39.これからもよろしくな
さて、エリザベート様襲来という本日のメインイベントが早くも終わったので後は諸々の後片付けと行こうじゃないか。
リサはオーク達のところへと向かったので俺は身だしなみを整えて店まで移動する。
「おはようライム」
ポヨン!
「おはようコボレート諸君」
こくこく!
ポータルで店まで移動、開店にはまだ早い時間だが彼らは元気よく掃除に勤しんでいた。
ライムが棚の上の埃を綺麗に回収、コボレート達は床に落ちているゴミを拾ったり窓を拭いたりと楽しそうに動き回っている。
掃除なんてめんどくさいと思いがちだが、彼らのこういう姿を見ると楽しそうだなぁと思ってしまうわけで。
「朝から掃除ご苦労さん、マリーさんは?」
ピッ!
ライムの体が変形して奥の工房を指差す。
ふむ、昨日の今日だし結構無理をさせてしまったのでまだ休んでるかもしれないな。
そんなことを思っていた次の瞬間、工房側の扉が開き、大量のポーションが入った木箱を抱えてマリーさんが現れた。
「おいおい、こんなにいっぱい大丈夫か?」
「あ〜、アレスさん〜おはようございます〜」
「おはよう。まさかこれ全部追加で作ったのか?」
「だって〜在庫が切れたので〜」
「確かに切れたけど・・・大変だったろ」
「作るのは好きなので〜大丈夫です〜」
大丈夫と言う割には眠たそうな顔をしているし、目の下にクマがあるようにも見える。
凶悪なまでの二つの膨らみがポーションの上に載って重そうなので木箱を代わりに持ってやると、ホッとしたような表情を浮かべる。
相変わらず色々デカい。
これでライムを抱えたらデカい物が三つ並ぶ事になるなぁなんて本人を前に不謹慎なことを考えてしまった。
「無理はするなよ。諸々片付いたら店まで送っていくから、今回は無理に来てもらって悪かったな」
「楽しかったので〜大丈夫です〜」
「楽しかった?」
「こんなに沢山お薬を〜作るのは初めてだったので〜。それに〜お客さんもいい人ばかりだったし〜」
「なるほど、向こうみたいに変な奴が来ないのか」
向こうではその色々デカいもののせいでよろしくない連中に目をつけられたこともあったみたいだが、ここ来るのは一応真っ当な冒険者なのでそこまで露骨な奴はいなかったんだろう。
「それで〜前のお話なんですけど〜、やっぱり受けても良いですか〜?」
「この前?」
「アレスのところ来ないかって〜いうやつです〜」
そう言えばそんな事も言っていたなぁと思いながらも、本人からそう言ってもらえるのは非常にありがたい。
個人的にはまず店を見てもらってからと思っていたのだが、まさかこの展開は想像していなかった。
とはいえ元は彼女のために無理して作った工房だ、今後も働いてくれるのならば無駄にならなくて済む。
「それはありがたい、これからもよろしくな」
契約関係も含めて諸々の部分は詰めるとして、とりあえず一度家に送ってから考えるとしよう。
店の片づけが終わったところで一度彼女を町まで送り届け、カイネに見つからないように急ぎ店に戻る。
本当は先に白黒つけるべきなんだろうけど、まだ手持ちのカードが少なすぎるのでもう少し策を練っておきたいところだ。
ダンジョンに戻ったその足で向かったのは四階層。
今回のダンジョン拡張で新たに出来上がった四階層では、リサを前に何故かオーク達が筋トレに精を出していた。
「アンタ達の実力はこんなもんじゃないでしょ!ほらそこ!さぼってんじゃないわよ!」
「ブモ!」
「ゴブリン程度に負けないって豪語しときながらあのざまは何よ!強くなりたかったらまずはそのぶよぶよに太った体を何とかしなさい!本当のデブはね筋肉を隠してんのよ、それがアンタ達ときたらただ食べて太っただけで全く強くないじゃない。悔しいならそれを跳ねのけるぐらい鍛えてみなさいよ、私が鍛えてあげるからしっかりついてくるのよ!」
「「「「ブモ!」」」」」
鬼軍曹ならぬ鬼魔族を前にオーク達が汗と涙を流しながらブモブモと大騒ぎしている。
ふむ、リサの話じゃこの四階層にオーク達を住まわせて冒険者たちを迎えるっていう話だったんだが、なんでこんなブートキャンプみたいなことになってるんだ?
「随分と精が出るな」
「あ、おかえり」
「何かあったのか?」
「まぁ、ちょっとね。本当は穏便に行こうと思ったんだけど、あまりにもひどいもんだから現実を見せてやってるのよ」
リサ曰く、ここに引っ越してきたオークの一部がグラットをはじめとしたゴブリンを馬鹿にしたので手合わせをさせてみた所ボコボコにされてしまったそうだ。
まぁ、向こうは釘棍棒をはじめとしたうち手製の装備で強化しているので当然と言えば当然だけど、どうやらそれが彼らのプライドを傷つけてしまったそうだ。
見た目の割にメンタルが繊細なオークを前に最初こそ穏やかに接していたリサだったが、次第にイライラしてきた結果今に至るという事らしい。
まぁ、強くなってくれるのはありがたい事なので是非とも継続していただきたい所なんだが強くなりすぎるのも考えものなんだよなぁ。
まぁその辺は追々考えていけばいいか。
「ほどほどにしてやれよ」
「私はそれで構わないんだけど後はこいつら次第ね。武器とかをもう少し工夫してやれば十分強くなると思うんだけど」
「ほぉ、それをすればオーグルに勝てるか?」
「当たり前じゃない。あんな奴ら敵じゃないわよ」
「そりゃいい事を聞いた。おーい、お前らちょっと集まってくれ」
俺の合図に汗だくのオークが集まってくる。
なんていう威圧感、汗だくなせいで一気に不快指数が上がっていく。
「ダンジョンマスターのアレスだ。聞けばグラット達ゴブリンに負けたっていう話だが、悔しいか?」
「ブモ!」
「ブモ!ブモ!ブモ!」
「当然だって言ってるわよ」
「先に説明しておくが彼らが強いのは俺達が作った装備を買っているからだ。ゴブリンにはダンジョン内の薬草や素材を回収して店に持ってきてもらう約束をしているが、そこで得た報酬を使って新しい装備を買い揃えている。つまり、お前達も新しい装備を使えば十分強くなれるってことだ。もちろんその体のままじゃどうにもならないが、リサに鍛えてもらえばオーグルなんて敵じゃなくなるだろう。どうだ、お前達も装備が欲しいか?」
「「「「「ブモ!」」」」」」
もちろん!と言う感じで全員の声が第四階層に響き渡る。
彼らは仲間であると同時に俺の大事なお客様、しかも彼らには貸しがあるのでそれを使えば店はさらに潤う事だろう。
「先のオーグル戦でお前達にはポーションを渡した貸しがあるのは覚えているな。今後お前達にはダンジョンの外に出て周辺の薬草などの他魔物の素材なんかを集めてもらう。それを俺が買い取り、そこで得た金を使えば装備を購入できるだろう。他にもここでの生活が豊かになる物や体を強化するための薬なんかも用意するつもりだ、お前達もオーグルのような筋肉が欲しいだろ?」
「「「「「ブモ!」」」」」」
「それが欲しければしっかり働け、お前達の今後の活躍に期待する」
「「「「「ブモ!ブモ!ブモ!」」」」」」
オーク達の大合唱を聞きながらリサに目配せをしてその場を後にする。
さぁ、これで準備は整った。
オーク達のビルドアップはリサに一任しつつ、彼らにはしっかり素材を集めてもらって店の売り上げに貢献してもらおう。
ちょうどマリーが新しい薬を作りたいって言っていたからいい実験台になってくれるに違いない。
外から新しい素材が入ってくれば薬の種類も増えるし、大量に買い取った素材を冒険者ギルドに売りに行けば更に良い武器を仕入れて冒険者に売ることも出来る。
そして冒険者はそれらを手にダンジョンに潜り、新たな魔素をもたらしてくれることだろう。
何もかも順風満帆、後は例の件を片付ければ新たなダンジョン商店がスタートできる。
ここでビビっていても仕方がない。
最後のひと仕事と行こうじゃないか。




