9.ここに俺が望むものはあるか?
「ふぁぁぁぁ、良く寝た」
心地よい眠りの後、大きく伸びをしながら体と頭を起こしていく。
ベッド一つでこれほどにまで生活が変わるのかという事を実体験させられた一週間、あの後エリザベート様よりダンジョン内へ追加の魔素が補充され、無事にベッドを大きくすることが出来た。
それに加えて簡易ながら台所を設置、小さいながらもしっかりとした椅子とテーブルがあるし、冒険者用の簡易コンロを置いて簡単な水場を用意すれば劇的に生活環境が改善されている。
何事も形から入るってのは重要なんだなぁ。
また、それらの魔素を使って店の拡張を追加で行ったことで商店の方も完璧な仕上がりとなった。
後はお客様が来るだけ・・・なのだが、残念ながらまだ冒険者が二階層まで到達した実績はない。
うーむ、もっとこうひっきりなしに来るのかと思ったのだがどうやらそういうわけではないらしい。
別に冒険者の数が少ないわけじゃないけれど、やはり知名度の問題だろうか。
ため息をつきながらカウンター後ろの戸棚に並んだポーションを磨いていると、ついにカラン!と言う音を立てて店の戸が開く音がした。
「相変わらず暇そうねぇ」
慌てて振り返るもそこにいたのは見慣れた部下、なんだよ期待させやがって。
「うるせぇ、余計なお世話だ」
「はい、これ」
「ん?」
「森を散歩してたら落ちてたから拾っといたわ」
「いや、絶対嘘だろ」
「あれ?わかる?」
「なんでこの森にブラッドベアの毛皮が落ちてるんだよ。アイツらが出るのはもっと北の方、こんな近くに出るわけないだろうが。っていうか、普通落ちてるのは爪だろ?」
空中に手を突っ込んでよくわからないところから取り出したのは赤黒い巨大な毛皮。
一目見ただけでブラッドベアの物だとわかる赤黒いそれは、カウンターの上で異彩を放っていた。
コイツが出るのは確かもっと北の奥地、実力者でも苦戦すると言われている魔物の毛皮を適当に拾ったというあたり事の重大さを理解していないようだ。
これ一枚で銀貨数十枚の価値がある、そんなもんを土産で持ってこられても困るんだよなぁ。
「なーんだ、バレちゃった。じゃあ買い取れないわよね」
「いや、買い取れと言われたら買い取るが・・・、今の在庫状況だと例のお菓子四日分しか出せないぞ」
「え!そんなにもらえるの!?」
「本当はもっと出してやりたいんだが生憎と在庫切れだ。また今度買ってくるからこれで我慢してくれ、構わないか?」
「もう全然オッケー!やった!こんなので四日分ももらえるのね!」
本来であれば金貨何十枚分の価値があるけれども、生憎とそれを払うだけの財力があるわけでもなく。
それならばと提案した例の星型のお菓子だったが、まさかこんなに喰いつくとは思わなかった。
四日分と言えばせいぜい銀貨1枚程度、それで交換してもらえるというのならばこちらとしてもありがたい話だ。
一瞬悪いかなと思ったけれども本人がそれでいいのなら何も言うまい。
流石に物がよすぎて近くの村では買い取ってもらえないけれども、隣町まで行けばそれなりの値段で買い取ってもらえるはず、確かあそこには商会の関係店舗があったはずだから色々と仕入れを行えるはずだ。
後はこれを他の魔物が持ってくる素材の買取代に充ててしまおう。
今の所この商店のメイン顧客はダンジョン内の魔物達、なんでもリサが商店の事を広めてくれたようで自然発生した魔物も含めてポツポツとやってくるようになった。
魔物が相手なので何を言っているかはわからないけれど、向こうは俺が言う事が何となくわかるのかそれとなく取引が成立している。
最初にやってきたのは客はゴブリン。
正直いきなりだったので襲われるのではないかと身構えてしまったがエリザベート様の魔力を頂いているおかげで襲われるはずもなく、カウンターの前までくるとグゲゲゲとよくわからない言葉で話しかけてきた。
とりあえずビビりながらも対話を繰り返していると、腰にぶら下げた革袋から緑色の草を取り出しカウンターに並べ始める。
それは見紛う事なき薬草、まさか魔物が持ってくるとは思わなかったがとりあえずそれを一つ銅貨15枚で買い取ると何故か物凄い喜ばれてしまった。
そしてそのお金を手に店の中を見て回るとリサが食べているお菓子を発見、満足げな顔でそれを購入し去っていったのがつい五日前の話だ。
「だって美味しいんだもの仕方ないじゃない」
すぐにリサに事情を聴くとどうやらこいつが魔物達にお菓子の存在を広めたらしく、購入したいならダンジョン内で見つかる素材なんかを持って来いという話をしたんだとか。
そのおかげでぽつぽつと買取が増え、更にその金を使って買い物をして帰っていく。
俺はそれらを近くの村で換金し、更にその金を使ってまたお菓子を買い占めるというのが最近の流れ、どうやらお菓子好きの兄ちゃんという認識になってきたのか昨日は新作が並んでいた。
まぁそれを話題にして仲良くなれるのはいい事なんだが、正直お菓子じゃ単価が低いんだよなぁ。
やはりポーションとか、それなりの値段のするものを購入してもらわないと店としての利益は少ないまま。
素材を買い取った魔物もお菓子だけではお金だけが増えてしまうだけので、もっと消費先を作ってやる必要がある。
とはいえ魔物が何を好むのかがわからないので、適当に色々と買い付けては店に並べるもののあまり良い反応は無かったりする。
うーむ、人間なら喜ぶのに魔物は喜ばないんだから難しいよなぁ。
「なんで売れないんだ?」
「だってゴブリンがランタンなんて使うと思う?」
「これだけ暗いんだから使うだろ」
「使わないわよ、夜目が効くんだから。それならいっそ派手な腰巻とかお酒とかその辺に落ちている骨とかの方が喜ぶわよ」
「・・・さっぱりわからん」
酒はともかく腰巻とか骨とかいったい何に喜ぶんだ?と思いながらもとりあえず仕入れてみたら、信じられないぐらいの速さで売り切れてしまった。
買ったゴブリンは他の仲間に英雄みたいに扱われてるし、買えなかったゴブリンには文句言われるし・・・。
なんにせよ、今までの考えは捨ててもっと魔物について勉強しなければならないという事はよくわかった、しばらくはリサに色々と聞きながらそれらしいものを仕入れるとしよう。
「さて、買い取った分も含めて今日もしっかり販売しますか」
そんなわけで気を取り直しつつ買い取った毛皮を裏の倉庫に運び、代わりに魔物が喜びそうなものを店頭に並べていく。
店に来るのは主にゴブリンとスライムそれとコボレート、最近はスケルトンの姿も見かけるようになってきた。
前者は好みが似ているのか子供が好きそうな物を買っていくのだが、後者の好みはいまいちよくわかっていない。
前にスライムが買っていったのはリサ用に買った化粧水、結局リサは興味なさそうな感じだがあれを使スライムが使ってどうなるんだろうか・・・さっぱりわからん。
そんな感じで商品を並べながら次の仕入れをどうするのかと頭を悩ませていたその時だ。
カランカランとベルが鳴り、入って来たのは一匹のゴブリン。
だがそいつは、普段ダンジョン内で見るのとは明らかに違う目つきをしていた。
「仲間から不思議な店があると聞いて来た、ここに俺が望むものはあるか?」




