4.ここが新しい職場です
「っと、ここは?」
エリザベート様に名前を貰った後、差し伸べられた手を持った瞬間に視界が暗転。
またあの激痛が来るのかと覚悟したのだが、ゆっくりと目を開けると薄暗い場所に立っていた。
足元は石畳、周りは土壁、どうやら灯りは壁に埋め込まれているようだ。
あの一瞬で大空の下からどこか薄暗い所まで移動させるあたり、流石魔族四柱の一人というところだろうか。
「ここはダンジョンの中、そして貴方の職場です」
「職場?」
「さっき現地で話をするって言ったでしょ!全く、何を聞いてるのよ」
「突然の事に動揺しているのですから当然です。まずは奥へ行きましょう、そこで詳しく話します」
「わかりました」
リサが何やら偉そうにしているけれども、あくまでも俺の上司はエリザベート様のみ。
その人がコイツを上司にしろと言うのならば従うしかないけれども、正直ペンの件でもわかったようにあまり頭はよくなさそうだな。
とはいえ魔族は魔族、エリザベート様から直接魔力を賜ったことでダンジョンの中でも生きていけるようになったけれども俺自身戦いの方はからっきしだ。
そのままエリザベート様の後ろに続いて歩くこと数分、突然ぽっかりと開けた場所に出た。
ドームのように天井が高く走り回るのにはちょうどいい。
正直魔無しだったのでダンジョンの常識と言うかそういうのが全くないので、ここがどういう場所なのかもわからない。
そんな俺の動揺を知る由もなく、エリザベート様はドームの真ん中へと移動して静かに手を前に伸ばすと、地面から細い筒のようなものが現れた。
先端に水晶のようなものがついているように見えるけれど、あれはいったい何だろうか。
「アレス」
「はい」
「手を出しなさい」
「手を?」
「いいから早くする!」
リサに急かされるように手を伸ばすと、突然ピリッとした痛みが掌に走った。
慌てて確認すると中々に深い切り傷が出来ており、鮮血がポタポタと地面に落ちる。
「そのまま上に手を乗せなさい」
「っ、わかりました」
さっきの痛みに比べればこれぐらいどうってことない、エリザベート様に言われるがまま地面から生えてきた水晶に手を乗せると、透明だった水晶に血が付き鮮やかな赤色に変化した。
「魔族四柱エリザベート様の魔力を確認、ご命令をどうぞ」
それと同時にダンジョンの中、いや水晶から不思議な声が聞こえてくる。
こいつ、喋るぞ。
「対象者をマスターに登録」
「対象者をダンジョンマスターに登録。魔力照合中・・・エリザベート様の配下であることを確認しました。これよりマスター登録を行います、登録後は本人が死亡するまで変更はできません、よろしいですね?」
「問題ないわ」
「魔力登録を開始、水晶を対象者の血液で満たします。しばらくお待ちください」
今度は手を乗せた水晶が切り傷から血液を吸収していくのがわかる。
見る見るうちに体の中が冷え、ガタガタと唇が震えはじめた。
血液を失い過ぎると震えが止まらなくなるというけれど、まさかこんな所で実体験する日が来るとは思わなかった。
「規定量を採取。これによりアレスをダンジョンマスターに登録いたしました。おめでとうございます」
なんだかよくわからないが俺がダンジョンマスターとやらになったらしい。
エリザベート様直々にこの作業を行ったわけだから、これが俺のやるべき仕事なんだろうけど・・・いったい何をすればいいんだ?
「登録は完了、これにより貴方はダンジョンの責任者となりました。今後は私の為に貴方の知恵と知識を駆使してダンジョンを発展させなさい。それが貴方の仕事であり役目、わかりましたね?」
「・・・」
「ちょっと、どうなのよ。っていうかそもそも拒否なんてできないんだからね!」
「拒否だなんてとんでもない。このアレス、エリザベート様の任をありがたく拝命いたします。が、いくつか質問もございますが、よろしいでしょうか」
状況は理解した。
ここはダンジョンの中で、俺はダンジョンマスターとやらになりこのダンジョンを大きくする仕事を与えられたらしい。
正直人間と戦えとか世界を滅ぼせとかそんなことを言われたらどうすればいいか不安だったんだが、これならまだやれる自信がある。
だが、具体的に何をすればいいのかがわからない。
「良いでしょう、何でも聞きなさい」
「ありがとうございます。ではまず、発展させろとのことですが具体的に何をすればよろしいのでしょうか」
「言葉の通りです。ここは未だ生まれたてでダンジョンとしてまともに機能していません。まずは魔力を貯め、各階層に人間を足止めする魔物を配置しなさい。人間と魔物が戦う時に発する魔力でダンジョンは成長します。それを繰り返しながらダンジョンを成長させるのが貴方の仕事です」
「なるほど理解しました。では次に、この仕事をすることにより私は何を得るのでしょうか」
「何を、得る?」
俺の質問にエリザベート様が不思議そうに首をかしげる。
やろうと思えば腕を振るうだけで俺を殺せるだけの力があるのに、なんでこんなに無防備なんだろうか。
首をかしげる様はまるで小さな子供のよう、それでいて暴力的な胸がこれでもかと主張しているのだから脳がバグってしまう。
「私はエリザベート様に雇われダンジョンを成長させる仕事を任せられている、つまり雇用契約が発生しているわけです。エリザベート様は仕事を振るかわりに私に対して対価を支払う必要があると思うのですが・・・違いますか?」
「なるほど人間の感覚に当てはめるとそうなるのですね」
「アンタねぇ、エリザベート様に向かってなんてこと言うのよ!魔力を直接分けてもらっておきながらそれ以上欲しがるなんて図々しいにもほどがあるわよ」
「たとえ図々しくても給与無くして仕事はできません。ここで生活していくとして食料や水、日用品、魔物が人間と戦うための道具なども必要になるでしょう。それらを買付けるにはお金が必要です。もちろん都度必要と思われる物が出た場合には経費として請求いたしますが、どういたしましょうか」
いい仕事にはいい報酬を、それが商店にいた時に叩きこまれた考え方だ。
タダ働きなんてもってのほか、やるからにはしっかりと儲ける必要がある。
「ではこうしましょう、ここで得た収入の一割をあなたの給与として支払います。稼げば稼ぐだけ貴方の懐も温かくなる、悪い話ではないでしょう」
「つまり歩合という事ですか」
「ダンジョンを運営するにあたり最低限の資金は用意します。後はそれを自分で運用してお金を集め快適な状況を作り出しなさい。先ほども言いましたが、ダンジョンは冒険者を迎え入れ戦う事で成長します。貴方が働けば働くほどダンジョンは成長し更に収入も増加する、私の為にしっかりと働きなさい」
ダンジョンを成長させるだけと思いきや、どうやら自分で生きていく為の金を稼がなければならないようだ。
こんな場所で誰に何を売るのかという部分はかなり不安が残るけれども、とりあえず聞くことだけ聞いてしまおう。
「では最後に、この仕事を行うにはダンジョンも含め多くの知識が足りません。せめてそれらを補完、補佐するような方がいると助かるのですが、如何でしょうか」
「確かにそれは必要ですね。・・・良いでしょうリサを貴方の下に付けます、存分に使いなさい」
「えぇ!私ですか!?」
「リサ、確かに貴女はいい子です。ですが、それだけでは何の成長もありません。今後はアレスの補佐を行いながら自分に出来る事をしっかりと行いなさい。それが出来るようになったのなら、約束通り私の配下にしてあげましょう」
「うぅ、これもエリザベート様の寵愛をいただくため・・・仕方ありません」
おかしいな、俺的にはもっとこう知識のある人と言うか話の分かる人が良かったんだが・・・、残念ながらこの状況でそれを覆すのは難しそうだ。
辺境に行くはずがエリザベート様に仕事を与えられ気づけばダンジョンを運営することになってしまった。
給与は歩合、しかも住み込み。
右も左もわからない中でダンジョンを成長させるには、とりあえず仲間が必要だ。
今は贅沢を言っていられない。
リサの不満げな視線を感じながらどうしていくべきか必死に頭を悩ませるのだった。




