37.結局みんな生きてるだろ?
「おー、やってるやってる」
店の外ではちょうどやって来たオーグル第二陣の強襲を受け、冒険者と辺境騎士が必死に戦いを続けていた。
だが、最初の時と違ってすぐに戦線が崩壊することはなくしっかりとお互いにフォローしながら戦っているのが素晴らしい。
オーグルは確かに強いけれども、戦い方は単調なので複数でカバーし合えばどうにでもなる。
それを理解しているからか最初のように逃げ出す冒険者は出てこないだろう。
まぁ、けが人はどうにもならないけど。
「アレス!ちょうどいい所に!」
「カイネ、大丈夫か?」
「私は大丈夫だが再びオーグルが来たせいで仲間が何人か負傷している。ポーションは余ってないか?」
「もちろんあるぞ」
「それは助かる!って、なんだその顔は」
「いや、なんでもない」
「まるでカモが来たような顔をしていたように見えたが?」
「こんな状況でそんなこと考えるわけないだろ?」
危ない危ない、あまりにも話が上手く行くもんだからつい顔の出てしまったようだ。
カイネはそういうのに敏感だからいつも以上に気をつけなければ。
「それよりも追加のオーグルなんて大丈夫なのか?」
「冒険者が思いの外頑張ってくれている。最初はどうなることかと思ったが案外使える奴らのようだな。それにお前の店があるのも良かったらしい」
「俺の店?」
「何かあったときに逃げ込める場所がある、そういう心理的余裕はこういう状況でプラスに働く。簡単にいえば限界を迎えて逃げる奴が減るんだ」
そういう難しいことはよくわからないが、とりあえず頑張ってくれるならば何もいうまい。
せっかくオーグルを誘き寄せてもカイネ達が戦ってくれないと魔素が増えないのでしっかり頑張ってもらわなければ。
「必要であればメンテも出来る、順番に店に避難しながら有効に使ってくれ。そんでもってこれがポーション、一つ銀貨二枚だが全部終わってから使用分を支払ってくれればそれでいい」
「本当にいいのか?」
「マリーが頑張ってくれているからな」
「そうか、彼女も頑張っているのか。大事な領民を守るためにもこんな所で休んではいられんな」
「おいおい、俺はいいのかよ」
「どうせこれもお前が仕込んだものなのだろう?」
そう言って鋭い目を俺に向けるカイネ。
思わず心臓が強く跳ねたが、次こそは顔に出さないよう必死に表情を抑える。
「俺が魔物を?そんなわけないだろ、偶然だっての」
「そう言うことにしといてやろう。だが皆の目を誤魔化せても私の目は誤魔化せんぞ。ダンジョンに満ちるこの気配、お前の傍に魔族がいるな」
「俺が魔族だって?」
「お前がではない、だがお前の近くにいるのだろう。しかも強大な魔族、それこそ四柱と呼ばれるような恐ろしい存在だ。そのような相手がお前を使って何をしているかはわからんが・・・まぁいい、全てはこれが終わってからだ。アレス、これは貰っていくぞ」
今度はカイネがニヤリと笑いポーションに入った木箱を手に戦場へと戻っていく。
うーむ、まさかカイネからあんな発言が出るとは思っていなかった。
気配って言ってたか?
魔族にしかない特殊な魔素的なものがあるのは聞いたことがあるけれど、それを感知する能力が彼女にあるということだろうか。
心臓が早鐘のように鳴り、呼吸が苦しくなる。
もしバレていたとしてどうすればいい?
いくら平和な世が続いているとはいえ魔族は討伐対象、その関係者となれば処罰されるのは間違いない。
辺境騎士となればその任を担っていると言っても過言ではない。
つまりカイネはいつでも俺を殺せるんだぞ、と言いたいんだろう。
「くそ、ここまで来てこんな事になるなんて想定外だ」
明らかに自分が動揺しているのがわかる。
どうにかしなければならないのにどうしようもない現実、いざとなったら逃げ出すことも考えなければならないのだろうか。
だがそれは今じゃない、とりあえず今やるべきは魔素を回収してダンジョンを拡張することだ。
カイネも今すぐ俺をどうこうするつもりはないんだろう。
じゃないとその場で殺されるか拘束されているはず、そうしないってことは少なくとも今すぐの危険はないと判断したに違いない。
「まったく、面倒な事になったなぁ」
ダンジョン拡張大作戦、全ては順調かと思われたがここに来て重大な懸念が発生してしまった。
「これで終わりだ!」
カイネの一撃が最後のオーグルを葬り、ダンジョン内に平和が訪れる。
周りにはもう魔物の気配はない、それを確認した冒険者が武器を地面に落とすと周りの冒険者も同様にその場に武器を落としへたり込んだ。
「終わった・・・」
「「「「「勝ったぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
ダンジョン内の響き渡る大歓声。
冒険者はお互いに抱き合って大喜びし、辺境騎士の面々も互いの健闘を称え合っている。
これだけの戦闘にも関わらずこちら側の被害はまさかのゼロ。
一部自然発生した魔物が倒されたりはしたけれど、主要な面々に被害は出なかった。
というわけで、戦闘が終われば今度は清算の時間。
回収した大量の素材を手に店にやってきた冒険者だが、残念ながらほぼ全員がうちのポーションを使用していることもあり、素材を割り増しで買い取ってもほとんどがポーション代で消えてしまった。
いやー魔素だけでなく金銭面でもこんなに大儲けできるとは思っていなかった。
その全ては今回のマリーに作ってもらったポーションのおかげ、無理行ってきてもらったがあの選択は間違ってなかった。
「あーあ、みんな落ち込んじゃってるじゃない。もう少し色を付けてくれてもいいんじゃないの?」
悲壮感たっぷりの冒険者を見回しながらカイネが俺に文句を言う。
さっきまでの辺境騎士と言う雰囲気はどこへやら、いつものタメ口に戻っている。
それでもこいつは俺の秘密を握ったまま、全く女ってのはこう言うことができるから怖いよな。
「これでも三割は足してるんだぞ?とはいえオーグルの毛皮はそこまで高くないし、妥当な価格だ」
「せっかくみんな頑張ったのに」
「そう言うなって、結局みんな生きてるだろ?」
「それとこれとは話が別よ。後であのポーションもつけなさいよね」
「それは構わないが、その分は騎士団にツケとくからな」
こっちとしては出来る限りのことをした結果がこれなんだが、確かに俺のために頑張ってくれたのは彼らなのでカイネの言うように追加の報酬を支払っておこう。
さて、達成感に満ち溢れた顔の冒険者と辺境騎士を見送った後はいよいよお待ちかねの時間。
最下層へと移動すると、やっと来たという感じの顔をしたリサが出迎えてくれた。
「ヤーッと戻って来た、上は終わった?」
「あぁ、皆戻っていった」
「大した被害もなかったんだし目的は達したわけでしょ?なんでそんな暗い顔してるのよ」
「あー、ちょっとな」
「何を言われたのか知らないけど、エリザベート様に言われるよりか怖くないでしょ?ほら、さっさと確認しなさいよ」
色々と思う所はあるけれども、とりあえず当初の目的を達成できたかが重要だ。
リサに促されるまま操作用のオーブを出し、そっと手を乗せると空中に現在の魔素量が表示される。
えーっと、今回の増加量がこっちで必要数がこれだから・・・。
「あ、達成した」
「え!ほんと!?」
「あぁ、ギリギリっていうかんじでもない。大丈夫目標は達成した、これでエリザベート様に怒られることもない」
「やったぁぁぁぁぁぁ!」
文字通りリサがその場で飛び跳ねて大喜びする。
本当なら俺も同じように大騒ぎしたい所なのだが、カイネの件があるせいでどうも素直に喜べない。
が、とりあえず今は自分の命がつながったことを喜ぼう。
かくして冒険者と辺境騎士を巻き込んだ魔物襲撃イベントは無事に目標を達成し終わりを迎えたのだった。




