34.辺境周辺の魔物が集まっています!
「ねぇ、正気?」
今日何度目かの質問、流石のリサも俺の気が狂ったんじゃないかって思っているみたいだが、そんなことはない。
エリザベート様との約束まで後三日。
この仕込みが終われば確実に魔素は貯まり、首と胴体がサヨナラする事態からは解放される。
これは生きるための戦い、じゃないとこんな大掛かりなこと出来るはずないじゃないか。
失敗すれば
「俺はいたって正気だが?」
「でもあれ全部ってなったらみんな死ぬわよ?マジで死ぬわよ?」
「そうなる前にお前に入り口から降りて来て貰えば全部倒せるだろ」
「それはそうだけど・・・」
「人間を含め参加者を全員店に避難させればとりあえず命だけは助かるし、むしろそれぐらい派手にやってくれたら店中のポーションが売れるので大儲けだ」
「はぁ、こんな時までお金儲けって・・・エリザベート様もビックリするんじゃないかしら」
むしろあの人のことだからここまでの事態を想定している可能性もある。
魔族四柱の一人、絶対的強者、その割に可愛いものと化粧品には目がなかったりするけれど、その実力は本物だ。
俺なんて息をするよりも簡単に殺してしまえるのに、こうやって生かして貰えているだけ感謝しないとなぁ。
そんなすごい人に失望させないために仕込んだのが、魔物大氾濫作戦。
この間のオーク襲撃の際に思いついたんだが、ようは外の魔物を一斉に集めて人間と戦わせようっていう話だ。
最初は俺たちだけで対処しようかとも思ったんだが、魔素の回収量を考えると人間を関わらせないと足りないことが判明してしまった。
襲撃で回収した魔素は通常の1.2倍程度、確かに多いのは多いけどあれだけ派手にやった割には少なかったという印象だ。
やはり人間が来ないとダンジョンは成長しにくいらしい、ということで魔物を呼ぶのは大前提として倒すのは人間に任せることに決定した。
「お前だって小遣い欲しいだろ?」
「そりゃぁ欲しいけど・・・」
「とりあえず予定通り周辺の魔物にダンジョンに来るよう脅しをかければいい。反抗するのなら命はない、悔しければダンジョンまで来いってな。人質も考えたんだが、流石に殺気立ちすぎるし全滅させたら次が出来ないから七割ぐらいが向かってきたら成功だ」
「はぁ、自分のダンジョンを魔物に襲われるように仕向けるなんて、最初に聞いた時はバカじゃないのって思ったけど本気なのね」
「俺はいつだって本気だっての。外の魔物はグレイウルフにゴブリンそれとオーグル、オーグルがちょっと厄介だけどこれを機に数を減らしておけば隣村も安心できるだろう。最悪冒険者でどうにか出来なくても俺達にはグラットやオーク達がいるから最終防衛ラインは突破されないはずだ」
「確かにあのオークが一緒なら大丈夫だろうけど・・・そこまで考えているんならもう何も言わないわ。その代わりアンタも失敗するんじゃないわよ」
そう、魔物を呼んだところで人間が来なければ意味はない。
リサが魔物を集めて俺は人間をダンジョンに呼び寄せる、この両方が達成されなければ作戦は成功しないだろう。
というわけで俺は隣町へと向かい、目的を達するべくまずはマリーさんの店へと向かった。
「いらっしゃいませ〜、あ!アレスさん〜今日もポーションですか〜?」
「あぁ、大至急製作を頼みたい。今回は普通でいいからとにかく大量に作って欲しい」
「そんなに作って〜どうするんですか〜?」
「それが必要になる時がもうすぐ来る。出来ればすぐに欲しいからうちの工房を使って欲しいんだが・・・とりあえず前の話は抜きにしてとりあえず一度店に来てくれないか?」
「ん〜、お返事は未だですよ~?」
「別に急いでないから大丈夫だって、ポーションは大至急だから悪いがよろしく頼む。無理行って悪いな」
「お薬を作れるのは~嬉しいですから~」
「じゃあ後で迎えに来るから準備しておいてくれ」
「わかりました~」
前の一件以降、少し避けられていた感じはあるのだが前の話は無かった事にしてという事で納得してもらえたようだ。
例の男達がまだ街をうろついているのか店は開店休業状態、それもあって一度町を離れられる方が本人は安心するのだろう。
とりあえず第一関門は突破、そのまま店を出て冒険者ギルドへと向かった。
「あ、アレスさんじゃないですか。そんなに急いでどうしたんですか?」
「ユーディーか、冒険者に向けた告知をしたいんだが構わないか?」
「告知ですか?」
「あぁ、こんなのをやろうと思ってる」
「えーっと何々・・・って、えぇぇぇぇぇぇ!装備品半額に素材の買取に割り増しって大丈夫なんですか!?」
急ぎ作ったセール告知を読んだユーディーがギルド中に聞こえる声でそれを読み上げる。
相変わらずいい感じのキャラしてるよなぁ、この子は。
そのおかげでギルド内にいた冒険者が何事かと集まってくる。
「大丈夫じゃなかったら持ってこないっての。ちょうど知り合いが売れ残った武器を持って来たんで売り先を探してるんだ。流石にここじゃ売るに売れないから、店に来てくれたらっていう条件になるが問題ないだろ?」
「問題ないどころか町中の冒険者がお店に行っちゃいますよ!」
「数に限りはあるが他にもポーションとか安売りの目玉はあるから是非買いに来てくれ。セールは明後日の朝から、みんな待ってるぞ!」
ちなみに装備はちゃんと用意してある。
といってもなまくらを買付けてきたものをコボレート達が修理したやつだが、案外綺麗に直ってしまったのでそのまま売り物にしようという事になった。
彼らも自分の手で装備が生き返るのが嬉しいようで、あっという間に必要数を磨き上げてしまった。
もしかしたら今後はこれで商売が出来るかもしれないけど、それはそれで考えよう。
ビラをギルドに置いてから最後に辺境騎士の詰め所へと向かうと、ちょうどカイネが中から出てきた。
「アレスじゃない、どうしたの?」
「明後日からマリーがうちの店に来るからその挨拶にな」
「え!マリーが!?どういうこと!?」
突然の話に目を点にして驚くカイネ、普通はそこで怪しんだり疑問に思うったりするところだと思うんだが・・・相変わらずチョロいな。
「やっとうちでポーションを作ってくれることになったんだ。悪いが今後はダンジョンの店まで買いに来てくれると助かる」
「そんなの困るわよ。マリーはうちの大事な取引先なんだから」
「その代わりに値段は安くするから安心してくれ。因みに明後日はお一人様一つ限りで一個銀貨一枚のセールをする、最近経費が厳しいって言ってただろ?是非辺境騎士全員で買いに来てくれ」
「確かに銀貨一枚は魅力的ね・・・わかった、明後日の朝一で行かせてもらうわ」
まさかこんなにとんとん拍子で話しが進むとは思わなかったが、まぁカイネだからなぁ。
一応これでも辺境騎士のリーダーなんだが・・・もう少しまともな参謀を付けた方がいいんじゃないだろうか。
なんてことを考えながらもとりあえず下準備は出来たので、買い物を済ませてからマリーと共にダンジョンへと移動。
最初こそ緊張していた彼女だったが、最新の道具が用意された工房を見るとお菓子を見たリサのように目を輝かせていた。
「とりあえず材料は用意しているから明後日の朝までに作れるだけのポーションを作ってほしい。ただし、この素材で普通に作ると効果が強くなりすぎるから、九割まで入れて残りを薄めてかさまししてくれ」
「確かにそれだとたくさん作れるけど~、ほんとうにそれでいいの~?」
「マリーの作るポーションはどれもすごいからそれぐらいしないと価格のつり合いが取れないんだよ。九割にしてかさまししても、通常よりも効果は高くなるから大丈夫だ。ここに来る冒険者は初心者でまだまだ金もないし、かといって薄めたから効果が落ちるってわけでもない。たくさん作って普通よりも効果が高い物をしかも安く買えるとなったら、みんな喜んでくれるだろ?」
「確かにそうかも~」
「というわけで、時間の許す限り作ってくれ。だが徹夜はするなよ、いい仕事の敵だ」
「ふふ、わかったわ~」
ここの薬草を使って作ったポーションは通常の二割り増しの効果がある、それを九割にして一割かさまししても通常の物よりも効果があり、それをさらに値引きして売れば文句は出ないはず。
全ては俺の計算通り、後は明後日のその時までにしっかりと準備を済ませてしまおう。
と言う感じで迎えた二日後、店の前は開店を待つ大勢の冒険者と辺境騎士でいっぱいになっていた。
「まさか本当に集めちゃうなんてね」
「あとはお前の仕込み次第だ。来るだろ?」
「そう言ったもの、そろそろじゃない?」
「ならこっちも準備を始めるか」
いつまでも待たせるわけにはいかないし、店を開ける前に魔物が来ると色々と疑われてしまうのである程度は対応する必要がある。
「さぁ、開店だ!みんな心行くまで買い物していってくれ!」
「「「うぉぉぉ!!!」」」
そんなわけで、順番に客を迎え入れてそれぞれが必要な物を販売していく。
損して得取れ、売上だけ見れば大損だけどここから得られる成果を考えれば・・・。
「た、大変です!ダンジョン周辺の魔物が一斉にこちらに向かって来ています!」
客でごったがえす店内へ突然転がり込んできた辺境騎士、その一報に店にいた全員が凍りついた。
「魔物が一斉に!?数は!?」
「その数不明!どうしますか!?」
「どうしますかって・・・」
こいつ何かやりやがったな、そんな目で俺を見てくるカイネの視線をやり過ごしながら、俺はカウンター下で小さく拳を握るのだった。




