40.ようこそダンジョン商店へ
「さて、そろそろ決着をつけてくるか」
オーク達のブートキャンプも順調に進み、外から持ち帰った素材でいい感じに商店が潤い始めた。
とはいえ金は有限、彼らが持ってきた素材を換金しなければ明日食べるパンすら買えなくなってしまうわけで。
そんなわけで重たい腰を上げて隣町へと行くことにした。
因みにマリーさんは一足先に店に来て仕事を始めてくれている。
あんなに大事な店をポンと手放して町を離れる事になったものだから冒険者ギルドはかなり慌てたらしいけど、うちに来ることを伝えると定期的にギルドが買いに来てくれるという話になったそうだ。
うちからすれば大口の取引先が見つかってありがたい限り、ダンジョンの事が広まれば今以上に冒険者が来るだろうから店も繁盛するし魔素も確実に増えていくだろう。
色々あって大変だったけど正直、階層を増やすよりも先に工房を作ったのは間違いではなかったと思っている。
「ほい、到着っと」
今後の動きについて色々と考えているとあっという間に隣町へ到着、いつものように彼女を馬屋に預けて冒険者ギルドへと向かった。
「お、うちの大事な職人を引き抜いた大物が来たぞ」
「大事なっていうならもっと気をかけてやるべきだったな」
「それに関してはぐうの音も出ないが、まぁ引き続きよろしく頼む」
「こっちこそ御贔屓に。早速だが今回も買取を頼む、素材が多くて大変なんだ」
「ったく、よくまぁこんなに持ち込めるもんだ。あまり同じのを持ち込まれると買取価格が下がるんだが?」
「とかいって別の地域で高く売りさばいてるのは分かってるんだからいつも通りで頼むぞ」
「これだから王都上がりの商人は・・・ちょっと待ってろ」
正直もっと文句を言われるかと思ったが、どうやらそう言う感じではないらしい。
ギルド的にもダンジョン内に商店があることで冒険者が安心して戦えると理解してくれているんだろう。
こういうのは持ちつ持たれつ、冒険者もまたうちの大事なお客様なので大事にしないとな。
「そうだ、アレスさん!」
「ん?」
「アレスさんって王都で働いていたんですよね?」
突然カウンターで作業していたユーディーが俺の方を振り向き、身を乗り出すように話しかけてくる。
「あぁ、一応今も所属はしてるがどうかしたのか?」
「実は手に入れてほしい物があるんですけど・・・できます?」
「それは物と費用との相談だな。あれか?流行りのイヤリングか?」
「それです!どうしても欲しいのがあって、手に入ったら嬉しいな~なんて思っちゃってるわけですよ」
「あれは王都でも予約待ちだからなぁ。まぁ手がないわけでもないが・・・高くつくぞ」
「明日からお昼を抜いて工面します」
とある職人が作ったアクセサリーが王都では大人気のようで、その噂は辺境近くのこの辺りまで届いている。
実はその職人とは人気が出る前から親交があるので俺が頼めばある程度は分けてもらえるだろう。
もちろん絶対とは言えないが、後はそれをどうやって運ぶのか。
輸送だと誰かが盗む可能性があるけれども、かといって取りに行くのも大変だからなぁ。
「大事な看板娘がこんなこと言ってるが、いいのかグレン」
「なんで俺に振るんだよ、俺は知らないからな」
「だってさ」
「いいんです、こういうのは自分で買うから意味があるんです」
「つまりプレゼントしてくれる奴もいないと」
「アレスさん、それ以上言うとどうなるかわかってますね」
「ういっす」
危なくワイルドタイガーの尾を踏んでしまう所だった。
女性にそれ系の話題は禁句、好きな人もいるけれどもわざわざ首を突っ込む必要もない。
買取にまだ時間がかかりそうなので先に買い物を済ませておくか、とギルドを出たその時だ。
「アレス、ここにいたか」
「カイネか」
「この前の事で話がある、詰め所まで来てもらおうか」
純白の鎧を身に着けた辺境騎士団長がわざわざお出迎えに来てくれたらしい。
こっちも決着をつけるためにここに来たんだ、さっさと終わらせるとしよう。
そのまま詰め所まで移動し、団長室へと案内してもらった。
「随分と綺麗にしているじゃないか」
「ここは折衝の場でもあるからな、汚くするわけにもいかないんだ」
「それで、話ってのは?」
「とぼけても無駄だ。お前から感じる魔族の臭い、これについて説明してもらおうじゃないか」
どうやら向こうは真剣な様子、まぁ内容が内容だけに致し方ないんだろうけど・・・。
まぁ何とかなるだろう。
「説明も何もお前が感じている通りだ。あのダンジョンは魔族が管理していて、俺はその運営を任されている。臭いも恐らくそこから感じているんだろう」
「隠さないんだな」
「むしろ隠す必要がないからな」
「どういうことだ?」
「魔族と繋がってる?だからどうした。証拠はあるのか?」
「証拠はお前とダンジョンから感じる臭いが・・・」
「臭い?それを他の辺境騎士が感じられるのか?そもそもその臭い自体お前の誤解が原因だったらどうするつもりだ?」
ここに来るまでに色々な状況を想定してきたけれども、導き出された答えは隠さない事だった。
下手に隠せば粗が出る、ならば堂々としていれば問題ない。
今回の件はカイネだけの指摘なのでそれだけならまだどうにでもなる範囲だ。
「そんなことはない!あれは間違いなく魔族のもの、しかも四柱に匹敵するものだ!」
「だから?」
「だ、だから?」
「魔族がいたからって何か問題があるのか?確かに魔族と人間は今も争ってはいるけれども、実際に戦いが行われたのはもう十数年も前の話だ。魔王が自分の領土に引きこもってからというもの目立った戦いは行われていないし、人間側が戦いを挑んだこともない。もし魔族が悪だとしたらなんとしてでも討伐に向かっているけれども、それが行われていないという事はそもそも相手にする必要がないからだ。それなのに臭いがするからと言う理由だけで事を荒立てるのは・・・ちょっと無理があるんじゃないか?」
今回のポイントはわざわざ争う必要があるのかと言う所。
今の所魔族が人間を襲っていることはなく、魔王が攻め込んできているという話も聞かないし何なら過去数百年の中で一番平和な時期だとも言われている。
そんな状況をわざわざ壊す必要はないし、それを曖昧な理由で行えばカイネ自身が罰せられる可能性だってある。
それは彼女もわかっているはずなので、今回はそこを重点的に攻めていくつもりだ。
「た、確かに魔族が攻めてきているという話は聞かない。だが、魔族は討伐対象だと聖騎士団も発表しているんだ、それをみすみす見逃すわけには・・・」
「だからそれがおかしな話なんだって。もし聖騎士団が悪だというのならばなんで攻め込まないんだ?大義名分はいくらでもある、にも拘らずそれをせず王都でぬくぬくしているのはやる必要がないからだろ?カイネ、もちろんお前が自分の役職に誇りを持つのはいいことだが、それと事を荒立てるのは別の話だとおもうぞ」
「くっ・・・」
思わぬ正論を突きつけられ何も言えなくなってしまうカイネ。
元々こういう理詰めには慣れていないんだろう、交渉下手と言うか真面目と言うか。
だからこそ実力はあるのに王都に上がれずこんな所でくすぶっているに違いない。
とはいえ、ここで彼女を抑圧しすぎると色々と問題も出てくるのである程度はガス抜きも必要になってくるだろう。
「だが、そんなに心配なら直接見に来ればいい。俺は逃げも隠れもしないし、もし怪しい動きがあれば王都に連行するなり殺すなり好きにしていいぞ」
「見に行く?」
「知ってると思うがマリーがうちの店で働くことになった。今後は冒険者ギルドもポーションを仕入れに店に来るだろうから、辺境騎士もそれを口実にダンジョンに来ればいいんだ。そこで俺が魔族と繋がっている証明か何かを見つけることが出来れば俺はそれに従おう。どうだ、悪い話じゃないだろ?」
「・・・・・・」
調べるなと言われたら調べたくなるのが人間と言うもの、じゃあ調べろと言ったらどうなるか。
恐らく最初は色々と調べて回るだろうけど、最終的にはそれもなぁなぁになるのは間違いない。
さっきも言ったように魔族がいたとしてそれでどうこうなる時代は終わった。
それよりも今は新作アクセサリーやお菓子なんかの方が重要だったりする。
真面目な彼女の事だからそういうのには疎いんだろうけど、もう少しぐらい肩の力を抜いてくれるといいんだがなぁ。
「どうだ?」
「・・・確かにお前の言う事にも一理ある。だが私はそれで納得したわけではない。今後も調査は進めさせてもらうし、何かあればお前を捕まえてやるから覚悟しておけ」
「へいへい。まったく、もう少し気を抜いて仕事をしたらどうだ?」
「この鎧に賭けてそんな事できるはずないだろう」
「じゃあ鎧を脱げば問題ないだろ?今度王都で人気のアクセサリーを仕入れようと思うんだが・・・興味はあるか?」
「それはもしやあの噂の!」
「あぁ、王都でもなかなか手に入らないが俺の手にかかればそう難しい物でもない。カイネが欲しいというのならば出来るだけ急ぎで手に入れてやるが・・・どうする?」
カイネもまた年頃の女性、ユーディーとも年が近かったはずなので、恐らくそういった話は彼女から聞いているんだろう。
ここにきて新たな突破口を発見、このまま押し込めば何とかなるかもしれない。
「くっ、そんな事で私をごまかそうなんてそうはいかんぞ」
「ごまかすとかじゃない、純粋に手に入るから紹介しただけだ。ユーディーからは注文を貰っているからな、まだ枠は開いている。でもまぁ興味がないっていうのなら他の人に譲るつもりだが・・・」
「い、いらないとは言ってないだろ」
「ほぉ」
「別に物につられるわけじゃないが、お前がどうしてもというのならば買わないこともない。それで、いつ手に入るんだ?」
はい、チョロい。
まるで彼女の後ろにバタバタと揺れる尻尾が見えるようだ。
まぁそれぐらいの方が色々とやりやすいからこれ以上は何も言うまい。
そんなわけで最後の懸案事項も無事に解決、後は今まで通りダンジョン商店を経営していけば問題はないだろう。
もちろん新しい商品を入れていかないとすぐに飽きられるので、アクセサリーついでに王都から色々と仕入れてもいいかもしれない。
客は常に新しい物を求めている。
エリザベート様に新たな商品を提供するためにもしっかりとした商品を仕入れていこうじゃないか。
かくしてダンジョン拡張作戦は本当の意味で無事に終了、冒険者ギルドで素材の買取金を回収した俺は諸々の品を仕入れてダンジョンへと戻っていった。
もちろん仕入れたのは冒険者向けの物ばかりじゃない、ダンジョンで待つ大事なお客様用の物の方が多いかもしれない。
お客様は魔王?それとも勇者?
いえいえ魔物様でございます!
そして今日もそんな彼らの為に店を開けるのだった。
「ようこそ、ダンジョン商店へ」




