35.とっておきのポーションはどうだ?
「正面からグレイウルフ!その数不明!」
「奴らの武器は機動力、この狭い通路内でそれを生かせません。大楯準備!騎士は盾を構えて攻撃を受け止め、後方より矢を放ちます!」
「矢を使える奴集まれ!」
「魔法でもいいぞ!ぶちかませ!」
店の前の広場が前線基地になり一階層から降りてくる通路が主戦場となっている。
戦闘が始まって早一時間、カイネの指揮官としての実力がいかんなく発揮され今の所辺境騎士にも冒険者にも大きな被害は出ていない。
とはいえ少なからずけが人も出れば装備がくたびれたりもする、そんなわけで店内は店内で外の戦いに負けないぐらいに大忙しだ。
「この盾なんだが持ち手がちぎれそうなんだ、直るか?」
こくこく!
「俺は剣のメンテを頼む、最高の切れ味にしてくれ」
グッ!
装備のメンテを求めてコボレート職人の所へ冒険者が殺到、非常事態と言う事で装備の値段を下げて売ってみたらそれらも飛ぶように売れていった。
その甲斐あって店の棚は空っぽ、それならばとポーションの半分を水で薄めた量産型を現在仕込み中だ。
元々効果の高いポーションを薄めたとしても薬草を買うより安くても効果は上、店の裏ではマリーが黙々とポーション製造に精を出している。
最初はコボレート職人に驚いていた冒険者だが、案外順応性が高いのかすぐに慣れてしまったようだ。
「で、アンタは?」
「俺の仕事は買取、とはいえ魔物が来ないことにはどうにもならないわけで」
「ふ~ん」
「なんだよ」
「別に、もっと必死になるのかと思ってたけどそうじゃないのね」
下層から様子を見に来たリサが俺を見て物足りなさそうな顔をする。
何かを期待していたようだけど、彼女的には不満のようだ。
まぁ、折角お膳立てしたのにこの程度の盛り上がりとなると目標達成には程遠い。
だがこっちだって命がかかってるんだ、このままで終わるはずがないだろ。
「今はまだその時じゃない、それよりも本当にオーグルは来るのか?」
「もちろんよ。さっきせっついといたから一気に来るんじゃない?」
「一気に?」
「グレイウルフが驚いてダンジョンに入ったのは見えたけど、その後ろにゴブリンの部隊もいたからそいつらが雪崩れてくると思うわ」
「・・・マジか」
「なによ、それがお望みだったんでしょ?」
「いやまぁ、確かに乱戦になればなるほど魔素を回収できるわけだが・・・こりゃちょっと急ぐ必要があるな」
確かにダンジョンを襲うように仕向けたのは俺だが、もっとこう段階的に襲ってくる感じを想定していたのでまとめてとなると流石に辺境騎士だけでは無理がある。
ダンジョンの奥に流れ込むのならまだいいが、ここで乱戦になると非常に面倒なことになるだろう。
確かに人と争わせたいとは思っているが、ここで全滅してしまうと今後の魔素供給が途絶えてしまうので怪我はすれど生き残ってもらわなければならないわけで。
「ゴブリンだ!ゴブリンが来たぞ!」
「くそ、こっちはグレイウルフで手いっぱいだっての!」
「とりあえず押さえろ!前が詰れば後ろは・・・」
「駄目だ!こいつら何かに追われてるみたいに止まらねぇ!」
本来であれば余裕で抑えられるはずなのに、味方を踏みつぶしてもなお突っ込んでくる魔物の群れに辺境騎士も異変を察知、必死に戦線を維持しようとするも限界を迎えそうだ。
カウンターを抜けて店の窓から状況を確認しているとまた横にリサがやって来た。
「いかないの?」
「俺が?弱い俺が行って何するって?」
「商売とか?」
「わざわざ命を危険にさらしてまでするもんじゃないだろ、あそこにはカイネがいるんだしうまくやるさ。それよりも奥に魔物が行くからな、グラット達を任せたぞ」
「まったく、あのゴブリンの何がいいんだか」
「顔見知りが死ぬのが嫌なだけだっての」
「顔見知りねぇ・・・ダンジョンでそんな甘いこと言ってんのアンタぐらいだけど、まぁ出来る限りのことはしてあげるわ。ただし、高いからね」
「わかったわかった、新しい菓子を買ってやるからそれで許せって」
文句を言いながらも菓子一つで動いてくれるあたり、リサも中々にちょろい。
もちろんそれ以外にもフォローはするけれど、お互いエリザベート様との約束を果たすという共通の目的があるのでそれ以上は何も言わずダンジョン下層へと向かってくれた。
さて、こっちもそろそろ戦線が崩壊する頃だが・・・。
「全員後退!壁を背にして防御陣形!冒険者は・・・危なくなったら店に逃げ込みなさい!」
「くそ、オーグルなんてきいてねぇぞ!」
「森の奥にいるはずの奴らが何でダンジョンなんかに来るんだよ!」
「文句言うな!逃げないと死ぬぞ!」
どうやらオーグルが到着したようで、膨大な圧力を防ぐことが出来ず防衛ラインが崩壊。
戦いなれている辺境騎士は陣形を組んだまま壁を背にしてオーグルの群れを迎え撃っているが、冒険者はあまりの魔物の多さに逃げ惑うばかりのようだ。
カイネが上手く商店へと誘導してくれたおかげで大勢の冒険者が店の中へとなだれ込み、残った魔物は冒険者を追いかけ・・・る事もなく、そのまま下の階層へと向かってしまった。
向こうはリサに任せているから問題ないだろうけど、このままじゃ折角追い込んだ魔物が無駄になってしまうわけで。
仕方ない、逃げ込んできた彼らには申し訳ないがもうひと頑張りしてもらうか。
「いてぇ、いてぇよぉ」
「くそ、腕が折れてやがる」
「血が止まらねぇ。そうだ薬!ポーションはどこだ!」
大怪我をして暴れまわる冒険者たち、そんな彼らにタダでポーションを恵んでやるほど俺は甘くない。
ここぞとばかりに量産型ポーションを奥から運び、カウンターの上に並べていく。
「いらっしゃい、傷に効くとっておきのポーションはどうだ?」
「見たらわかるだろ!さっさとくれよ!」
「見た感じそこまでの大怪我じゃなさそうだが、こんな時だし一本銀貨一枚でいいぞ」
「いいのか!」
困った時はお互い様、というわけで通常の半値・・・よりも高い三分の二の銀貨一枚でポーションを販売していく。
通常の半分の量を約七割の額で売るだけでも大儲け、しかも今は皆混乱しているので効果についてそこまで疑問には思わないようだ。
マリー手製の量産型ポーションはあっという間に売れていき、最初はパニックになっていた冒険者も傷が癒えるとやっと落ち着きを取り戻してきた。
あとは消えてしまった彼らの闘争心にもう一度火を付けるだけ、ここで彼らに戦ってもらわないと魔素が増えないからな、エリザベート様との約束を果たすためにももうひと頑張りしてもらわないと。
「おいおい、冒険者ともあろう者がこんな所で隠れてていいのか?」
「そうはいうけど相手はオーグルだぞ?ゴブリンとはわけが違うんだ」
「そりゃ見た目はデカいけど、あいつら辺境騎士に夢中で背中ががら空きだぞ?それに、ここに逃げ込めば奴らは戦えないんだ。つまり、わかるな?」
「奇襲して、ダッシュで逃げて来いってことか。それならまぁ・・・」
「素材を持ち帰ったらその分高く買ってやるから、しっかりがんばれよ!」
店の外では辺境騎士がオーグル相手に必死に戦っている。
好戦的な奴らは腕の立つ辺境騎士に夢中、無防備な背中を見た冒険者が意を決したように外へと飛び出し、再び戦いが始まった。
最初こそ背中からしか攻撃しなかった冒険者も、一度戦いが始まってしまえば闘争心に火がついてくる。
「一人で受けるな、必ず複数で囲め!」
「オーグルごときが舐めてんじゃねぇぞ!」
「倒せば店が素材を高値で買ってくれるらしい、さっさと倒して大儲けしようぜ!」
よしよし、最初はどうなる事かと思ったが何とかなりそうだな。
このままオーグルと人間が戦えば魔素は確実に増えていくからこれを乗り越えれば目標達成は確実だ。
カイネ達にはもう少し頑張ってもらって、落ち着いてきたらグラット達の様子を見に行くとしよう。
リサがいるから大丈夫だと思うけど彼らも大事なお客様、向こうは向こうでしっかり稼がせてもらうとしよう。




