36.助けはいらなかったみたいだな
一度は逃げ腰となった冒険者達だが、辺境騎士達の活躍を前に再び闘争心を燃え上がらせ無事に戦線へと復帰した。
オーグル自体は危険な魔物ではあるけれど、知能はそこまで高くなく連携して戦えば十分に対処ができるレベル。
それもあり大きな混乱もなく戦いは続けられている。
時々に負傷した冒険者や騎士が店に来るけれども、マリーお手製のポーション(量産型)を使用すれば即座に戦線に復帰出来るので、少々の傷で怯えることはなくなったようだ。
「ここはもう任せても大丈夫だな」
ぽよん!
こくこく!
任せとけと言わんばかりにライムとコボレートが返事をする。
最悪何かあってもマリーがいるから冒険者と意思疎通はできるだろう。
暴れるような奴がいても店の中では攻撃できないので危険はないはず、最悪店から追い出して鍵を閉めてしまえば他の冒険者がそいつをどうにかしてくれる。
そんなわけで店の前はカイネ達に丸投げして、ポータルを使って最下層へと移動。
そのまま四階層への扉を開くもそこには誰もいなかった。
おや?
てっきりオーグルやその他の魔物に追い込まれているのかと思ったのだがそういうわけではないらしい。
急ぎ自室前まで移動してオーブを起動、どうやらグラット達率いるゴブリン隊はカイネ達が苦戦した例の罠エリアでゲリラ戦を仕掛けているようだ。
赤い点がダンジョン内の至る所に存在している中、青い点が孤立したやつを確実に仕留めてまわっている。
とはいえ多勢に無勢、多くの赤い点は最下層近くまで攻めてきているものの、大部屋手前の通路で足止めされているようだ。
そこで光っているには緑色の点、その後ろに一際輝いている黄色い点がリサなんだろう。
その少し後ろに追加ポータルを設定、新たに造られたそれに飛び乗ると怒号と悲鳴、そして金属同士がぶつかる音が耳に飛び込んできた。
「あ、来たんだ。上はなんとかなりそう?」
「おかげさんで、とはいえあれで全部じゃないんだろ?」
「おそらくね、流石に一族総出ってことはないと思うけど、それなりの集落だったからもう少しくると思うわ」
「全部倒し終えたと思って安心したカイネ達が絶望する姿が見物だな」
「性格悪〜い、アンタ実は魔族だった・・・なんてことは絶対にないわね」
「で、こっちは?彼らはかなり頑張っているみたいだが実際どんな感じだ?」
「見ての通りよ。さすが戦闘種族、相手が格上でも怯えるどころか喜んで向かっているわ。とはいえ実力差はあるから怪我人は大勢って感じね」
そう言ってリサが後ろを振り返ると、壁際には全身から血を流した傷だらけのオーク達がいた。
まだ目に光は残っているものの、怪我のせいで動く事ができないという感じ、ここに集められているってことはリサが引っ張ってきたんだろう。
下等な連中と見下していた彼女だったが、なんだかんだ面倒見がいいんだよなぁ。
因みに何故ダンジョンを襲った彼がここにいるのか。
これにはまぁ色々と本当に色々とあったんだけど、要はこの間ボコボコにされたことで自分達は弱かったんだという現実を見せられ、改めて自分達が強くなるべく指導をしてくれと言うなんとも脳筋的な発想に至ったらしい。
また攻めてきたときはどうしようかとも思ったのだが、リサが事情を聴き文句を言いながらも引き受けてくれたというわけだ。
タイミング的にも戦力は欲しかったところなのでナイスタイミングではあったけれども、残念ながらオーグルとオークの戦力差は歴然、グラットのように武器を強化しているわけではないのでその差を埋める事は出来なかった。
だが、彼らはまだあきらめていない。
「さて、お前らに聞きたいことがある。ここにポーションがあるんだが、正直高い。使えば再び戦線に戻れる代わりにこれから定期的に魔物の素材を運んで来て貰わなければなくなるだろう。だが、これを使えば再び戦場に戻り仲間と共に戦う事が出来る、その覚悟がお前達にはあるか?」
「ブモ!」
「ブモッブモッ!!」
「なんて言ってるんだ?」
「一族の誇りにかけて約束は守るんだって」
「そうか、なら遠慮なく使っていいぞ。これからのお前達の働きに期待する」
そう言って大量に持ってきたマリーさん手製の量産型ポーションを奴らの方に転がしてやると、我先にとそれを掴んで勢いよくそれらを握りつぶした。
砕けたガラスが肌に突き刺さると思いきやオークの皮膚は案外硬く、ポーションだけが吸収されていく。
うーん、便利だなぁ。
「割れた瓶代も上乗せしとくから覚えとけよ。よし、それじゃあ行ってこい!」
「「「「「ブモォォォォォ!!!」」」」」
傷が癒え、戦線復帰したオーク達が襲いくるオーグルへと勇猛果敢に突撃していく。
死に体だった彼らが背後からの強襲に流石のオーグルも驚いたようで、さっきまでの攻勢が一気に傾いたように感じる。
「しかしあれだな、ゴブリンぐらいだと戦いになってもそこまで派手とは思えないが、あいつらレベルになると迫力がやばいな」
「まぁ図体デカいだけのバカばっかりだけどね。こらそこ!逃げるな!戦え!」
「そして後ろから檄が飛ぶと、そりゃ必死にもなるか」
「アンタがここを守れって言ったんでしょ?」
「そりゃまぁそうなんだが・・・。いや、引き続きよろしく頼む」
鬼軍曹ならぬ魔族軍曹、尻尾が左右に揺れている所を見るに本人的にもそこまで嫌な役回りじゃないんだろう。
今まで自分が下っ端だったから、下から持ち上げられたり慕われたりするが嬉しいに違いない。
なるほど、今後はお菓子とかじゃなくてそっちの線で攻めるのもアリだな。
オークへのご褒美用に新しい薬があるぞとか、装備を支給するから彼らに渡してやれとか、自分だけじゃなく下への報酬を渡すことで自分の役割をさらに認めて自己満足度が向上する。
人を動かすってのは目に見える報酬が一番だが、それよりも効果があるのは目に見えない栄誉だったりもする。
「私が満足する報酬を期待してるからね」
「それは今回の件が全部終わってエリザベート様にオッケーを貰ったら考えてやる。ともかくすぐに倒さずにギリギリまでひきのばして戦ってくれ。その方が魔素を回収できるからな」
「えげつないわねぇ」
「仕方ないだろ、俺達の命がかかってるんだから。それとも何か、エリザベート様が少し足りなかったけど許してあげるなんて言ってくれるのか?」
「・・・ないわね」
「だろ?だから全力で魔力を回収する。そろそろ上にもおかわりがきそうだから俺は上に戻るけど、後ろにまだポーションを置いてるから適当に使ってやってくれ。オークたちはうちの大事なお客様だ、しっかり恩を売ってガッツリ返してもらおうぜ」
「やっぱりアンタ魔族だったりしない?」
「馬鹿野郎、俺は生粋の人間だっての」
人を魔族呼ばわりするとは失礼な奴だ。
そんなわけで復活して勢いを取り戻したオークたちを見送り、再びポータルで地上へと戻る。
雑魚敵はほぼほぼ倒したので後はオーグルを倒せば大丈夫なはず、だがさっきも言ったようにギリギリ足りませんでしたとならないように出来る限り戦闘は引き伸ばしたい。
生かさず殺さず、すべては魔素回収の為に。
そんなことを考えていると店の外から悲鳴と怒号が聞こえてきた。
さぁ二回戦の始まりだ、マリーの作ってくれた追加の量産型ポーションを手に俺は店の外へと向かったのだった。




