバンが握られている。
そのうちの一人、見るからに暗いオーラを一際放つ少年がいる。
彼の名は小鳥遊碧。数本跳ねている黒い髪の毛に茶色い目を持つ少年。
目元には泣きぼくろがある。
左耳には2つの黒いリング型ピアスを付けている。とても似合っていない。
イメチェン失敗と言うやつだろうか。
ブレザーのボタンは全て開いており、首には赤いネクタイを付けている。
手には他と同じく青いカバンが握られているが、少しシミが付いている。
入学式前に何かこぼしたのだろう。
生徒達は全員学校の前に張り出されているポスターに群がっている。
どうやら生徒達のクラス分けの名前が載っているようだ。
碧は人混みの後方に位置取りポスターを見ようと背伸びしする。それと同時に目を凝らし、ぼやけた数字や文字を見ようとする。
「見えねえな。」
どれだけ頑張ろうが碧の視力では到底見える文字の大きさではない。
碧は人が少し減るのをを待とうと、近くに設置されているベンチに座ろうと歩き出す。
「人が減るまで座って待つか....」
その時一人の女子が真横を通った。印象的だったので彼女の姿が自分の視界に入ってしまった。
彼女の頭には長い黒髪が生えており、腰に付くぐらい長かった。髪が目元を覆っておりどんな顔をしているか判別できない。
(髪の毛長っ...)
一瞬の出来事だったが、なぜか頭に残る。そのまま彼女は人混みの中へと消えていった。
碧は木製のベンチに座り、時間を少し潰そうとケータイをいじり始めた。青いケータイだ。
最近話題の漫画を読もうとアプリを開く。
読みたかった漫画を開き、読み始める。
〜数分後
周囲の生徒達は各自クラスへと向かったのか、ポスター前にいる人の人数がいつの間にか少なくなっていた。碧はそのことに気づかず漫画に夢中になっている。
すると目の前に人が立っているのか自身の身体が影で覆われた。
そして目の前にいる男が話しかけてきた。
「おーい、碧。こんなとこで一人何やってるんだ?もう授業始まるぞ。」
碧が視線をケータイからその男に切り替えると目の前にはイケメンが立っていた。
髪の毛金髪、整った顔立ち、通った鼻筋、身長は自身と同じ175cmぐらいだが、雰囲気が完全に自分とは正反対だ。
周囲の女子からの熱い視線がこのイケメンに集中しているのが分かる。
「ああ、なんだ光星か。」
「何だとは何だ。俺が声をかけなきゃこのままずっとここに座ってる気だったろ。」
「んなわけ。」
(こいつの名前は前宮司光星。俺の幼馴染だ。幼小中高と全て同じ学校に通っている。こいつの周りにはいつも甘い空気が漂っているから話しかけにくいんだよな〜。)
「で、碧。クラスはもう確認し...てないよな。」
「してたらとっくにクラスへ向かってるわ。」
碧はケータイをカバンの中に仕舞い、木製のベンチから立ち上がる。
二人は人が少なくなったポスターの前に立ち止まり、自身のクラスを確認する。
(え~と....小鳥遊、小鳥遊....)
碧はポスターに指を挿し、自分の名前を探す。クラスは全部で6クラスあった。
1−1には名前がなく1−2を探そうとしたところ、光星から声が掛かった。
「俺と碧同じクラス、1−3だったよ。良かったな、また一年間一緒だ。」
光星に言われ碧は急いで視線を1−3へと向ける。すると本当に1−3に自分の名前が書いてあった。
「またかよ。」
(また一年間甘い空気が俺の周りに漂ってしまう〜!!)
碧は心のなかで頭を抱える。光星は下を向いている碧の肩に手を置き、校内へと誘導する。
「ほら、早く行くぞ。」
(ああ!俺の高校生活がぁぁぁ!!)
嫌な気分でありながら二人は自分たちのクラスへと向かった。すると1−3のクラス前に人だかりが出来ているのが見えた。光星はクラスメイトであろう男子に何が起きているのか聞いた。
「あの〜何が起きてるの?」
光星は小声でその男子に話しかける。相手の男子は光星のイケメンっぷりに驚くがすぐに返事を返した。
「なんか3人の女ヤンキーがあの女の子に絡んでんの。詳しい事はわかんない。」
碧はクラスの中を覗いてみると、そこには椅子に座った一人の少女を囲う様に立っている3人の女ヤンキーの姿があった。一人は髪の毛をお団子にしており、一人はショートヘア、もう一人は少しぽっちゃりしたヤンキーだった。
「おい、テメー!!高校に上がったからって今までの上下関係が消えると思ってんのか!!!」
ビクッ!!
「や、やめ......」
お団子ヘアのヤンキーは机を蹴りながら大きな声で彼女を怯えさせている。
よく見ると今朝ポスター前で横を通りかかった女子ではないか。
(あ、ポスター前で見たやつ....)
「おら!!なんとか言えよ!!」
お団子ヘアのヤンキーは更に机の足を強く蹴る。
するとクラスの外からひそひそと話し声が聞こえてきた。
「おい誰か助けにいけよ。」
「嫌だよ。巻き込まれたくない。」
「早く先生来ないかな.....」
「誰か呼びに行けよ。」
「なんで入学早々こんな事になってんだ。」
「知るか。」
誰も彼女を助ける気は無いようだ。外野から見るだけの傍観者。
虐められている彼女にとって傍観されるのは彼女たちにいじめられるのと同じぐらい怖いはずだ。
「ここは俺が....」
正義感の強い光星が前に出ようと体を動かす。すると碧が光星の体の前に手を出す。
その行動に光星は少し苛つきを覚えたがすぐに取り払われる。碧は深呼吸をし、3人組に向かって叫ぶ。
「す〜。あ!先生が来たぞ!あの有名な筋肉ダルマの体育教師だ!!」
その瞬間3人は動きを止める。先生にバレてまでやることでは無いと判断したのか、いじめるのをやめた。
「あとで覚えてろよ。」
「べーだ!」
「ふん!」
3人は1−3のクラスから一目散に出ていき、1−1へと帰って行った。
生徒達は3人が近づいてきた瞬間、素早く道を開ける。
去り際にお団子ヘアのヤンキーから睨まれた。「後でお前も覚えとろよ」とでも言いたそうな目つきをしていたが、すぐに去って行った。
碧は再度深呼吸をする。すると光星から背中を叩かれた。
「よくやった。偉い!お前が俺のこと止めた時、てっきりお前もただ傍観するのかと思ったよ。てか、なんでそんな目立ってまで助けたんだ?お前の嫌いなこと第三位だろ?目立つのは。」
「いや、なんとなく。助ける気分になった、それだけ。」
光星は碧の顔を見ながらニヤニヤしている。更に他の生徒たちはヤンキーがいなくなった瞬間、部屋の中へとなだれ込んだ。
「悪いか?てかニヤニヤやめろ。」
「え〜、いいじゃん幼馴染のかっこいい姿が見られたんだから(笑)。」
「ちっ」
二人は教室の中へと入る。入学初日なので自由に座っていいらしい。部屋を見渡すと何故か窓際の席が空いていた。その理由は考えるまでもなかった。
(早速避けられてるのか。)
先程の騒動を見てわざわざ彼女に近づく人はいないだろう。彼女は教壇からみて一番奥の窓際の席に座っている。あの近くに座れば騒ぎに巻き込まれるとクラスメイト達は感じている。
「は〜。しょうがない。」
碧は彼女の隣の席に座った。そして光星は彼女の前の席に座った。彼女を囲うように座った。
その行動にクラスメイトは驚愕の表情を見せた。
すると教壇の方から声が聞こえた。
「お前ら〜!席につけ!出席を始めるぞ!」
その一言によってクラスメイトは各自机に座り、先生の出席確認を待つ。
「では始めます。雨宮!」
「はい。」
「相澤!」
「はい!」
「井口!」
「はい!」
そのまま順調に出席確認が進んでいくと思ったら、彼女の名前が先生の口から呼ばれた。
「西園寺!」
「........」
彼女は黙っている。返事をしたくないのか、それとも声が出ないのか。
碧はチラリと西園寺の方を見る。彼女は下を向いており、ポタポタと顔からこぼれ落ちている。
(西園寺っていうんだ.....てか、泣いてる?.....)
「西園寺?いないのか?」
一回目の点呼で返事をしなかったので、先生は再度名前を呼んでみる。
すると、
「は、はい.....」
彼女はか細い声で返事を返した。声が少し震えている。
表情が見えないが多分泣いているのだろう。
「いたのか、ちゃんと返事するように。次!清水!」
「はい。」
そのまま先生の出席確認は終わり、出席簿を閉じる。そして教壇に置く。
先生は話し始める。
「この後入学式があるので、体育館に集まるように!では起立、礼!」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
クラスメイトは体育館に向かうため席を立ち、次々とクラスを去っていった。
「俺等も行くか。碧」
「ああ。」
二人は席を立ち、クラスを出ようとする。
だが、西園寺は未だに席に座ったままだった。碧は西園寺に声をかける。
「早くしないと入学式遅れるぞ。」
「.......」
返事はない。
「碧行くぞ、彼女のことが気になるのは分かるけど、」
「ああ、今行く!西園寺さん、早く来いよ。」
二人はクラスを去り体育館へ小走りで向かった。




