38.方法はともかく結果が全てです
「約束の期日です、結果を見せて貰いましょうか」
お祭り騒ぎが終わった翌日。
いつもよりもたっぷり寝た俺は寝巻き姿のまま優雅に朝食を食べていた。
目標は達成、あとはご本人が登場するだけと思ってはいたけれどまさかこのタイミングで来られるとは思っていなかった
突然真横に現れた黒い壁、その中から現れたのはいつも以上にばっちりメイクのエリザベート様。
心なしか前よりも肌にハリがあるような・・・どうやら購入してもらった化粧品は肌に合ったらしい。
「おはようございますエリザベート様」
「おや、朝食中でしたか」
「もしまだでしたらよろしければご準備しましょうか?ちょうど新鮮な卵とパンが手に入ったんです。野菜もたっぷりのサンドイッチ、美味しいですよ?」
「ふむ、普段はあまり摂らないようにしているのですが、折角です頂きましょう」
「では少しお待ちください、すぐに新しいのを用意致します」
さすがに俺の食べさしを渡すわけにもいかないので、すぐに新しいものを用意する。
と言ってもただ卵を焼いてパンに挟むだけなのだが、村で仕入れた分厚いハムがいい感じのアクセントになるので喜んでいただけるに違いない。
「ちょっと!エリザベート様の気配がするんだけど!ってなんでご飯食べてるの!?」
「お前も食うか?焼き立てだぞ?」
「いや、食べたいけど・・・」
「構いません同席しなさい、美味しいですよ」
「はい!」
エリザベート様が隣の席をポンポンと叩くと尻尾を大きく振りながらすばやくそこに着席するリサ。
最初あんなに信じられないって顔をしていたのにこの変わりよう。
そりゃ自分の命がかかっている状況で優雅に飯なんて食っているとは思わなかったんだろうけど、結果はもう出ているんだから今更慌てる理由もないわけで。
しばし穏やかな空気の中、手製のサンドイッチを堪能する。
エリザベート様に庶民の食事を食べていただくのは大変恐縮だが、喜んでいただけているのなら何よりだ。
「さて、そろそろ話を戻しましょうか。本日が期日ですが目標は達成できましたか?」
「お陰様で無事に」
「聞けば周囲の魔物を焚き付けたようですね、正直こんなやり方は聞いた事がありません」
「・・・どこでそれを?」
「リサから相談と報告を受けました。勿論私は何も言いませんでしたので最後に決めたのは彼女ですが」
「だ、だってこんな事するなんて思わなかったから・・・」
まるで悪さのバレた子供のようにシュンとするリサ、別に報告されて困るようなことはないので別に構わないんだが、後でフォロー入れておいてやるか。
「確かに魔物を焚き付けて冒険者と戦わせましたが、何か問題がありましたでしょうか」
「いいえ、特に問題はありません。むしろよくこんなやり方を思いついたと褒めるべきでしょう。方法はともかく結果が全て、貴方達は自分の役目を忠実にこなしただけ。二人とも良くやりましたね」
「お褒めに預かり光栄です」
「ありがとうございます!」
内心何か言われたらどうしようと思っていたが、どうやらその心配は杞憂に終わったようだ。
何事も結果が全て。
商会時代はそれで評価されるということは稀で、やれ同僚との関係がとか上司の機嫌がとか色々とめんどくさいことがたくさんあったけれども、この人はそういう小さい事にこだわるような人じゃない。
結果を正当に評価してもらえる、部下としてこれ以上の喜びはないだろう。
「とはいえ次からはこのような方法は取れませんよ。どうするつもりですか?」
「それについては色々と考えてあります。残念ながらすぐに結果を出すことは難しいですが、それに向かって動いて参ります」
「何をするかは聞かないでおきましょう。引き続き精進なさい」
「はっ!」
「あの、エリザベート様、私は・・・」
「貴女は引き続きアレスの補佐をしっかりとなさい。ですが前よりかはいい顔をするようになりましたね、今の仕事は楽しいですか?」
「はい!楽しいです!」
まるで子供のように返事をするリサ。
上司として楽しいと思ってもらえるのは何よりだが、これからはもっと忙しくなる予定なのでエリザベート様の名前を出しながらゴリゴリ動いてもらうとしよう。
「堅苦しい話は以上です。リサ、具体的に何があったのか聞かせてもらえますか?」
「わかりました!まず最初なんですけど・・・」
どうやら仕事モードはこれで終わりらしい、さっきまでの厳しい表情から一変、まるで母親のような母性に満ちた目をリサに向けながら話を聞くエリザベート様。
魔族四柱といえば普通は恐怖の存在、あのカイネが警戒するぐらいの相手でもある。
実際最初に会った時は死を覚悟したし、仕事モードの時は畏怖を感じている。
だが今のこの姿は全くの別人、溢れ出る母性がなんともいえない気持ちにさせる。
うーむ、年上も守備範囲ではあったけどあの胸とあの表情はグッと来る物がある。
勿論俺も馬鹿ではないので相手を見て行動するが、見た目だけでいえば間違いなく声かけてるよなぁ。
最近ご無沙汰だし・・・。
「何か?」
「なんでもありません!」
俺の視線を感じたのかエリザベート様が鋭い目線を向けてくる。
危ない危ない、相手は魔族、俺なんか一瞬で消し飛ばせる相手だ、気を引き締めなければ。
身振り手振りを交えたリサの説明も終わり、満足げな顔をしてエリザベート様が立ち上がった。
「ではそろそろ行きます。褒美はまた後日届けますから待っていなさい」
「褒美を頂けるのですか?」
「良い仕事をした者に褒美を出すのは当然でしょう。勿論それを成し遂げられないのであればそれ相応の罰を与えますから引き続きしっかりやりなさい」
「ありがとうございます」
「エリザベート様、私は!?」
「貴女にもありますよ」
「やった!」
「次の目標は七階層の新設。今以上に魔素が必要になりますからしっかりやりなさい。貴方には期待していますよアレス」
期待している。
これまで何度と言われてきた言葉だがどれも心に響くことはなかった。
だがこの人の言葉なら信じられる、正直これが魔力を与えられた影響なのかそれとも別のものかはわからないけれど、それでもやる気になるのは間違いない。
いつものように黒い壁が現れ、その向こうに消えていくその背中に向かって深々と頭を下げる。
何はともあれ目標は達成、報酬までいただけるということなので楽しみに待つとしよう。
小さく息を吐いてから頭を上げると、目の前にはエリザベート様の顔だけが浮かんでいた。
「うぉぁ!?」
想像もしていなかった状況に思わず変な声が出てしまった。
そりゃそうだろう、黒い壁を背にあの方の首だけが浮かんでるとか誰が想像できるだろうか。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。それでどうされましたか?」
「先日貰った星型のお菓子ですがあれは非常に良いものでした。追加の注文と、それとまた良い物があったら用意しておきなさい」
「かしこまりました」
「ふふ、楽しみにしていますよ」
最後の最後にその笑顔は反則だろ。
かくして文字通り命をかけたダンジョン拡張は上司の素晴らしい笑顔と共に終わりを迎えたのだった。




