5.別にアンタの為なんかじゃないんだから
後は任せましたと言って、エリザベート様は突然現れた黒い壁の向こうへと消えてしまった。
恐らくあれでここまで飛んできたのだろう、っていうかここはどこなんだ?
一応辺境のダンジョンという事にはなっているけれども、あまりにも情報が少なすぎる。
頼りになるのは、頼りになりそうにない例の部下・・・いや、リサのみ。
突然俺の補佐という事になってしまったが本当に大丈夫なんだろうか。
「何よ」
「別になにも。とりあえずエリザベート様からここの管理を任された訳だが、ここがどこなのかそもそもどういう状況なのかがわからない。悪いが教えてもらえないか?」
「なんで私がアンタの手伝いをしなきゃならないのよ」
「エリザベート様の命令だろ?」
「それはそうだけど・・・」
エリザベート様の命令とはいえ明らかに不満げなリサ。
まぁ当然と言えば当然だろう、俺だってこんな短期間に魔族の部下が出来るなんて思ってもいなかったし、なんならエリザベート様の魔力を頂いてダンジョンマスターになるなんて想像もできなかった。
これが僅か数時間で起きた話、世の中マジで何が起きるかわからないものだ。
とはいえ、ずっとこのままというわけにはいかないわけで。
俺達にはやらなければならないことがある、それを成すために信念を曲げなければならないのなら喜んで曲げようじゃないか。
「いいのか、俺が成功しなかったら自分の目的を果たせないんだぞ?」
「ぐぬぬ、おのれ人間卑怯な事を」
「いいかこれは取引だ。お前は俺に情報と魔物の仲介を、俺は知識と知恵そして伝手を使ってここを大きくする。その結果俺は金と実益を、お前はエリザベート様からの評価を得るというわけだ。別に俺が嫌いならそれで構わない、だが協力してくれなければそれぞれの目標を果たせないんだ、嫌でもやるしかないだろう」
明らかに俺を蔑視しているリサに向かって、現実を突きつけてやる。
人間が嫌いだろうが俺が嫌いだろうがそんなことは関係ない。
俺達に求められているのは成果だけ、それを成すためには嫌な相手でも手を組まなければならない。
「・・・仕方ないわね。でもこれはエリザベート様の命令だから仕方なく手伝っているだけ、それは忘れないでよね」
「それで十分だ。という事でまずは自己紹介からだな」
なんにせよまずはお互いを知ることから始めよう。
名前は知っているけれども、簡単に今までの経緯とか何が出来るかとかを紹介。
最初はお互いに緊張していたが、話をしていくとなかなか面白いやつだという事がよく分かった。
どうやらリサは魔族の中でもかなりのポンコツらしく、それを不憫に思ったエリザベート様が自分のお付きとして拾いあげてくださったんだとか。
だからこそ彼女はエリザベート様の為なら命さえも投げ出せる、それぐらい心酔しているという事がよく伝わってくる。
得意な事は戦闘中心、あとは魔物を使役する力があるようで自分よりも弱い魔物であればいう事を聞かせられるらしい。
とはいえ自我があるとだめらしいんだが、その辺は正直よくわからなかった。
とりあえず知性が無くて自分よりも弱い奴ならいけるってことなんだろう。
「ふーん、そんなに賢いのに辺境なんかに飛ばされるのね」
「恐らく俺を妬んだやつの仕業だろう、全く迷惑な話だ」
「でもよかったじゃない、そのおかげでエリザベート様の配下になれたんだから」
「それもそうだよな。実際魔無しの俺がダンジョンの中にいられるだけでも奇跡だし、この地図を見る限り辺境に飛ばされた時点で生きていくのは難しかっただろう。っていうか、魔王領があの山の向こうまで来ているなんて聞いてなかったんだが?」
目の前に置かれたのはダンジョン周辺の地図。
どうやらこのダンジョンは俺が歩いていた街道からそう離れていない場所にあるようだ。
近くには少し大きな村が一つあるだけ、馬車で1日いけば少し大きな町があるから買い物には困らないだろう。
そしてその先にあるのは辺境と呼ばれる未開の土地、地図にも描かれていないエリアの向こうに大きな山が描かれているのだが、どうやらその奥まで魔王の勢力が伸びているようだ。
幸い今の魔王は積極的に人間を攻撃するような人ではないらしいけど、攻めて来られたらその限りではない。
とはいえ何事も平和が一番、今の国王も戦争は望んでいない人なので大丈夫なはずだ。
後はダンジョンについて説明を受けた所で、いったん終了。
かなり長い事話をしたので喉が渇いたんだが、そういえば飯とかどうすればいいんだろうか。
今いるのは最初に連れてこられただだっ広い部屋、例の装置は床に戻ってしまっているので本当に何もない。
とりあえずリサに聞こうと思ったその時だ、何かを思いついたかのように俯いていた彼女がハッと顔を上げた。
「ねぇ、一つ思ったんだけど人間を殺すことに抵抗ないの?」
「抵抗はあるさ。だが、それを今更言ったところで現実が変わるわけじゃない。俺がやらなければならないのはダンジョンを成長させること、その為に冒険者を殺す必要があるのならそれを成すまでだ。だが、さっきの話じゃそこまでしなくてもよさそうだけどな」
「どういう事?」
「要は魔物と冒険者が戦えばいいんだろ?なら別に殺す必要はないんじゃないか?」
「それはそうだけど・・・」
「それに、ここは辺境。いくらでも冒険者がいるわけじゃないし殺すと次が来るまでに時間がかかる。それなら適度に痛めつけてダンジョンの外に追い出し、戻ってきた所をまた返り討ちにしてやればより効率的にダンジョンを成長させることが出来る。いずれ奴らも強くなるがそれを上回るだけの戦力で迎え入れればいいだけだ。いざとなったらお前がいるしな」
「え、私!?」
突然自分の名前を出され驚いた顔をするリサ。
クルクルと変わる表情がなんとも子供っぽいが、そういう素直さをエリザベート様は気に入っているのかもしれない。
実際僅かな時間しか二人が話をしているのを見ていないが、エリザベート様が彼女を注意した時にもどことなく愛情と言うか優しさのようなものを感じた。
俺の下に付けたのも彼女の成長を期待しての事、それならば俺はそれをありがたく使わせてもらうだけだ。
「戦闘はお前の得意分野だろ?流石にやりすぎは困るが俺が頭を使うからお前は体を動かしてくれ。あと魔物との意思疎通も頼みたい」
「仕方ないわね、加減できるかはわからないけどやってあげるわ。でも、アンタの為なんかじゃないんだからね!あくまでもエリザベート様の頼みだからやるだけで、まだ認めたわけじゃ・・・」
「もちろん頑張ってくれればその分しっかり報酬は出す」
「え!そうなの!?」
さっきまで不満たっぷりって顔をしていたのに、一気に顔が明るくなった。
「そりゃそうだろ、部下になったってことは俺には給与を払う義務がある。最初は満足な金額を出せないと思うが、軌道に乗ればそれなりの額は出せるはずだ」
「じゃあ、それを使って好きなもの買っていいってこと?」
「お前の金なんだから好きにすればいい。もし欲しい物があるならできる限り手配しよう。一応まだ商会の人間だからな、仕入れ権限は残っているはずだ」
さっき見せてもらった地図にが間違いなければ、近くに村があるのでそこを経由すれば商店の商品を仕入れることも可能なはず。
食料なんかを仕入れる事を考えれば村との関係は良好にする必要がある、仲介料を支払って保管してもらうなどすれば村は潤うはずなので嫌な顔はされないはずだ。
なんならそのついでに商店の商品を売れば一石二鳥、いやリサに売れるんだから三鳥か?
それならばいっそダンジョンで商売も・・・って、あれ?
そこでふと疑問が生じた。
リサに給与を払うということは、ダンジョンにいる魔物にも支払わなければならないのだろうか。
そもそもダンジョンの魔物は買い物をするのか?
というか魔物って意思疎通できるのだろうか。
考えれば考えるほど疑問は深まるばかり、よく辺境に行って文化の違いでトラブルになるって聞いたことがあるけれど、こういう事なんだろうなぁ。
何にせよやるべきことは決まっている。
とりあえず今やることは・・・。
「よし、とりあえず飯にしよう」
腹が減っては何とやら、それで飯はどこにあるんだ?




